異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編

40.旅に出る前はドタバタするもの

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「困った事に、今回のシムラーの一件がハーモニックの首長達に伝わってしまったらしくてね……残党狩りのために、数か月封鎖されるみたいなの」
「え……」

 それって、もしかして俺達が結構派手に動いちゃったからか。
 青ざめた俺の横で、ブラックが不可解だと言わんばかりに眉間に皺を寄せる。

「なんだい、お偉方はやけに臆病じゃないか」
「だってホラ、最近前代未聞の事件が起こりまくってるでしょ? パルティア島の件もそうだけど、ライクネスの貴族がこの国で客死したり……貴方達は知らない事だけど、以前にも他国出身のが問題を起こしていてね……結構大きな問題になっていたの。それで今回の事件二連発でしょ……?」
「あー……」

 なるほどなあ。
 要するに、ハーモニックの偉い人達は「度重なる他国の人間の狼藉ろうぜき、実にけしからん!」とばかりに怒って、ついにその怒りが爆発してしまったのか。

 でも、他国の人を追い出すのはこの国の主義に反するだろうし、かといって悪人を逃す訳にも行かない。だから、こんな大仰な追い込み漁をしちゃったと。

 気持ちは解るけど、でも、ちょっとやり過ぎなんじゃないですかね。
 ブラックも同じような事を持っていたのか、呆れたように肩をすくめた。

「とんだ癇癪かんしゃくだね。でしゃばりを一掃したいのは解るけど、やりようってモンが有るんじゃないのか? そんな風に締め付けたら、山脈を通って一時的に出国する奴らも出かねんだろうに。裏社会の奴らには、入国の刻印なんて関係ないんだし」

 そういやそうだな。
 俺達はギルドや公共施設を使いたいから、真っ当に検問を通って入国スタンプもペタっと押して貰ったが、悪党だったらそんな物関係ないもんな。
 しかし、このハーモニックではそうも行かないらしく。

「そんなレベルの高い人がいたら、今頃ここの国境を守るアパルー山脈のモンスターは絶滅してたでしょうね。……あのねえブラック、そう簡単に破れないから山は国境として機能しているのよ。知ってるくせにナンセンスな話はやめて頂戴」
「また訳解らん事を……しかし、それでも逃げ道は有るだろうに。僕達が知らないだけで、パルティア島の地下通路みたいな場所があるかもしれないぞ」
「それも考えたから、陸路も海路も封鎖するんでしょう。その状態で消えた不審者がいたら、周囲を徹底的に捜査すればいい話よ」

 うーん、スケールがでっかい話過ぎて付いて行けない。
 こんな広い国で行方不明になった奴を探すのも大変だろうし、消えたとしても、情報が無ければダメなんじゃないのか。それとも、それを辿る方法が有るのかな。
 ブラックみたいにでらめな威力の査術を使えるのならありえるけど……。

「とにかく……そうなれば、幾ら私が口添えしたとしても、貴方達への取り調べは厳しくなるわ。身元の照会も行われるでしょうし……そうなったら、貴方が困る事になるのよ、ブラック」
「…………まあ、確かに」

 確かにってなんだよ確かにって。お前まさかそんな極悪人なの?
 いや、だったらシアンさんもこんな風に接してないか。一応シアンさんは律法りっぽうの守護者だし、ブラックがお尋ね者ならとっとと捕まえてるはず。
 じゃあ何で困る事になるんだろう。

「アンタ、身分を隠してたりするの?」

 そう訊くと、ブラックは何だか難しい顔をしてうなった。

「いや……まあ…………うん……検問で聞かれたら、ちょっと困る」
「……ふーん、そうなんだ」

 なんか言いにくそうだし、深くは訊かないけどさ。
 でもやっぱ気になるよなあ……ブラックの過去。

 しかし以前言いたくないなら言うなと言った手前、そういう事も出来ない。
 結果的に妙な空気になってしまった俺達を見て、シアンさんは目を丸くした。

「そうなんだ、って……ブラック、あなたまだツカサ君に色々話してないの?」
「…………いずれ、話すよ。でも、今はまだ嫌だ」
「……はぁ。まったく、手のかかるおじさんでごめんなさいね、ツカサ君。この子これでも本当に悩んでるから、あまり責めないでやって」
「あ、はい、慣れてますんで」

 何度もこうやってストップかけられてるんで慣れました。
 まあ、遺跡に向かう以上なんらかのブラックの過去は聞かされるんだろうし……今は聞かないで置こう。その方が、ブラックも楽そうだしね。

 そんな態度で鷹揚と頷いた俺に、シアンさんはちょっと意外そうな顔をしてから、嬉しそうに微笑んだ。まるで、心の底から喜んでいるように。

「ツカサ君、ありがとう……。本当に、貴方がこの子の隣に居てくれて良かった」
「そ、それよりシアン、僕達はどうすれば良いんだい。今はそっちが重要だろ」

 あ、ブラックの顔がちょっと赤くなってる。
 ははーん、さてはお母さんに色々言われて恥ずかしがってる奴だな~?
 コイツも可愛い所あるじゃん。やっぱ母さんとかにゃ勝てないよなあ。

「ああ、そうだったわね。ええと……そういう事態になってしまったので、貴方達には今から出立して貰いたいの」
「え?」
「アランベール帝国側の砦はもう閉鎖されてしまったけれど、今ならまだアコール卿国きょうこく側は通れるわ。多少取り調べが厳しくなっているでしょうけど、ツカサ君のその布で隠した腕輪……それがあれば、楽に通れるでしょう。でも、明日になればアコール卿国側の検問も閉鎖されてしまう。出国するなら今しかないわ」

 アランベール側の砦が封鎖されたのは、やっぱシムラーが偽称してたせいもあるんだろうか。いやそれより、今から出立って急すぎませんかシアンさん。
 俺達まだ旅の用意とか何もしてないんだけど!!

