異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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神域島ピルグリム、最後に望む願いごと編

2.出来る事をやるだけ

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 普段はマグナの事を無視しがちなブラックも、こういう時は何を優先すべきかを感じ取って真っ先に行動してくれる。

 目的地が決まったとなると、ブラックは再び木の枝伝いに猿のように距離を稼ぎ、遠方からやって来ている異形達を大木ごと薙ぎ払って一掃し始めた。

 どん、どん、と、木が倒れる音がするが、今はもうどうこう言っていられない。
 今まで硬直していて一言も喋らなかったジェラード艦長は、青い顔をしながらもそれを咎める事無く、マグナと俺の指示に従って一緒にじりじりと移動し始めた。

 しかし、それで簡単に動けたら苦労など無い。
 さきほどから何故かモンスターとも思えない異形に集中砲火を受けている俺達は、文字通り四方八方から湧いて出てくるモンスターに手を焼いているのだ。

 今は普通に戦合ってくれてる兵士の人達がいるから少し楽にはなったけど、だからと言って【レイン】をやめていいと言う場合ではない。
 兵士が異形を一体斃したら、別の場所から異形がやってくる。せっかく用済みになった蔓も、そちらの方へ張り直さなければいけない有様だ。そんな事をしていると、当然俺だって段々疲れて来るわけで……。

 そもそも俺、気絶してから一日も経過してないんですけどね!
 でもやらなきゃヤバいんだからやるしかないんだよォ!

「おい! もう良いぞ、こっちだ!」

 ブラックがかなり先まで草木と共にモンスターを薙ぎ倒して進んでくれたお蔭で、獣道のように荒れていた道がはっきりと見えてくる。
 それに気付いたクロウが、兵士達に叫んで移動を教えてくれた。

 異形達の様々な怖気を奮う声の中で、クロウの獣の音を含んだ声は良く響く。
 こういう時のクロウの獣人属性は本当に頼りになる。

 俺達は固まって動きながらブラックの後を追い、一気にその場から離れた。
 固まって行動とは言えど、そこまでゆっくりと動いてはいられない。俺は移動中に【レイン】を使えなかったが、牽制はマグナや兵士達が協力してくれた。

 さっきは固まっていたジェラード艦長も、サーベルのような剣を抜いて異形達を必死に牽制している。二三匹ほど撃退したら慣れて来たのか、先程の硬直はなんだったのかと思う程の荒くれ男パワーを取り戻し、兵士達に的確な指示を出してチームワークを増大させようと頑張ってくれていた。

 この状況で囲まれて守られているだけってのはちょっと悔しいけど、正直俺の体力も大丈夫とは言い切れなかったし、ここは素直に守られておこう。
 こういう時は、みんなに迷惑を掛けないのが一番大事なんだから。

「ブランク! そこを左だ!」
「このクソガキッ、いつになったら僕の名前を覚えるんだ! 殺すぞ!!」

 そうは言いながらも、ブラックは目の前にいたオークとムカデが融合したかのような化け物を一刀両断し、左の方向へと駆け出す。
 本当、口も態度も悪いけど、魔法剣士としては超一流なんだよなあ……。

 そもそも、機嫌が悪く無かったらそれこそ完璧なS級冒険者って感じなのに……じゃなくて。こんな時に何を考えてるんだ俺はっ!!

 と、とにかく、誰も欠ける訳には行かない。
 俺達だんご組とクロウはお互いに連携を取りながらブラックの後を追い、ジャングルのように樹木が鬱蒼と生い茂るピルグリムの森をただひたすら進んで行った。

 だけど、敵の追撃は止まない。相手は俺達を目撃するたびに襲ってくるし、そいつを撃退しようと頑張っていたら、その音を聞き付けてまた異形が寄って来る。
 どこへ逃げても、俺達がここに存在する限り異形達は手を緩める事は無い。

 せめて攻撃される方向を四方、出来れば一方に収められたらかなり違うのに。
 そうは思えど、敵がそんな要望を聞いてくれるはずもない。次第に俺達は疲れ、剣を奮う体力も気力もなくなってくる。
 俺を守ろうと必死にハンマーを振り回すマグナも、その横顔は汗まみれだった。

