異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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北アルテス街道、怪奇色欲大混乱編

5.初恋知らずども、少しずつ学ぶ*

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※まとめたのでちょっと長いです。すみません(;´・ω・)

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 気持ちの良い風が吹く草原。今はセーナスを出発して旅の空の下だ。
 その草原を一直線につ道を楽な速度で歩きながら、俺はガトーさんから貰った手紙を読んでいた。


 ガトーさんの手紙には、自分が所有してる輸送船で確かに爺ちゃんを送り届けたって事と、久しぶりに冒険して楽しかったと言う感想が書かれていた。
 その文面ったらやっぱり大げさなナレーションっぽくて、文字だけでウザい。
 思わず笑ってしまったが、ガトーさんは相変わらず元気そうで安心した。

 なんにせよ、費用全額負担でドービエル爺ちゃんを送り届けてくれた事に関しては、もう一度会ってお礼しなくちゃな。
 爺ちゃんを帰してくれってお願いは、完全に俺のワガママだし。

 そう思いつつ一枚目の紙を次の紙の後ろに回す。
 横から手紙を覗き見ていたブラックは、面白くなさそうに鼻を鳴らした。

「ふーん、ちゃんとあの熊は帰れたんだね」
「みたいだな。ガトーさんには何かお礼しなくちゃ。やっぱ菓子折りかなあ」
「別に良いんじゃない。相手もツカサ君の腕輪に恐れをなしてやったみたいだし」

 あまりにもあんまりな言い草に、俺は歩みを止めて隣の不機嫌な中年を睨んだ。

「……あのなあ、不貞腐ふてくされるのも大概たいがいにしろよ。アンタ俺より大人のはずでしょ」
「だって、ツカサ君昨日も一昨日も僕に睡眠薬盛って眠らせたじゃないか」
「お前が旅に出るっつーのにサカって来るからじゃろがい!!」

 そう、これは正当防衛だ。何度も言っているが正当防衛なのだ。
 だって考えて見てご覧よ。俺はブラックとは違い、まだまだ旅慣れしていない。それに、これから恐ろしい場所へ二人だけで挑もうとしているのだ。そんな時に足腰立たなくなるまで犯されたらどうなる。

 いくら速度を強化するラピッドの術を使ったとしても、俺は逃げ切れないぞ。
 インドア派の体力なめんな。数か月運動していても冒険者メシ食ってても、体力がつかない! それが真のインドアもやし野郎なんだ!!
 ……って褒められた事じゃないな。

「僕達、恋人になったのに、恋人らしい事一つもしてないんじゃないかな……?」
「じゃあ訊くけど、お前の言う【恋人らしいこと】ってなんだ? 言っておくが、お前がヤりたい事は恋人同士じゃなくてもヤってた事だから除外な」

 そう言うと、ブラックはぐっと言葉を飲み込んだ。
 おいテメーやっぱりヤりたいだけだろこの野郎。

「うぐぐぐ……な、なんか、アレだよ。一緒にお店でご飯を食べたり、仲良く手をつないで散歩したり……」
「ってそれ俺が前に言った奴だよな?」
「ぐぅっ」
「はぁー……。あのさあ、俺もそう言うの解ってる訳じゃないけど、その……こ、恋人って言うんなら、もうちょっと勉強してくれても良いんじゃないか?」

 別に、そこらへんの恋人みたいにイチャイチャしたい訳じゃない。
 だけど、そうあからさまに俺との関係を流布したいのなら、それなりの態度ってモンが有るだろう。エッチするだけじゃなくて、もっとこう……。

 いや、別に恋人らしい事をしてほしい訳じゃないぞ。
 俺は恋人って言うモノの定義をだな。

「勉強って……どんな本を見ればいいんだい」
「はえ? あ、本? えーと……そうだなあ。この世界だと……恋愛を題材にした劇だとか……有るかどうか解らないけど、恋愛小説とか?」
「ああ、あの女が好きそうなヤツ」
「……女が好きそうな奴……って……」

 ブラック、お前本当に顔だけで女を引っ掛けまくってたんだな……。
 逆になんか同情的に思えて来てしまったが、恋愛童貞なのは俺も同じなので言うに言えない。っていうか顔で女の子釣れる奴に俺が同情出来る訳がないが。

 しかし、マジでこのオッサンってば恋だの愛だのに興味なかったんだな。
 今のデレデレしてる姿が嘘みたいだ。
 や、まあ、そういう態度が嘘だとは思ってない、けど……うん。

「ツカサ君どしたの」
「いや、何でもない。とにかく、恋人って言いたいんなら、頼むからそう言うのを読んで勉強してくれよ」
「それまでお預け……とか言わないよね」
「言う」
「ツカサ君がいじめるー!!」
「いじめてない! すぐに理解すればいい話だろ!」

 ってか毎度毎度いじめられてるのは俺の方だと思うんですけどね!!

