異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編

16.失われた歴史の断片1

 
 
 翌日の早朝、俺達は早速【海蝕洞かいしょくどう】ダンジョンをおとずれた。

 いやあ……昨日はブラックにアドニスとのことを気が付かれるんじゃないかと気が気じゃなかったが、ブラックは夕食の時間になっても「ちょっとやるコトがあるから」と部屋にこもってたからさいわい気付かれずに済んだんだよな。

 ま、まあ……その「やるコト」というのも、昼間に頼んでいた図書館での情報収集に関する事だったみたいだし……俺も夕食を持って行ってやったり、文字の追いすぎで疲れたブラックに膝枕ひざまくらしてやったりしたけど……ってそれはともかく。
 ブラックが真面目にお仕事をしてくれたので、俺は昨日ぐっすり眠ることが出来て、気力も復活したのだが。

「……ツカサ君。この気色の悪い中年は、何故こちらを見下みくだしたような品性の欠片かけらも無い顔をしているんですか?」
「お、お前なあ……」

 朝っぱらから元気に喧嘩けんかを売るアドニスに冷や汗をらしてしまうが、しかしハタから見ればそういう感想になってしまうのかも知れない。
 なにせ、今日のブラックはアドニスの言う通り朝っぱらからドヤ顔なのだ。

 しかもこれみよがしに俺の肩を抱いている。
 ……いや、まあ……昨日は頑張ってくれたしこのくらい別に良いんだが、言われてみるとウザいように思われても仕方がない気はする。
 なにせ、ブラックの顔は完璧なまでのドヤ顔になってるからな……。

「ツカサ君、こんなヤツのなんて気にしなくて良いって! さっさとあのデカブツをどうにかして【コーレルパ】を取ってこようよぉ」
「お前もなぁ……」
「中年男性らしいネチネチした言い方ですねえ。小さなことで優越感を感じているひまがあったら、少しくらいはモンスター排除の役に立ってほしいものですが……」

 ふう、と溜息を吐いてほおに手を当てるアドニス。
 お前の態度もだいぶブラックといい勝負な気がするのだが、ヤブヘビになるのでくちにチャックしておこう。

 ともかく、今日もアドニスは授業があるワケだし時間が惜しい。
 俺達だって、魔女の薬に関する情報が早く欲しいのだ。

 こんな所で言い争いをしているヒマは無い。あの巨大チョウチンアンコウを撃退して、何とか先に進まないと。

「もう……二人ともケンカしてないでさっさと行くぞ!」
「あっ、待ってよツカサくぅん~」
「君が戦闘になったら真っ先に死にますよ」

 アドニスだまらっしゃい!!
 余計な一言ひとことにむかっ腹が立ったが、しかし俺の賢い機転で二人は喧嘩をやめてくれたようだ。……時と場合によるとは思うけど、コイツらが喧嘩しそうな時はさっさと話を進めるか、二人の意識を自分に向けさせた方が良いかも知れない。

 ……と言っても、この頭の良い二人に、いつまでも同じ手が通用するとも思えないんだけど……。

 ま、まあ良い。
 俺は二人の心配事を失くすように間に入ると、再び地下一階の「のたのた君広場」に降りて、のたのた君達に挨拶あいさつをしてから下の階層へと進んだ。

「ンヌヌ」
「今日もついて来てくれるの? ありがとうなぁ」
「ゥキュー」
「ンヌー」

 つるつるでちょっとぬめった頭を撫でると、のたのた君は小さくも可愛くてつぶらな瞳を気持ちよさそうに細める。
 ロクちゃんもうらやましそうだったので一緒に撫でてあげた。
 ふふ……今回は爬虫類はちゅうるいパラダイスって感じだな……。

 もふもふも勿論もちろん大好きだけど、つるつるもヒンヤリも可愛い事に変わりはない。
 愛らしい動物はみな可愛いのだ……とでながら、俺達は再び光る水溜みずたまりの階層に辿たどき、のたのた君と別れると次の階層……問題の“アレ”がいるフロアへいどむべく慎重しんちょうに歩を進めたのだった。

「…………そろそろだが……その前にちょっと話しておきたいことがある」

 下り坂のなかほどまで来たところで、ブラックが立ち止まる。
 俺とアドニスもつられて足を停めると、相手はヤケに真面目な顔でくちを開いた。

「昨日、図書館でアレと同じようなモノの記述きじゅつを見つけた」
「アレって……あの巨大チョウチンアンコウ?」

 問いかけると、ブラックはうなずく。
 まさかそこまで調べてくれているとは思わず、つい驚いてしまった。
 いや、だって、昨日は大変そうだったし……情報を色々書き出してまとめてるって言ってたから、邪魔しちゃ悪いかなと思って何も聞かなかったからな。

 だから、そこまでハッキリした情報が出てくると思ってなかったんだ。
 これはアドニスも同じ意見だったようで、驚いたのか少し目を見開いていた。

「本当にあったんですか」
「嘘なんかつくかよ。ツカサ君が渡してくれた【エスクレプ盛衰記せいすいき】って個人の日記帳に、似たようなモノが現れた事件がしるされていたんだよ」

 ブラックの話によると、こうだ。


 ――――どれほど昔かは不明だが、とにかく街で語り継がれなくなったほどの昔。

 エスクレプがライクネス王国の主要な港であり、今と違って船があふれるほどに発着していた頃、とある船が先触れも無く港に入って来たのだと言う。
 なんの連絡もなく、順番すらも守らず、曳船えいせんを出すこともなく必死に甲板で港の方へ呼びかけながら近付いてくる船に、港の人々は大いに困惑したのだそうだ。