「ちょ、ちょっと待てシアン! 今からは流石に……」
「旅の準備はアコール側で整えなさい。それくらいのお金は渡します! さあさあ、早く馬車に乗って。もう玄関に用意させてるから……!」

 ええええ早い、展開早過ぎるって!

「お、おい何か変だぞお前。もしかして……まだ他にも厄介な事があるのか!?」

 びっくりして固まっている俺を余所に、旧知の仲であるブラックは何かを感じたのか身を乗り出す。シアンさんはブラックのその言葉に分かりやすくビクッとして、それから観念したようにがくりと肩を落とした。

「……実は……非常に厄介な問題がもう一つあるのよ……」

 ま、まだ有るんスか。
 思わず突っ込んでしまいそうになったが、シアンさんのやつれようが酷かったので何も言えなくなる。こんなに取り乱してるシアンさんは初めて見るので、俺はどうしたら良いのか解らなかった。

 ここはブラックに任せよう。
 そんな俺の意思を汲み取ったかのように、ブラックはシアンさんに問うた。

「厄介な問題って……なんだい」
「その……実は、クロウクルワッハさんが旅に同行したいって言ってるのよ……」
「ハァ!?」

 あああ、ブラックが一言で半ギレしてる。
 任せようとか思っちゃったけど、ここは割って入らねば。

「えっと……恩返しとかですかね……?」
「うーん、まあ、そう言う所かしらね……でも、ちょっと彼も事情が事情でね…………私達としては、故郷の国へ一刻も早くお帰り頂きたいのだけども、彼は途轍とてつもない力の持ち主ですからね……私達も強制する事が出来なくて」

 ああ、確かに……。
 クロウの力の強さは異常だし、なによりあいつには不思議な能力が有る。癇癪を起されてまたアースクェイクとか発動されたら、今度は俺らがお尋ね者だ。

「だからね、貴方達には悪いんだけど……彼らが気付いてない今のうちに出国して欲しいのよ。アコール卿国に入れば、もう彼も追おうとは思わないだろうし……」
「い、いや、そんな事言われましても、今すぐってのはやっぱ……」
「大丈夫、砦まではエネについて行って貰うから、なんでも好きな物買いなさい! 高くてもいいわよ、おばあちゃんが許すわ!!」
「そんな孫を甘やかすババアみたいな事言って! これもお前の策略じゃないだろうなっ、また僕達を良いように使う気だな! もー騙されないぞ!!」

 この世界でも祖父母は孫に甘いんだな、ってそんな事言ってる場合か。
 ブラックは疑心暗鬼になって興奮してるし、シアンさんも刻限が迫って来てあせり出したのか、言い合いは平行線で全然収拾がつかない。

 って言うか、クロウが俺達と同行する事がそんなにヤバいんだろうか。
 戸籍の関係でダメなのかな?
 でも、難民である獣人を保護してるのは世界協定なんだから、その力でクロウを一時的に冒険者にする事も出来ると思うんだけどな。
 それが出来ずシアンさんも困ってるって事は……やっぱ、何かのっぴきならない重大な理由があるのかも。

 もしかしてまた俺達の知らない所で変な事になってるのか……?
 とか俺が考え始めたのと同時、シアンさんはらちがあかないと思ったのか、パンと手を叩いて美女エルフのエネさんを呼んだ。

「エネ、話は終わってないけどもう時間がないから、ツカサ君達をお連れして!」
「おっ、おいシアン!!」
「二人を頼むわね、エネ!」
「かしこまりました。さて、行きますよお二方」

 そう言いながら、エネさんは俺達二人を抱え上げた。
 え? 抱え上げた?

 ちょ、ちょっと待って。
 俺はまだしも、ブラックもエネさんに脇に抱えられてるんですけど。
 オッサンが美女に小脇に抱えられてるんですけど!

「ぶはっ、ぶっ、ブラックお前っ」
「は、離せ神族、お前ら僕の事は嫌いだろうがっ、なんで抱えられるんだっ!」
「他の分別ふんべつのない者と私を一緒にしないで頂きたい。私は下等生物を一つ一つ選別するような面倒を楽しむ趣味など有りませんので」

 あー久しぶりの毒舌だあ。
 やっぱ美女巨乳エルフにクールに言われると興奮するなあ。

「ちょ、ちょっとツカサ君なにえつに入ってんの!! 君も抵抗してくれよっ」
「ではシアン様、行ってまいります」
「よろしく頼むわね……。ブラック、ツカサ君、件の遺跡についての詳しい話は、馬車の中でエネから聞いて。それと、後でちゃんと遣いを寄越しますから」
「そんな面倒な事やるなら、最初からちゃんと説明しろーッ!!」

 ブラックが断末魔のように叫ぶが、エネさんは止まらない。
 ハンカチを振って別れを惜しむシアンさんを後にして、俺達は荷物のように抱えられたまま白亜の宮殿を後にした。

 きっとまた来る事になるだろうけど、でも、いざ離れるとなると少し寂しいな。
 クロウにも、マグナにもまだ「さよなら」も言ってないし。
 あのお店の獣人達にも別れを言えなかったなあ。

 でも、また来るんなら良いか。
 この世界に居る限り、生きてる限り、会えないなんてことは無いんだから。

「…………ツカサ様、どうかなさいましたか。何か面白いことでも?」
「いや、なんでもないです」

 まあ、こんな旅立ちも悪くないか。













※次は久しぶりの二人旅&夏場にぴったりの事件編はじまります(`・ω・´)
 思う存分ブラックにひっつくツカサを宜しくお願いします\\└('ω')┘//
 
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