 しかしブラックは俺のいう事も尤もだと思ったのか、それからはブツブツ何かを言いながら黙り込んでしまった。
 なんか気味が悪いけど、まあ真剣に考えてくれるんなら良いか。
 そっか、真剣に考えてくれるんだ。

 ……ほ、ほだされない。そのくらいじゃ絆されないからな。

 とにかく今は前進だ。本当は藍鉄に乗って行きたい所だけど、流石に昨日の今日は無理です。ケツが痛くて。よくみんなあんなに連続で馬に乗れるな本当。
 と言う訳で、俺達は途中で休憩して携帯食を食べたり、街道沿いの草原に生える野草なんかを見たりして、しばしのんびりとした道程みちのりを楽しんだ。

 しかし、歩みが遅ければ当然夜がやってくるのも早い訳で。
 夜道は危険だと判断し、俺達は道の近くの森の中で野宿をする事にした。

 いや、道のすぐそばで野宿しても良いんだけど、盗賊とか出た時に色々困るからね。それに、森は道に施された術の範囲内なのでモンスターの心配はないし。
 とりあえず寝床を作って、俺は持って来た食料で夕食を作った。

 水のない場所では、街から持って来た水を使わなければならない。冒険と言えば皮袋とかに入った水を思い出すけど、俺には大量収納された瓶がわんさかある。
 収納したのが一気に現れるのは大変だが、それでも荷物が嵩張かさばるよりはマシだ。

 その水を使えば、自炊は比較的楽だ。その辺の野草と半生の干し肉は、最早野宿料理のスタンダードである。
 俺もすっかり料理に慣れてしまったが、気晴らしになるので悪い気はしない。
 後ろでいつもニヤニヤしてる中年を除けばな。
 しかしこのごろはそれにも慣れてきている自分が悲しいが、まあブラックはいつも美味いって食べてくれるからそれでチャラだ。

 簡素ながらも胃を満たした後は、交代で見張りをする。
 火を焚いている以上盗賊に襲われる可能性はある。街道沿いの道では、モンスターよりも盗賊に気を付けなければならない。森に隠れて野宿しているとはいえ、焚火たきびの光は地上から湧き出る光や星の光とは全く違うからな。

 今日はロクもぐっすり寝てるし、俺が頑張らねばなるまい。
 旅を続けてきたお蔭で、見張りは俺もちゃんと出来るようになってきた。
 ブラックは相変わらず「僕がずっと起きてるから良いよ」なんて言うけど、従者じゃないんだし、ブラックにばっか眠たい思いなんてさせてられない。
 俺だってやれる事だし、分担は平等にやらないとな。

 ってなわけで、夜半を過ぎても俺は眠らずに俺は火の番をしているのだが……。

「……お前、寝ろよ…………」

 さっきから俺の隣で体育座りをしてるこの中年はなんなんだ。
 見張りは俺の番だってのに。
 早く横になれ、と睨むと、ブラックは不満げな顔をして口を尖らせた。
 うわあ、物凄く可愛くない。

「え~……だって眠くないし……」
「眠くないしってお前、自分の番が来たらどうすんだよ」
「だから言ってるじゃない。ツカサ君は寝てていいから、僕が徹夜するって」

 そう言われても、こっちも意地が有るんで寝れないんですよ!
 ああもうこの中年、ちっとも寝やがらない。
 なんだ、今まで野宿で徹夜させまくりだったのが悪かったのか。それとも冒険者としての習慣が染み付いてて、なかなか眠れないのか?
 そうじゃなかったら嫌味か。満腹で既にぼんやりしてきてる俺への嫌味なのか。

「もういい。明日フラフラになっても知らんからな」
「ははは、大丈夫だよ。僕はツカサ君より体力有るから」

 てめーこの野郎言いたい放題言ってくれるな。
 こんちくしょーめ、寝落ちしても知らないからな! 俺が!

