異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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シーレアン街道、旅の恥はかき捨てて編

12.防寒具を買おう

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「…………なんか……へん……」

 おいおいヤバいぞ、この発言デジャブだぞ。
 俺だって言いたかないが、でも言わずにはいられないんだから仕方がない。
 だって、変なんだもの。なんか変なんだもの!

 俺はさっきまでブラックと宿に帰ろうとしていて、その途中で眠くなってしまい、不覚にもブラックに肩を抱かれながら歩いていたんだぞ。
 それが気が付くとベッドの上で、しかも一日経過してたってのはどういう事だ。
 おかしいだろ、俺ってばなんでデートした後から丸一日眠ってたの。

 だけど変な事はそれだけじゃないぞ。もっとあるんだ。
 そもそも、目が覚めて一番変だと思ったのは……あいつらの態度だし。

「なんでアンタら、そんなツヤッツヤなの……?」

 ベッドの上で見やる大人二人は、明らかに寝る前と違っている。
 特にクロウは浅黒いお肌もツヤッツヤだし、心なしか無表情な顔にも生気が満ち満ちている。ブラックはブラックで何か吹っ切れたようで、俺が起きるなりすぐにいつもの調子で「ツカサ君んんん」とか言いながら抱き着いてきた。

 一言で言えば、ウザい。

 あのオットナ~なデートとかなんだったんでしょうね。
 なんでコイツはその大人な態度が持続しないんでしょうね……そんなんだから俺だって寄りかかりきれな……って何言ってんだ。
 訂正。とにかく、ツッコミを入れずにはいられないのに。

 いいからツヤツヤな理由を言え、と抱き着こうとして来るブラックを手でいなしながら問うと、二人は解りやすく俺から目を逸らし空を眺めた。

「えーっと…………ツカサ君の寝顔がとても可愛かったから、スマ……」
「は?」
「いや、その間ゆっくり休んでただけだよー。ほら、お風呂に入ったから良い匂いするでしょ、ね。ね!」
「えええすげー中年の臭いしかしないんだけど……」

 確かに髪の毛はツヤッツヤになってるし風呂には入ったんだろうけど、その程度でこんな「気力充実してます」みたいな顔をするか?
 と、比較的正直に話してくれそうなクロウをみやると。

「ごちそうさまでした」

 俺に、綺麗に両手を合わせてお辞儀じぎをしてくれた。

 うん。
 ……うん?

 なに。ご馳走さまってなに?
 ま、まさか……。

「お、お前らさては俺が寝てるのを良い事に!?」

 慌てて布団をまくり上げて自分の状態をかえりみるが……不思議な事に、体にはどこにも違和感がなかった。腰も痛くないし、お尻も全然健康だ。
 あ、あれ……。睡眠姦とかされてたんじゃなかったのか。

「疑惑、晴れた?」
「う、うん……でもクロウはなんでゴチソウサマって言ったんだよ」
「えっ。ああ、そ、それはほら、ツカサ君の分のご飯食べたからだよ……多分」
「左様でござる」

 なんで武士口調。
 いや、まあいい。犯されて無きゃもうなんでもいい。
 目覚めもスッキリしてるしこの件は無かった事にしよう。そう思いながらベッドから降りようとすると、ブラックが胡乱うろんな目で俺を見つめて来た。

「ツカサ君、何か僕達に言う事ない?」

 なんでしたっけ。
 いや、解ってます解ってます。ぶっちゃけ言いたくないが、この場合俺が勘違いしたのが悪いんだから仕方ない。

「疑ってごめんなさい」
「悪いと思うならセッ」
「お前はそうだよなあいつもそうだよなあ!」

 ふざけるのもいい加減にしろと顔に容赦なくパンチを食らわせ、俺は三十六計逃げるにかずでベッドから降りた。

「ツカサ、もう出発するのか」

 顔からベッドに沈んだブラックから距離を取りつつ身支度をしようと思っていた所に、クロウからの質問が飛んでくる。
 そういや丸一日寝てて何もしてなかったな。っていうかハラ減った……。
 あと何故か良く解らないけど、物凄く心が疲れている気がする。なにか甘い物が食べたい。買ったお菓子は旅に出るまで我慢するので他の物を。

「うーん……とりあえず飯食って、防寒具買いに行くか」

 そう言うと、ブラックは勢いよく起き上がって俺の方を向いた。

「防寒具!! そっ、そうだね! 買いに行こうねツカサ君!!」
「……ツカサ、あの変態の元気っぷりはなんだ」
「えーと…………とある事を約束してまして…………」

 ある事ってなんぞやとクロウは首を傾げたが、起き抜けの頭ではどうにも上手く説明できない気がして、俺は答えられなかった。
 だ、だってその……ブラックが俺に好みの服を着せたいとか……どう言えばいいんだよ。なんか凄く恥ずかしいし、その後どうしたらいいのか解んないし……。

