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出会うまで編
6.不思議な夜とテンプレ展開
しおりを挟むやがて日が沈み、周囲が闇に覆われる。
この世界の道路には、街灯が一つもない。だけど、歩くのにそれほど支障はなかった。なんたって空には星と月が輝いているし、なによりこの草原には他にも光源があるからだ。
それは何かと言うと、草原から湧き上がる小さな光の玉たち。
仄かに黄色く光るそれは、真っ暗な草原を幻想的に照らしてふわふわと漂っている。遠くを見ると、森の方でもちかちかと光るなにかが見えた。
どうやらこの世界は夜になると謎の光の玉が湧いて来るらしい。
原理とかはさっぱり解らないけど、夜道も明るいし綺麗だからまあいっか。
「綺麗だなあ、ロク」
「キュゥー」
体をすり抜ける不思議な光に見惚れながら暫く道を歩いていると、進行方向から薄らと何かが近づいて来るような音が聞こえてきた。
なんだか解らないが、ガラガラという音からして人間が出す音ではない。じっと道の先を見ていると、徐々に音の主の姿が見えて来た。
「幌馬車……かな?」
幌馬車とは、物語の中の冒険者達が移動の時に良く使う馬車の一つ。荷台のような車の上に布の屋根を張ったシンプルイズベストな馬車のことだ。
かな? と言ったのは、車を引いているモノがどう見ても馬には見えなかったからである。なんというか、確かに馬は馬なのだが、形が微妙に違うのだ。
馬車を引く二頭の「なにか」はシルエットこそ馬だが、しかし体は真っ黒で、額に角が生えているし牙があるっぽい。
ナニあれ。完全にモンスターじゃん。
いや待てよ、この世界には馬なんて居ないのかも?
あれがこの世界で言う所の馬なのかもしれない。ううん、異世界。
そんな事を思いつつ、馬車が通り過ぎるまで道の端に寄っていると、馬車が通り過ぎて――――いきなり止まった。
「んあ?」
「キュー?」
何事かと思っていると、馬車から何者かがドタドタと降りてくる。
薄暗い中でじっと目を凝らしていると、急いで降りてきた数人が今度はこちらに向かって来るのが見えた。なんだろう。何か用かな。
俺は彼らの姿が良く見える所までじっとみつめて……やがて、目を見開いた。
「げっ……あれって……まさか……」
近づいて来る人々は、皆一様にバンダナをつけて袖なしのボロボロな上着を着ている。しかも、腰には短刀……とくれば、これは。
「盗賊ぅううう!?」
「おうおう、金か命かどっちか選べ!」
「テンプレ発言ありがとうございまーす!!」
思わず言っちゃったけど、相手は気にせずに俺に短剣を突き付ける。
「何を言ってるんだか解らんが、さっさと金を出せ。命が惜しくないのか?」
「い、いやちょっと待って下さい、俺金とか持ってないんですよマジで。ほら見てこの薄っぺらい体! いや違う薄っぺらい装備!」
布装備なんてこの世界じゃ最弱に決まってる。盗賊達の服装だって質素極まりないんだから、俺の装備を見てこいつは金がないと諦めてくれないだろうか。
そう思って両手を広げて無防備状態になってみたが、盗賊達の反応は俺の期待するものとは全然違う方向にいってしまった。
「薄っぺらいが、こりゃ上等の布じゃねーか」
「おい、こいつどっかの貴族とかじゃね? 家出してきたとか」
「ありえる~、すっごくありえる~」
三人目がなんか微妙に気になる。
いや、そんな事気にしてる場合じゃない。こいつら勘違いしてるぞ。
「ちょ、ちょっとまってよ。俺のどこが貴族にみえるんだよ。つーか貴族ってなに、この世界貴族いるの? そう言えばあんた達マジで人間なんだな、まって、初めて会った第一異世界人が盗賊ってどうなの」
「何言ってんだお前。ええい面倒くせえ、話はアジトに行ってからだ!!」
「えええ!?」
待て待て待て待て! 話が! 出来てない!
思わず逃げようとするが、相手は構う事なく俺の首根っこを掴んでずるずる引き摺り始める。俺はネコかとツッコミを入れる間もなく他の二人が俺の体を担ぎ、あれよあれよと言う間に幌馬車に乗せられてしまった。
「しゅっぱーつ」
「アイアイさー」
異世界でも言うんかい、アイアイサー。
……違う! だから、現実逃避をしてる場合じゃないんだって俺!
馬(仮)の嘶きを合図にガタゴトと揺れ出す幌馬車の中で、俺は必死で盗賊達に俺の素性を説明しようとした。
だけど、あまりの事態に言葉が出てこない。
「いやいやいやちょっと待ってよ! 人の話聞いて!? 俺どこが貴族に見えるのねえ、お願いだからお家に返して!」
言いながら縋るも、盗賊は強面ヤクザ顔で俺をぎらりと睨み付けてくる。
「うるせえ殺されてえのか!」
「うわー! ごめんなさい勘弁してくださいー!!」
思わず頭を抱えて隅っこに蹲る俺を見て、ロクが盗賊に威嚇した。
「シャー!」
しかし効果はいまいちだ。
「うわコイツヘビ連れてるぞ! やっぱ一般人じゃねーぞ!」
「は~い興味深いので拉致けってぇ~い」
「ホアァアア!! これが噂の藪蛇って奴かー!!」
「キュッ、キュゥウウウ!」
ああもう何が何だかわからない。藪蛇って意味合ってたっけ。
頭を抱える間にも、盗賊達はいそいそと俺を縄でぐるぐる巻きにしてきやがる。畜生手際良いな、流石は盗賊だぜ。抵抗する間もなくすっかり縄で全身を巻き巻きされてしまった俺は、芋虫の如く転がされてしまった。
なんだこれ、二度目の拘束プレイかよ。初めての拘束体験が植物と男って最悪やんけ、せめて縄プレイならドSな美少女にやって欲しかった。
いやそういう場合ではないんだけれども。
それにしても、やっと危ない森を出られたと思ったらすぐに盗賊に捕まるなんて、俺ってなんて運が悪いのだろう。
自分じゃ運がいいと思ってたけど、良く考えたら運が良かったらあんな植物に出くわさないか。やっぱり運が悪いんじゃないか畜生。俺の幸運値どうなってんの誰か教えて。
色んな思いがとめどなく脳裏に浮かぶが、結局それも現実逃避でしかない。
小さく息を吐いて、俺は観念したかのように床に頭を付けた。
一体これからどうなるんだろう。
盗賊の慰み者になる……なんて展開はなさそうなので貞操に関しては安心しているが、そうなると殺される確率の方が高いか。やったぜ、男はなんて損な生き物なんだ。触手の時と言い不遇過ぎじゃね。
こうなったらいつか彼らの隙をついて逃げるしかないのだけど、俺にやれるんだろうか。
「……俺、運動音痴なんだよなあ……逃げられるのかなあ……」
ロクが一生懸命俺の縄を齧ってくれてるけど、切れるのは大分先になりそうだ。その間に、変な事が起きなければいいが。
俺はもう溜息をつく気力もなく、ただ大きく揺れる床に寝転がるしかなかった。
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