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北アルテス街道、怪奇色欲大混乱編
23.抜け出すために必要なのは1
しおりを挟む※なにも話が進んでないパートですみません…説明ががg└(^o^;└ )┘
チェチェノさんとある程度話した後、俺達は脱出の為の作戦を練るべく、まずは崖があると言う方の通路を探索する事にした。
この洞窟には危険な場所や襲ってくるモンスターは存在しないとのことで、俺もブラックも周囲を気にせず歩いているが、それにしてもこの洞窟の構造は軽く眩暈を起こすほどの鬼畜さだった。
「はぁ……彼の言う通り、本当に逃げ場がないんだねぇ……」
遥か上の天井を見上げながら、ブラックが呆れたように呟く。
洞窟の天井にはちらちらと外の明かりが差し込んでいて、外の世界が今は朝だと言う事を教えてくれている。その光の出所は、恐らく「オタケ様の聖域」だろう。
どうやらこの崖は出口のすぐ近くにあるらしい。
……って事は、ここから這い上がれば外へ出られるな。
だが、その道のりはチェチェノさんが言ったように絶望的な程の難易度だった。
「外へ通じる崖の高さは……大体、五階建ての建物くらいかな」
「しかも崖の壁は水が染み出てるせいで滑りまくって登りにくい……この洞窟の中の植物は脆いし、僕達には装備がなく曜術も使えないわけで」
「まさに絶体絶命ってカンジだな」
ここには炎の曜気も金の曜気も無い。仮に土の曜気を使えても、土壁が水に濡れていては力が発揮されず、水の曜術も人を乗せて噴水のように射出できる程の水量は確保出来ない。勿論、こんな場所に緑なんて無いので木の曜術もダメだ。
洞窟の壁は固く削れない事から、道具が有ったとしても登れないだろう。
すぐ近くに外の世界が有るのに、どうしたって上には登れない。
確かに、普通の人間なら絶望しかねない場所だよなあ。
「僕達は二人だったし、何よりツカサ君が冷静だったから脱出の手掛かりを探せるけど……これを一人で見た時の事を考えたら、ゾっとしないね」
「まぁな……俺だって、この力が有っても一人じゃどうにも出来なかっただろうしなあ……。それに、一人の時に死体キノコの事を話されてたら……その……正気でいる自信はなかったかもだし……」
最後の声はボソボソとした小声になってしまったが、許してほしい。
俺の情けない弱点がバレていようが、認めるのは恥ずかしい物なんだ。
ブラックはそんな俺の悔しさに構わず、あっはっはと笑いやがる。
「ツカサ君は本当に可愛いなあ~」
「煩いバカ!! お前が異常なんだっ、恐怖は人間としての本能なんだ!!」
「言ってる意味が良く解らないけど、でも、ツカサ君のお蔭ですっごく和むよもぉ~ツカサ君たら癒し系なんだからっ」
「だーっ!! ちょっ、抱き着くなってばもう!!」
今はそう言う場合じゃないってのに、本当にこいつ所構わず抱き着くなあ!
