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彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編
15.親と子は自然と似るもの
しおりを挟む※今回もまた説明回です申し訳ない(;´Д`)
その夜、彩宮ゼルグラムに戻った俺は、アドニスに会う前にヨアニス皇帝陛下に今日ブラック達と話し合った事を伝えた。
もちろんアドニスに関しての話題は抜いたけど、子供の話題はそのまま包み隠さず、推測に関しても「あくまでも証拠はない」と念押しした上で、彼女の子供――アレクの存在に関してや、彼女がアレクを数年隠し子として育てていた事、そして彼が今無事である事も話した。
ヨアニスはソーニャさんの事に関しては悲痛な面持ちで聞いていたが、アレクの事になると少しだけ顔を綻ばせ、俺が成長しているアレクの事を語ると、彼はそれは嬉しそうに微笑んでいた。
その屈託ない様子を見て、俺は確信する。
やっぱり、ヨアニスはあの時にショックを受けて……正気に戻っていたんだと。
…………まあ、そうだよな。
“俺”に対してソーニャさんの身の上を話したって事は、ヨアニスはもう俺の事を全部分かっていて、それでもあえてソーニャさんとして接していたんだ。
「一緒に居てくれ」と今更な事を確認するように言ったのも、今俺に離れられたら困るからだったのだろう。
正気に戻ったとしても、子供の事も有るしソーニャさんの事も有る。
何より、俺がいなくなれば周囲に色々と嗅ぎつけられるかもしれないし。
今日はベッドの中で話す事はなく、二人とも寝間着のままテーブルに着いているが、最早相手は俺に無邪気に懐いて来る事はない。
相手も俺が察した事に気付いているのか、その様子は今まで見た事も無いほどに冷静で穏やかだった。……これで相手がまだ夢現の状態だって思い込むのは、流石にちょっと無理があるよな。
用意して貰っていた温かいお茶を飲みつつ、俺は話し終えて一息つく。
相手は俺の話をじっと聞いて、そのまま熟考していたが……やっと顔を上げた。
「……ソーニャ」
「…………もう、良いですよ。別の名前で呼んでも」
どこか遠慮がちな相手に微笑んで言うと、ヨアニスは一瞬目を見開いたが、俺の言わんとする所が判ったのか微苦笑して頷いた。
「……なんとお呼びすればいいだろうか」
「ツカサで良いです。……でも、他の所では今までどおりに」
「心得ている。……そうか、君の名はツカサと言うのか。……今まですまなかったな。心が病んでいたとはいえ、私のしていた事は許される事ではない。気が触れて、君達のような何の罪もない人間を……」
「……それは、全てが終わってから考えて下さい。俺には、以前に連れて来られた人達がどうなったかは解りませんが……その人達も、今みたいな状態で貴方に謝罪されたくないと思います。それに、謝る相手は俺じゃありません」
俺も頭をお湯に何度も漬けられて殺されかけたり、犯されかけたけど、結果から言えば殺された訳でもシベリア送りみたいな事をされた訳でもない。
そりゃこれを仲間達にやられたら俺も怒るけど、被害は俺だけだったし、それは済んだ事だからもういい。俺は五体無事で生きてるんだからな。
でも、俺以前に連れて来られた黒髪の人達は違うだろう。
だから、謝るべきは他の罪のない黒髪の人達であって、俺ではない。
つーか俺に謝って全部ナシとか一番やってほしくないし、この事は全部終わってから改めて深く考えて欲しいわほんと。
「解った。……強いな、君は」
「危険な目に遭うのは慣れてるんで。……まあ、一人くらいはこんな変わりモンがいるって事で……。それより、ヨアニス……あ、陛下の方が良いですか」
「ヨアニスでいい。君には名前を呼ぶ事を許す」
なんか前にもこういう台詞聞いた事有るような気がするけど、まあいい。
こっちもヨアニス呼びに慣れてきちゃってたから、怒らずに許してくれて本当に良かった。
「えっと、それでさっきの話の続きなんですけど、アレク……アレクセイが生まれたって事や、この彩宮でソーニャさんが彼を隠して育てていたって事は、全然知らなかったんですか?」
