異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
1,051 / 1,149
緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編

26.怪奇!樹木人形1

 
 
   ◆



「音は立てても構いませんが、くれぐれもゆっくり歩いて下さい。地面……この大きな幹に強い衝撃や振動を与えると、敵だと思われる可能性があるので」

 アドニスの言葉に、俺とブラックは顔を見合わせる。
 あのピンクのモヤの中に入って数秒、そんな注意をされたもんだからつい面喰ってしまったが……ロクショウがウンウンと頷いていることや、アドニスがこんな時に冗談を言うヤツではない事を考えると無益な話には思えない。

 偵察に行ってきたんだし、きっと必要な事なんだろう。
 俺とブラックは「了承した」と頷くと、音ではなく足の運び方に注意しながらモヤの中を一定の方向へ進んで行った。

「にしても、音は立てていいってどういうことだ? その“人族のような動く樹木”ってのは、耳が無いってことなのか?」

 ブラックの問いに、前を歩いていたアドニスは頬を掻くような仕草を見せる。

「それなんですが……私も半信半疑でしてねえ。何が“彼ら”を刺激するのか完全に理解したワケではないので、くれぐれも軽率な行動は控えるようにしてくださいね」
「なんだとテメー」
「ブラック落ち着けってば。……ともかく、慎重に歩けば刺激しないんだな?」
「ええ。試しに一尺ほどの距離まで近付いてみましたが、まったく反応がなかったので……恐らく、敵意がある場合にのみ反応する何かなのではないかと」

 ロクショウもアドニスの予想に賛成なのか、クゥクゥと鳴くばかりだ。
 ピンクのモヤも相まってファンシーさがうなぎ上りだが、それはともかく。ロクちゃんにまでそんな顔をさせるってことは、よほど確かな情報なのだろう。

「生物ではないんだな?」
「そうですね……人族の様なもの、とは言いましたが、アレには生物に備わっている感覚器官が無いように見えました。少なくとも耳に耳孔はありませんし、目は宝石か樹液を固めた物で視覚は無いようでしたね。口には穴が開いていましたが、動きを考えるとただの洞のようなものかと」
「なんだそりゃ……そんなものが浮いてたって……? 幽霊の方がまだマシだな」
「まあ、見ていて気味が悪いというのは感じましたけどね」

 待て待て待て、お前らサラッと冷静に話してるけど、なにその怖い存在。
 つまり、よく出来たマネキンみたいなものが複数漂ってるってこと?

 なんだそれは怖すぎるんだが。
 どう考えても幽霊と同じくらいに不気味だし怖いんだが!?

「あ、あの、ちょっと……」
「モヤを抜けますよ。あくまでも慎重に歩いて下さいね」

 ひぃいいいまだ心の準備もしてないのにぃい!!

 せめて直球の接触は避けたくてブラックの後ろに回り込むと、目の前の背中から「ぐふっ」とかいう気色の悪い声が聞こえた。
 おいコラ、俺が警戒したのをなんでちょっと喜んでるんだよ!

「怖がるのは構いませんが、地団駄を踏むのだけはやめてくださいね」
「こここ怖がってなんかないぞ! これはだな、あくまでも警戒として……」
「ほらすぐそこに影が」
「あ゛ーーーーッ!!」

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい頼むからこっち来ないでえええ!!
 怖いの無理やだブラックなんとかしてえ!

 もう怖すぎて思わず目の前の背中に飛び付いてしまう。が……。
 ………………あれ……。
 すぐそこなのに、影も何もない……?

「うぇへへつかしゃくぅん、そんなに抱きついたら勃起しちゃうよぉ~」
「本当に気味はからかい甲斐がありますねぇ」

 こっ……こいつら他人事だと思って……!

「あ、ほら、本当にモヤを抜けるよ。ツカサ君、しっかり僕に捕まっててね。うっかり下に落ちたら幹に攻撃したと思われるかも知れないから」
「ぐっ……」
「冗談はこのくらいにして、そろそろ真面目にやりましょうか。耳孔が無いと言っても、口は洞なのでそこから振動を察知している可能性も有るので、モヤを抜けたら幹に響くような絶叫や悲鳴も控えて下さいね」

 誰が叫ばせたと思っとんじゃ誰が!

 今度と言う今度は俺が眼鏡をへし折ってやろうかと思ったが、返り討ちに遭うだけなので涙を呑むことしか出来ないのが悔しい。
 チクショウ、後で仕返ししてやる。なんか、こう、アドニスがぎゃふんと言うような事を……いやコイツがそんな事を言う所が想像できなさすぎる。

 アドニスに対しての復讐の難しさに頭を悩ませているうちに、ブラックの背中にセミのようにしがみ付いたままモヤを抜けてしまった。
 わああっ、脅かしだけだったとはいえ、説明されたカタチからするとかなり不気味な感じだったしマジでお会いしたくない。

 一体どういう感じで浮いてるんだ、と思って恐る恐る背中の向こうを覗くと。

「…………ん?」

 モヤが薄くなり、晴れて来た殺風景な広場の向こう。
 右手に巨大な幹がなければ、大樹に巻きついた幹だか蔓だか判らない巨大な植物に乗っている事すら忘れてしまう広い空間に――――なにかが、複数見えた。

