異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編

26.ただ待っているだけじゃなく

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 体が痺れて動かない。
 ……なーんて事になっても、俺は諦めたりしないぞ。
 どうやら数時間ほど意識を失ってたみたいだが、薬には「よく効く部位とそうでない部位」が有るみたいで、俺の首から上はどうにか感覚を取り戻す事が出来た。
 まあ、相変わらず首から下はじりじりと痺れて動かないんだけどね。

 しっかし、痺れ薬ってこんな感じなのか……。
 ブラックを静かにさせる為の眠り薬はもうバレちゃったから、今度は痺れ薬でも盛ってやろうかと思ってたんだが、この感覚を相手に味わわせるとなると、後々の仕返しが怖いな。倍返しで酷い犯され方しそう。めっちゃ嫌。
 意識が有るまま動けなくなるって結構怖くて辛いし、これはナシだな、うん。

 それにしても……俺はどこに連れて来られたんだろう。
 意識の回復と共に自由になった目蓋まぶたを薄く開いて、俺は周囲に人の気配がないかうかがった。耳も聞こえ始めたばかりで、まだぼんやりしてて周囲の様子が解らない。

 感覚が戻るまで黙って待っていると、徐々に耳が聞こえるようになってきた。
 薄目に映るぼんやりした視界も明確になって行き、俺はゆっくりと目を動かす。

 頭に接する地面は固くない。視界には薄桃色の布が映ってるから、恐らくベッドかソファに寝かされている……んだと思う。
 でも、布の向こうに見える金の格子は何なんだろう。
 正体が判らず視線を左右に走らせると、その格子は視界の外まで続いているのが解った。格子は弧を描くようにたゆんでいて、牢屋とはまた違うようだ。
 ……んん? これってもしかして……鳥籠かなんか?

 えー、と……。ちょっと待って頭回らない。
 鳥籠ってなに。こういうのってアレだよね、観賞用とかそういうのだよね。
 その場合って牢屋よりも逃げるの面倒くさくないか?
 えええ。ちょっとこれはヤバいよマジで。

 仮に体が動けるようになったとしても、鳥籠に閉じ込められている上に、どこに監禁されてるのか判らない状態だ。これじゃヘタに動けない。
 と言うかここどこだよ。なんか普通のお貴族様っぽい部屋に見えるけど……あの地下室にこんな場所在ったのか?

 だとしたら、マグナとも離れ離れになってるっぽいしヤバいな……と考えていると。
 足元の方からカツカツと何やら音が近付いてきた。
 やけに煩いが、これは足音だろうか。何人かいるのか。

 体も動かないし寝たふりをした方が良いだろうと思い、俺は再び目を閉じた。
 首から上だけ動かせても、出来ることは限られてるしな。
 寝たふりをして油断させられる時間を稼ごう。

 そんな事を考えてる俺の耳に、ガチャリという重苦しい扉を開く音が聞こえた。
 鉄、ではないようだが、木製の両扉か。やっぱやけに豪勢だなこの部屋。
 見る事が出来なかった部分への想像を必死に膨らませていると、扉の方から数人の笑い声が聞こえた。

「ほう、確かに寝てるな」
「これがお前の言っていた【愛らしい餌】か」
「ああそうさ。こんな年端もいかぬ少年が、愛する男の為に女の格好までして男に身を差し出していた。自分の倍も年が離れていそうな男の為にな」
「ハハハ、そりゃ凄いな」

 だああああ好き勝手言いやがって。
 ちくしょう、この檻を大手を振って出られるようになったら覚えとけよ。えーとたぶん、声からしてシムラーとあと二人!!

「鳥籠の中で丁度いいな。愛でるのには申し分ない」
「このまま飼うのか? 別に構わんが」
「いや、まだ利用価値が有るからな……私達に逆らわないように躾けて、接待用に使う。少年の娼姫は珍しいから喜ばれるだろう。まあ、あの男が逆らわないようになるまでは、人質として丁重に持て成さなきゃいかんが」

