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帝都ノーヴェポーチカ、神の見捨てし理想郷編
5.身内のアレな部分を語る時の恥ずかしさは凄い
しおりを挟む※すみません、今回輪を掛けて話が進んでないっす…(;´Д`)
翌日。
ふっかふかのベッドで久しぶりに気持ちよく眠った俺達は、早速街中に出てみる事にした。
昨晩はブラックに膝枕しろだの髪を結べだのと散々甘えられて大変だったが、何故かえっちは迫ってこなかったので今日は元気溌剌だ。
別に何かを求められるのは嫌じゃないし、強引じゃ無けりゃまあ、その、昨晩の普通の甘え方は嬉しいと思わんでもないけど……ってそんな事はどうでも良い。
とにかく、空は曇りだが、今日も街は元気に湯気を吐き出していた。
ノーヴェポーチカに到着した時は、あまりにも機械的……というか、近代西洋と言うか……とにかく湯気と歯車がバリバリ使われているようなスチームパンク世界には驚いたものだったが、あくまでも街の建物は他の国と変わらない事に気付くと、なんとなく安心して見られるようになったから不思議だ。
昨日は、アレクが教えてくれた事も相まって、色々と気にしっぱなしだったけど……今は周囲を見て楽しむ余裕さえある。
なあに、ゲームによくある悪役っぽい帝国ちっくだからって、すぐに投獄される訳じゃない。歩いてみたら案外活気のあるいい街だしな、ここ!
黒髪の人間は危ないって言うが、まあ気を付けていれば大丈夫だろう。
一人では絶対に出歩かないし、危なくなったら世界協定に逃げ込めばいい。
最初からビクビクしてちゃ植物園にも闘技場にも行けないんだから、こういう時は男らしく堂々としてなきゃな。
と言うワケで、俺達はまだちょっと気分が悪そうなクロウを慮りながら、とりあえずクロウのお父さんが訪れそうな場所を当たってみる事にした。
クロウが言うには「酒場や闘技場……うん、いや、それだけじゃない。たぶん、図書館とか、何かを知るための場所にも行っていると思うんだが」との事だったが、どうもクロウの父親は息子と一緒で酒好きメシ好き喧嘩好きらしい。
闘技場は、以前ブラックに「クロスボウの練習がてら行ってみたら」と言われていたので、後日改めて行くことにして……まずは、手っ取り早い図書館や酒場に行って見る事にした。
首都の図書館は、やはり豪邸も敵わないと言うレベルの巨大な建物になっているが、しかし、それでも受付で閲覧許可を貰うという方法は何ら変わらない。
なので、ここにクロウの父親が来ているのならと思って受付の人に聞いてみたのだが……答えは否だった。
古株の受付さんにも話を聞いてみたけど、どうやらクロウの父親は図書館には訪れなかったらしい。目的は知識の吸収ではなかったようだ。
だとしたら酒でも飲むつもりだったのかな、と思ってめぼしい酒場や食堂を回ってみたのだが、これも空振りだった。クロウの姿を見ても「おや獣人さんかい、珍しいね」と普通に流すばかり。熊族の獣人を見たと言う話しは聞かなかった。
つまり……情報はゼロ。
これにはまったく参ってしまった。何せ、歩き回ってもまるで手がかりと言う物が掴めなかったのだ。こうも空振りじゃあ、さすがに疲れて来る。
小さな公園で一息入れる事にして、俺達は古めかしい木のベンチに座った。
「はぁー……まさか全部空振りとは……」
どっこいしょーとばかりに腰を下ろした俺の隣に、ブラックが座る。
「ここまで聞きまわって成果ゼロっていうのも不可解だね……ノーヴェポーチカは時々獣人がやって来ていたって言うから、獣人に対しての抵抗が少ない土地柄だけど……それにしたって、見る機会は少ないはずだ。覚えてないのは解せないね」
「たかだか数年前の話だしなあ……なんでみんな知らないんだろう? 俺みたいに帽子で耳を隠してたとか?」
深く帽子をかぶり直すと、クロウもブラックとは反対側に腰かける。相変わらず俺を挟むなあアンタらは……。
「父上は自分がディオケロス・アルクーダである事を誇りに思っていた。だから、角は隠したかも知れないが、耳を隠す事は有り得ない。獣人である事を隠す必要の無い場所なら尚更だ。……だから、見つからないとなると……」
「ああもう、しょげないしょげない」
思いっきり耳をへたれさせるクロウに、俺は元気出せよと頭を撫でる。
気持ちは解るけど、落ちこむのはまだ早いよ。行ってない所もあるしな。
でも……そこも空振りだった場合どうすりゃいいのやら。
「ブラック……他になんか良い案ない?」
三人の中で唯一街の事を知っているブラックに、縋るように顔を向ける。
すると、一瞬般若のような顔をしていた相手はすぐに顔を戻すと、腕を組んで唸った。……表情の事は気にしないでおこう。
「他に、ねぇ……後はこの街の“下民街”くらいかなぁ……でも、あそこにはコレと言って変な所はないし、行く意味も無いからなぁ……」
「酒場とかは?」
「まあ、下民専用の酒場はあると思うよ。でも、そこにお父上とやらが来る必要性ってのはあるのかなあ。この街の下民街って、他の街の貧民街とかに比べて凄く裕福だし、ごく普通の住宅街ってだけだし」
ブラックによると、この街の下民街と言うのはあくまでも「上級市民よりも能力が劣る人々が住む区域」というだけで、別に荒れた場所ではないらしい。