 ……みんな疲れてるんだ。
 ここは湿気が多くて蒸し暑いし、気温も何故か高い。そんな状況下で緊張し続け敵と連戦に次ぐ連戦を強いられているんだから、こうなるのは当然だろう。
 早く「監視小屋」という所に辿り着かないと。このままでは全員が行き倒れだ。

 そんな焦りを抱く俺の真正面には、今も疲れなど全く見せずに道を切り開いている大きな背中が見える。一昔前のアニメみたいなゴツい肩当て付きのマントを靡かせて、軽々と空中を飛び回り、道を遮る物すべてを切り倒していた。

 …………ブラックは、本当に強い。
 クロウも勿論強いし、兵士達もマグナもジェラード艦長も、俺と比べたら精鋭に違いないけど……でも、ブラックは何と言うか……本当に、別次元だ。
 獣人のように元々武力に恵まれていた訳でもないし、今のブラックは片手間に炎の曜術を使うだけで、それを主体とした攻撃ではなくあくまで「剣術」によって、道を遮る全てを圧倒している。

 ブラックがいなかったら、俺達はまだここに辿り着けていなかっただろう。
 そう確信するぐらい、ブラックの功績は目覚ましいとしか言いようがなかった。

「おい、真正面に砦柵が見えたぞ!! アレで良いのか!?」

 どん、とまた何かが倒れる音がする最中に、ブラックがこちらに叫ぶ。
 それにマグナが真正面を見やって、俺もつられた。

「ああ、そこだ! だが門が締まっている、中から開けてくれ!!」

 さいさく、と呼ばれた物が一瞬何だか解らなかったが、恐らく真正面に見えている、先の尖った太い木をぎゅうぎゅうに詰めて防壁にした柵のことだ。
 漫画とかで砦が出て来た時なんかによく見る、あの急ごしらえっぽい壁が、間違いなく真正面に有った。だけど、確かに真正面の扉は閉まっている。

 もしかして、中に人がいるんだろうか。
 だけど、だったらどうして助けて……いや、こんな風に異形に襲われている状態じゃ招きたくてもどうしようもないか……。

「ツカサ、あの門の所まで行ったらもう一度【レイン】を使えるか!」
「えっ、はい!? えっ、あ、た、多分一回くらいなら大丈夫!」

 考えている途中にマグナに急に呼びかけられて頷く。すると、マグナは少し苦み走った男らしい顔で笑うと、横から出て来た異形をハンマーで殴り飛ばす。
 お、おお。凄い腕力……っていうか、今ハンマーの頭の部分が一気にデカくなっていたような気がするんだけど……もしかしてその武器って伸縮可能なの。凄くね。

「お前ら門を開く間にツカサ君に怪我させたら半殺しだからな!!」

 マグナのハンマーに驚いている間に、ブラックが空恐ろしい言葉を吐きながら、軽々と柵の上まで飛んで中に入って行った。
 おい、ちょっと待てお前どんだけ跳躍力あるんだよ。【ラピッド】使ったのか。

 ああもう目まぐるし過ぎて付いてけないんだが!

「ツカサっ」
「はっ、はい!」
「門の前に辿り着いたら、門まで覆えるほどの蔓で俺達を包んでくれ! あいつらを中に入れないようにするためには、それしかない!」

 な、なるほど。そうすればモンスター達が入って来るのを防げる!

 それくらいなら俺にも出来るかもしれない。異形達の力に根負けしてしまうかも知れないけど、ここで迷っている暇はないんだ。何としてでも門を閉めるまで耐えねば。

「門の前に着くぞ!」

 クロウが柵の向こうのブラックに呼びかけるように叫ぶ。それと同時に、俺達は深い外堀の中で一つだけ掛かっている橋を渡った。と、同時、砦柵に紛れていた入口が、重苦しい音を立てて扉を徐々に上に持ち上げていく。

 そこに集まり、俺達は再び一塊の団子状になった。

「ツカサ!」
「おうよ!!」

 マグナの合図と共に、俺は両手を異形達へと向けて精神を落ち着かせる。
 大丈夫だ。出来る。俺がやるんだ。
 冷静に、敵を見据えて打ち出す。俺なら出来るんだと不動の意志を持って――俺は、視界いっぱいに見える敵を遮るほどの蔓のドームを想像し、発した。

「緑の息吹よ、土より出でて我らを覆い護れ――――【グロウ・レイン】!!」

 レインでは周囲の蔓を引っ張って来る事が精一杯だ。
 しかし、グロウとの合わせ技なら何とかなる。幸いここには曜気が存在するし、地面も草が生えているからな。俺のMPが残っているかどうか怪しいけど、足りなかったら黒曜の使者の力も踏ん張って使えば良い。
 絶対にやらなあきゃ、全員を死なせないように、俺が――――!

