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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編
25.不安を抱ければ人のうち
「ねえ、ところでさあツカサ君……」
「なんだよ」
懐くみたいに肩に頭を乗せてくるブラックに対して、ぶっきらぼうに答えてしまう。
許容したクセに我ながら可愛げがないと思うが、ブラックが思わせぶりな顔で俺にひっついてくるとこうなっちゃうんだから仕方ない。
変にドキドキさせてくるから悪いんだよ、いや、ドキドキしてないけど。この程度で俺はドキドキしてないけどね!
とにかく、俺を状態異常にしてくるブラックが悪いんだ。
そんなことを思いつつ目だけを動かしてブラックを見ると、相手も同じように俺の顔を見上げてくる。
ぐ……。ぶ、無精髭のオッサンなのに、なんでこうコイツって時々ドキッとするような顔になるんだろう。……やっぱ元々美形だからかな……。
いつもは恥ずかしくて顔なんてじっくり見られないけど、目の端で肩に凭れた相手の顔を見ると、睫毛がそれなりに長かったり、鼻筋が整っているのがわかる。
でも、整ってるってだけじゃ無くて、彫りが深い眉間から目の所に落ちる影とか、鼻のしっかりした形とか、上から見てもキリッとした口とか、何一つ欠けてもこんな風に胸が苦しくなるような顔にならないんだろうなと思うと……。
…………いや、何を考えてるんだ俺は。
い、今のナシ、なんで俺は今更ブラックの顔をマジマジ観察してるんだよ!
これはブラックがイチャイチャしたいとか言うから俺もその、へ、変に意識しちゃったダケで、別に普段からそう思ってるわけじゃないと言うか……雰囲気、そう雰囲気がヘンだから、変に意識しちゃってるだけなんだよ!
っていうか、何の話をするつもりだ。
いかん、また変な事を考えてしまった。いくらイチャイチャしたいと言われたって、俺は冷静でいなくては……。よ……よし、ここはクールに話を続けてやる。
「ふふ……ツカサ君たらもう本当可愛いんだから……」
「はあっ!? へ、変な事言ってないで続けろよ! ところでナニ?!」
ぐうう顔がカッと熱くなってしまう自分が恥ずかしい。
苦し紛れにブラックに問い返すと、相手はニヤつきつつ続けた。
「ツカサ君の世界の学校ではさ、ツカサ君っていつもあんな感じなの?」
「え?」
「誰かを助けるために正義の味方をしたり、結構模範的になったりとか」
思っても見ない質問に目を丸くしてしまうが、逆に毒気を抜かれてしまって俺は己の学校生活を振り返った。
正義の味方……うーん、少なくとも俺はそんな感じじゃないなあ。
どっちかというと、モブっていうかヒーローの引き立て役というか……。
……自分の情けない部分を曝け出すのは……とも思ったが、こっちでも散々情けない所を見せているので今更なような気もする。
まあ、嘘も良くないからな。正直に話してやるか。
「模範的には程遠いかな……俺あんまり頭良くないし、テス……試験とかでも良い点とったこと無いしなあ。正義の味方ってのも違うというか」
「そうなの? 前に貸してくれた“教科書”とか、すごく綺麗に使ってたじゃない」
「えっ? いや、あれは……俺よりも綺麗に使ってるヤツはいるし……」
意外そうに目を丸くするブラックに、つい言い淀んで頬を掻いてしまう。
でも仕方ないじゃないか、全部ホントの事なんだもの。
ブラックは教科書が綺麗だとか言ってくれたが、俺よりクラスの女子の方が綺麗に使っていると思うし、なんなら綺麗さならシベの教科書の方が普通に綺麗だと思う。育ちが良いヤツは何でも丁寧に扱うのかも知れん。
ともかく、ブラックが言うような学校生活は送っていない。
これが答えだと見返すと、ブラックは不思議そうに軽く首を傾げた。
「そうなの? ツカサ君の世界は随分理想が高いというか、潔癖さを求める世界なんだねえ……あんな風に幼稚な奴らを一括できるんだから、ツカサ君はこことおんなじように生活してると思ったんだけど」
「お前なあ、普段の俺を見ててそんな風に思える?」
そもそも、ここでは「珍しいメスの弟子」と自分を偽装しているような者なのだ。
余計な波風を立てずに学士達と円滑にコミュニケーションを取るためには、普段の俺とは全く逆の品行方正でお淑やかなメスを演じなければならないのである。
そんな姿が学校での俺ってのは、さすがにちょっと嘘が過ぎる。
実際の俺を見てそんな品行方正に見えるか、と己を指差してまで問いかけると――――何故かブラックは擽ったそうに笑って、猫がするように俺の肩にぐりぐりと顔を擦りつけて来た。な、なんだよう。
「へへ……そっか、そっかぁ……。ツカサ君は向こうでも同じなんだねぇ」
「ま、まあこっちだと曜術も使えるし、あっちより強いつもりなんだけど……」
「そういうコトじゃないんだけど~……まあいっか! えへへっ、ツカサ君はどんな所に居たって僕のツカサ君だもんね~! お勉強ができない方がツカサ君らしいや!」