「ツカサ、顔が赤くなってるぞ」
「う、うるさい!」

 もう早く飯食って用意しちまおう。
 身支度を整えてさっさと部屋から出ようとする俺に、クロウとブラックは何だか妙な目を向けていたような気がしたが、気のせいだと思って無視をしておいた。
 もーかまったら構うだけ変な事言って来るから、俺は無視するぞ無視。

 それからはもう手早く飯を食って、早く装備を揃えようって事で俺達は再び一階のお土産物コーナーみたいな町に繰り出した。
 丸一日寝ていたからか凄く腹が減ってて、食事の味も解らないくらいに色々食べてしまったが、他の街に着いたら今度はきちんと味わって食べたい……。

 まあそれはそれとして、今回は装備だ。
 これから寒い地域に行くんだから、それ用に装備も整えないとな。山を舐めると死ぬと言うが、雪も舐めると死ぬと聞いたのでがっちり準備しておきたい。

 俺達は事前に場所を確認しておいた防具屋へと向かい、冒険者用の防寒具があるコーナーへと訪れた。

「なんかこの辺りだけモコモコしてるな」

 クロウが言うのもごもっとも。
 「こちらが冒険者用の防寒具になります」と店員の人に案内して貰ったコーナーには、イヌイットの人達が着るような豪雪地帯用のモフモフコートだとか、ヒツジかと思うような綿毛に塗れた上着などがどっさり置いてあったのだから。

「こちらは、ゴッサムの綿毛と豪雪山羊の毛皮を合わせた軽量コートです。見た目は重苦しいように見えますが、ゴッサムの綿毛で裏地を作っておりますので、重さ的には革製の上着より少し重い程度ですよ」

 そう言いながら真っ白な毛皮のコートを差し出す店員さん。
 触らせて貰った豪雪山羊のコートは、しっとりした毛皮で毛がみっしりと詰まっている。これは確かに暖かそうだ。
 しかしブラックはちょっと不満げに首を傾げる。

「んー……もう少し可愛いのはないかな? 多少高くてもいいんだけど」

 そう言いつつ俺の肩にポンと手をやる。
 ブラックのその仕草に店員さんも何が欲しいのか気付いたのか、「ははぁ」と声を漏らしてコートが鈴なりに掛かった場所から一着の服を取り出した。

「では、こちらはいかがでしょう? コダマウサギの統領種の特徴である深紅色の毛色をふんだんに使い、袖口には白毛、更にギガントオークの牙を使った留め具で耐久性もある逸品です。こちらでしたら、男女問わず可愛らしい方にはお似合いになるかと存じます」
「え゛っ、あ、赤っすか」

 いや、別に赤が女の子の色って訳じゃないけど、俺はちょっと着る機会がなくてあんまりイメージになかったな……。
 結構凄い感じのコートだけど、ちょーっと女子っぽいのでは……。

 しかし、ブラックはそのコートに興味を示したようで根掘り葉掘り聞いて来る。

「これ、なにか付加効果はあるの?」
「この国のモンスターであり、高地に棲むコダマウサギの毛皮ですから、防寒性は他のどのコートよりも優れています。付加効果としては……そうですね、このかぶせの所を頭にかぶって頂きますと……頭頂にコダマウサギの耳が出ます」
「えっ」
「彼らに襲われた時にこの耳は活躍しますよ。それに、猛吹雪の時でも周囲の音が聞こえるようになります。後方支援の曜術師の方なら、特に有用かと」
「耳! ツカサに兎耳が生えるのか!」
「ちょっ待てクロウ帽子だ! 帽子だから! 俺には生えないから!!」

 獣耳と聞いて身を乗り出して興奮するクロウを必死にドードーしながら抑えるが、その間にもう一人の変態のオッサンが話を進めてしまっていた。

「これいいね! 貰うよ!」
「ありがとうございます、千五百ケルブになります!」
「ああああ決めたしわりと高価ぁあああ!!」

 そんなもんおごられたら滅茶苦茶着るの躊躇ためらうし、そもそも兎耳とか嫌なんですけどぉおおお!! って払ってるし! 明朗会計即日現金払いしてるんすけど!!
 まって、それ俺に向けないで、渡そうとしないでえええ。

「あとはミトンとブーツがあれば完璧だね!」
「ダネ! じゃねーよ変態!! これ女の子用だろなんで俺が着るんだよ!!」
「女の子用じゃないよ、男女兼用って言ってたし大丈夫だってば。ツカサ君が装備したらきっとめちゃくちゃ可愛いよ……!! ね……!」
「そうだぞツカサ、きっと可愛い。絶対に可愛い。オレもツカサの兎耳が見たい」
「う、うぅうううう……っ」

