異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編

27.番人と恒久の大樹1

 
 
 淡いクリーム色の様な光で溢れた空間は、不思議と眩しく感じない。
 それどころか、なんだか温かくて心地いい感じだ。

 これは……なんというか、夢の中の空間みたいだな。
 中心が白く光るホワホワした光が降って来るし、周囲には何も見えないしで、入口を閉じちゃったらこの空間がどれくらい広いのかも分からない。
 その何もかもが曖昧な感じが、非現実的な空間であることを強調している。

 あと……樹木人間にお姫様抱っこされているせいで、余計に浮遊感を感じちゃって現実感が無いというのもあるな。

 にしても、どこに連れて行く気なんだろうか。
 そんなことを思っていると、急に下から風が吹き始めた。

「うおっ」
「これは……下降しているんですかね」

 ブラックもアドニスも何か感じているのか、周囲を見回している。
 確かに、温かい春の風のようなものが下から髪を持ち上げているが、俺は抱えられているからか浮遊感は感じないな。

 本当に動いているんだろうかと思っていると、風が止んだ。

「オォオオ……」

 樹木人間は、目的があるように再び歩き出す。
 どうしたんだろうかと思っていると、正面の方にこの世界とは違う色が見えた。

 あれは出口だろうか……。
 今の所、俺達を排除しようと言う感じはしないけど、この木がやりたいことが何なのか全く分からない。

 なんだかモヤモヤしながらも樹木人間がなすがままに「出口」を潜ると……――

「ここって……」
「……医院の待合室……ですかね?」

 アドニスのセリフが若干疑問調だが、無理もない。
 だって俺達が連れて来られたのは、とても小さな待合室だったのだから。

「なんか、こじんまりとしてて可愛いな……」

 アドニスが待合室と言ったのは間違いなさそうで、六畳間の部屋が横にちょびっとだけ伸びたくらいの部屋には横三列の椅子があり、窓口の様なものが壁にある。
 窓口の横のドアには、この世界の文字とも少し違う文字が刻まれた木製のプレートが掛けられていた。

「個人がやっている医院か何かみたいだな。……椅子も机も劣化してないし、窓口の向こう側も僕達が知ってる医院みたいだ。それに……向こうに何かいるな」
「えっ、な、なになに誰」

 ブラックに言われて慌てて窓口の向こうを覗くと、確かにそこには何かが居た。
 お医者さんが座る椅子に座って、ぼんやりと黙っている。
 だが俺達に気が付いたのか、ゆらりと立ち上がってドアを開けた。

「ドゾ。お待チしておりもすた」

 俺達を迎え入れたのは……なんと、驚いた事に……巨大なモグラだった。

 ………………。
 うん、モグラ。茶色いもふもふの毛に覆われた、動物らしい耳が無くて鼻筋が長いその姿は、まさしくモグラとしか言いようが無かった。

 つぶらな瞳と、ピンクな鼻先やおヒゲが多い感じもまさしくだな。可愛い。
 でも、大きさは人間並みだ。なんなら白衣も着てるぞ。

「お前は何だ?」

 思わず問いかけるブラックに、モグラさんはモヒモヒと鼻を動かす。

「モグは、この樹とごすずんらのお世話するモグもす。おずさんは、ごすずんの新しいお客さんもす?」
「えーと……じゃあ、つまりは【全知全能の世界樹】の番人みたいなもの?」

 問いかけると、モグラいやモグさんはこくりと頷いた。
 だけど、樹木人間に抱えられている俺に気付いたのか、本来なら土の中の物事を推し測るためのヒゲだらけの鼻を近づけてくる。
 猫や犬のヒゲと同じだけど、かなり量が多いから触ったらくすぐったそうだな。

 そんな事を考えていると、モグさんは首を傾げた。

「ムム? ごすずんは、また胸が縮みますたか?」
「ん? なんて?」

 胸が縮んだってどういうこっちゃ。
 意味が分からなくて目を瞬かせると、モグさんはつぶらな瞳をパチパチさせた。

「ごすずんの一大事もす! 診察するもす!」

 鼻を動かしながら、モグさんは急いで診察室に入る。
 すると、植物人間も続いて俺を椅子に座らせた。
 どういうことか意味が分からなくて戸惑っていると、植物人間は俺のシャツを豪快にまくり上げる。おいおいおい何してんだお前は!

