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聖都バルバラ、祝福を囲うは妖精の輪編
14.惚れた弱みにつけこんで1
しおりを挟む連れて来られた部屋は、人族用に用意された客間らしくベッドや備え付けの家具などは氷では無くちゃんとした木材で作られていた。
部屋の壁は以前やってきた旅人から苦情が出たのか、廊下や城の外壁より反射が低くなっているようだ。氷の壁にはぼんやりと自分達の姿が映るが、でも完全に輪郭が消えていて、誰がどんなポーズをしているかも曖昧に映っていた。
この配慮、ありがてえ。本当にありがてえ。
もし部屋の中の壁まで鏡のようだったら、このオッサンにラブホにあるらしい「鏡張りの部屋」のプレイみたいな事をさせられるところだったよ。
「へ、部屋は……外と違うんだな……」
震えた声でそう言うと、ブラックは周囲を見回して息を漏らした。
「…………チッ」
今舌打ちした、舌打ちしたこいつー!!
この野郎さては俺と同じ事考えてやがったな、そんな所ばっかりシンクロしても嬉しかねーよバカー!!
「お前またいやらしい事考えて……っ!」
「ん? やだなあツカサ君たら。まさか、僕がえっちな事考えてると思ってた? ふふ、可愛いなあ……そんなに僕とのセックスを期待してたんだ」
「なっ……! ち、違っ」
「嬉しいなあ……ツカサ君は僕の事が大好きだから、こんな風に扱われるとすぐに犯されるって思っちゃうんだね? あはは、スケベな子になっちゃったんだなあ」
「~~~~っ!!」
こ、この……っ、言うに事欠いて俺に責任転嫁しやがって……!
違うと言いたいんだけど、さっきの公開処刑がよっぽどトラウマになっているのか、ブラックに見透かされたような事を言われると口が動かなくなる。
でもやっぱり腹が立つ訳で、俺は体を必死に動かしながらブラックの顔を手でぐっと押して拒絶するが、しかしそんな事で相手が怯むのなら俺も大人しくお姫様抱っこはされていないわけで。
「そんな事しても無駄なのに、ほんと可愛いなぁ……」
掌に吐き出される熱い息に、思わず「ヒッ」と声を出して手を引いてしまう。
だけどブラックはその手を取ると、俺に真っ赤な舌を見せつけるようにして掌をべろんと舐めて来た。
「しょっぱい」
「っ、ばかっ、それ以外に何の味がすると思ってたんだよお前は……!」
「知りたい? 教えてあげよっか」
返事を言う前にベッドに落とされて、そのまま圧し掛かられる。
ぐっと顔を近付けて笑うブラックに、俺は息が詰まる。相手がからかっている事は解るのに、ブラックに意味を持って顔を近付けられるとどうしてもドキッとしてしまう。
今はさっきの事も有って、よけいに心臓が激しく脈打ってしまっていた。
「僕は獣人じゃないから本当はどうか知らないけど……汗をかいた時のツカサ君はとっても美味しいよ? 思わず食べちゃいたくなるくらいにね」
至近距離で俺を見つめる菫色の綺麗な瞳がゆらりと光を灯す。
その光景に思わず言葉を失った俺に、ブラックは息を吐くような笑い声を漏らして俺の首筋に軽く噛み付いた。
「っあぁ!」
「は……はぁ……可愛いなぁ……色気のない体のくせして、こんなに柔らかくて僕を四六時中誘って来るんだから……っ」
「ち、が……っ、違、うっ……誘ってないぃ……っ!」
首筋を確かめるかのように窪みを執拗に舌でなぞってくるブラックに、俺は耐え切れず情けない甲高い声でブラックの肩を掴む。
だけど相手はその事にすら興奮するのか俺の服を脱がせようとしてきた。
「ツカサ君、嫌がっても無駄だよ……ふ、ふふ……僕の事、大好きなんだよね……僕の事ずっと見ててくれるくらいすきなんだよね……? だってほら、服の上からでもドキドキしてるのが分かるよ。それに、ここだってさ……」
「ひぁっ!? や、やだ、そこ駄目っ、さわっ、なぁ!」
興奮したような荒い息遣いで、ブラックが俺の股間に手を伸ばしてくる。
そんな気なんて微塵もないのに、ブラックの大きい手が足の合わせに強引に割り込んで来て俺の股間を握ってしまえば、俺は抵抗も出来なくて。
