異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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シーレアン街道、旅の恥はかき捨てて編

9.砦に入るその前に

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 ※すみません長さの都合上ただの準備回になってしまいました…(;´Д`)
  次回はしっかりファッシュザイネンに入ります!




 
 
 
 なんか、妙だ。

 朝起きて一番にそう感じたが、残念ながらその感覚は朝食を食べても村を出発しても全然消えなかった。
 何故かと言うと……本当に、なんか変だからだ。
 なにが変かっていうと……。

「……あの……アンタら、そんなに仲良かったっけ……?」

 ぎこちなく目をやる場所には、ブラック。
 そして、ブラックと何やらコソコソと話こんでいるクロウがいる。
 ……そう、この二人だ。この二人の挙動が、なんだか変なのである。

「え? あ、あははやだなーツカサ君、仲間とは仲良くするのが当然じゃないかー。まあ相手は駄熊だけど」
「そうだぞツカサ、こいつは変態でも仲間だからな」
「なんだとコラ耳引き千切るぞ」
「ほう。ならオレは顎ごと髭を剃ぎ落としてスッキリさせてやろう」
「だーもーやめーって」

 喧嘩はうんざりだと間に入ると、二人は俺を見てだらしなく笑い喧嘩を止める。
 そう。こういう所もおかしいのだ。
 前までは俺が止めたってずっといがみ合ってたのに、二人して同じようなキモい笑い方して素直に身を引くなんて……。

 いや仲良くなったのは良い事だよ? ブラックは昨日の事でやっと機嫌を直してくれたのか、朝目覚めた時には俺にめっちゃ謝って優しくしてくれたし、クロウもそんなブラックを見て何か頷いてたし……。
 でもさ、変なんだよなあ。

 なんであの日からこいつら仲良くなったんだろう。
 また失神してる間に何か有ったのかな。いろいろ話し合って、結果的にマブダチにでもなったのか? 
 つーか、そういう話の時に限って俺だけ蚊帳かやそとってなんかズルくない?

 そりゃあ二人の喧嘩も十分の一くらいに減ったし、ロサードもそんな二人と気が合うのか和気藹々わきあいあいとしてるのは良い事だけどさ。
 でも、なんか納得いかないっていうか……どういう話をしたかくらいは、教えてくれてもいいのに。
 なのにこの中年達ときたら、その話になるとすぐに逃げるんだよなあ。

 別に……のけ者にされて寂しいとかって言う女々しい感情とかないけどさ。
 そんでもやっぱ仲間なんだし、あからさまに隠されるとなんかムカツク……。

「お前ら、本当に俺に隠してる事ないんだよな?」

 左右に分かれたオッサン二人を交互に見上げると、二人はそれぞれ否定する。
 が、まあ、隠し事してないなんて嘘っぱちな事はお見通しだ。
 そうまで隠すってのは俺に話しちゃ相当まずい話をしたのだろう。

 何を隠しているのか物凄く気になりはしたけど……二人が仲良くなったんなら、そこに水を差す事も無い。喧嘩が減ったのは良い事なんだしな。
 モヤモヤするが、俺は大人だ。二人の仲を祝福して黙っておこうじゃないか。

 じゃあ気を取り直して、旅を続けよう。

「ロサード、ファッシュザイネンまであとどのくらいっすか?」
「はいはいっと……えー……明後日くらいには見えて来ると思うぜ。湿布の在庫もそこまではちゃんとあるから安心しなよ」
「は、ハハハ……」

 そういや……クロウにもロサードにも俺達がナニをして来たかってのはもうバレてるんだよな……。
 ロサードには詳しく話してないけど、相手も風呂場での事は理解しているはずだ。起きてすぐに「湿布くれ」ってのはどう考えてもそういう事だしな……。
 幸い、食堂での事は気付かれていないみたいだけど、それにしたって本当恥ずかしい。あぁああ本当にもう何でこういうのって隠せないかなぁあああ!

「どうしたツカサ」
「な、何でもない……えっと、湿布はー……」
「一枚百五十ケルブだ。ツカサは恩人だから、安く値引いてやるぜ」

 とは言え、下がるのは五十ケルブだけだし、百ケルブも湿布の値段にしてはちょっとお高めなんですけどねー!!
 けどこのベランデルンでは薬草を採取するのが難しいので、多少高くても文句は言えない。つーか腰の痛みを考えると、歩くためには絶対に湿布が必要な訳で。

 本当商人ってのは商売上手だなあと思いながら、俺は世の中の厳しさに打ちのめされつつ青い旅の空を見上げたのだった。



   ◆



「おっと、ついに見えたぞ! あれがベランデルン公国とオーデル皇国の国境の砦……ファッシュザイネンだ!」

 どっちも読み方が「こうこく」ってややこしいなと思いながら、俺もロサードに追いついて道の先を見やる。

 少し小高い丘を登って、後は下り坂の真っ直ぐな一本道。
 その道は徐々に視界の内側へと延び、他の街道と合流していく。そしてその道は一本の大きな街道となって――――その道の終わりに、山間に築かれた巨大な青の要塞が道を飲み込むように立ちはだかっていた。

「うわぁ……久しぶりにみるけど、やっぱ国境の砦ってデカい……」

 今まで三つの砦を見て来たし、そのどれもがそれぞれ大きな建物で驚いたものだが、このファッシュザイネンは他のどの砦よりも巨大でいかめしかった。
 まるで、世界の行き止まりだとでもいうように視界の端から端まで広がる岩塊の山の間を、一刀両断して嵌め込んだような砦。