「あれです」
「……なるほど、確かに奇妙だな……」

 ブラックが呟いて数歩進んで立ち止まる。
 思わず停まってしまうのも仕方がない事だった。

 だって……モヤが晴れた事でハッキリ見えるようになった先の風景は……言葉を失ってしまうくらいに、奇怪だったからだ。

「ひぇ……」

 ブラックの肩越しに見えたのは、空中に浮かぶ幾つかの物体。
 それぞれ地面すれすれだったり1メートルほど浮いていたり様々だけど、どれも一つの場所に留まらず、水の上の木の葉みたいにゆったり動いていた。

 でも、それらは木の葉なんて可愛いものじゃない。
 その姿は、さながら……。

「す、水死体……」
「いや、アレは空に浮かんでるから空死体なんじゃないかな」
「バカな言葉遊びをしてないで行きましょう。喋っても構いませんが、さっき言った事を忘れないようにしてくださいね」

 アドニスが冷静なので、何とか俺も叫ばずにいられるが……もし俺一人だったら、やっぱりオバケかと思って思いっきり走ってしまうかもしれない。
 そうしたら、恐らく俺はここでゲームオーバーだったんだろう。

 俺は慎重にブラックの背中から離れると、しっかり地面いや幹を踏みしめた。

「ツカサ君、僕の服掴んでても良いんだよお」
「ぐ、ぐぬぬ……」

 しかし悔しいもののその申し出には従わざるを得ない。
 俺は恥を忍びつつ、ブラックの服の裾を摘まんで恐怖に備えた。
 …………べ、別に今は怖くないぞ。怖くないけど、イザって時にしょんべんをチビるレベルの衝撃が来たら動揺しそうだから、そうならないように先に掴んでるだけなんだからな。決して今は怖くないんだからな!!

 そんなことを自分に言い聞かせつつ、俺はブラックと一緒に“人族の様な形の樹木の群れ”に近付く。息を殺さなくても良いと言う話だったけど……でも、万が一があるんじゃないかと思ってつい息を止めてしまう。

 つい服の裾を掴む手も力が入ってしまい、とにかくアドニスの言うように地面の幹を踏みしめないよう気を付けながら近付いて行く。
 ……うう、やっぱり近付いたら余計に怖い。

 ヒトの形をしてうつ伏せに浮かんでいる木々は、本当にマネキンのような感じだ。
 ただ、手や足の部分は上手く模倣出来ていないみたいで、乱雑に木の根が生えて「手のようにも見える根っこ」という感じになっている。足も同様で、膝から下の部分は完全に引っこ抜かれた木という感じになっていた。

 でも、その代わりに顔の造形はかなりこだわっている。
 体毛は無くてつるつるのマネキンだけど、彫りの深さや目の形、鼻は完璧だし個体差も有るみたいだった。瞳として嵌めこまれた半透明の綺麗な樹液が本物の瞳にも見えて、そこはリアルとしか言いようが無かった。

 けど、その代わり口はかなり雑だ。
 アドニスが言ったように、木の洞をムリヤリ嵌めこんだみたいになっていて、そこの雑さが余計に怖さを引き立てていた。
 こ、怖すぎる……マネキンよりも恐ろしいんだが……。

「……本当に動かないな。生命反応もないみたいだが、何だってこんな風に不気味な形にする必要があるんだ。警備用にしても、地面を踏みしめる事にしか反応しないってのは、やっぱりおかしいと思うんだが」

 ブラックはかなり近い距離で樹木マネキンを観察するが、やはり相手は反応する事すらしない。ロクちゃんが周りを飛び回っていても当然無反応だ。
 ……危険が無いってのはホントのことなんだろうか?

 危険には人一倍敏感なブラックがこんな事をしてるんだから、俺もちょっとは警戒を緩めてもいいのかな。

 裾から手を離して、ぷかぷか浮かんでいる樹木に近付いてみる。

「うう、やっぱり不気味……」

 どこから見ても怖い。
 この場所の静けさとヒンヤリした冷たさも相まってゾワゾワしてくる。

 じっと見てたら夢に見そうだ。……や、やっぱりブラックの所に戻ろう。
 そう思いながら、踵を返そうとした。

「オ゛」
「…………え?」

 な、なんか、声みたいなものが聞こえたんだが。
 …………い……いやまさか、そんな。えーと、アレ、アレだよな。たぶんこれは、俺の腹の音だ。もしくは胃が動いたんだ。きっとそういう音のはず。

 だから気にしないように……。

「オ゛、オオ、オ」
「やっぱり声出てるッ、っていうか動いてるううう!!」

 うわあああああ!!
 こっち見てるこっち見てる怖いのがこっち見てるううう!!

 逃げなきゃ、に、逃げなきゃいけない。でも動けない、こ、怖すぎて足が竦んでしまったんだ。どうしよう。
 慌てて助けを求めようと体を反転させた。その、刹那。

「オオォオオ」
「ぎゃああああ!!」
「えっ!? つ、ツカサ君?!」

 ちょっ、なっ、何なにこれ何っ、体が動かないんですけど、なんか背後から掴まれたんですけどおおお!!
 怖くて後ろが見れない、っていうか俺の手首に何か巻き付いてるんですが、木の枝みたいなのが巻き付いてるんですがああああ!!












※ちょっと中途半端になっちゃった(´∵`)
 今日は朝に更新できてヨカタ…!
 
 しばらく更新時間が乱れに乱れまくりますが(主に疲れ)
 ご了承いただけると嬉しい…。゚(゚´ω`゚)゚。 
 更新は休まずに頑張りますよー!

 
感想 1,277

あなたにおすすめの小説

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。