自分の震える体と声が、今の俺の状態を俺自身に思い知らせているように思えて、悔しくて堪らない。だけど、ブラックに慣らされてしまった体は、ブラックの広くて大きな手に優しく揉みこまれると、もう体が熱くなってしまう。
無意識に股の間の手を小刻みに震える内腿で挟み込んで、嫌がるどころか離すまいとするようにきゅうっと締め付けてしまっていた。
「ふ、ふふ……固くなっちゃってるね……? ズボンの上からでも分かるよ……。口じゃ嫌だ嫌だって言ってるくせに、僕におちんちんを揉まれただけでこんな風になるなんて……本当にツカサ君は意地っ張りなんだから」
「やっ……ぃぁ……っ、や、だ……やだぁ……っ」
やだ、だめだ、このままじゃえっちする事になってしまう。
こんな事してる暇ないのに。俺達がここに来たのは、ヨアニスを助けるためだ。えっちなんてしてる暇なんてない。あんな事で弱気になって簡単に組み敷かれて、次の日ロクに動けなくなるなんて情けなさすぎる。
しっかりしろ、しっかりするんだ俺。
気持ちいい事になんか負けちゃ駄目だ、ブラックに弱い所を掴まれていたって、こんな時に乳繰り合っている暇なんてないんだから。
ブラックは上機嫌だけど、そもそもお前らのせいで俺は酷い辱めを受けたんだぞ、これ以上付き合ってやる義理なんてない……ああでもどうしよう。どうやってこのヤる気マンマンのオッサンから逃げ出せばいいんだ。
う、うう、あっそうだ、風呂! ここに入って来る時に風呂が目に入ったぞ!!
風呂で時間を潰したらどうだ、そしたらブラックも沈静化するのでは!?
そうと決まれば取り返しがつかなくなる前に行動だと思い、俺は涙が滲み始めた目をキッと勇ましく整えると、出来るだけ普通の声でブラックに切り出した。
「あっ、あ、あの、お風呂っ、お風呂入るからっ」
……キリッと言ったつもりだったけど、なんか声が命乞いする悪党みたいで格好悪い……涙声だし……うう……でも伝える事が大事だから……。ブラックも、俺の提案に一応手を止めてくれたしもうひと頑張りだ。
「えー? そんな事したら、ツカサ君の汗の匂いが消えちゃうじゃないか。今夜は獣みたいな激しいセックスをしようと思ってたのに……」
「そんっ……、ぃ、いや……だ、だから……あの、お、俺……ごめん、まだその、恥ずかしく、って……だからその……せめて……お風呂……」
「うーん……」
チクショウ効きが悪い……くそ、これだけはやりたくなかったけど仕方ない。
俺は涙目を生かしてブラックを上目遣いで見上げると、恥じらう乙女の如く口に緩く握った手を当てて困り顔で呟いた。
「あ……汗、くさいと恥ずかしくて……ブラックのこと拒んじゃう……から……」
どうだ、この「恥じらう処女」攻撃は。自分の姿を顧みたら絶対にゲロ吐き案件だけど、お前がこういうの好きって俺は知ってるんだからな!
「…………ぼくの、ため?」
俺の言葉に、ブラックが真顔で呟く。
さっきの興奮した顔とまるで違う、賢者モードにでもなったかのような顔に、俺は内心ビクビクしていたが必死にそれを押し殺して恥じらう演技を続けた。
「え……えっちの、時くらいは……恥ずかしくなりたくない……」
「よし分かった、お風呂だね! 万事心得たよすぐ入ろうさあ今すぐ入ろうか! あっ、僕ちょっとお湯が出るか確かめて来るね!!」
真顔でそう言うと、ブラックは凄まじい速度でベッドから降りて、韋駄天のように玄関の横にある洗面所へと駈け込んだ。
早い。早過ぎる。お前どこにそんな力を隠していたんだ……。
先程まで熱くなっていた体が一瞬にして冷えるのを感じつつ、俺は好都合だと今のうちに心を落ち着かせるように深呼吸を繰り返した。
「すーっ、はーっ、すーっはーっ! よ、よし、心を読まれた事がなんだ、どうせバレてる事だったんだ、今更言われてどうなる! たかがメインカメラをやられただけだ他の奴に知られていなければどうとでもなる……っ」
なんか変な台詞が混ざってたけど、その通りだ。
俺がブラックの事を好きであるなんて事実は、残念ながらあの場の全員が知っていた事なのだ。ウィリー爺ちゃんは知らなかったから仕方ないが、だからって俺をバカにはしないだろう。
