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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編
どんな場所でも一息つけば2
ここにはモンスターが居ないと聞いていたから、実は色々と用意してきたのだ。
踏破にいつまでかかるかもわからないから、万が一を考えて食料や飲み物、寝袋もバッチリ用意しているし、なんなら水も何本か用意してきたぞ。
なんせ大樹のダンジョン……しかも周囲をぐるぐる回って下へと降りるタイプなら、最悪の場合水場もなくて樹液を啜らなきゃならん可能性もあるのだ。
そうなった場合、何か変な状態異常とか起こすかもしれないしな。
なんせ、謎の幻惑効果で進めない階層があるのだ。
樹液にも何の効果があるのか分からないし、飲まないにこしたことはない。なので、万が一に備えて多めに用意をしてきたってワケだ。
まあ、高速ロクちゃん便でショートカットするとは思ってなかったので、こんな場所でレジャーシート代わりの布を広げるつもりも無かったんだけどな!
しかし立ってイチャつくのも疲れるだろうしな。何か変なモノが居るってんなら、ここでしっかり休息しておくのは重要だろう。
とかなんとか思いつつ布を敷き終えて、靴を脱ぎ座ると、ブラックも納得が行かなげな顔をしつつも俺の隣に座る。
イチャイチャしたいとの要望通りか、肩が密着するほどくっついてきやがる。
「ねえツカサ君、敷き布なんてどういうつもり? もしかしてここでセッ」
「なんでアンタはそっち方面の予想を優先するんだよ……い、イチャつくなら、健全でも出来るはずだろ」
「えぇ~? 僕としてはくんずほぐれつ絡み合った方がもっと多幸感が……」
「こんな場所で無茶言うなよ!」
いつロクショウとアドニスが戻って来るか分からないのに、何がくんずほぐれつだ。アホなこと言ってないで手伝えっての。
俺が金の腕輪――【リオート・リング】を発動させて、内部の異空間から冷えた麦茶と大きな油紙に包まれたものを取り出した。
「それなーに?」
「みんなで食べようと思って作ってきたんだ。他にもあるぞ!」
そう言いながらバッグから取り出すのは、蔦の模様がお洒落な小さいカンカンだ。
タライのような蓋をポンと開けると、そこから紅茶ではない独特の香りが漂う。甘い感じがするが、爽やかでスゥっとする清涼感も有る。
中には、まだ青々としている縮れた葉っぱや花、赤や黄色のくるんと丸まった植物が茶葉のように詰まっていた。
「んん……? これって……薬草茶?」
「あっ、やっぱり知ってるか……そう、コレは薬草茶……しかも、この【エスクレプ】でしか手に入らないって言う限定品の特別ブレンドらしいぜ!」
「ぶれんど?」
「あっ、えーと、調合品……? ともかく、コレ薬学院の売店で見かけてさぁ、ちょっと試してみたかったんだよな。へへへ……」
ハーブティー、なんてものを俺は嗜んだ事が無いが、薬草については少しは知っているつもりだ。そんな薬草を茶葉のように調合したものなんて、薬師の端くれとしても見逃すわけにはいかないだろう。
俺の知っている薬草が使われてるかどうかは謎だけど、売店の可愛いお姉さんは「鎮静効果と緊張が緩む効果がありますよ~」と言っていたので、リラックス効果とかが齎されるに違いない。
そんな薬草茶を飲めば、煩悩で塗れたブラックも少しは落ち着くだろう。
よし、まずはブラックに水を温めて貰おう。
「ブラック、コレ沸騰させてくれ」
「ええ~? 面倒臭いなぁ……まあツカサ君に言われたらやるけどさぁ」
素焼きのポットに持って来た樽(もちろんリングの中にある)から水を汲んでブラックに渡すと、相手はぶちぶち言いながらも掌に炎を出した。
面倒臭がるけど、結局はちゃんとやってくれるんだよな。そういうところは、まあ……その、い、良いと思うけど……。
「よし、じゃあ俺は食べ物だ!」
そう言いながら油紙を開くのを、ブラックが軽く身を乗り出して見つめてくる。
こういうところが子供っぽいんだよ。無駄にドキッとするからやめてほしいけど、今はそんな事を言っている場合じゃないか。
油紙に包んでいたのは、ナクラビボアの肉だ。
ロース肉に近いのか、形はステーキにするお肉の形まんまで食欲をそそる。
前に何度か食べたことが有るお肉だが、豚肉と非常に近くてとても美味しいのだ。
これと葉物野菜を取り出して、肉をちょっとだけ厚めに切り取る。お湯を沸騰させてくれたブラックに再び炎を出してくれるように頼み、肉を焼きつつ、俺は白パンを適当な大きさに切り取って木の皿の上に置いた。
白パンと肉が好きなブラックは、既にここでちょっと浮足立っている。
