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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編
20.悪い奴ほどよく群れる1
「ツカサ君、すみませんが学院長の所に許可を貰いに行ってくれませんか」
講義が終わるなり、アドニスが俺におつかいを頼んできた。
恐らく毒を持つ樹木である【フェデンド】を採取するための許可の事だ。数時間前にラスコーさんの研究室で話した通り、材料を取りに行こうとしているのである。
いつもの俺なら「一緒に行けばいいじゃないか」とでも言う所だが、今日はお願いを素直に聞いて、教室から離れた。
なにせ、アドニスは今日も学士達に囲まれて質問攻めだったからな……。
「まあ、あの態度じゃああなるのも無理はないけど……」
そんな事を呟きつつ、俺は蔦や蔓がいたるところに這っている廊下を歩く。
蔦に絡まって咲いた花の匂いを楽しみながら思い出すのは、二日目となった今日も引き続き熱狂的に講義を受ける学士達の姿だ。
授業の内容は「基礎の応用」ってことで俺にはチンプンカンプンな内容だったのだが、学士達はアドニスの教えに深く感銘を受けていたようで、目をキラキラと輝かせ講義の内容を一言一句漏らさないとでも言いたげに書き記していた。
ついそうなっちゃうくらい、アドニスの授業は素晴らしかったのだろう。
……そんな勢いだもんだから、当然授業の後も学士達の熱が冷める事など無く……今日も、人だかりができてしまっているというワケで。
「勉強熱心なのは素晴らしいことだけど、授業でああなるもんかね……」
正直、俺には学校の授業でそうなる理由がさっぱりわからん。
まあ勉強嫌いで赤点スレスレ常習犯の俺じゃ、理解できなくて当然だけどな。
いつか分かる時が来るのだろうか……なんて思いながら階段を下りて、教室などがある【杖の棟】から、職員室や学院長室がある【瞳の棟】への向かおうと、連絡通路がある方へ角を曲がる。
分かりやすくてありがたい道だな~……ってウゴッ。
な、なんかにぶつかった。人か!?
「す、すみません……っ!」
突然の衝撃に心の中で変な声を出してしまったが、口からは出なかったのでセーフだろう。けれど何だか恥ずかしくて、俺は慌てて体を退こうとする。
だが、何故か動かなかった。
いや……動けない。っていうかなんだ、肩を掴まれてる?
どういうことだと顔を上げて――――俺は、息を呑んだ。
何故なら、今俺とぶつかって肩を掴んでいるのは……
昨日しょうもない言いがかりで講義から追い出された、あのいじめ集団のリーダーの金髪男だったのだから。
「それだけじゃ済まないなぁ。お前のせいで色々ボロボロになっちまったし」
「……どこも怪我してるように見えないんですが」
一瞬動揺してしまったが、ここで弱さを出すと負けだ。
そう思い、俺はあくまで強気な態度を見せながらいじめっ子リーダーから離れようともがく。だけど、相手は腕力が強い異世界人だからなのか、けっこう強めに動いたのに肩の手は全く離れてくれない。
それどころか、俺が逃げようとすればするほど、肩に指を喰い込ませてきやがる。
ぐう……っ。力任せに掴んできやがって……っ!
痕でもついたらどうすんだとつい睨んでしまうが、相手はそんな俺の表情に何故かニヤリと笑いやがる。何がおかしいってんだこの。
「はっ……! 所詮はメスだな、やっぱり弱いじゃないか」
俺がまったく動けないことに気をよくしたのか、いじめっ子リーダーは強気になって肩を掴んだままどこかへ移動しようとする。
こ、これはヤバいのでは。早く逃げないとマズい気がする。
「ど……どこ行くってんだよっ、離せ!」
「うるさいっ、さっさと付いてこい!!」
本気で逃げなければと思って抵抗するが、まったく歯が立たない。
だあもうなんでこの世界の人間はこんなに腕力おばけなんだよ、普通こんな鍛えてなさそうな相手なら、俺だって引き剥がせるはずだろ!?
