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北アルテス街道、怪奇色欲大混乱編
抜け出すために必要なのは2
しおりを挟む「やっぱり、チェチェノさんの子供ってピクシーマシルムだったんだな」
予想してはいた事だけど、やっぱりちょっと不思議だ。
このぬいぐるみみたいなキノコが、あんなにでっかい長老キノコになるなんて……キノコが主食なのに、どうやって成長するんだろうか……。
「ムム?」
「ああ、ごめんごめん。お父さんの所に行こうな?」
「ムー!」
ウズラの卵みたいな大きさの二つの黒い目を、すぐにニッコニコの笑みに変えるキノコに、思わず頬擦りしたくなる。ああもう本当可愛いなあもう。
ロクやアイテツ達と離れ離れだから、可愛い動物が恋しかったんだよなぁ……。
チェチェノさんはデカいとか言う以前になんか偉い人っぽくて抱き着けないし。
しかしここで初対面だろうキノコ君に頬擦りすれば怖がられてしまいそうなので、ぐっと堪えて俺はブラックと共にチェチェノさんがいる緑の間へと戻った。
「おお、外から戻って来たか我が子よ。夜通し帰ってこないから心配したぞ」
チェチェノさんの声に、俺が抱いていたピクシーマシルムはぴょこんと飛び出して、一目散に彼のもとへと走って……いや、ジャンプして行く。
っていうか今、外に出て帰ってこないって言ったか。
「あの、チェチェノさん……子供さんは、外にしょっちゅう出てるんですか?」
「うむ? ああ、この子達はな、交代で外に出るのだ」
「こ、交代……?」
ブラックの尻上がりな声に、チェチェンさんは大きな頭で頷き、体をわさわさと動かし始めた。まさか胞子をだすのかと身構えてしまったが、それは杞憂だった。
彼が体を動かすと、その体の背後から小さなキノコたちが次々に飛び出してきたのだ。それはもう、ぴょこぴょこと。
「はぁああ……っ! な、なにあれ……!!」
思わず声が出てしまったが許してほしい。だって、だって、ステージ上の場所に次々と可愛いキノコのぬいぐるみがぴょこぴょこ飛んできて並んだら、誰だってキュンと来るって! 色とりどりの可愛いキノコが動いてりゃさあ!
「え……どこにあんなにキノコが居たの……二十体以上いるじゃないか……」
……前言撤回。感動しないでドンビキする奴もいる。
「子供達はこの数の多さを利用して、あの崖の前で体を積み上げて外に出るのだ。とは言え、跳躍力は他の種族よりも低いがゆえ、一番上に居る二体ほどしか外には出られぬがな。外へ出るのは交代制なのでこうして外に出た子が帰って来るまではワシと共におる」
「はー、なるほど……確かに積み上げたら外に出られますもんね」
俺達みたいに何十キロも有る重い物体は無理だろうけど、ピクシーマシルム達はかなり軽いし、それに確かに跳躍力も有る。二十体以上はいるんだし、うまいこと積み上がる事が出来れば確かに数匹は外に出られるだろう。
なるほど、そういう脱出方法もあったか……でもまあ、俺達は無理だけど。
「しかし、どうして今まで彼らは姿を見せなかったんです?」
ブラックがチェチェノさんを見上げながら聞くと、彼は悲しそうに少し俯いた。
「申し訳ない。君達を信用していない訳ではなかったのだが……これまで、ワシは子供達を沢山殺されたのでな……。子供と言ってもワシの分身のようなものだが、やはり殺されればいい気分はせん。故に、少し警戒していたのだ。申し訳ない」
「あ、いえ……そりゃそうですよね……」
「……お気持ちお察しします」
この感じだと、半狂乱になった旅人達の殆どにピクシーマシルムを殺されてたんだろうなあ……。この世界から永遠に出られないっていう恐怖やストレスは、恐らく耐え切れる物じゃないだろう。だとしたら、ストレスを発散する為に弱い存在に暴力を振るう人も居たに違いない。
色々な要因が噛みあっているから、発狂してしまった人間側の事に関しては何も言えないが、とにかく犠牲になったピクシーマシルム達は可哀想でならなかった。
村人達の勝手な行動は、知らずの内に小さな命すら殺していたのか。
「ムー?」
「ムムムー」
チェチェノさんの心の痛みは幾許かとブラックさえもが黙っていると、何も知らない無邪気なピクシーマシルム達は俺達にぴょんぴょん近寄って来た。
そして、俺達を心配するように周りを取り囲んで顔を覗き込んでくる。
ああぁ……可愛すぎかぁ……。
「ちょっ、つ、ツカサ君顔デレッデレになってるよ! 溶けてるよ!!」
「だって可愛いんだもの! 可愛いんだもの!!」
一匹が懐くだけでも頬が緩むってのに、こんなに沢山なんて!
ペコリアの時もそうだったけど、本当こういうのはだめだ。死ぬ。理性が死ぬ。
「ホッホッホ、良かったなぁお前達。お二人はお前達の事が好きみたいだぞ」
チェチェノさんの言葉に、ピクシーマシルム達は嬉しそうにぴょんぴょんする。
ひぃ、やめてください。もうそれ以上可愛さをアピールしないで!!
