異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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出会うまで編

8.男娼イベントは回避できないようです

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 微妙に優しい奴隷屋のオッサンは、娼館に移動する間に俺に色々な事を教えてくれた。そんな優しさがあるなら奴隷屋なんかするなよと思ったが、この際それはもうつつくまい。
 
 オッサンの話によると、ここはライクネス王国にある交易都市でラクシズというらしい。王都へ向かう他国の物資が多々流れてくるようで、地方にある都市にしては結構な大きさなのだとか。馬車で輸送されてる途中にみた街の風景は、そういえば色々な露店が出て賑わっていたような気がする。
 ファンタジーな世界だからと思って気にしてなかったけど、よく思い出してみたら様々な服装や髪の色をしてる人を見たし、かなりの人手があったな。
 もしかして、あの人達は別の国の人間だったんだろうか。

 オッサンの言う事にゃ、交易都市には他国の商人や冒険者が必ず立ち寄るから、色んな地域の人間や別の種族の人も普通に見かけるんだそうな。
 ってことは、エルフとか獣人とかもいるのかも。

 俺はそんな街にある非公認の娼館に融通されるらしく、オッサンはそこらへんの事も教えてくれた。まあこれは俺を働かせるために必要な説明だからだろうけど、知識は多い方がいい。

「これから行く娼館はな、国が許可した真っ当な娼館じゃねえんだ。お前のような奴隷やワケアリの物件が放り込まれる所で客も殆ど選ばねえ」
「そういえば、そういうお店って普通は迷惑な客はお断りできるんだっけ」
 
 少なくとも日本では、どんなにいかがわしい店でも危ない客は出入り禁止になったりする。病気を防いだり不利益を出さない為でもあるけど、働いている女の子を守るためにはっきり拒否をする店があるのだ。
 まあ、これ、ネットからの知識だけど。
 
「お前なんで知ってんだ。……まあいいか。国公認の娼館は凄腕の美人娼婦ばかりだが、代わりに価格が高いわ男にもそれなりの身分が求められるわ、おまけに娼婦の気位も相当でな。それを敬遠したり、反対に娼婦達に敬遠されたりするモンも多い。そういう感じで門前払いされた奴が、非公認の方に流れて来るってわけだ」
「癒しを求めて……って人ばっかりじゃないんだよね、多分」
「おう、変態趣味やら猟奇趣味の奴が来ることもある。……が、まあ、お前の行くところはそれなりに高けえから多分そう言う事はないだろうが……。覚悟だけはしておくんだな」

 何も否定されずさらっと流されると、なんだか怖くなってくる。
 やっぱり俺、間違いでも何でもなく性的サービスとかやらされる所に売られてしまうのか。解ってた事だけど、今更ながらに悍ましく思えて来るな。
 男でうっふんあっはんなサービスをする店っていうと、女性専用とかもあるわけだけど、この場合はそうじゃないんだろうなあ。
 でも、一縷の望みを託して聞いてみる。

「あのー……ちなみに、俺って女専用? 男もする用?」
「お前の容姿だと9割男の相手だろうな。まあ、ご愁傷様」
「うわー……」

 俺の容姿ってのがいまいちよく解らないが、やっぱり男の相手か。掘られるのか。俺はやっぱりこの世界で処女を失ってしまうのか。いや、もしかしたら掘る側かもしれないがそれも嫌だ。
 冗談みたいな話だけど、どんどん目的地が近付くたびに現実味を帯びてきてなんだか足が竦んでくる。
 街に入って裏路地のような場所へと連れて行かれると、もうそこには絶望の風景が広がっていた。

 路上に力なく座るローブ姿で裸足の女性達。物乞いをする男、指をくわえてこっちをじっと見ているボロボロの服の子供……。
 まさにスラム街。奴隷の俺が連れて行かれるからにはこういう場所なのだろうと覚悟してたけど、でも、実際に見ると辛すぎる。
 彼らの視線が突き刺さってくるようで、胸が痛かった。
 何かを求められても俺は彼らに何もしてあげられないし、助ける事も出来ない。売られる立場ってだけじゃなくて、俺はこの世界では日本での俺以上に無力だ。
 力も金も保護もない。
 奴隷にされても逃げられもしない、ただの脆弱な人間でしかないんだ。
 思い知ると、余計に辛くなってくるな。

