異世界日帰り漫遊記!

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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編

23.奇策と無謀と型破り

 
 
 海蝕洞とは打って変わって、人一人分の余裕しかない長い階段を下りていく。

 どうやら【杯の棟】は見た目よりもかなり分厚い壁の建物だったようで、俺達はその壁の中の隠された階段を降りているようだった。
 長く感じられるのも、恐らく階段が塔の形……円形なので緩く大きな螺旋階段になっているからかもしれない。

 ともかく、下に降りなければ始まらないって事で黙って螺旋階段の終わりまで降りていくと――――。

「ゲッ」
「おやまあ、これはこれは……」

 ブラックの心底嫌そうな声に、ちっとも驚いたように思えない暢気なアドニスの声が重なる。まあでも、二人がこんな反応をするのも無理は無かった。

「ウキュ~……?」
「そうだなぁ、なんていうか……めちゃくちゃ侵食してるな、枝……いや根っこ?」

 恐らく、元々はキチンとしたドアが付いていたであろう狭い入口は、まるで薬学院の建物の内部のように植物に侵食されている。
 だが、その様子は薬学院の緑の洪水のように美しい見た目ではない。

 なんと、扉が打ち破られた入口には、枝か蔓かはたまた根かも分からない茶色の触手が血管のように夥しい数で貼り付いていたのだから。

 ……そりゃ「ゲッ」ともなるわな……。

 動く気配はないけど、もしかしたら入った瞬間に絡め取られそうだし怖いわ。
 つい大丈夫かなと足が止まってしまったが、先頭に居たアドニスが入口から溢れる木の枝を間近で見て、何の警戒もナシに触った。

「うわっ、だ、大丈夫なのか……?」

 心配になって問いかけるが、アドニスは何事も無いかのような顔でこちらを見る。

「ええ、ただの木の枝ですね。蔓や蔦のように壁に絡みついていますが、食生植物のように生物に反応したり、捕食したりするような動きはありません。……先の方を見るに、世界樹が気を利かせてくれたようですね」
「……?」

 食生植物とかいう謎の単語が気なったが、それよりもアドニスが「気を利かせた」と言うのが気になって首を傾げる。
 付いてこいと手でジェスチャーされて、恐る恐る入口の枠を覆う木の枝を踏まないようにしながら中に入ると……みし、という音が聞こえた。

 下を見やると、通路――ではなく、しっかりと絡み合い地面として機能している太い枝の群れがある。どういうことだと改めて周囲を見やると、地面とは違って本来壁や天井が在る部分には、ある程度隙間が作られた太い幹が何本か通っていた。

 【杯の棟】の巨大な枝と一緒で、飛び跳ねてもかなり大丈夫っぽい強度だけど……この壁代わりの枝の向こう側はどうなっているんだろう。
 ちょっと気になって、壁を作るかのようにまっすぐ伸びている枝の隙間から外を見てみる。が、外は白く霞んでいて、周囲の状況はなにも見えなかった。

 しかし、地面がないことは分かるな。
 なるほど……だからアドニスは「世界樹が気を利かせてくれた」と言ったのか。

 もしこの枝の通路がなければ、俺達はまっさかさまに下に落ちていただろう。
 それを防ぎ、世界樹へ誘導するために、この枝は入口に張り付いていたのだ。

 生物の気配はないと言っていたけど、ほんと人間みたいな心遣いだな。まあ、人間が子孫の為に創造したんだし、全知全能ってんだからこういうこともあるか……。
 世界樹には意志が無くても、こういうのは普通なら人間に有利なように作られてるもんだしな。初見の見た目が結構怖いのでちょっと構えてしまっていたが、話によるとモンスターも居ないって言うし、案外早く最下層まで行けるかもしれんな。

「火気厳禁て感じだな……。曜気は使わない方がいいかな」

 緩やかに下っている通路を歩きつつ、ブラックが面倒臭げに頭を掻く。
 世界樹というんだから、人一人の火気くらいは平気そうに思えるが、ブラックの場合は規格外の曜術師だからなぁ……。

 確かに、用心した方が良いのかも知れない。と思ったのだが、アドニスはというと、俺達に背中を向けたまま歩きつつ思っても見ない事を答える。

「いえ、曜術であれば問題ないと思いますよ。普通の炎であっても、よほどの火力を持つ兵器くらいでなければ、この密度の樹を燃やす事すら難しいでしょう」
「そんなに木の曜気が強いのか、この大樹」