 そう言って、シムラーは笑う。
 他の二人は残念そうに「ふぅん」とか言っていたが、お前らその「ふぅん」は何のふぅんだオイコラ。お前らも変態か。やっぱり変態なのか。

「ルギとか言ったっけ? 勿体ないなあ……今襲ってもバレないんじゃないのか」
「ダメダメ。あの団長、そういう事にはかなり聡いからな。私の査術を軽々と突破してくるぐらいの実力者だ。平民にしては恐ろしい能力者なんだから、迂闊な事は出来ないよ」
「君の妨害を突破したってのか……それは……駒ながら恐ろしいな」
「ああ、だからこそあの男を手に入れたくなったんだがね。あの男の力が有れば、リュビー財団の幹部の一角に食い込めるかもしれん……もうこんな風にちまちまと搾取さくしゅする必要もない」

 リュビー財団……って……クロウ達を奴隷として働かせていたクラレットが所属していた、でっかい組織だよな。北の方にある国が本拠地とか言う。
 南の端のこのハーモニック連合国にまで手を伸ばしているくらいの巨大組織に、シムラーは入り込もうとしてたってのか?

 だから、ブラックの段違いのレベルの査術を利用しようとしてたのか。
 ……この前俺が考えた事は、やっぱり正しかったみたいだな。
 シムラーの目的は俺じゃなくてブラック。アイツの査術さじゅつの腕が欲しかったって所までは予想してなかったけど、だからこそ俺に近付いて、あんなに性急に接近して来ようとしてたんだ。

 踊り子の俺を籠絡して意のままに操れるようになれば、団長をおびき出しやすくなるからな。
 つまり俺は、ブラックを簡単に引き込むための材料に過ぎなかったって事だ。

 俺をあの地下室の支配者にしようとしたのも、俺を安易なエサで釣って雁字搦がんじがらめにしようとしたからで、俺を好きだったからじゃない。
 あの歯の浮くようなセリフが本気じゃなかったってのは救いだが、それはそれで何かムカつく真実だな。自分がブラックを釣るエサ程度の役目しかないってのは、なんかアレだな、男としては傷付くわ。

 そりゃ俺は一度も「美形」なんて言われた事はないですけどもね。
 この世界でもそうでしたけどね、ええ。
 でも、俺だってビシッとしてれば格好……良くはないか。
 はい、調子に乗ってすみません。女装してる時点でダメでした。

 ええと、とにかく。
 これでシムラーが俺に執着してないってのは確かになったな。
 だとすると、俺の立場は危うい状況に置かれてるって事になる。
 相手はあくまでもブラックが欲しいだけだ。と言う事は、ブラックを引き入れたら俺は用済みになってボロ雑巾のようにポイと捨てられかねない。

 解放されるのはいいけど、この男達の事だから、俺をボロボロに使い倒してから捨てるだろう。それはごめんだ。
 それに、ブラックもどんな酷い目にあわされるか解らない。

 アイツは短気でジコチューで人を人とも思ってない奴なんだ。他人の下で働かされるなんて、ブラックの胃がストレスで溶けてなくなってしまう。
 俺は嫌だぞ、ファンタジー世界の人間がブラック企業で胃を溶かして死ぬとか。
 ブラックがブラック企業に就職とかいうアホな駄洒落も聞きたくない。
 ぬうう、何とかしてこっちから連絡を取るか、証拠を見つけて逃げ出さないと。

「触るのも駄目だと言うのは、中々に拷問だな」
「シムラー、その男はいつ使えるんだい」
「明日地下で会う手筈になっている。そこで合意をさせて、こちらへ連れ来るつもりだ。その前に……これを付けなきゃいかんがね」

 シムラーのその声の後に、鍵を外す音と金属の何かが動く音がした。
 もしかして鳥籠の檻が開いたのか。うう、でも俺は寝たフリしなきゃ。
 何が起こるのか判らずじっと目を閉じていると、近くに何者かの気配がした。
 え、これ、もしかして誰かが入って来てる?

 籠の外で二人分の押し殺した笑い声が聞こえる。
 あ、これあれだ、誰か入って来てるんだ。ヤバ、こ、怖いんですけど。
 今度ばかりは首から下が麻痺してて良かった。こんな状況じゃ俺ってば絶対体が震えてたってば。目を閉じてる時に誰かに近付かれるのってすげー怖い。
 お、犯されはしないだろうけど、なんだ。何をする気なんだ。

 内心ビクビクしながら相手の動向を耳で探っていると、相手は地面に敷かれた布を微かに引き摺りながら、俺に近付いて首筋にそっと触れた。
 ああ、本当に麻痺してて良かった。これ完全にビクッてなって鳥肌立てる奴だ。