探索ぐらいは真面目にやって欲しいもんだが、もう緊張感が切れたのかそれとも飽きたのか、ブラックはぐだぐだしやがって話にならない。
一応脱出できる手がかりは幾つかあるってのに、本当コイツ興味が無くなった事には1ミリも真面目に取り合わないんだから困る。あと離れないから困る。
つまらんからと俺に懐くのはやめろ中年。
「しかしさあ、ツカサ君。あの村の連中……とんでもない悪党だね」
「うーん……正直信じたくはなかったけど……こうもチェチェノさんから話を聞かされると……なんていうか……」
「まだそんな事言ってるの。彼の話を聞いたら、どう考えてもあいつらが悪党だって解るじゃないか。それでもあいつらを擁護するってのはどうかと思うけどね」
「いや、俺も否定する気はないけどさ、なんて言うか……そんな村だったなんてって言うショック……えーと……衝撃的な気持ちっていうか、なんかこう気持ちがずーんとするっていうか……」
とにかく、俺としてはかなりショックだったんだよなあ……。
そう思いつつ、俺はついさっきまで聴いていたチェチェノさんの話を思い出して、暗澹たる気持ちになった。
チェチェノさんと話した事で、脱出できる可能性があるかも知れないと思った俺は、相手からもっと情報を引き出せないかとあれから色々と質問をしていた。
そのお蔭で今回の件の真相が判り、俺はブレア村に来てからずっとモヤモヤしていた疑念をやっと晴らす事が出来たのだが……それ以上にモヤモヤする事が判ってしまって、そのせいで気分が沈んでいるのである。
そのモヤモヤは何かと言うと、チェチェノさんの村人に対する感情だ。
感情と言っても、俺達が抱いているような悪感情ではない。
むしろ彼は、いっそ呆れるほど純粋に村人達を善人だと信じていた。
その純粋な信頼が、俺にはどうにも納得が行かなかったのだ。
旅人達が「村の連中に騙されてここに放り込まれた」と言っても、村長が彼の粉と体液を乞いに来るだけでも、彼は旅人達の話を何かの間違いだと信じて、村人達を恩人としてずっと慕っている。
それは今も全く変わっていない。
……ピクシーマシルムは、自分を助けた人をどこまでも信じるのだという。
受けた恩は必ず忘れないという、義理堅い性格でもあるのだと言う。
そんなモンスターから進化したチェチェノさんも、その性質を忠実に受け継いでしまっているのだろう。だから、最初に助けてくれたブレア村の人達を、無条件に信じてしまっているのだ。
でも、それを責めてはいけない。
彼の純粋さは、モンスターとしての性質故なのだから。
だけど、これはちょっとお人好し過ぎはしませんかね……。
だーってチェチェノさん騙されてるやん! これ詐欺やんけ!
「完全にチェチェノさん搾取されてるよね……でも、信じてるんだよね……」
「ツカサ君並のお人好しだね」
「俺でも流石にあそこまでは騙されない……と思いたいけど……」
自信がないのが怖い所。
もし俺がその立場に置かれたらどうなるかなんて判らないもんな。
でもさ、流石に彼が騙されてるってのは分かるよ。
チェチェノさんにはこの洞窟に棲み始めた時のことから話して貰ったけど、どう聞いてもブレア村の人達が諸悪の根源としか思えない。助けて貰ったとは言っても、彼らは洞窟で行き倒れていたチェチェノさんを介抱しただけだし、この洞窟から連れ出そうともしなかった。
いくら好意的な視点からの話をされても、第三者の俺達はどうしてもその部分に引っかかって、良い話には思えなくなっていた。
その上、彼の話と俺達の見て来た事を総合して考えると……余計に胸糞悪い事実が分かる訳だし。
――村人達は、まだ成体になりきる前のチェチェノさんを介抱した。その時に、彼がタケリタケを食べると「媚薬の粉」を出せる事を知った。……そう、この村の特産品は、チェチェノさんから造られていたのだ。それを金儲けに使っているのに、彼にはその事を隠してたまーにここに来ては媚薬の粉をクレクレするだけで、食料くらいしか提供していないのだ。
そして、彼を死なせないために旅人達をこの絶望の洞窟へ放り込んでいる。
何も知らない旅人を騙して生贄にする事と言い、チェチェノさんには「この辺は旅人が迷うので、よく穴に落ちてここに来る」とか嘘をついてる事と言い、なんかもう卑劣過ぎるだろ。
あーちくしょ、なんであんな人達信用してたんだろう。悔しい。
今まで出会った人達は良い人ばっかだったから、他人を信用しすぎてたよ。
俺だって……日本に居た頃は、そう簡単に人を信用してなかったはずなのに。
女子が俺を呼び出して「好きです!」って言ったのも、どーせ罰ゲームだろうと思う程度には危機管理能力が有ったのに!