 素直に驚いたような声を零すブラックに、アドニスは軽く振り返りながら頷いた。

「ええ、なにせこの通路の枝から何から、全て同じ脈動を持っていますからね。……つまり、この場所にある植物は全て世界樹から生み出された物ということ。それほどの力がある樹木なのですから、多少の炎など物ともしませんよ。それに曜術の炎であれば、よほどの下手くそでもなければ幹や枝を傷付けることはないでしょうし」

 そう言いながら、目を少し細めてブラックを見やる。
 いかにも小ばかにしたような感じだが、ブラックは怒らずに返した。……額に怒りの青筋が浮いているが、そこは指摘しないでおいてやろう。

「まあ探索に出る事も滅多にないだろう軟弱野郎ならともかく、僕はそれなりに経験を積んできたつもりだからねえ。最近はツカサ君をバッチリ守ってあげられる護衛力も付いてるからねぇ~!」

 うわあこっちに話題を振って来るな!!
 というか「護衛力」ってなんだよお前は、新しい単語を創造するんじゃない。

「もうバカな事言ってないで緊張感を持てよ! どんな場所かもわからないのに」
「キュー!」

 大人二人の言い合いに、流石のロクちゃんもご立腹だ。
 まだ辿り着いてもいないのにまったくもう。そんなことを思っていると、先の方が軽く開けてきた。周囲は薄い霧で見えなかったけど、【全知全能の世界樹】は、どんな風になっているのだろう。

 そんな事を考えつつ、ついに空中通路を抜けると――。

「おおっ……!? マジで大樹の幹に沿ってるんだな……!」

 先程までは薄い霧で周囲が見えなかったが、通路から出ると一気に視界に様々な情報が入ってくる。

 俺達が出たのは、右側に巨大な木の幹の壁が在り、左側は壁が無い場所だ。
 地面は木の幹に沿って巻きついた巨大な蔓の通路なのか、幹にがっちりと密着していて、融合しているような感じにも見えた。

 足場は……かなり広いな。
 そもそも幹が巨大すぎて、樹木らしい円形っぽい形になっているのかどうかすらも分からないくらいの大きさだし、上の方には密集した枝葉が見えるけど、遠すぎて何だかブロッコリーのような一塊にも見える。

 枝は所々伸びてるんだけど、不思議と通路には枝が掛かっていなかった。

 うーん……かなりデカい大樹だ……。
 俺がホロロゲイオンで作ってしまった【世界樹】より巨大だぞ。

 恐らく何百年と生きているからだろうけど、巨大なビル以上に全貌が見えない姿を見せられると、生き物って言うよりもう建物って感じがしてしまうな。
 幹を触った感じは、ちゃんと樹皮っぽくざらざらしてるし、所々若い芽が生えているから生きているのは間違いないんだろうけど。

「なるほど……確かに下は見えませんね。落ちれば間違いなく死ぬでしょうが、空間を変質させたものであるなら無暗に色々と試すのも危ないか……」

 アドニスは大樹よりも白い霧で覆われた周囲が気になるらしく、ぶつぶつ考察するかのように呟いている。
 頭のいい人がよくやるヤツだな。
 ブラックはどうなんだろうと顔を見上げると、相手は片眉を難しげに歪めて、周囲をゆっくり視線だけで見渡していた。

「ブラック、どうした?」

 問いかけると、その瞳がこちらを見る。
 菫色の綺麗な瞳には、なんだか納得いっていないような感情が滲んでいた。

「うーん……多分これ、幻術とかの類なんだろうなと思うんだけど……なんていうか、変な感じというか……」
「ヘンって……幻術っぽいのに幻術じゃないみたいな? あの空も花粉の幻惑効果とかってこと?」
「いや、なんていうか……ダンジョンの空間って、基本的に“外の風景に似ていても。どこか異質な感覚”を覚えるんだけど……。このダンジョンに限っては、本当に外の空間みたいに違和感が無いなって思って」
「ほう……?」