 多数決反対、反対ぃい……っ。
 こういう時に大人の圧力使ってくるのって卑怯だと思います……!
 でも俺がさした反論理由を持っていない事もあって、結局押し切られる形で俺はウサミミの赤いコートを持たされてしまったのだった。
 あぁ……手袋もブーツもなんかファンシーな感じの選ばれちゃってまあ……。

 い、いや、まあいい。人に見られない場所で着ればいいんだ。
 冒険者は武器以外の装備品にこだわる必要なんてない。着られればいいんだ。
 ちくっしょう、モノは良いから「コスプレなんて嫌だ」と拒めないのが辛い。
 やっぱりブラックに選ばせるんじゃ無かった……。

 こうなるともうブラックとクロウにもとんでもないコートを着せてやろうかと思ったが、そんなコートを着せたら俺が視覚の暴力で死にたくなると思ったので、涙を呑んで二人の防寒具は目に優しい物を選ぶ事にした。

 こちらは、俺が選ぶ。
 というか選ばないと二人が適当なものばかり選ぶので、俺がちゃんとしたモノをあてがってやるしかなかったのだ。
 自分の服装はどうでも良いとか、本当コイツら美形なのに勿体なさすぎ……。

 そんな訳で、俺が店員さんと選んだ防寒具は次のようになった。

 クロウは大柄で筋肉が有り、尚且つ拳闘士なので、薄手だが肌にぴったりと付き体の動きを邪魔しない、ティタンセンティコアの黒革を使用したコートにして、ブーツはスパイクのようなものが付いた足場を気にせず動けるもの、手袋は勿論手にしっかりと馴染む五本指のものを選んだ。
 なんか暗殺者っていうか、どっかの黒いコートのエージェントみたいな感じになってしまったが……まあ、仕方ない。格好良くて機能性があればいい。

 対してブラックは、元々あのファンタジーなマントを持っていたのでコート自体は必要なかったのだが、しかしそれでもマントの中は寒かろうということで膝下まである長さのピーコートっぽい紺色の薄手のコートを選んだ。
 染められてはいるが、こちらもブリザードウルフの毛皮を使ったかなり防寒性の高い物だという。それに、氷についての耐性もあるんだとか。
 俺のダッフルコートみたいな奴とは偉い違う。やっぱ大人だ……悔しい……。
 ブラックも手袋は五本指の機能性がある物で、ブーツは素早く動く為というより長時間の歩行に耐えられる少し厚めのものを選んでおいた。靴に関してはブラックのリクエストだ。ブラックは魔法剣士タイプだけど、基本は曜術師だもんな。

 というわけで、俺達の防寒装備は完璧になった訳だが……。
 ちょっと待ってほしい。俺には一番選んであげたい奴が残っているのだ。
 それはというと……。

「あの……ロク……蛇用の防寒具とかもありますかね……?」
「え? 蛇?」

 驚く店員さんに何度も頷いて、俺はバッグの中でスヤスヤと寝ているロクを取り出して見せる。そう。俺はロクにも防寒具を装備させてやりたいのだ。
 だって寒いじゃん。蛇って冬眠するんだよ! 冬の国は寒いじゃん!!
 だからロクにも温かい思いをさせてやりたいんだよ!
 あわよくばロクに着せる可愛いコートなんかないかなって思ってるよ!

 ってな訳で、懇願するがごとく店員さんに聞いてみたのだが……相手の反応は、物凄く渋い物だった。どうやら蛇用の防寒具というのが思いつかなかったらしい。
 まあ、蛇を相棒にすること自体珍しいらしいもんね……。
 でもどうにかして寒さを防げないだろうかとお願いすると、店員さんはある物を持って来てくれた。

「蛇用ではないんですが……リザード種などの尻尾を保護する、靴下のようなものならありましたよ。これはいかがでしょうか?」

 そう言って出してくれたのは、毛糸で作ったかかとの部分が無いながーい靴下。
 靴下には可愛い模様が縫い込められており、様々な色がそろっていた。

 おおお……こ、これいいかも……!!

「じゃ、じゃああの、これとこれとこれ下さい」
「えっ三種類!?」

 驚くブラックとクロウに、俺はやさぐれた目でしっしと手を振った。

「バカお前可愛い子には色んな服着せてやりたいだろうが」
「ツカサ君それ僕もそうだったんだけど」
「俺とロクでは可愛さのレベルがちがーう!! ロクの可愛さに勝る者なし!!」

 そう言いながらサイフから惜しみなく金を取り出す俺に、オッサン二人は何故か脱力したように肩を落としていた。












※ツカサに薬を飲ませたのをばらすのは後々やります^^<フヘヘ
 
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