「ぐおおお俺の純情を弄ぶ女子ども並に許せねぇええええ」
「ご、ご立腹だねツカサ君」
「俺こういうの嫌いなの!! あーだこーだ言いたくないけど、ほんと無理!! 脱出できたとしても、村の連中には腹が立ってしかたねーよ! ちくしょー、洞窟から出たら覚えてやがれっ、ぜってー通報してやる!!」
「あ、そこ『ぶっ殺してやる』とかじゃないんだ」
「そんな事出来る性格だったらお前に素直に掘られてねーよ」
悲しいけど俺、どこまで行っても根が小市民なのよね。
っていうか、暴れる覚悟決めたとしてもやっぱ人間相手に大暴れは無理だわ。
モンスター相手の戦闘だって、慣れるまで結構時間かかったってのに。
まあそれはそれとして、現状色々な事が判った今、取るべき行動は一つである。
この洞窟から脱出し、故意に冒険者を見殺しにした村人達を捕まえる……までは行かなくても、どうにかしてこの村の現状を伝えて被害を失くさねば。
チェチェノさんをこの洞窟から脱出させられれば一番良いんだろうが、彼に村人の残忍な行為を話したとしても、信じて貰えるかどうかは分からない。
相手を信頼するのは大事な事だけど、それは時に盲目を生む。
必殺仕置人なんて無茶が出来ない以上、チェチェノさんには知られないようにして、出来る範囲で被害を抑えなきゃな。
「とにかく、ここから脱出するにはやっぱし崖を登らないとな。今の俺に使える術があるとしたら……やっぱ木の曜術しかないか……」
崖を見上げながら顎を擦る俺を、ブラックが心配そうに覗きこむ。
「上まで蔓を伸ばしたり、木を伸ばしたりするのかい?」
「うん……でも……正直あんまり自信がない。曜術ってさ、想像力の世界だろ? 俺達二人の体重をかけられる植物ってのが、しっかり想像出来ないんだよな……。今回は種から成長させるんじゃなくて、完全に自分の想像力で木を創る訳だから、こんな場所じゃ練習するにも危ないし……だから、出来ればチェチェノさんの力を借りられればと思ってるんだけど」
相手を拘束する力とか、自分の体重を引っ張ってくれる力っていうイメージとかは凄く簡単なんだけど、支える力って言うのは案外イメージしにくい。
俺自身の体重分ならまだしも、ブラックの体重なんて俺には想像できないしな。
うっかり「創り方」を間違えてオッサンを怪我させたら後々面倒だ。
今は、下手に怪我しても回復薬が作れない。こういう事は慎重に行わねば。
だから、出来れば彼の協力が欲しいのだが、ブラックは俺が何を期待しているのか解っていないようで、大いに首を傾げる。
「でも、彼はあの場所から動けないんだろう? 草木を生やす能力があるみたいだけど、それだって自分の周囲くらいだろうし……」
「チェチェノさんに手伝って貰う訳じゃないよ。子供達に協力して貰うんだ」
「子供達……そう言えばそんな事言ってたね。だけど、姿が見えないじゃないか」
確かに、俺達はチェチェノさん以外の生き物を見た事がない。
けれども、俺には彼らが存在しているという確信が持てていた。
なんたって、俺は数日前に村の使用人がキノコを放り投げるのを見てるからな。
タケリタケ以外のキノコを食べるのは彼の子供達だけだ。って事は、今はどこかに隠れているだけで、彼らは確実にこの場所に居るだろう。
その予測を話すと、ブラックは「本当に居るのかなあ」という顔をしながらも、とりあえずは納得したようだった。そうと決まれば話は早い。
早速チェチェノさんに子供達の話を聞くべく踵を返そうとした――その時。
「ム~~~~ッ」
「え?」
形容しがたい鳴き声が崖の上から聞こえて、俺達は思わず上を見た。
光が差し込むその天井に、なにやら影が掛かる。誰か来たのかと思わず身構えたが、その影は一目散にこちらに向かって来て、唐突に崖から身を投げ出した。
「うおおおおっ!?」
身投げ!? 身投げなの!?
えっ、えっ、どうしようどう受け止めたらいい!? 俺骨折しない!?
落下物に慌てながら俺は腕を広げるが、どうもその物体は人間ではないようで。
「ムーーッ」
「うわっ!」
広げた俺の腕に突っ込んできたナニカを、俺はがっちりキャッチして思いっきり尻餅をつく。思っていたよりもかなり軽い衝撃に目を白黒させていると、腕の中の物体はもぞもぞと動き、俺に顔を見せてくれた。
「あ……お前……」
「ツカサ君、このモンスターって……」
そう。崖の上から落ちて来たその柔らかくてぬいぐるみのような物体は……
まさしく、ピクシーマシルムだった。
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