 ブラックの自信満々の声に鼻息をフンと吐きつつ、俺は焚火に枝を放り込んだ。
 こうなったら根競べだ。絶対に寝てやるもんか。
 しばし黙る俺に、ブラックは何を思ったのかそっぽを向きながら近付いてきた。

「……ねえ、ツカサ君」
「なんだよ」
「えっと…………」

 なんだか煮え切らない声の相手が不思議で、じっと観察していると、ブラックは不意に俺の肩を抱いてきた。思わずびくりと震えるが、ブラックの手はそのまま俺の体をゆっくりと己の方へ傾けていく。
 そうして肩に頭を押しつけられて、俺は数分ほどその奇妙な体勢で固まっていた。

 ……えーと……これは……どういう意味だろう。

 ブラックのやる事にしては随分控えめだし、手や表情にも性欲は感じられない。というか、逆になんかちょっと恥ずかしがってるような気がしないでもない。
 焚火のせいか俺の斜めってる微妙な体勢のせいか判らないが、見上げるブラックの顔はちょっと気弱そうな自信なげな顔だった。

「ブラック?」

 呼びかけると、相手は少し目を泳がせて俺を見る。
 何のつもりなのだろうかとじっと見返していると、ブラックは緊張したようにまばたきを繰り返してから、ぎこちない口で俺に応えた。

「いや、あの……恋人って、こんな時にはこうするんじゃないかなぁ……って」

 こういう行為をする。
 ……あ。もしかして、俺が言った事ずっと考えてたのか?

「俺とくっつく事が恋人っぽいと、お前はそう思ったわけか」
「いや、僕だってこれが正解かは解らないよ? ツカサ君にはいつも抱き着いてるし。……だけど、ちょっと、思い出した事があって」
「思い出したこと?」

 鸚鵡おうむ返しで聞き返すと、相手は遠い目をしながら焚火を見やった。

「むかし……旅をしてた頃にね、見た事が有ったんだよ。その時の仲間の二人が、見張りの番の時にこうして寄り添っていたのをね。……その時の僕には意味不明な行動に見えたけど……でもね、ちょっとだけ“羨ましいな”って……思ってたような気がするんだ。だから、やって見たくて……」
「…………」
「その時の僕は今より滅茶苦茶だったから、『羨ましい』って気持ちもこうする事の意味も判らなかったけど……でも、今なら解る。…………こうしてると、嬉しくなって、ほっとするんだね。……恋人だから、そう思うんだよね?」

 嬉しそうな顔をして、俺に笑いかけるブラック。
 ……でも、その表情には少し寂しそうな色が混じっていて。

 その寂しさがどんな感情から来るものなのかは俺には解らなかったけど、でも、そんな話を聞かされたら「離れろ」と言えるはずも無かった。

 可哀想。なんて、思っちゃいけない。
 それがブラックの歩んできた道なのだから。
 だけど、そういう優しさすら理解できていなかった過去のブラックの事を思うと、なんだか胸が痛くて、喉の奥がじりじりして堪らなかった。

 それでも、答えてやらなきゃいけない。
 いや、俺は、ブラックに答えてやりたかった。

「…………そう、だな」
「ツカサ君も、嬉しくなって……ほっとしてくれてる?」
「…………」

 調子に乗るかな。頭の隅でそう思ったけど、でも。

「……ああ、寝こけるくらいにはな」

 精一杯の言葉でそう言ってやると、ブラックはこの上なく嬉しそうに笑った。
 いい大人のくせに、子供みたいな人懐っこい笑顔で。

「ツカサ君……っ」

 寄り添ってるだけじゃ我慢できなくなったのか、ブラックは俺を抱き締める。
 拒否も出来ずに捕まってしまった俺は、なんだか抗議するのも億劫でブラックに求められるがままに胸にブラックの顔を受け入れてしまった。

 胸を湿らせ熱くする息にさいなまれながらも、俺は黙ってブラックの成すがままにさせてやる。その事がよほど嬉しかったのか、相手は頬を胸元に押し付けたままで軽く笑った。

「なんだかね、凄く暖かい気持ちだよ」
「そ、そうかよ」
「手を繋いだ時も思ったけど……ツカサ君に触れてるだけで、こんなに満たされた気持ちになるんだね。僕はセックスの方が好きだけど……これも、悪くない」
「俺はこっちばっかりのが良いんですけどね……」