「――――~~~ッ!!」

 どっと耳の奥に血液が流れ込んでくる音が聞こえて、頭が一気に茹だる。
 あまりの勢いに眩暈が起こる寸前だったが、俺は地面を踏みしめて地面から湧き上がる緑の光に髪を揺らした。

 その、俺の目の前で、こちらに襲い掛かろうとしていた無数の異形達の姿が一気に緑に塗り変えられる。いや、これは無数の蔓に酔って視界が遮断されたのだ。
 まるで一瞬風が吹き抜けたかのような音を立てて出現した蔓の壁に、俺の周囲に居た兵士達はそれぞれに驚いたようだった。

「おお!!」
「こっ、こんな事が……!!」

 ふ、ふふふ、そうだろうそうだろう。俺もちょっとびっくりした。
 でも成功だ。なんか、ドンドン蔓の外側から叩く衝撃が伝わって来るけど、この程度なら耐えられる。案外大丈夫だぞ。

「おい、もう良いだろ入れ!」

 背後から聞こえる重苦しい音が止まる。多分、大人が入れるくらいの隙間が空いたんだ。良かった、ブラックがやってくれたんだ。

「み、みんな早く入って下さい……っ」
「ツカサは俺が……」

 隣でマグナの声が聞こえる。だけど、言葉を言い切る前に反対側に大柄な誰かが近付いてきたようだった。

「オレが最後にツカサと入る。オレならいざとなったらツカサを抱えて柵を越える事が出来るからな」

 この声はクロウか。そうだな、クロウに残って貰えたら安心だ。
 熊さんモードにもなれるし、あまり変身して欲しくは無いがツノを露出させた魔王モードだって有るんだ。例え俺が倒れても、きっとクロウが連れて行ってくれる。

「マグナ、俺なら大丈夫だから先に行って!」
「だが……」
「ごねた分だけツカサが疲れる。さっさと行け」

 クロウがマグナに対してぶっきらぼうに声を放る。
 だけど、その声は何だかいつもの調子と違って冷たいような気がして。

 ……どうしたんだろう。二人の容姿を知りたいけど、今は真正面を向いていないと集中力が切れて術が保てない。

「…………ッ」

 マグナが踵を返した音がする。兵士達が鎧を擦り合わせる音に混じって、マグナの気配は俺から遠ざかって行った。

「……ツカサ、そのまま集中していてくれ。抱き上げてギリギリまで連れていく」
「っ、わ、わかった」

 言われるなり後ろからぎゅっと抱きしめられて、思わず体が跳ねそうになる。
 いつも抱き着かれているけど、こういう状況だと余計に意識してしまって心が乱れてしまう。う、ううう、集中が大事なのに蔓が緩む……っ。

「ツカサ!」

 誰かの叫び声とともに、目の前の蔓の壁が歪む。
 その隙間から無数の目と爪が割り込んできて、俺は思わず息を呑んだ。
 が、なんとか、その状態で保つ。ギリギリと壁を開かれそうになる感覚を遠隔で感じながら、俺は歯を食いしばって両手の指にぐっと力を込めた。

「もう少しだ、頑張れ……っ」

 クロウの声も焦っている。
 ぎりぎりと背後から再び重い物が引き上げられるような音がして、そして。

「今だ、入れ!!」

 ブラックの鋭い声が聞こえた。
 瞬間、俺は思いっきり体を引っ張られて足が浮く。
 その衝撃に遂に集中力が切れて、目の前の蔓の壁に幾つもの爪が割り入って来た。綺麗な直線を引いたようにくっつき合っていた蔓が、そこかしこで曲がって行く。

 その光景を見て思わず青ざめた俺の、視界が、何故か急に下を向き、鳩尾を何かで押し込まれるような感覚がして、一瞬、影を通り過ぎた。

「――――ッ!?」

 なんだ。今の影ってなんだったんだ!?
 思ったと同時、俺のすぐ近く……いや、恐らく目の前で地面を叩くよう名凄まじい音が聞こえて、視界に土煙がブワッと舞い上がった。