チェチェノさんは、絶対にニヤニヤした視線なんて送って来ないだろうし(紳士だからな)、中年二人は俺の気持ちを知ってるから「二番目の雄だ」とか色々言い出すんだし、そんな場で俺がブラックを好きなのがバレたって、どうと言う事はなかったじゃないか。
そうだ、事実を言われただけだ。何も恥ずかしい事なんてない。
だから心を読まれたって平気だし。どれくらい好きかって事をバラされたからって、その、俺は……俺は、はずかしく…………。
「あぁあああやっぱ駄目だぁああああ」
「ツカサ君、ここのお風呂は蛇口を捻ったらお湯が出るタイプだよ! 前にここに来た人族は、随分良い提案をしてくれてたみたいだね!!」
打ちひしがれる俺に、ちょうどタイミングよくブラックが報告しにくる。
ぐうう今だけはありがとう、自分への羞恥で死ぬところでした。
「じゃあ、お風呂入って来る……」
よろよろと立ち上がって、ブラックの肩を叩き「ありがとう」とお礼を言う。
またもや気持ちがぶり返してしまったが、お湯にしばらく浸かっていれば、この荒んだ心もじきに静まって来るだろう。ご飯と温かいお湯は人間の心を落ち着かせてくれる二大要素なのだ。風呂で瞑想でもして時間を潰そう。
そう思いながらブラックとすれ違い、洗面所へ入ろうとすると。
「…………ん?」
後ろに何かの気配を感じ、俺は肩越しに背後を確認する。
すると、何故かブラックが付いて来ようとしていた。
「……あの、ブラック…………」
「ん? なーに、ツカサ君」
「俺今から風呂に入るんだよね」
「うん」
「だからその……ベッドの上で、待っててくれないかなって……」
さすがに洗面所の前で待機されると怖すぎて出て来れない。
それにブラックを落ち着けるための風呂作戦だし、と思っておずおずとブラックを見上げると、ブラックは俺の気持ちなど知らない朗らかな笑顔で笑った。
「やだなあ、ツカサ君たら。僕達は恋人同士なんだから、一緒に入るに決まってるでしょ?」
「え゛」
「何度か一緒に入った事もあるし、別に恥ずかしがることなんてないよねー」
そう言いながら、ブラックは悪だくみをしているのを隠しもしないような顔で、目を弧に歪ませる。あ、ああ、顔に陰が掛かっている。めちゃくちゃ笑ってる。
悪役みたいな薄ら笑いめっちゃしてるぅう……。
「あ、あの……でも、俺いまちょっと、落ち着きたくて……」
「僕が居るとドキドキしちゃうの? あは……か、可愛いな……っ。でも、大丈夫だよ……い、いっ、一緒に湯船に入れば、きっと落ち着くからね……!」
ふえぇ……台詞がエロ漫画のモブおじさんみたいだよぉお……。
思わず脳内の漫画的美少女が涙目でツッコミを入れたが、残念ながらこの台詞を言われているのは美少女じゃ無くて俺なワケで。しかもこの気持ち悪い台詞を吐く輩は俺の恋人であるわけで……なんで俺コイツと恋人同士なんだろう……。
「ハァ、ハァ……ま、前はツカサ君が僕の体を洗ってくれたから……今度は僕が、ツカサ君を洗ってあげるね……! ふ、ふふふ、つっ、ツカサ君もっ、今日は色々あって疲れたもんねぇ……!」
「あああ洗わなくていい、洗わなくていいですぅ!!」
「さあさあ、早くお風呂に入ろうねぇえ」
ああああ押さないでっ、いいですもうお風呂いいから寝かせて下さいぃいい!
せめて「スケベな事したい」って態度を隠してくれていたら、俺だって騙されたかもしれないのに、どうしてお前はそんなに分かり易いんだよ!!
これじゃ絶対犯されるじゃん、やらしい事されるじゃんかぁあ……。
「ふふ、ふふふふ……ツカサ君……すっ、隅々まで……僕がたっぷり洗ってあげるからね……」
俺の肩を後ろから掴む手が、肩の線をなぞるように指を動かす。
その感覚にぞわぞわと鳥肌を立ててしまったが、最早嫌がっても逃れられないと悟り、俺は泣き声を漏らしそうな息で溜息を吐いたのだった。
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※後半はいつも通りブラックが気持ち悪いのでご注意下さい
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