ふふふ、でもここで終わらないのが今日のサンドイッチなのだよ。
俺は塩コショウを適度に肉に振りかけながら、そこに小瓶に入った【味材】をパラリと軽く振った。実はこれが今日の隠し味なのだ。
ダンジョンに入るためにいろいろ用意するからと街に出た俺は、味材屋のおじさんに相談して肉に合う【味材】を選んで貰っていたのである。
「つ、ツカサ君それなに!?」
「この街でしか買えない【味材】ってヤツだよ。安心しろ、味見はしてるから」
「えぇ……大丈夫かなぁ……」
流石に普通の食べ物ではない存在には、ブラックも忌避感を覚えるようだ。
でも、俺だってちょっと使ってみたし、なんならリオルとマーサ爺ちゃんをわざわざ呼び出して、試食して貰ったりもしたんだからな。
まあ任せておけと俺がパンで肉を挟むと、ブラックは眉間に皺を寄せた。
ったくもーこのオッサンは真っ正直に嫌な顔をしおってからに。
色んな美味しい物を知ってたりするくせに、不可解な食物になると途端に警戒するんだから。年齢を重ねると保守的になると言うが、そういう奴なんだろうか。
まあ一緒に食べれば納得してくれるだろうと思い、俺はパンを更に二等分にした。
「ほら、食べてみなって」
「んー……」
俺から渡されて、渋々受け取る。
何だかまだ不安そうな様子だな。仕方ないので、その不安を解消するために俺が先に一口齧って見せた。
「んん! んまい!」
軽くガーリックの風味もするし、照り焼きのような甘さも薄ら感じる。ピリ辛の風味が更に食欲をそそり、噛めば噛むほど白パンの優しくてふんわりした食感とボアの肉汁が合わさる味がたまらない。
【味材】の効果なのか、これほど肉汁があってもまったくしつこさは感じなかった。
本当に不思議な調味料だよなあ、【味材】って……。
そんなことを思いながらモグモグしている俺を見てか、ブラックも恐る恐る未知の物になってしまったサンドイッチに口を開けて、咀嚼した。
「む……。んぐ……んんん……?」
「どう?」
一口噛むたびにブラックの表情が変わっていく。
最初は懐疑的な表情だったのに、不思議そうに片眉を上げたり目を瞬かせたりと、まるで百面相をしているかのようだ。
……ちょっと可愛いとかは思ってないんだからな。
ともかく、一生懸命味を噛み締めるブラックを見つめていると、ようやく評決が出たのか、相手は俺の方を複雑そうな顔で見て来た。
「……美味しいけど……なんか悔しい……」
「あはっ、なにそれ」
「だ、だって、ボンクラ薬師どもの変な薬なのに、なんかそれなりに美味しいのが納得いかないっていうか、ムカツクっていうか」
「お前なあ……」
なんちゅう感想だ。
でも、ブラックとしては何か認めたくないものがあるのだろう。
とはいえ、噛み締めるようにもぐもぐしているのが面白い。
まったくもー、負けず嫌いなんだから。
「美味しいけど、美味しいけどぉ……」
「ほらほら、分かったから麦茶飲んで落ち着け。薬草茶もうまいぞ」
「むぅう……」
肉と葉物野菜を挟んだだけのサンドイッチだが、ここまで満足感があるのもそうそうないと思う。というか、オッサンの口に肉汁がこびりついちゃってるな。
まったく、こういうとこも子供なんだから。
「ほーら、綺麗に食べろよな」
「んぐ……ん、んへへ……」
俺がハンカチ代わりの布で顔を拭いてやると、ブラックはニマニマ笑い出す。
さっきは怒ってたのに何なんだと思っていたら、また肩を寄せて来た。そうして、俺の肩を軽く小突くようにくいっと動かす。
「なんだよ」
「えへ……ツカサ君も、僕とイチャイチャしたかったんだねっ」
「はっ、はぁ!?」
べ、別に今のはイチャイチャとかじゃなくて、アンタの口が汚れてたから……!
いや、でも、良く考えたらこれもイチャついてるってことなのか?
…………アドニスとロクショウがいなくて本当に良かった……。
「えへ、えへへぇ、ツカサくぅん」
「い、いいから食べろって」
サンドイッチを再び渡すと、さっきの不満げな顔など全く見せず、蕩けた幸せそうな顔でモシャついて俺に体を預けてくる。
こ、このオッサンは……。
……まあ、でも……こ、このくらいなら……別に……。
「ツカサ君どしたの?」
「なんでもない!!」
早く食べ終われと麦茶を差し出すが、ブラックはコップを頬に押し付けられてもニマニマと満足そうに笑っていた。
→
※ちょっと私生活がドタバタしてるゆえに
更新時間がメチャメチャになる可能性がありますが
なにとぞご了承ください…!
身内が入院しちゃいまして…。゚(゚´ω`゚)゚。
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