異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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帝都ノーヴェポーチカ、神の見捨てし理想郷編

13.戦い方だって千差万別

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「さて……次はどこに行こうか。ここからだと闘技場が近くに在るけど」

 植物園を出ると、外はもう日が高くなっているようで曇天の上の方からかすかにが差しているのが分かった。
 雪が降らない日ならくもり空もそれなりに明るいんだなと思っていると、クロウがやけに興奮したようにブラックの言葉に頷き始める。

「闘技場か、いいな。そこに行こう。ツカサの武器の練習もするのだし、ちょうどいいだろう。さあ行こう」

 言うなり俺の手を取って歩き出すクロウ。
 その熊耳の毛がちょっと膨らんでいるのが見えて、ああ、ストレスを発散したいんだろうなと察してしまった。
 植物園はそれなりにクロウの心を癒してくれたようだが、ゲルトさんからの話を聞いて、父親が本当に慰安旅行ルートに行ってやしないかと不安になって来たのだろう。気持ちは解るぞ、クロウ。身内の恥は居たたまれないよな。

 だけど俺はお前の味方だ、もし本当にやらしい建物にお父上が直行していても、絶対に笑ったりなんかしないぜ。
 というかエロのせいで女子から袋叩きにあった俺には笑えないんだぜ。

 しみじみそう思って落ち込んでいると、握られていない方の手をまたもやぎゅっと握られた。

「おいこらクソ熊、僕のツカサ君に何勝手に触れてるんだっ」
「不可抗力だ。不安になると誰もが心地の良い物を触って安心したくなるだろう」
「それはそうだけどツカサ君はお前の精神安定薬じゃない!」

 喧嘩はやめて下さいここ天下の往来です。
 つーか今の俺、捕えられた宇宙人みたいな事になってるから離してください!

 手を離して貰おうと必死でもがくが、当然逃げられるはずもなく。俺は無慈悲に中年二人に引き摺られて、植物園にほど近い闘技場へと連れ込まれてしまった。
 あっという間過ぎて周囲の目が気にならなかった事だけはありがたいが、お蔭で闘技場の外観はちょっとしか見れなかったので悲しい。

 パッとなので詳細は良く解らないが、闘技場の外観は黄土色の煉瓦でしっかりと作られた武骨な城と言った雰囲気だった気がする。
 そう、二つの塔の真ん中に門が嵌っているような、砦っぽいお城だ。ローマの剣闘士けんとうしとか出てきそうな感じの。

 中もそのまま土の地面で、装飾などは一切ない。男の仕様だ。
 入ってすぐのロビーらしき場所には、魔法使いのようにローブを着こんだ人や、定番の鎧に身を包んだ戦士らしき人も座っている。
 みんな剣の手入れをしたり談笑したりしていて、殺伐さつばつとした雰囲気は無かった。

「闘技場と言う割には、やけにほがらかだな。血の臭いがしない」
「そりゃそうだよ。前にも言ったと思うけど、ここはあくまでも練習場であって、血を流すような試合は基本的にご法度だからね。あとツカサ君を離せ」

 ぺしっとクロウの手を叩いて引き剥がし、ブラックは俺を抱えあげる。
 俺はぬいぐるみかこんちくしょう。頭にチョップしてブラックの魔の手から逃れると、俺はコートの上に装備していた術式機械弓アルカゲティスに手をやった。
 ながらくご無沙汰だったが、ついにこの武器を再び使う時が来たようだ……ああ怖い、今回は暴発とかしませんように……。

「で、練習したい場合はどうするんだ?」
「イテテ……ええと、あそこの受付に申請して、練習用のコロッセオを使わせて貰うんだ。ただ、コロッセオは基本的に対人戦で他の奴と手合せする事になるから、それが嫌だったら予約式の地下練習場を借りることになる。ツカサ君は対人で練習した方が良いと思うから、コロッセオにしておこうか」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってそんな急に決められても……」