「あの男に見せつける前に……用心の為にこれを付けておかなきゃな」

 カチャ、と小さな音がする。
 まだ感覚が戻っていない首に何かがくっついた気配がして、俺は息を呑んだ。
 布を引く音が遠ざかって、また鳥籠に鍵がかかる。

「これでよし……明日余裕が有れば、あの団長に見せてやろう。そうだな……あの衣装も飽きて来たし、私達で何か恵んでやるか」
「いい考えだな。せっかくの少年なんだ、良い服を見繕みつくろってやろう」
「ククク……お前、顔が嫌らしいぞ。悪趣味め」
「お前らに言われたくないさ。ハハハハ……」

 三者三様に嗤いながら、声は小さくなって扉が閉まる。
 俺はしばらくじっとしていたが、耳に沈黙が続いたのを確認してから、ゆっくりと目を開けて周囲を確認した。どうやら気付かずに行ってくれたらしい。

「……はぁ…………肩った……」

 言いながら肩を動かすと、ぎこちなさは残るがかなり動くようになっていた。
 どうやら痺れ薬が切れて来たらしい。
 俺はいつもの倍以上の時間をかけて体を起こすと、辺りを見回した。

「……やっぱ金ぴかの鳥籠か……趣味わりー……。俺を入れてどうすんだよ」

 こういうのってお姫様が入れられる奴なんだけどなあ。
 まあ、俺の女装からすれば、アラビアンなお姫様と言えなくもないが、それにしたって顔面偏差値ってあるでしょう。俺別に女顔でも何でもないんだけどな。童顔ではあるが。

 何だか納得のいかない監禁方法だが、それは置いといて周囲を見回す。
 貴族っぽい部屋には、趣味の良い調度品が並べられている。天蓋付きのベッドも当然設置されていて、その向こうには大きな窓とバルコニーが見えた。

 ……ん? バルコニー……?

「って事はここ……地上……?!」

 窓の向こうを見ると、そこには微かに浮かぶ光の粒と暗い闇の世界が見えた。
 夜だ。地下世界では見られない、夜の世界が有る。
 じゃあここって、シムラーの本当の「アジト」って事か……?

「ここに……ブラックを連れてくるのか……」

 しかし、地下世界じゃなくて地上で取引をするってのはどういう事なんだろう。
 ジャハナムでは話しにくい事なのか。リュビー財団にちょっかいを掛けたいって話が本当なら、そんな話別に地上じゃなくても良さそうな物だけど……。

「うーん……」

 意図が解らない。
 そう思いながら、俺は先程から首を拘束している何かに触れる。
 冷たくて僅かに鉄臭さいそれは、俺の首をぐるりと回って喉を圧迫していた。
 こ、これってもしかして……首輪……っすか……。

「……これ多分、逆らったら中からナイフが出るとか、そういう代物だよな……」

 もしかして、これもマグナが造ったものだったりして。ハハ、まさかな……。
 笑えない冗談だと流したかったが、それが正解の気がしてならない。
 少なくとも、この首輪がタダの首輪でない事は確かだろう。

「…………はぁ。情けねえなあ、俺……」

 鳥籠の中で首輪を付けられて助けを求める。なんて、男のやる事じゃない。
 それどころか異世界まで召喚された奴のやっていいこっちゃない。
 なにより、俺はブラックに「俺を信頼しろ」と言ったのだ。このまま鳥籠の中で「お姫様」をやって、悲劇のヒロインとばかりに泣いてるなんて許されない。

 俺がエサになったせいでブラックに迷惑をかけるなんて嫌だ。
 折角曜術も使えるようになって来たのに、色々分かって来たのに、何もせずにはいられない。せめて、あいつらに一矢報いるために何かしなければ。

 俺はもう、アイツが死にそうになる所なんて見たくない。だから。

「…………うっし。まずは……これだな」

 シムラーに見つからないように隠していた鍵蟲かぎむしを、掌に取り出す。
 金色に光る小さな体を見つめながら、俺は気合を入れるかのように息を吸った。

「捕まってる間でも、出来る事はあるはずだ」

 俺は今、沢山の「助け」を持っている。
 鍵蟲、隠蔽いんぺいの水晶、ペコリアの召喚珠しょうかんじゅ

 その助けを使って――――自分の“しなければいけない事”を、考えろ。










 
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