「ああ……。お恥ずかしい限りだが、私は全く知らなかった。ソーニャが妊娠する前も遺跡の調査や他国との交渉で忙しくて、彩宮を開ける事が多くてな。彼女が子を喪った事を聞いてからは、私も出来るだけ彩宮にいたのだが……それでも彼女が何をしているか知らなかった」
ヨアニスもこの宮殿の主である以上内部構造は把握しているはずだし、裏の通路にある部屋の位置だって把握していただろう。
だけど、それを気付けなかったのは恐らく……彼がそれほどソーニャさんの事を信頼していたからだ。人間ってのは、全幅の信頼を寄せている相手には何かと甘くなるものだからな。彼女は心に傷を負っていると言うのも相まって、ヨアニスは余計にソーニャさんを自由にさせていたに違いない。
炎雷帝とか言われてるけど、接してみると本当にまともな人だもんなこの人。
元々気性が激しいってのはあるんだろうけど、普通に話す分には問題ないし。
でも……そんくらいソーニャさんの事を自由にしてたって事は、やっぱヨアニスの証言からソーニャさんの失踪理由を探るのは難しいか。
ソーニャさんだって、大事な人に心配を掛けたくはなかったろうし……。
けどまだやっとくべきことはある。俺は持ち帰ったアレクの指輪を取り出すと、テーブルの上に置いた。
「これは……」
「アレクがソーニャさんに貰ったっていう指輪です。ちょっと縁が有って、借りてるんですよ。何か書かれてると思うんですが……ヨアニスなら何か知らないかと思って」
アレクが持っていた子供用の指輪は、やはりいつ見ても凄い。
金の輪に古代文字のような複雑な文様が彫ってあって、中央の台座には淡く光る虹色の水晶が嵌め込まれている。下世話な話だけど、位の高い人が作らせた指輪と言うのも頷ける逸品だ。
ヨアニスはそんな指輪を取って、紋様の部分をじっと見やる。
何が書いてあるのか俺には解らなかったが、ヨアニスはく指輪をるくると回して観察すると、少し考えて……何か思いついたようにハッと顔を変えた。
「これは……古代文字だ」
「解るんですか」
「ああ、前にソーニャに教えた事が有るのだ。ナーシャ……私の前妻はこの国土に眠る遺跡を調査する任務に就いていた女官でな、この土地に伝わる古代文字を研究していたのだ。……それを話すとソーニャが興味をもったので、私が頼んで文官に色々と教えさせたのだが……」
「古代文字ですか……」
ヨアニスが言うには、この文字はジェドマロズと深い関係が有るものらしく、便宜上ヨアニス達は「妖精文字」と呼んでいるらしい。
確かに……この世界で一般的に使われている文字や、俺が見た事のある他の古代文字とは形が違うな。この世界の公用語が日本語っぽいと言うのなら、この文字はドイツ語っぽいって感じだ。
しかし妖精文字とはまたロマンチックな名前である。
ヨアニスがこの文字を知っているなら、内容も読めるんだよな?
どんな事が書いてあるのかと聞くと、相手は目を細めて口を開いた。
「……指輪には、こう書いてある……。『愛しい我が子アレクセイに、厳冬の妖精王の加護が有らん事を』と。後は……私の名前と、ソーニャの名前だな。……この虹色の水晶は護身用だろう。街を守る障壁を作り出す曜具は、これと同じ色の水晶が使われているし、指輪に仕掛けをするのは良くある事だからな」
「へぇ……」
……不謹慎な事を思うが、この指輪で一応は「確かにアレクがヨアニスの息子だ」と言う事が判ってよかった。
もしかしたら、望まぬ理由で他の人の子供を妊娠してしまって、それでアレクを隠していたのではと言う可能性もあったので、ちょっと怖かったんだけど……その辺りは、本当に望まれた子だって事だったのでホッとしたよ……。
ああよかった。いや、良くないか。
望まれた子だったなら余計に今の状態がヤバいんだし。
「しかし……こんな大事な物を渡すとは、君は本当にアレクセイに好かれていたのだな。普通、大事な物を旅人に預けるなんてしないと言うのに」
「それだけアレクが優しいって事だと思いますよ。……アレクは責任感の強い子で、教会では子供のまとめ役でしたし、俺の事もいつも気遣ってくれましたから」
「そうか……。アレクセイは立派に育ったのだな」
寂しそうに笑うその顔は、アレクの成長を見てやれなかった事に対してか。
今となっては愛する妻の忘れ形見となった息子だからこそ、余計に思う所があるんだろう。そもそも、ヨアニスはずっと子供が欲しかったらしいし、アレクが生まれるのを凄く楽しみにしてたんだもんな。