 みがかれた青の壁はまるで俺の世界の高層ビルのように鈍く光っていて、砦としての機能が見えなければこの世界の建物とはまず思えない。
 周囲の風景が薄らと映るほどの綺麗な壁なんて、この世界では見た事も無い。
 まるっきりオーパーツだった。

「あの砦は……古い物なのか?」

 ブラックなら詳細を知っているだろうかと後ろを振り返ると、相手は難しい顔をして腕を組んだ。

「うーん……古いと言えば、古い……かな。ファッシュザイネン自体はもう数百年前に出来た砦だけど、あの壁はオーデル側が補修して新しくしたんだ。前にココに来た時にはもうあのツルツルな壁だったけど、元々は他の砦と同じく岩を積み重ねて作った頑強な砦だったって話だよ」
「はぁー……ってことは、本当オーデル皇国ってすげー技術を持ってんだな……」

 岩壁をあんな素材で補修するなんて、どう考えてもロストテクノロジーだよ。
 やっぱ悪の帝国とか凄い未来都市って感じがするなぁ。時々物語で凄く発展した北国とかが出てきたりするけど、ああいうのって例外なく法律がガチガチに厳しくて主人公が投獄されちゃったりするんだよな……。

 どうしよう、ロサードは砦で別れるからともかく、俺のパーティーにはやらかしそうな奴しかいねーんですけど……これ大丈夫かな。
 中に入るのが少し怖い気もしたが、行かなきゃしゃーない。

 湿布を絶えず貼っていたお蔭で俺の腰もだいぶ楽になったし、ブラックとクロウは本当に仲良くなったみたいで今のところ酷い喧嘩はしてないので、何とか大丈夫だろう。よし、気合を入れて行こう。

 俺達はハッキリ見えたゴールに気合を入れ直し、砦へと向かった。

 ――――砦までは、数時間程度。
 その間、オーデル皇国について何も知らない俺とクロウは、ファッシュザイネンの事を含めてブラックとロサードから改めて説明して貰った。

 ファッシュザイネンは他の砦とは違い砦全体が一つの館になっており、出国門と入国門という二か所の門があるという事や、オーデル皇国自体が犯罪の取り締まりに関しては各国の中で一番厳しく、砦でのポイ捨てすら罪になると言う事。
 そして……。


 オーデル皇国は異様に「黒髪」を忌避しており……――
 黒い髪を、絶対に見られてはいけないと言う事を。


「…………あの、じゃあ俺どうすりゃいいの」

 黒髪はヤバいってアンタ、このままじゃ砦に入れないじゃん。
 どーすんのあと数分で着くのに。
 思わず大通りで立ち止まった俺に、ロサードが満面の笑みで両手を開いた。

「安心しなよツカサくぅん、そんな事も有ろうかと俺が良い物を仕入れて来たからさァ~。ぱぱらぱっぱぱ~! ハァイ、大きな帽子~っ」
「なんでド○えもんなの」
「え? ドザエモン? 水死体?」
「ドザエモンってなんだ」

 色々突っ込みたい所があるけど、処理しきれないから中年二人は無視しよう。
 とりあえず口調の事も不問に付すとして、俺はロサードから頭がすっぽり隠れてしまうでっかい帽子を受け取った。

 形としては……アレだな、頭を入れる部分が異様にでっかいキャスケット帽って感じかな。それこそ、漫画の探偵助手っぽい少年キャラがつけてるような、茶色い大きな帽子だ。確かにこのくらいの大きさなら黒髪も隠せるし、何よりインパクトがあって帽子の方に目が行くだろう。
 俺の服との相性もそんなに悪くは無い。

 オーデル皇国がそんな国なら早く言っておいてくれと言いたかったが、まあ……俺を緊張させたくなかったのかも知れないし、それは言わないでおこう。
 とりあえずお礼を言おうかとロサードを見上げると。

「はぁい、五百ケルブ!」

 にっこりと美青年スマイルを披露されて、手を差し出された。

「…………金取るの」
「当たり前じゃん。商機しょうきあれば商いを行う、それが商人だ」

 そうですね、ロサードは商人だもんね……。
 むしろ金で物事を解決する分、正直者で良いかもね……。
 でも、こんな気遣いをしてくれるのなら最初から俺に「あの国は黒髪NGです」って言っておいて欲しかったよ。

 そう思いながらお金を出そうとすると、横からブラックが俺の手を押さえた。

「僕が払うよ」
「えっ、だってこれは俺の装備だし……」

 黒髪がダメって事ならこれからも迷惑をかけるかもしれないんだから、他の奴に支払わせるわけには行かないと首を振ったのだが、ブラックはいつものだらしない笑顔でニッコリと笑って俺に耳打ちをした。

「だって、ツカサ君には村で酷い事しちゃったし……湿布代もかさんでるでしょ? だから、ここは僕に払わせてよ。それくらいは恋人として当然だと思うしさ」
「うっ…………ま、まあ……そういう、ことなら……」

 本当は奢らせるのって男としてはあんまりやりたくないけど、そう言われてしまっては俺も拒否できない。なにせ、湿布代が痛いってのは本当だしな。
 それに反省してるって態度を示してくれるのは、正直嬉しい。
 今まで不機嫌なブラックばっかりだったから、いつも通りのノリで俺に接してくれるってのが何か妙に安心するし……。

 まあ、たまには……いいかな。

「じゃあ……頼む」
「うん。ツカサ君の服にぴったりの帽子なんだ、絶対に似合うよ」

 ウキウキしつつそう言いながら帽子を金と交換するブラック。
 その言葉に何か引っかかる物を感じたが……俺にはそれを見極められなかった。









 
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