 よく分からないけど、要するに作りものって感じがしないという意味だろうか。
 確かに、そう言われてみるとこの空間の空気感はかなりリアルだ。

 高所特有の寒いと感じるほどの低温や、冷えた空気の匂い、吸いこんだら喉や肺が冷たくなる感覚も全く外と一緒だった。
 改めて確かめてみると、ブラックの言う通り現実感がしっかりあるな。

 うーむ、やっぱ普通のダンジョンとは違うってことか……。

「現実感が在るってことは……あそこから落ちたらやっぱり死ぬのかな……」
「なくはないだろうねえ。まあ、モンスターがいないんだから大丈夫でしょ。それより、第三階層の幻惑効果の花粉を抜ける方法なんだけど……」
「ん?」

 ちょいちょいと手を動かして俺に耳を貸すように呼ぶブラックに素直に従うと、相手はコショコショと俺に耳打ちをしてきた。
 うぐ……む、無駄に良い声だもんだから、なんか耳がくすぐったいぞ。

 ともかく、話を聞いて――俺は「そんなことをするのか」と目を丸くした。

「そんなの出来るのか……?」

 半信半疑で問うと、ブラックは悪戯を思いついた子供のような笑みでニヤつく。

「まあ、やってみてソンは無いんじゃない? ここにはダンジョン特有の“制限された空間”みたいな感覚は無いから、もしかするとするかもよ?」

 言いながら、ブラックはロクショウを見やる。
 俺のすぐ横でパタパタと小さくて可愛い背中の蝙蝠羽を動かしているロクは、今の耳打ちが聞こえていなかったようで不思議そうに首を傾げている。

 ウッ、可愛い。思わず胸を押さえてしまったが、そんな場合ではなかった。

「何ですか、悪だくみをしているような顔をして」
「あ、アドニス。実は……ブラックが、一気に下層に行く方法があるって言って……」
「下層に?」

 下を見るのをやめて近付いてきたアドニスに言うと、相手はブラックの顔を嫌そうな顔で見つめた後、その視線がどこへ向かっているかを辿って数秒黙る。
 ロクショウへ注がれている視線の意味を理解したのか、アドニスは息を吐いた。

「まったく、大胆と言うか面倒臭がりというか……。まあ、どれほど潜らなければ不明な場所なら、いっそそうしてしまったほうがという気持ちもわかりますが……」
「アドニスも賛成?」

 俺としては、ちょっと危ないんじゃないかと思ってるんだが。
 そんな問いに、相手はもう一度ロクの方を見て肩を竦めた。

「まあ……いざとなったら、私達でどうにか守れば棲む話です。……正直、ダンジョンにおいてその方法が有用なのか気になるところもありますし……やってみても良いかも知れませんね」

 研究者魂がちょっと疼いたのか、アドニスもブラックの提案に乗り気だ。
 となると、あとはロクショウが頷いてくれるかだが……この可愛くて賢くて優しい、世界一のヘビトカゲちゃんは、きっと頷いてくれちゃうんだろうなぁ……。

 そこが心配過ぎるのだが、まあでも、ブラックとアドニスが守ってくれると言うのなら、俺もロクが傷つかないように防衛すればいいのだ。
 そう思い直して、俺はロクに向き直った。

「ウキュ?」
「あのな、ロク。実は今から……」

 その作戦を伝えると、ロクはパチパチと目を瞬かせたが、特に思う所も無かったのか、任せてと言わんばかりに「キュー!」と元気よく鳴いてくれた。
 ううっ、可愛くて優しいけど、そんな優しすぎるロクが俺はちょっと心配だよ。

 いつか悪い大人に騙されて、悪い人間の守護獣にされちゃいそう……いや今丁度悪い大人に唆されてる気もするんだけどさ。
 でもまあ、ブラックがこういう時の約束を破った事はないし、大丈夫か……。

 それなりにbラックを信頼してしまっている自分にちょっと照れくささを覚えつつ、俺は早速「ブラックの提案」に乗るべく、ロクショウと準備を始めたのだった。











※だいぶダウンしてまして、こんな時間になってしまいました
 一日更新なかったのなにげに初じゃないか…?(´;ω;`)
 体調はだいぶ回復してきましたので、ご安心ください!
 (御心配おかけして申し訳ないです(;´Д`))
 回復したら隔日更新に戻りますので、

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