 だが、彼らのその不可解な行動の理由を、すぐに知ることになる。

 彼らの船の背後から……絶句するほど巨大な海のモンスターが現れたのだ。

 その光景を見て、港は大混乱におちいった。
 なにせ、海のモンスターは陸上の物よりずっと巨大で、雑魚ざこと言われるたぐいでも夜行性のモンスター以上に強い場合がある。

 当時は曜術師も数が少なく、薬学院も港近くの小さな建物でひっそりと薬の調合を生業なりわいとする店のようなあつかいだったらしい。
 
 そんな戦力だからか、襲い掛かってきた海のモンスターになすすべもなく、わが街――エスクレプはモンスターの打つ波に飲まれ、港近くが大破する事になった。

 しかも、追い打ちをかけるかのようにその巨大なモンスターは頭かららした妙な明かりをもちいて小さなモンスターを呼び、そいつらを暴れさせたのである。
 それだけではない。くちを開けばがたい悪臭が人を苦しめ、そのうえどこに住まわせていたのか、口内こうないの奥からは両生類じみたビチビチとねるのようなものが次々にし、人を襲ったのだ。

 まさに、地獄絵図。
 街は助けを求めたが、兵士は他で出現していたモンスターを倒すのにいそがしく、街に居る曜術師達だけでは手が足りなかった。

 謎の怪物に、街は滅ぼされてしまうのか。
 人々はそうなげいたが、そこになんと“七人の曜術師”が現れた。彼らは他の曜術師達とは一線いっせんかくちからもちい、人々を救ってくれたのだ。

 炎、土の曜術師は天にのぼるほどの炎と土壁でモンスターを壊滅させ、水の曜術師は怪我人を治癒し、木の曜術師は目を見張るほどの回復量の薬を作って、最後に金の曜術師が人々に必要な設備や、街人を守るさずけてくれた。

 そして最後に、彼らをひきいる偉大な術師たるおさが、常任には理解がおよばない様々な術を使い街を復興させてくれたのだ。

 無論、エスクレプの者は彼ら八人をちからの限り歓迎し、感謝を惜しみなく伝えた。
 そして神のごとき御業みわざ後世こうせいまで残そうと決心を固めたのだ。

 一方、その恩義と目を見張る能力に感服した【薬学院】の者達は、新たなる知恵をさずけてくれた木の曜術師と術師のおさたたえ尊敬し、自らをその理想に近付けるべく「人のためになる素晴らしい薬を作るため」に、今日の施設を作ることを決心した。

 のちにそれは【ハイギエネ薬神院】と名前を変えたが、このことを知るのは最早もはや街に長く住む老人だけになってしまった。
 だが、我々は語り継がねばならないはずだ。彼ら恩人たちの事を。


「最後のハイギエネに関する話は、後から書き加えられたみたいだね。……ともかくあんな特徴的なモンスターなんて他にいないだろう?」

 ブラックはそう言うが、俺は別の事が気になっていた。

 七人の曜術師と、偉大な術師のおさ……それってまさか、俺と同じ【黒曜の使者】と【グリモア】達なんじゃないのか。
 いつの頃の人達かは分からないけど、少なくとも“悲劇的な結末を迎えた七人”とは別の存在だよな。だから、もっと昔の人達のはず……。

 俺が気付いたんだから、ブラックも既に同じような予想はしてるよな。なのに何も言わないって事は……確証が無いからか、はたまた今は関係ない事だからスルーしておこうって感じか。

 まあどちらにせよ、それは正しいよな。
 他の事に気を散らしてる場合じゃないし、今は巨大チョウチンアンコウをどうにかする方法を考えないと。
 俺もブラックの考えに賛同して、疑問は心の中にしまっておくと、改めて本の中のモンスターについて振り返った。

「その話の中だと……炎と土の曜術でどうにか出来たってことだよな?」

 俺の問いに、ブラックはうなずく。
 だが、その表情は難しげな感じだった。

「うん……。だけど、ここは洞窟内部だし、しかも次の階層は他のダンジョンのように天井が高いワケでもない。……派手な曜術は難しいだろうね。こんな時に限って、やっと使い道が出てきたクソ熊もいないし……」

 腕組みをして悩むブラックに、アドニスも賛同する。

「しかも、くちを開けば小さな寄生虫のようなものが出てくるのでしょう? だとしたら、無暗に攻撃するのも危険ですね。暴れさせでもしたら、体内のモンスターを周囲に撒き散らすかも知れない……」

 そう言いながら少し悩むように沈黙して――アドニスは俺を見る。
 何だろうかと目をしばたたかせると、相手は息を吐いた。

「では……やはり、使える薬も限られていますね」

 言いながら、薬瓶などを収納している腰袋から丸薬がたっぷり入ったびんを取り出して俺達に見せた。

麻痺まひの丸薬で、一度様子を見て見ましょう。液薬より狙ってくちに入れられる確率が高いはずです。……一粒だけでも、効果は出ると思いますよ」

 今は、様子見をするほかは無さそうだな。
 ブラックが調べてきてくれた話があのアンコウにも通用するとすれば、絶対にくちを大きく開けさせてはならない。

 ザコを呼び寄せられる前に、なんとか対処法を探さないと……。











 
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