「ツカサ君って男のくせに本当こういうの好きだよねえ」
「可愛い動物に心が動くのは男女一緒なの! 俺だってモフモフとかきゃわたんに囲まれて暮らしたいの!! 男女差別反対! 男女差別反対!!」
この世界の男のなんたるかは俺には解らんが、可愛いは正義だ。優勝なんだ。
オッサンにはこの可愛さに巧妙に隠された真実が判るまい。
もう抑えきれなくて、思わずピクシーマシルムを抱き締めて頬を摺り寄せる俺に、ブラックは盛大に溜息を吐きつつ頭を掻いた。
「それで……この子達に協力を頼むんだろう? 早くやっちゃおうよ」
「あ、そうだった。いかんいかん……チェチェノさん、俺達、出来れば脱出したいと思ってるんです。だから、良かったらこの子達に協力を頼みたいんですが……」
そう言うと、相手は驚いたように少し背を伸ばして俺達を見た。
「脱出……脱出できると、思っておられるのか」
「希望は捨ててませんよ。それに、俺達だけじゃ無理な事でも、この子達も手伝ってくれるなら……色々と出来る事も広がると思いますし」
俺の言葉に、チェチェノさんは動かなかったが、やがて何かに安堵したかのように目を細めた。
「そうですか……。ワシの子供達の力でよければ、遠慮なく使ってやって下され。この子らも貴方達にならば喜んで手を貸すでしょう」
どこか嬉しそうな声は、どういう気持ちから来るものなのだろう。
訊いてみたい気もしたけど、それを問うのはヤボかと思って俺はただ頷いた。
なんにせよ、これでまた脱出できる可能性が一つ増えた訳だ。
「あ、それと……ちょっと聞きたい事が有るんですけど、チェチェノさんは草や蔓を生やせるんですよね。って事は、植物の事は詳しいんですか?」
「詳しいかは判らんが……まあ、外のモンスター程度には解っているつもりだ」
「じゃあ……俺達二人の体重を充分に支えられる植物とか知りませんか? 出来れば、この洞窟の周辺に生えてそうな物が良いんですけど……」
「それを知ってどうするおつもりで?」
「この子達の誰かに、種か……もしくは苗を持って来て貰うんです。そうすれば、俺の曜術で成長させられる。これなら、俺達でも簡単に脱出できます。それに……木はやがて枯れてしまうけど、その前にしっかりした足掛りを作っておけば、この子達全員いつでも外に出られますし」
さっき考え付いた事だけど、これって結構いいセン行ってるんじゃないか。
俺達が脱出するだけではなく、未来の生贄とピクシーマシルムちゃん達まで救う俺特製の特別プランだ。
この洞窟の感じでは木は栄養が取れなくて枯れてしまうだろうけど、それには猶予が有る。その間に彼らがどうにかして足場を作る事が出来れば、彼らも順番を気にせず自由に外に出られるし、もし再び冒険者達がここに迷い込んでも、狂う事なく脱出できるかもしれない。
そんな俺の考えにチェチェノさんは目を丸くしていたが、やがてその黒光りする目をきらきらと潤ませて、髭を大いに動かし始めた。
「う、うう……ツカサさんはなんとお優しい……」
「ムゥ~~~」
「ムム~~~」
そう言うなり、チェチェノさんとピクシーマシルム達は次々に涙を零しだす。
ま、まって。この程度で感動って逆に申し訳ない。つーか大体おれの提案って、ほとんどピクシーちゃん達にやって貰うもんで、俺達あんまり動かないし! 逆に申し訳ない!
思いつきで言ったのにごめんなさい本当ごめんなさいぃ……。
「と、とにかく、ピクシーマシルム達には大変な事を頼んでると思うけど、どうかよろしくお願いします。旅人達やチェチェノさん達の為にもなるかもしれないし」
「分かった、ワシらに出来る事ならなんでもやろう。お前達もそれで良いな」
チェチェノさんがそう言うと、ピクシーマシルム達は嬉しそうに跳ねた。
良かった、みんな俺達に協力してくれるようだ。人懐っこすぎて心配になるけど、でもそこが彼らの良い所なんだよな。
……よし、俺も頑張って彼らの信頼に応えよう。
まずはチェチェノさんに植物の事を聞かねば!
しかし早速質問をしようとした俺に、チェチェノさんは質問を投げかけて来た。
「ところでツカサさん」
「なんですか?」
「どうして君はそこまで脱出しようと思うのかね」
どうして……。どうしてって、そんなの決まってるじゃないか。
俺は思わず虚を突かれてしまったが、笑って答えた。
「だって、俺達の居場所はここじゃないから」
チェチェノさんがどういう意図でその質問をしたのか判らなかったが、俺の答えに深く頷く相手を見て、間違った答えでは無かったのだなと感じた。
何だかよく解らないけど、納得して貰えたのなら良し。
さあ、外に出た時の事も考えて、これから作戦を練らなきゃな!
→
※ブラックほとんど喋って無くてワロタ アンド すみません…(^p^)<アァアァァ
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