異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編

  失われた歴史の断片2

 
 
「とりあえず、アイツの気を引ければなんとかなるが……敵や捕食対象だと思われるおとりを使うのは頂けないな。記述のモンスターよりも小さいようだが、体内のモノが出てくれば対処が難しくなる」

 ブラックのその言葉に、アドニスも素直にうなずいた。

「そうですね……仮に何も入っていなかったとしても、その可能性を信じてしまうのは危険すぎます。……ツカサ君の守護獣や近場のモンスター以外で、気を引けるものがあると良いんですが」

 おい、お前今サラッとうちの可愛いロクちゃんやのたのた君をおとりにしようとか考えていた事を暴露しやがったな。
 やめて下さいよねそういうの! うちのカワイコちゃん達ワリと血気けっきさかんだから、頼まれたらすぐにうなずいちゃうんだから!

 たくもう……でも、おとりか……この世界じゃ玩具おもちゃのネズミとかルアーもないし、俺も影分身なんて使えないからなぁ……。
 植物をやしても良いけど、食いついて来ない可能性も有るし……じゃあ動かせばとも思うが、そんな草がえてきたら、敵だと思ってしまう危険もあるし成功しそうにない。

 あのチョウチンアンコウは疑似餌ぎじえの代わりのチョウチンを持ってるのに、俺達には何もないとは不公平だなぁ。

「チョウチン……。うん……光……?」
「どしたのツカサ君」
「あ……いや、動くものがダメならこの【ライト】はどうかなって」

 そう言って、俺は空中にふよふよと浮かせていた【ライト】を指差す。
 自動追尾してくれるように作った曜術だけど、イメージすれば多少は思った通りに動かす事も可能だ。そこまでビュンビュン飛ばせるわけじゃないけど……。
 ともかく、ある程度ていど動かせる光の球なら良いんじゃないだろうか。

 そんな俺の提案に、ブラックとアドニスは「なるほど」と同時にうなずいた。
 ……お前ら、仲悪いのに息ピッタリな時があるのは何なんだよ。

「なるほど、実体のない光のたまなら、音もしないし正体もない。ただただわせれば生物せいぶつの動きとは決定的に違うから、勘違かんちがいして暴れる事も無いだろう」
「人が操ってもそう思ってくれるかな……?」

 ブラックに問いかけると、相手は俺を安心させるかのようにうなずいて見せた。

「大丈夫。急に動かしたりしなければアイツも興奮しないだろうし……それに、生き物みたいに必死に生きようと動かないからね。自分も頭に明かりを生やしてるんだし、その程度ていどの知能はさすがに持ってるんじゃないかな」

 そういうモンだろうか?
 まあでも、光がエモノじゃないって事を理解してても猫も犬もついじゃれちゃう事があるもんな。本能的に追っかけてくれるってのはあるかも知れない。

 ……この世界のモンスターに、そんな本能がそなわってるかは謎だが。

 ともかく、二人から了承を得た俺はさっそく【ライト】を使ってみる事にした。

 出来るだけ階層の入口に近付くべく、慎重しんちょうに移動して壁にくっつく。次の階層への出口は開けっぴろげになっているのではなく、岩の壁に穴が開いた感じになっているから、そのかげに隠れればアンコウには見つからない。

 俺は【ライト】を移動させると、出来るだけふよふよさせながらフロアに流した。

「…………」

 周囲から明かりが無くなり暗闇になったが、背後からブラックが抱きついてるし、横にはアドニスがいるし、何より俺の肩にはロクちゃんがいる。
 少しも怖い思いなどせず、息を殺して【ライト】を巨大チョウチンアンコウの視線まで降ろし、ゆっくり近付けた。と……。

「……!」

 ずも、と、巨体が動く。
 どうやって浮いているのか分からない魚は、すぐに【ライト】を認識したらしく、両の目をたがちがいにぎょろぎょろ動かした。
 う、うええ……アイツの目ってカメレオンみたいに個別に動かせるのかよ……。
 でもカメレオンと違って何だかおぞましい。