 慌てて真正面を見ると、そこには……砦柵の姿に似せた重苦しい扉が……。

「…………あ……。成功、した……?」

 今更逞しい腕で腹を抱えられていた事に気付き、俺は連れて来てくれたクロウの顔を見上げる。すると、相手はほんの少しだけ口の端を笑ませて、コクリと頷いた。

「うあぁんもうツカサくんんん~~~~! どっか怪我なかった、大丈夫だったぁ!?」
「んぎゃふっ!」

 ぐっ、ぐるじい。
 クロウを見上げていたと思ったのに、急に拘束されてオッサンのニオイがする何かに閉じ込められた。ってこれブラックの腕の中じゃないか。
 おい、大丈夫じゃねえよ今死にそうだよ!

「離せばかっ、大丈夫だってば!」
「馬鹿はツカサ君の方だよ! ああもうこんなに怪我して……だから雑魚に任せるのは嫌だったのに、全員クズより使えないから……」
「なんちゅう事を言うんだお前はっ! この傷は戦ってる時に出来たモンなの! 誰のせいでもないの!! そ、それより皆さん無事ですか!?」

 ブラックの戯言に付き合っていたら日が暮れる。
 とにかく全員の無事を確認しなければと周囲を見回すと、俺達から少し離れた所で地面にへたり込んでいるジェラード艦長と兵士達がいた。

 どうやら安全地帯に来て一気に疲れが出てしまったらしい。
 だけど、ジェラード艦長はなけなしの気力で拳を突きだして見せた。

「なんともねぇさ……それより、監視小屋だ……使えるか、調べねえとな……」

 そう言いながらヨロヨロと立ち上がろうとするもんだから、俺はもう見ていられなくて、ブラックの腕の中から何とか苦心して飛び出すと艦長を窘めた。

「お、俺達がやりますから! だから、艦長と兵士の方たちは休んでいて下さい」
「だがヒヨッコ、お前さっき術を……」
「俺はすぐ回復しますから……それに、こう言うの慣れてるし……」

 だから大丈夫です、とジェラード艦長の両肩を掴んで強引に下に押すと、相手は力なく再び尻餅をついてしまった。ああ、よっぽど疲れてたんだな……。
 だけど無理もない。そもそも海上機兵団は海上戦に特化しているわけで、こんな風な密林での乱戦を想定した訓練なんて受けていないはずだ。

 それなのに死に物狂いで頑張ったんだから、そりゃ疲れたって無理ないよ。

 俺達は……まあ、慣れっこだし……だから、ここは俺達が率先して動かねば。

「マグナも疲れただろ、少し休んでて」
「しかし……お前の方が疲れたのではないのか」

 心配そうに俺を見やるマグナに、俺はニッと笑って腕を曲げて見せる。
 力こぶは残念ながら見当たらないが、どうだ元気だって解るだろ。

「昨日心配かけた分、今度は俺が頑張らなきゃ。なっ、ブラック、クロウ!」
「えー? まあ、ツカサ君と一緒に行動できるなら別に良いけど……」
「ウム。戦闘について行けず疲れた者は、探索の邪魔だからな」

 ……ブラックはいつも通りとして、クロウなんかやけに喋るし厳しくないか。
 やっぱり獣人の国の武人としては、軟弱な兵士が我慢ならないのかな。そういや、クロウって何かの集団の首領だったみたいだしなあ……。

 これは再び「軟弱だから喰う(食欲的な意味で)」みたいな事を言い出さない内に、早く二人をジェラード艦長たちから引き離さなくては。

「よし、じゃあとにかく……この砦の中を調べてみるか!」

 異形達もこれ以上追って来ないみたいだし、今の内に出来る事をしなければ。
 ……しかし、ここに入った瞬間外から異形の鳴き声も怒号も聞こえなくなったんだが……これってまさか罠ってワケじゃないよな?

 でも、有り得ない事じゃない。だってここには諸悪の根源が居るんだ。
 アイツなら、俺達を抹殺するために何だってやって見せるだろう。

「…………気を引き締めて調べなきゃな……」

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 どうなるか解らないけど、とにかくみんなが休めるように確かめなければ。












 
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