「バカにしてんのかテメー」
何にホッとしてるんだお前は。
こんな風に言われるのなら、正義漢で通ってますとかしょうもない嘘をついた方が良かっただろうか。いや、そんな事をしたら絶対にバレるし、何より……こういう時のブラックに嘘を吐くのは、なんか……嫌だ。
だって、何となく……ブラックが少し、不安がっているような気がしたから。
……何を不安がっていたのかは俺には判らないけど、まあ……俺が帰っちゃったらどうしたって会えないんだし、そりゃ会えない間は不安になるよな。
何してるのかなとかつい考えちゃうもんだし……あっ、もしかしてブラックの奴、俺が向こうの学校でも変な奴に絡まれてると思ったのかな。
こっちだとメス扱いだが、あっちの俺は普通にモテナイ男子だし赤点常習犯なんだから、そういう心配なんて要らなかったのに。
いや、そういえば学校の事なんてあんまり話してなかったんだっけ。
それに……まあ、悪い人に絡まれたことはあるワケだし……。
…………。
でも、アレは事故みたいなもんだし、いつもあんな危険な事態になっているワケじゃない。それに、シベが決着をつけてくれたはずだ。
だから……心配かけたくないし、そういうのは言わなくていいよな。
今だってほんの少しの衝突で不安がってるんだから、こっちの世界とは違ってボコボコにされた話なんてしたら泣かれるかもしれん。
このオッサン、変な所で繊細だから、あんまりショッキングな話はしたくないんだよ。簡単に人を殺せるだろうなって危うさを持っているのに、なんで子供みたいに小さな事に心配してしまうんだろう。
二人での旅に戻ってから、なんだかブラックの弱い部分を沢山見ている気がする。
未知の攻撃には普通の人と同じように不意打ちを食らうし、過去に存在した八人の黒曜の使者の話を聞いた時は、俺以上にショックを受けてたみたいだし……。
……ブラックは大人だし、俺よりずっと強くて頭が良くてしっかりしてるけど。
でも、同時に甘えん坊で気分屋で……俺より年上なのに、初めて気付く事ばっかりなんだ。デートとか、こうやって触れる事すらも初めてに思うくらいに。
「は~……ツカサ君とこうしてると、心がぽかぽかしてくるなぁ。やっぱり僕、ツカサ君と二人っきりでいられる時間がたっぷり欲しいよ」
「またそんなこと言って……」
とは言え、何を言ってるんだとは俺も言えない。
ブラックの不安に思う気持ちは理解できるし、それに……
「んおっ!? つ、つかしゃくん……!」
「ちょ、ちょっとは黙ってお茶でも飲んでろ!!」
どうしてお前はそう一々反応して来るんだよ。
べっ、別に手を握るくらいいつものことだし、アンタだっていつも当たり前にやってるじゃないか。なのに、なんで俺がやった時は変に反応して来るんだ。
あ、アンタが不安そうだから、少しくらい元気が出たら良いなって思っただけのことなのに、一々感激するんじゃないよ!
やめんかと薬草茶を渡すと、ブラックはニコニコ笑いながらお茶を啜る。
引っ付いたままカップを傾けるな。零れたらどーすんだよまったく……。
「えへへ……ツカサ君好きぃ……」
「何をイチャついてるんですか君達は」
「キュー」
「うわあっ! も、戻ってきたのおかえり!!」
ブラックを慌てて引き剥がそうとした……が、こ、こいつ全く動かねえ。
何度か奮闘したがどうにもならないので諦め、俺はロクちゃんとアドニスを自由な方の手を振って出迎えた。
とりあえず敷き布の上に座る事を勧めると、二人は素直に座る。
即座に薬草茶を出していると、アドニスがお茶を飲みながら話しだした。
「次の階層を見てきましたが……驚くべきものがいましたよ」
「驚くべきもの? それって例のモンスターのようなもの?」
「ええ。どう形容したらいいのか分かりませんが……少なくとも、不用意に触れて良い物ではないのではと」
「なんだそれ。呪いか何かか?」
この世界では“失われた技術”とされている呪いだが、魔女が存在したりそれらしい物に曝されたからなぁ……。もう失われた技術とは言えない気もする。
だからブラックは早速そう問いかけたのだが、アドニスは違うと首を振った。
「いえ、禍々しい感じはしませんでしたね。ただ……にしても異様でしたが」
「じゃあ何なんだよ」
アドニスが戻ってきた途端イライラしだすブラックに、相手は片眉を顰めながら静かに呟いた。
「樹木のような人族、とでも言えば納得してくれますか?」
「…………は?」
ブラックが「ふざけんなよ」と言わんばかりの声を出すが、俺もその謎の存在の想像が出来なくて、嗜めようにも同じ声しか出て来そうになかった。
→
※ちょっと色々バタバタしてて疲れ果てて寝てました_| ̄|○スンマセン…
数日身内の事やら何やらで忙しいのと疲れるので
また更新時間が乱れそうですがご了承ください…!
。゚(゚´ω`゚)゚。 すまねえ…!
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