 青くなりつつも、俺はすきを作らせるべく、アンコウの前で【ライト】を動かす。
 生き物のようには見えないが、とはいえうざったく気になるように。
 ――すると、やはりアンコウにも本能はあったのか、はたまた生き物と勘違かんちがいしたのか、間近で浮いている【ライト】に対して大きくくちを開けた。

「――~~……!」

 思わず、くちと鼻を手でおおう。
 離れた場所に居るのに、それでも薄らヤバい臭いがただよってくる。
 これが、盛衰記せいすいきしるされていた不潔ふけつ吐息といきなのだろうか。

 しかしアドニスは絶好の機会をのがさなかったのか、鼻をおおう事もせず、小瓶を腰袋から素早く取り出すと――――音も無く、敵の方へ投げた。

 うおっ、な、ナイスコントロール……!
 丸薬がたっぷりまった小瓶が、アンコウの軽く開いたくちに見事に入る。
 異物が入った事に気が付いたのか、アンコウは反射的にくちを閉じた。
 ……パキッというひかえめな音が聞こえて、アンコウのあごからのどのあたりの皮膚ひふが、何かを飲み込むように動く。……これは、成功したのか……?

 【ライト】を消して、暗闇の中でアンコウの頭から垂れ下がった明かりを頼りに、その動向をうかがう。するとすぐにアンコウはびくりと体を動かした。

「グ……ッ、グォ……ッ」

 大型の獣のような重い鳴き声を発し、抵抗するかのように左右の目を互い違いにギョロギョロと動かす。が、ついに薬の効果に耐えられなかったのか――
 大きな音と共に、地面に倒れ込んだ。

「やった……!」
「シッ、数秒待ってください。麻痺毒が効いているなら、ヒレも動かないはず」

 アドニスの言葉に従い、跳び出さずにまず観察する。と、地面に横たわった巨大なチョウチンアンコウは、こちらに腹を見せたまま動かず、体の向こうにわずかに見える両目をギョロギョロと動かすだけだった。
 ヒレや尾は……動いている気配が無い。効いてるってこと……?

「よし、行くぞ」

 ブラックが先陣を切ってフロアに入る。
 こういう時は、まごついててもいけないのだろう。俺も最後尾に付きながらフロアに入ると、チョウチンアンコウに近付いた。

「う゛ぅ……な、なにこの……っ、ヤバいニオイ……っ」
「腐乱臭に温泉地の独特なニオイを混ぜたような最悪の臭いですね……」
「そういうの良いから、とりあえず殺すぞ」

 さやから宝剣・ヴリトラを抜き、ブラックは急所である胸に切っ先を向ける。
 だが、そう簡単には行かなかった。

「ぉ゛オォオ゛オオ゛!!」

 まるで地鳴りのような鳴き声をのどから震わせながら、巨体の腹が脈動する。
 お、オイオイ、まさかもう丸薬の効果が切れたってのか!?

 いや、アドニスが「巨体には数分効くかどうか」とは言ってたけど、それにしても効果が切れるのが早すぎだろ!!
 もしかしてコイツ、麻痺に耐性を持ってるとか……いやそんなことどうでもいい、とにかく、何とかしないと……!

「命喰らう闇、すなわち我が敵対者なり。らば、我が【緑樹】の名にいてわん――――敵をいましめよ、【グロウ・レイン】――!」

 強い緑色の光がアドニスを包み込み、その金色の瞳がひらめく。
 刹那、アンコウの周囲から巨大なつるいくつもえてきて、地面に固定するかのように巨体を抑え込んだ。

「キュキュー!」
「ブラック、今だ!」

 抑え込まれて硬直した一瞬、ブラックはその場で地を蹴り洞窟の天井近くまで跳び上がると、大きく剣を振りかぶった。

 瞬時、ヴリトラの刃の根元に埋め込まれた赤い宝石が光を発し、炎が現れる。
 蛇のように刀身に撒きついた炎は光を増して、周囲一帯を照らした。

「一発で死んどけよ……!」

 空中で素早く体を回転し、天井に足で触れたブラックは、そのままちからを入れて天井を蹴り勢いを増して敵の体へと落下した。
 剣をおおう炎が、勢いに押されて火花を散らす。
 敵はその殺気に気付き逃げようと暴れたが、もう遅かった。