 そう。だったら良いんだよ。
 イチャイチャするのはイタいんでちょっと……とか言ってはいたけど、結局こういう事なんだよな。
 手を繋いだり、抱き締めたり、それだけで満たされると言うか……。
 あっ、いや、別にブラックとそういう事したいってワケじゃなくて、その。

 …………でも、そうなのかな。
 悔しいが、俺だってブラックに抱き締められて安心するのは事実だ。危険な行為だったと言うのに、抱き締められてぐっすり眠った事だってある。
 手を握るだけなら、まだ言い訳もできたけど……自分に性欲を抱いている相手に抱き締められて喜ぶってのは、ちょっと自分でも擁護出来ないよなぁ……。

 凄く認めたくないが、やっぱり俺も……ブラックといると、安心するんだろう。
 少なくとも、「恋人ならまずこんな事をするのが普通だろ」と怒るくらいには。

「…………だめじゃん完全にだめじゃん俺」

 これ完全に彼女的なワガママとかそういうアレですよね。
 体より心で触れ合いたい……っ! とかいう面倒くさい感じのアレですよね。

 まって、物凄い気持ち悪い。女の子が言うのは良いけど、俺自身の感情でコレは無理だって。アホか。アホなのか俺は。どこでこんな乙女スキルを拾って来たの、俺はこんなスキルをラーニングした覚えは有りませんんんん。

「ツカサ君どったの?」
「い、いや、なんでもない……」

 聞かんといてお願い。
 自分のあまりにもあんまりなワガママ乙女ハートに青ざめていると、ブラックは不思議そうな顔をしていたが、すぐに笑顔になると俺を抱え上げた。

「うおぉっ!?」
「そう言えば、ツカサ君お尻痛いって言ってたよね。だったら、僕が椅子になってあげるよ! 恋人なら当然とうぜん!」

 上機嫌でそう言いつつ、ブラックは胡坐あぐらをかき、その上に俺をひょいと乗せた。
 俺が青ざめていたのを尻の痛みのせいだと勘違いしたらしい。
 いや、うん、確かにありがたいけどこの格好は……っていうかあの、ブラック。

「……あの、ケツになんか当たってんスけど」
「………………無視してクダサイ」
「む、無視か……」

 そこで「セックスしよう!」って提案しなかったのは偉いぞ、ブラック!
 いい雰囲気を壊したくないと言う感情はブラックにも少しは有るらしい。
 というか、情緒面がやっと育ったのかな。とにかく今はブラックも情けない顔で肩を落としていた。

「ごめん……あの、ここ数日ずっと我慢してたし……それに、ツカサ君とこういう雰囲気になったら勝手にソコが興奮しちゃって……抑えたつもりだったんだけど」
「そんでよう俺を胡坐の上に乗せたなお前は」
「我慢できると思ったんだよー! せっかくいい感じだし、この感じでいけば街に着いた時は好きなだけセックス出来るかな~って考えたから、今日は我慢しようと頑張ってたのに……うう……自分の股間が憎い……」

 そういう腹積はらづもりだったんかい。
 ちょっと冷めてしまったが、でも努力は買おう。俺もそんなシチュエーションを女子とやったら、否応なく股間を膨らませてたかもしれんし。

「……鎮静化しませんか」
「しませんね……って言うかツカサ君に対してこうなったらもう抜かないとムリ」
「お前凄い事言うな」
「だってしょうがないじゃん、好きなんだもん!!」

 情けなく垂れ下がった眉と泣きそうな目で、ブラックはそう叫ぶ。
 いつもは俺にガンガン迫って来るから俺も反発してたけど、そんな顔でそんな事言われたら何だか強く拒否も出来ない。って言うか……。

 こんな情けない顔して泣きそうになってるブラックの顔を見てると……――
 ちょっとだけ……いや本当、すこーしだけ……可愛いかな、っていうか……。

「…………ツカサ君……怒ってる……?」

 まあ、そりゃ……そうだよな。
 俺だって女の子の裸を見りゃ勝手に勃つんだ。ブラックはその対象が俺なだけであって、自分に置き換えてみればそれは仕方のない事だと思えた。
 据え膳状態で我慢しなければならないという辛い気持ちも、痛いほど解る。
 俺だって同じ男だしな。
 それに、自分の迂闊うかつさへの恥ずかしさも有るんだろう。

 ポカしてもここまで情けなくなる事なんて少なかったブラックが、良い雰囲気を自分でぶち壊しただけで泣きそうになってるんだ。今の状況はかなりの失態だって思ってるに違いない。