この街は、貴族、上級民、下級民と三つの位に分かれていて、その三つの民が皇帝が住むエリアを中心として、円形の街を分けているらしい。
分かれている形としては……中央に小さな丸が有って、そこから円形の街を四つに切ったって感じだろうか。ケーキで言えば扇形に四等分って感じかな。
門から入って正面が、俺達が今現在調べている「お客に見せても恥ずかしくない」と言う“上民街”で、その奥に皇帝の一族が暮らす場所と、政治関係の建物が並ぶ“皇帝領”がある。その二つのエリアに分断されるように、左に下民街右に貴族街が存在しているらしい。
皇帝領の隣に下民街って……とは思ったが、下民街自体が荒れた場所ではないのなら、隣にあっても別に危険ではないのか。
俺の世界だって、隔てる壁はあるけど一般人が住む場所と同じ所に位の高い人の住居が有ったりするんだもんな。下民街の人達も皇帝を信奉しているのなら、危険なんてないか。
「下民街だけにあるモノってないのかな? もしそんな場所があるなら、クロウのお父さんも物珍しいと思って見に行ったかもしれないじゃん?」
「うーん……貴族街なら解るけど、そこはシアン達が調べてるだろうしなあ。下民街で獣人が行きそうとなると……やっぱり酒場とか艶芸小屋とか?」
「つ、つやげいごや?」
なんぞその単語。
通夜ゲー小屋って、字面からして恐ろしく陰気くさそうなんですけど。
真面目に顔を歪めてブラックを見ていると、ブラックは苦笑して手を振った。
「あはは、ツカサ君また勘違いしてるでしょ。艶芸ってのは、踊りながら服を脱いだりする芸の事だよ。それで、その艶芸を見せる酒場が艶芸小屋って事」
「あー、なるほど!」
「それで解っちゃうツカサ君もどうかと思うけど……まあ、いいか」
ええい煩い、エロ魔神と呼ばれた事も有る俺をヒいた目で見るんじゃない。
ツヤゲーって艶芸って事か。なるほど、この世界ではストリップの事をそう言うんだな。って事は、クロウのお父さんはストリップショーに……。
「ってスケベじゃん! それただのスケベなオッサンの慰安旅行ルートじゃん!」
「単語がよく解らないけど、まあスケベ御用達ではあるよね」
「いや、遠路遥々冬の国に来てまでストリップ見に行くとか何なのそれ! ただのスケベ旅行じゃん、そんなのクロウのお父さんがする訳ないじゃん! なっ、そうだよなクロウ?」
そりゃあ俺達男はスケベな性分ではあるが、これじゃ「煩いヤツがいない内に、やらしい事を楽しもう」って出張パパの夜のお楽しみルートじゃないか。
クロウが誇り高い父上って言うくらいだし、まさかそんな事しないよな?
そう思ってクロウを振り返ったのだが……。
「…………父上は、女好きだったので……有り得るかもしれん……」
クロウは物凄く情けないと言った感じで呟き、額に手を当てて項垂れた。
……身内の恥をバラす時のやるせなさそうな態度は、はたから見ててもつらい。
そうだよな、嫌だよな……自分の親父がストリップショーを見に行ってても変じゃないってバラすの……。ただの身内の性癖暴露じゃん……。
これにはブラックも同情したのか、心底気の毒そうな顔を浮かべていた。
「あ、あの、元気出せ?」
「ありがとう……だが、出来ればそこに行ったとは思いたくないな……。まだ行っていない植物園や、闘技場の方を先に見ておきたいのだが」
「……そうだね、そうしようか…………」
三人満場一致で頷いて、とりあえず今日は引き上げようと言う事になった。
別に、ストリップ小屋が嫌なワケではないし、クロウのお父さんがストリップショーを見ていたって、嫌悪感が湧いてくるはずもない。
だがせめてもの意地として、健全な方向で街を散策していたと思いたいじゃないか。まさかの艶芸小屋に直行だなんて、身内としては悲しすぎるだろうし。
だから、今日はもう支部……というか宿に帰って体勢を立て直そうじゃないか。
今日は歩きまわって疲れたし、クロウもまだ街に慣れてなくて辛そうだしな。
「じゃあ、植物園とかに行くのは明日にして……もう帰ろうぜ」
「そうだね……まあ、シアンの方も時間が要るみたいだし、のんびり行こうか」
「…………かたじけない」
いいんだよクロウ、今日はゆっくり休もうね。
労わるように肩を叩くと、クロウは今まで見た事も無かったぎこちない笑みで、苦笑いを返してくれた。
ああもう本当身内の恥ずかしい話を聞いちゃってごめん。
「ああ、そうだツカサ君。どうせなら通って来た道と違う道を歩いて帰らない? もしかしたら、別の事に気付くかもしれないしさ」
「別の事……アンタがそう言うなら、別にいいけど」
まあ、この街は円形なんだからいつかは目的地に辿り着けるし、迷ったって困る事は無い。それに、ブラックは俺達よりもこの街の事を知ってるからな。別に帰り道が違って困る事は無い。
クロウと一緒に立ち上がると、ブラックはにんまりと笑って歩き出した。
「…………今なんか笑う要素あったか?」
「ん? 特には無いと思うが」
クロウにそう言われて俺は首を傾げたが、まあ、ブラックがニヤニヤするのは今に始まった事ではない。一々気にしていても仕方がないと思い、俺はクロウを気遣いながらブラックの背中を追った。
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※次は直球で下品なお話なので注意
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