 着いてすぐに対戦とかちょっと怖いですよ。
 良く考えたら俺ってば一人で他人さまと戦った事がないし、そもそも後方支援型なんだからそう言うの不利だと思うんだけど。負けるの怖い。
 思わず弱気になってブラックを見上げると、相手は大丈夫だよと言わんばかりに微笑んで俺の肩をポンと叩いた。

「大丈夫、僕が相手になるから」
「えっ……」
「なら、オレも練習相手になろう。オレなら弓矢もかわせるからな」
「そ……そう? 二人が相手ならありがたいけど……」

 ブラックは範囲三センチだけど障壁バリアが作れるし、なにより俺のヘナチョコな攻撃なんて当たらないだろう。クロウも俺の攻撃じゃ絶対に怪我なんてしたりしないほど強いから、練習に付き合ってくれるなら嬉しいが……。

 でも、こういうのっていつも練習した事ない人とやった方が良いのでは。
 いや待て待て俺、対人戦にしても、俺は人に矢を向けるのは初めてなんだから、ここは安心度の高い二人に任せた方がいいじゃないか。
 それに、俺の弓はまだ不安定なんだ。人様と戦うのはもう少し後の方が良い。
 よし決めた、今回は二人に練習相手になって貰おう。

 言うが早いか俺達は受付のマッチョなお兄さんに申請しんせいすると、こちらの事情を話してコロッセオでの対人戦を身内のみで済ませて貰った。
 身内での対戦は基本的には受け付けてないらしいんだけど、閉場間際なら人がいないから大丈夫と融通を聞かせてくれた。ありがたいなあ、初心者に優しい闘技場。とりあえず時間になるまでは遅めの昼食をとったり、寝かせっぱなしのロクの体を伸ばしてマッサージしたりしながら時間を待つ事にした。

 それでもまだだいぶん時間があったが、待つことは苦ではない。むしろ、最近色々有りすぎたので、ぼーっと出来る時間はありがたいくらいだ。
 三人でロビーで呆けながら座っていると、先程の受付のマッチョなお兄さんが俺達に声をかけて来た。

「ようお前ら。どうせ待つ間ヒマなら、他の奴らの対戦でも見て来たらどうだい」
「えっ、観戦できるんですか?」
「ああ勿論。観戦席に入るには銅貨五枚が必要だが、その代わり一日中嫌ってほど観戦できるぜ。今は観戦者が少ない季節だから出入り自由だ」

 人が戦ってるのを観戦か……以前アコールで強制召集があった時とか、旅の途中で他の人がモンスターと戦ってるのは見た事があるが……ブラックとクロウ以外の奴の対人戦もそういや初めてだな。

「勉強になるかも知れないし、行ってみるかい?」

 俺の曜術に関しては師匠と言うスタンスのブラックは、観戦にわりと乗り気だ。
 いつもはヘラヘラでれでれしてる奴だけど、こういう時はやっぱ頼りになるよな。ブラックがすすめるのなら、俺にとってはやはり有益な事なんだろう。
 だったら拒否する理由もないと思い、俺は頷いた。

「そうだな……いっちょ見てみるか! 銅貨五枚ならわりかし安いし」
「そう言う問題か」

 そう言う問題ですとも。
 クロウのツッコミに大いに肯定しながら、俺達は観戦席へと向かった。

 コロッセオの観戦席と言うのだから、円形で上から眺める形になるのだろうかと思っていたのだが、実際は少し違っていた。
 この闘技場は、外観からも分かる通り武骨な城のような作りになっており、それほど広いスペースは確保できない。だからなのか、城の中にある中庭を改装して、そこそこの広さのリングが造られていた。

 そんな対戦場所なので、観戦席は限られるのだが……どこで見るのかと言うと、それはこの城の二階のバルコニーからだった。
 なるほど、確かにこの場所ならとばっちりを受けずに観戦できるし、俺の世界のコロッセオのごとくリング全体を見る事が可能だ。