「……本当に、何故ソーニャは私の前から姿を消したのだろう」
悲しみを隠しもせずに声に滲ませる相手に、俺は努めて冷静に返す。
「内部に何らかの問題があったってのは間違いないと思います。だけど……俺達にはまだそれが何なのか解りません。……ソーニャさんの様子で何か気付く事はありませんでしたか?」
「……私には、最後までいつもの彼女に見えていたよ。気丈に振る舞っていたのは解っていたが……しかし、それを言えば彼女の努力に水を差す。だから気にしないようにしていたが……それが裏目に出ていたのか」
「側近の人とかはどうだったんでしょうか。何か変化とか……」
そう言うと、ヨアニスは腕を組んで小首をかしげた。
「うーむ……。そう言えば、ソーニャが妊娠した頃から色々と忙しくなり、周辺が騒がしかった事は騒がしかったが……」
「例えば?」
「文官の一人が同じく妊娠したり、ソーニャのために助産婦を用意したり……引退した兵士がいたり……ああ、そうだ。アドニスもソーニャが妊娠する前に薬師として皇帝領に召し上げたんだったか。後は……そうだな、パーヴェル卿が三か月ほど休養していたのだが、復帰したとかそれくらいか」
結構いろいろあるな。妊娠は素直にめでたいけど、他はなんかちょっと怪しいかも知れない。でも、それもまた最初らへんの出来事だろうしな。
「あの……病院に入院された後は?」
「……そうだな。確か……ソーニャに付いていた護衛が、責任を取りたいと言って辞めた事くらいだろうか。私は引き留めたのだが、実直な人柄だったせいか聞かなくてな……ソーニャが階段から落ちた現場に居たらしいのだが、その時人と話していて目を逸らしてしまったそうなのだ」
「護衛の人が……」
ああ、そりゃ責任感じちゃうよな……。
自分が目を放さなければ彼女のお腹は無事だったんだって思えば、どうしたって自責の念からは逃れられないだろう。
でも……実際は無事だったんだから、それもそれで変な話だな。
この辺をちょっと掘ってみたら何か分からないだろうか。
「その護衛の人の話、ちょっと聞きたいですね。その人今はどこに?」
「確か、皇帝領を去って下民街に居るはずだが……ここに呼んでみようか?」
「お願いします。もしかしたら、アレクの事を何か知ってるかもしれないですし」
俺がそう言うと、ヨアニスは目を丸くして何度も頷いた。
「そ、そうだな……! アレクセイが生きていると解った今は、事情が違う。もし彼が何か知っているのなら問わねばならないし、誤解したままなら、彼の罪を消すためにもこの事を教えてやらねばなるまい……よし解った、明日ロサードに頼んで秘密裏に彼を召喚しよう」
さすがは泣く子も黙る炎雷帝、話が早い!
思わず俺も何度か頷き返して笑うと、ヨアニスはやっと安心したかのような微笑みを浮かべた。
「とりあえず……一つ前進して良かった。そうと決まれば、今日は早く寝よう。明日は色々と忙しくなりそうだ」
「ですね。俺も何か解らないか、彩宮の中でそれとなく聞いてみます」
二人で席を立ち、ヨアニスはベッドへ、俺はそれを見届けて部屋を出ようとした――のだが、ヨアニスに腕を掴まれて拘束されてしまった。
「よ、ヨアニス?」
「……あの…………や、約束を……」
「約束…………あっ……」
そう言えば……ソーニャとして接してくれるか的な事、最初に言われたっけ。
って事は、ヨアニスはまだ俺に寝かしつけ係をしてほしい訳で……。
「えっと……ソーニャさんじゃないのに、良いんですか?」
「う……。それは、そうだが……その……ミト・コーモンの話も聞きたいし、その、私は……君と、出来るだけ一緒に居たい……ので……」
とかなんとかゴニョゴニョと言いながら、泣く子も黙る皇帝陛下は少し顔を赤くしてもじもじと視線を彷徨わせた。
…………やだ、ちょっと可愛いかも。
「……ツカサ、夜だけは……いつもみたいに、してくれないだろうか」
「解りました。約束ですもんね」
仕方ないなあと笑って、俺は自分の腕を掴んでいるヨアニスの手を取る。
正直、その姿を見てアレクを思い出したのだが……それは言わないでおこう。
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