 普段は、こんな顔して失敗を嘆かないくせに。
 冷静な顔で舌打ちとかするくせに。
 俺との事じゃ、こんな顔になるんだ。……俺の事に関して、だけは。

「…………ツカサ君?」

 菫色すみれいろの綺麗な瞳が、焚火の炎でゆらゆらと光る。
 魅入られそうなその光を見つめながら、俺は、無意識に切り出していた。

「……これからちゃんと我慢できるなら、その……抜いてやらんでもない」
「えっ……!?」

 目を見開いて口をアホみたいに開ける目の前の中年に、俺は掌を押し付けながら怒鳴る。い、言っちゃったもんは仕方ない。仕方ないから、言うだけだ。
 でも、ただじゃやらないからな!!

「が、我慢だぞ、我慢! あとちゃんとこう言うの勉強しろよ!」
「するするっ、沢山する! ツカサ君とちゃんと恋人同士の楽しい事出来るように勉強するよ! 我慢もちゃんとするから!!」

 だーもーこっちが甘くなったら尻尾振って目を輝かせやがってこの野郎。
 イヌか、大型犬かお前は。
 頭の中をさんざんな罵倒ばとうがいくつもよぎったが、しかし、声には出せなくて。

「…………見んな。あっち向いてろ」
「わっ、わかった」

 鼻息を荒くしながら、ブラックは勢いよくそっぽを向く。
 ゲンキンすぎやしませんか中年。
 色々思う所が有りつつも、そこまで尻尾を振られると悪い気もしないわけで。

「……言っとくけど手コキだけだからな」
「手コキってなに? 手淫のこと?」
「ぅぐ……そ、そうだ」

 また余計な単語教えちゃったー。あー。
 チクショウ、こうなったらヤケだ。さっさと抜いて終わらせる!!

 俺はブラックのズボンの合わせ目を解くと、下着を強く押し上げているものを恐る恐る取り出そうとする。が、ブラックのモノはそんな弱々しい手など借りずに、下着から少し解放してやると勝手に飛びだしてきた。
 あの、あの、元気な暴れん棒すぎやしませんか。
 相変わらずでっかいし黒いし凶暴そうな見た目してて怖いしぃい。

「つ、ツカサ君……無理しなくても、いいよ……?」
「むっ、無理なんてしてないし!? おなっ、同じ男として辛そうだから、その、まあ俺にも原因あるっぽいし、今日はやってやらんでもないと思っただけで、別にその……ってあーもー煩い黙ってろ!!」

 気が散るとばかりに怒鳴ったが、ブラックはニコニコしながら笑うだけで。
 ぐぅう。強く握ってやりたい所だがそれが出来ない俺達男の子。

 深呼吸して息を整え、俺は血管が浮くグロテスクなそれを掴んだ。
 軽く片手で握っただけでは、手で作った輪には収まらない。
 それほどの大きな凶器を、俺は上下にゆっくりと扱き始めた。

「っ……は、ぁ……」

 勿論もちろん、ただ扱くだけじゃなくて、強弱を付けて出来るだけ刺激を作ってやる。
 自己流だし、ブラックが俺にやるヤツとは比べ物にならないくらいヘタかも知れないけど、やるからには気持ち良くさせてやりたい。

「その……ヘタだったらちゃんと言えよ」
「下手なんて、とんでもない……凄く気持ちいいよ……っ」

 潤んだ目を細めるブラックに、俺は直感的に相手がそこまで快楽に浸っていない事を感じ取った。余裕そうだし、どう考えても俺のテクに満足してないよなこれ。
 じゃあ……やった事ないけど、エロ漫画で見た事有る奴やってみるか。

「えっと……」

 絞り出させるように強弱をつけて扱くのを続けながら、俺は空いていた片方の手でえぐい程立派な先端に指を這わせた。
 そうして、掌でゆっくりカリ首から全体を撫でまわす。

「っ、く……つ、ツカサくん……!?」
「気持ちいい?」

 明らかに反応が変わったブラックにちょっと面白くなって、俺はブラックのモノの根元をぎゅっと指で押さえつけ先端を撫でまわし、くびれや裏側をまんべんなく愛撫した。

「っあ、ぅっ……ちょ、ちょっと、待ってツカサ君……っ! そ、それはっ……」

 ブラックが「そっぽを向く」という約束を忘れて、俺に向き直る。
 その顔は真っ赤で、いつもとは違って酷く慌てていた。

「…………」

 あれ、変だな。何か、やっぱ……可愛い、かも。

 とち狂った事を考えつつも、何故かそれを否定できずに俺は手を動かし続ける。
 今度は掌の真ん中のくぼんだ所を先端に当てて、吸うようにきゅむきゅむと掌を動かしてやった。すると、ブラックは俺が思った以上に感じたらしく、天を仰いで体を震わせた。