 どんな眺めなんだろうかと三人で同じように欄干らんかんに近付いてみると……広い中庭の中央で、今まさに二人の戦士が戦っている所が見えた。

「うおおっ! 剣と剣とのぶつかりあいだー!」

 がきん、と勢いよく金属がぶつかる音を立てて荒々しい男二人の剣がかち合う。
 寒い地域だと言うのに「戦えば熱くなるんだよ」と言わんばかりの裸アーマーというおとこ仕様の服装は、いやがおうにも決闘と言う二文字を思い浮かべてしまう。
 盾で相手を牽制しながら、堅実で骨太な剣のぶつけ合いを行う二人に、俺は興奮してしまって欄干にかじりつく。
 しかしブラックとクロウはというと。

「ムサいな……曜術が使えないとああなるんだから、本当に恐ろしいよ」
「速さが足りん、つまらん。何故人族と言う奴らは武器を使ってああも愚鈍に戦うのだ? 己の鍛え上げた肉体が在るならもっと俊敏に……ああ、もどかしい」

 なんて事を言いながら、二人の剣士の熱い戦いを見ている訳で……。

 あのねアンタら、いい加減にしなさいよ。本当に性格悪いなオイ。

 まあクロウが言わんとする事も解るし、実際クロウはとんでもない身体能力を持っているから、彼らの戦いが納得出来なくて口惜くちおしいんだろうけど……しかし、上から目線の発言はハタから聞いていてもウンザリしてくる。

 誰もがアンタらみたいに漫画みたいな戦い方出来るわけじゃないの!!
 っていうか、あの骨太な戦いを繰り広げている剣士さん達が遅いって言うなら、ド素人の俺の戦いなんてどうなるんだよ。
 お前ら遠まわしに俺をディスってんのかコラ!

「……耳ふさいどこう」

 クロウはブツブツ不満を漏らしているし、ブラックは隣で便所虫でも見るような顔で観戦しているし、ほんと左右を気にしてたら楽しめない。
 こいつらの感想があの剣士達に聞こえなくて良かったと心底ほっとしつつ、俺は周囲を完全に無視して試合に没頭した。

 うん、やっぱり鍛えた筋骨隆々の男ってのは力強くていいよなあ。
 実際に見て更に思うけど、ほんと努力に裏付けされた実力ってのは遠目から見てても素晴らしい物だ。俺は別に筋肉が好きでもないし、格ゲーでもどっちかと言うと女キャラとか主人公キャラを使っちゃうタイプだが、それでも男らしい肉体ってモノには憧れも有るわけで。

 ブラックと街長の決闘の時もそうだったが、人が真剣に戦っている姿ってのは、どんなものでも目を引かれてしまうものなんだよな。
 練習とは言え、己の実力を高めるために切磋琢磨せっさたくまして真剣に剣を打ち合う戦士達の姿は、俺に言い知れぬ高揚感を覚えさせた。

 うーん、素晴らしい。
 俺には筋肉は無いが、俺だってああいう風に戦ってみたい!
 やっぱり男に生まれたからには、雄々しく強くならねーとな!!

 そう思って小さくガッツポーズを決めた瞬間、俺達の側に居た戦士の剣が、高く空に打ち上げられて地面へと落とされた。
 途端、どこかから笛の音が鳴る。どうやら試合が決したらしい。

「終わったみたいだね」
「やはりあちらが勝ったか……当然だな、踏み込みが甘い、一撃する間にオレなら相手の腹に二三撃……」
「あ、あーあーほら、下でなんか審判みたいな人が手ぇ振ってるぜ! 俺達の番って事かも! さあ行こうぜすぐ行こうぜ!」

 不満そうにブツブツ呟くクロウの背中を押して、俺はバルコニーから出る。
 さて、次は俺達の番だ。気持ちを切り替えなきゃな。
 そう思って、俺はクロウを宥めつつ、隣であくびをしているブラックに意気揚々と声をかけた。

「ブラック、よろしく頼むぜ」

 俺が期待を込めて言うと、相手は涙目を擦って、任せておいてと言わんばかりにウインクした。













※次はツカサVSブラック&クロウのへっぽこ試合
 ヽ(*・ω・)ノ戦闘ウレシス
 
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