 暗澹たる思いに足取りが重くなってしまったが、俺には歩調を遅らせる自由すらない。縄で無理に歩かされて、とうとう目的の場所についてしまった。

「ついたぞ」
「えーっと……これ何て読むの」

 レンガ造りの欧風建築な民家に、申し訳程度に木製の看板が掲げられている。俺には読めない字だ。
 そういえばこの人達日本語喋ってるよな。なんでだろ。

「はぁ? お前貴族のくせに文字よめねーのか」
「だから俺貴族じゃないんだって」
「ったく……これは【お休み処・湖の馬亭】って読むんだよ」
「なるほど。まったく読めん」
「おま……まあいいか、ほれ、入るぞ」
 
 えー、本当に読めなかったんだけど、俺にもいつか読めるようになるのかな?
 また引きずられながら、リンリンと音のなる扉をくぐる。
 この世界の建物って西洋風で、牛乳パックがぎっちり身を寄せ合ってるみたいな感じでレンガの細身な家が連なってるんだけど、中は意外と広い。どうやら幅はないけど奥行はある造りらしい。
 物珍しくてきょろきょろと見回していると、質素なカウンターの奥から目つきの悪い女性が出て来た。

「ああ、あんたかい。あっ、待ってたんだよ~」
「おうやっと入って来たぜ。だがな、こいつ箱入りでイチから教えなきゃならん事が色々あるようなんだ。それはそっちできっちりやってくれ」
「あいよ、それはベイリーにやって貰うさ。料金は後でね。ほらおいで」
「じゃあな、坊主」

 オッサンがにこやかに手を振るが、俺はそんな爽やかにお別れ出来ない。
 っていうか顔怖いよアンタ。笑ってても怖いって凄いよ。色々恨み言とか言うべきなんだろうけど、俺がバカだからかオッサンの笑顔が凄い怖いからか、何を言う事も出来ずに相手が去るのをただ見送るしかなかった。
 あとはもうずるずると引きずられるだけである。
 俺この世界に来てからというもの、ずっと引きずられてない? 気のせい?

「あんたこの宿の説明聞いてるかい」
「えっと……娼館、ですよね。でも娼館に男っているもんなんですか」
 
 そう言うと、相手は怪訝そうな顔をした。

「よっぽど箱入りだったんだねえ、あんた。街で見なかったのかい、男の二人連れなんて沢山居ただろう」
「え……あれって普通に友達と遊びに出てたとかそういうのじゃ」
「今時神官様でもそんな事言いやしないよ。本当あんたどっから来たのかね。そんなおぼこで今まで襲われなかったのが不思議だよ」

 ってことは、この世界では……男同士でイチャイチャするのって、普通なのか?
 ……うーわー! ちょっとまって、本当無理!
 いや別にそういうのを否定する気はないんだけど、男同士のカップルが当たり前なのに男がいる娼館があるって事はつまり、恋人と楽しむだけで満足って人ばっかりじゃないって事で、その上男が好きな男ってのは思った以上に居て、あぶれて飢えた人間が発散しに来てるってことだよな。
 女の子に発情するのと同じように男に発情する人が沢山いて、それが当然って、ことで……。
 
 だめだ、頭痛い。吐き気して来た。
 本当この世界どうなってんの。女子に変態と呼ばれた俺でも青ざめるって、ある意味俺の妄想より酷くないか。
 神様、こんな危ない世界に飛ばすって酷いですよ。
 そりゃ俺の健全な性欲が当たり前の世界に行けたらなとは言ったけど、ノンケだって構わず食っちまう男が大量跋扈ばっこしてる世界に行きたいと言った覚えはない。
 どうせなら女子の方が性欲強くて男が狩られるって世界の方がよかったよ。
 もうそんな事言っても仕方ないんだけどさあ。

「ほら、今日からお前を指導してくれるベイリーだ。ベイリー、この子は今日出すよ。お待ちかねのお客さんがいるんでね。適度にほぐしてやってくれ」
「え?」

 項垂れている間に、どうやら俺は目的地に到着してしまったらしい。
 周囲はいつのまにか石造りの部屋になっていて、真正面にはでっかいスキンヘッドの男が立っている。そいつの隣には、四隅に皮のベルトが垂れた、鉄の台が堂々と置いてあった。
 あ、これって。

「安心しな、入れやしないよ。お前の初めての客は初物を所望なんでね」
「え…………えぇ~……」


 二人からにっこり笑われても、青ざめた俺は笑顔を返せなかった。




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