「――――!!」

 ブラックの剣が、ぬめって光るその巨体に付き立てられる。
 瞬間、剣から炎があふれ出し、チョウチンアンコウの体を包んだ。

「うわっ……!!」

 思わず声を上げてしまうほどの炎の勢いに思わず一歩退く。
 だが、この炎は普通の炎ではない。曜術師が操る「意志が込められた炎」だ。

 決して標的以外を燃やさず、周囲を飲み込むことも無い。だが、それでいて、意志が存在しない普通の炎よりも苛烈かれつで強力なものなのだ。
 そんな炎が、一瞬にして魚を焼きつくす。

 だが、食べるために焼かれる魚とは違い、チョウチンアンコウからは良い匂いなどと呼べるものは、まったくかおっては来なかった。

「う゛……っ」
「これだから魚のモンスターを相手にするのは嫌なんですよね……」

 俺の横に居たアドニスは、珍しく嫌そうな表情を強く顔に浮かべ、平安貴族のようにそでで鼻とくちおおっている。
 よっぽど耐え難いようだが、気持ちは分かる……。
 俺も鼻をつまみ、ロクも小さくて可愛いお手手で顔をおおっているが、まるで生ごみが焼けたような臭いは容赦ようしゃなく流れ込んでくる。

 即座にたおしてコレなんだから、昔現れたコイツより大きなチョウチンアンコウからは、これ以上にヤバいニオイが出てたんだろうな……。
 街の人の後片付けを思うとやるせない。

 でも、このニオイは恐らくコイツが魚類でもあるからだろう。

 こっちの世界の魚って、海の中の魔素とかの不純物を溜めこむから、適切な処理をしないと美味しく食べられないんだよな。
 普通にさばくともうそれだけでマズくなってしまうのだ。
 だから、この世界の人達は魚を滅多に食べない。

 とはいえ、貝やイカなどのモンスターは一般の人でも食べているみたいなので、中には処理をしないでも良い魚介類もいるみたいなんだけど……それは置いといて。

 そういう性質を持っているのが、この世界の魚なのだ。
 だから、多少のニオイは覚悟していたが……コイツは悪臭をまき散らす特殊能力を持っているからなのか、思った以上にヤバい。

 真夏に放置されたゴミみたいな……う、うう、想像するともっとダメだ。

「ぶ、ブラック大丈夫かぁ!!」

 鼻をつまみながら叫ぶと、ブラックは剣を抜いてこちらに向かってくる。
 ……ああ、大丈夫じゃなさそう。めっちゃ顔が蒼い。蒼いけど吐こうとはせずに、凄く我慢してる顔をしている。頑張ってる、お前は頑張ってるぞブラック。

「こ、これはさすがにちょっと……っ」
「いったん上の階まで戻ろ゛う、ちょっど次に進むのは無理゛……」

 鼻声みたいになってしまうが、もう致し方ない。
 俺の提案に満場一致で全員がうなずき、【ライト】を発動させるや否や、即座にヤバい臭いの充満するフロアから撤退した。

 ……これ、本当に必要だったのって消臭剤じゃないの。
 どんな手段で倒しても、きっとこの悪臭は置き土産にされたのだろうことを思うと、俺達はゲンナリせずにはいられなかった。

「これだから魚は嫌いなんだよお!!」

 ブラックのヤケになった声がゆるい上り坂に響く。
 だが、今回ばかりは同意せずにはいられなかった。












 
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