「ぅっ、あっ、あぁあ……っ!」

 ビクビクと体が波打っている。放出を阻まれたブラックのモノは、俺の手の中でパンパンに腫れ上がっていた。血管は浮き上がり、あるじの動きに合わせてゆっくり息衝いきづいている。先走りは止めどなくあふれていて、俺の手をしとどに濡らしていた。

 ……ブラックって、いつもこんな顔して俺とエッチしてるのかな。
 そう思うと、何だか急に俺も恥ずかしくなって顔が熱くなった。

「つ、ツカサくっ……も、お願い……出させてくれ……っ」

 低くて渋い声が、興奮でかすれている。
 欲に塗れた声音が俺の耳に届いて、背筋がぞくりとうずいた。ブラックの声のせいで何かヤバい衝動が込み上げそうになって、俺は慌てて手を離す。

 その、瞬間。

「あっ、ぅっ……ぁあ……!!」

 限界だったのか、ブラックが男らしい声を出して体を痙攣けいれんさせる。
 その様をぽーっと見ていた俺の顔に、なにやら水が掛かって来た。

「……え?」

 うん? 水?
 おかしいな、ここには水なんて一滴も……とか思いつつ、鼻の上から垂れてくるそれを手で拭って、見てみると。

「…………」

 白いね。なんか白いねこれ。あと生臭いね。
 っていうか量多くないかコレ。頬とか口の端にまでかかってるんですけど。この白い液体、俺の顔にめっちゃかけられてるんですけど。
 無心で拭いながら現実逃避する俺に、ブラックは目を丸くして手を伸ばしてきた。

「あ…………つ、ツカサ君……」
「……言うな。名称を言ったら殴るぞ」
「いや、初めて顔射しちゃったなと思って凄く嬉しいなって」
「あーもーお前は本当によぉおおお!!」

 初顔射うれしー、じゃねぇえええよ!!
 俺は全然嬉しくねーわ! 何が悲しゅうて顔射されにゃあかんのだ!!
 つーかお前どんだけ溜め込んでたの、量が物凄いんですけど!?

「ツカサ君早く顔洗って! 早くしないとまた勃起しちゃいそうだから!」
「お前は自分の都合ばっかだなオイ!! 殺すぞ!!」

 人がせっかくの好意で手コキしてやったっつーのに、我慢出来ずに顔射とは何事だお前は。つーか飛距離と量がすげえよお前、本当エロ漫画の男優になれよそして帰ってくんな。二度と帰ってくんな。
 さっきの俺の献身けんしんと好感度アップを返せ。マジで返せ。

 憎しみで人が殺せたら的な目付きでブラックを睨みながら顔を拭う俺に、相手は笑顔でハンカチを取り出して顔を近付けてくる。

「いやー、ごめんごめん。でも、ツカサ君に手、手コキ? して貰ってると思うと物凄く嬉しくて興奮しちゃって、つい」

 ブラックはそんなクソみたいな言い訳をしながら、悪意なんて一欠けらもない無邪気な笑顔で俺を見てくる。
 その能天気な顔を見ていると、なんだかもう怒る気も失せてしまって。

「…………本当あんた、我慢を学んでくれよ」
「うん。これから頑張るから。……だから、恋人らしいこと……沢山しようね!」

 心底嬉しそうな声でそう言われたら、拒否するこっちが悪者になる。
 まったく、オッサンのくせして本当得な性格してるよなあ、こいつ。
 どんだけアホな事しても、下品な事しても、人懐っこい笑顔で子供みたいな事を言って許されてるんだから。
 許す俺もどうかと思うけど、こればっかりはしょうがない。
 だって俺、懐かれると弱いし。

「はぁ……。とにかく……そのデカブツを早くしまってくれ……」

 笑顔のままで巨大なイチモツをぶらぶらさせてる格好悪い中年に指摘して、俺は盛大に溜息を吐いたのだった。













※ら…ラブラブ……です……!!\(^o^)/(当社比
 
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