なのに、こんなんでも重い物を楽々持てるくらい腕力があるなんて不公平だ。
くそう、俺はこっちの世界に来ても全然強くなってないってのにぃ……。
「お前のせいで、俺達は薬師様の講義を受けられなくなったんだ……! このお礼はキッチリさせてもらわないとなあ!」
このっ、三下のザコみたいな事を言いやがって。
だけど今の俺には抗う術がない。いつも腰に回してるバッグも置いてきちゃったからペコリア達を呼べないし、リオルにも助けを求められないのだ。
頼みの綱はブラックだけなんだが……ブラックは「街の外に海蝕洞の記録が無いかちょっと探してくる」ってロクと一緒に外に出てるしいぃい……。
それ自体はありがたいから良いんだけど、なんでこうタイミングが最悪な時にこんな事になっちゃうんだ。俺ってもしかして運が悪いのか。
いやそんなコトを言ってる場合じゃない、早く逃げないと……ぐぬぬ、こんな事になるなら、ペコリアの召喚珠だけでも持ってくるべきだった……。
しかし、後悔してももう遅い。
俺はあれよあれよと言う間に階段を再び登らされて、どこかの部屋に強引に連れ込まれてしまった。
「ほらっ、入れよ!」
「っ……!」
肩を強く掴まれ、痛みが走る。
本当なら振り払って逃げられるはずなのに、力が強くて逃げられない。
後ろから押し込まれて強引に部屋に入れられてしまい、俺は臍を噛んだ。
やばい、これは非常にヤバいぞ。漫画とかでよくあるリンチのシーンじゃん。こういう輩は女でも容赦しない……っていうか、ターゲットにすると酷い手を使うんだ。
仮に俺がメス扱いされているとしても、殴る蹴るくらいはされそうな気がする。
……いや、アドニスがいる以上、滅多な事はされないと思うが……。
「おっ、来た来た」
「遅いってー」
あれっ、この声って取り巻きの奴らでは。
気が付いて顔を上げると、狭めの部屋には既に数人が集まっていて、俺の方をジッと見つめながらリーダーの野郎と同じようにニヤついていた。
…………どう考えても、これってピンチだよな……。
でも退路は断たれている。というか、さっき「カチャッ」とかいう鍵をかける無慈悲な音が聞えたんだよな。隙をついて逃げるのも難しくなったぞオイ。
ここは理科準備室みたいな狭めの教室で、逃げ回るのは不可能だし……窓の方は、取り巻き達が座っているから近付けない。
理科準備室なんて普通は入った瞬間にワクワクするんだけど、こんな状況じゃ喜ぶ事も出来ない。くそう……これがホントの四面楚歌ってヤツか……。
「やっぱあんなムサい奴より、かわいーメスの方が滾るよなぁっ」
「睨んでるの可愛い~」
「まあまあ、俺達なんもしないからっ。な?」
取り巻き達は俺を見ながらおどけるように言うが、なんもしないならこんな場所には連れて来ないだろう。しかもムリヤリ……。
やっぱり、何かするに違いない。
コイツらは卑怯者だし、目に見える傷がつくような事は多分やらないと思うけど、それにしたってこんな密室に連れ込まれて、一対複数ってのは落ち着けない。
人間ってのは、人に囲まれると本能的に警戒してしまうものなのだ。
……話し合いとか、そういう拳が出ない行為で済めばいいけど……しかしコイツらが何故俺を連れて来たのかが分からない。
ラスコーさん絡みなのか、それとも昨日の意趣返しなのか。
どっちにしろロクなもんじゃないけどさあ。
「さて……カワイコちゃん、ちょっと俺達とお話ししようぜ?」
「俺の方には話すことなんて無いんだけど」
「まあそう言わずに……なっ?」
リーダーの金髪男が、さっきとは違い俺の両肩を優しく掴んでくる。
でも、そっちの方がよっぽど気持ちが悪い。
……つい自分の世界の感覚で「リンチか?」とか思っちゃったけど……まさか、俺に対して変な事をする気じゃないよな……。
いや、まさかな。
流石にソレもアドニスに気付かれたらヤバいだろうし、そもそもいくらメスだろうと、敵対してるうえメスらしくない俺に何かしようって気は起きないはず。
初対面の時はしおらしくしてみたけど、今は猫被って無いしな。
可愛くないんだから、そういう気持ちも湧かないだろう。
じゃあやっぱりリンチかもしれない。あっ、ちょっと怖い。
でも……今の俺には、曜術があるのだ。
……何が起きても良いように、水の曜気を準備しておくべきかもしれない。
いざとなったらデカい水の球を全員にぶつけてやろうと心に決めて、俺は目の前でニヤつく取り巻き達を睨みつけた。
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