「もすっ。ごすずん大変もす、ごすずんまたごすずんの気が少なくなってもす! ボスずんとちむちむするのもいい加減にするもす!」
「いやそもそも僕らお前と初対面なんだが?」
「あとちむちむってなんですか」

 お前が気になるのはそこなのかアドニス。
 俺もつい変な所にツッコミを入れてしまったが、指摘されてモグさんはようやく何かに気が付いたのか、改めて俺達を見ると、モヒモヒと鼻を動かして椅子からピョンと飛び上がった。

「もっ、もす!? ごすずんと似てるけど、ごすずんでないもす!? じゃあこの曜気はごすずんのではなくて……んん……そっちのおずさんもす……?」

 なるほど「ご主人」は「ごすずん」で「おずさん」は「おじさん」か。
 つまり、モグさんは今まで俺に付着したブラックの曜気を俺の者だと勘違いして、俺を「ごすずん」と勘違いしていたらしい。

 モグラは土の中の生物なので目が悪いというけど、そのせいなんだろうか?

 ブラックの曜気だと気付いたのは鼻……いやヒゲを動かしたからだし、もしかしたらモグさんはヒゲによって曜気を判別できるのかも知れない。

「えーと……俺達は世界樹に教えて欲しいことが有ってやって来たので、モグさんのご主人様とは違う人族なんですよ」
「もすぅ……そすたら、ごすずんは胸が縮んだわけじゃなくて、もともと胸が小さいメスなのもすな。そしてごすずんではないもす」

 そうそう、すぐに分かってくれて助かったよ。
 けど、似てるってどういう事だろう。
 やっぱりこの世界樹を創った人は、俺達と同じ【黒曜の使者】と【グリモア】だったんだろうか。間違えるとしたら、そういう事でしかないよな。

 ブラックもそう思っていたのか、核心を突くようにモグさんに問いかけた。

「僕達は“次の”グリモアと黒曜の使者だと言えば分かるか」

 そう言うと、モグさんはつぶらな黒い目を更に丸くする。
 よほど驚いたのだろうか。三分くらい硬直していたが、ようやく状況が呑み込めたのか、息を吐いて俺達を改めて見つめて来た。

「そうもすか……。ごすずんが昔言ってたもす……いつか、ごすずんの跡を継ぐしとが現れるって言ってもすた。そすたら……ここの外は、だいぶ時間が経ってしまってたんもすね……」

 さすがにショックだったのか、ヒゲがしょぼんと垂れ下がっている。
 きっと、モグさんのご主人様――世界樹を創ったリーザン・トルテスフィアという女性は、番人であるモグさんに色々と教えていたのだろう。

 モグさんの様子からすると、代替わりする事も伝えていたのかも知れない。
 だけど、ここに番人として常駐しているモグさんからすれば、外が何百年経過したのかも分からないはずだ。だから、理解していてもショックを受けてしまったのだろう。

 無理もないよな……。だって、リーザンって人はモグさんにとってお母さんも同然の存在のはずだ。
 そんな人がもうこの世に居ないとなったら、そういう反応にもなるだろう。
 冷静に理解してはいるけど、悲しく思っているに違いない。

 もう少し柔らかく伝えた方が良かっただろうか、と心配になったが、モグさんは頭を振ると、気を取り直すかのようにムンと気合いを入れて見せた。

「覚悟はしてもすた! しとがココに来たのはだいぶ昔で、ついうっかりボケてもしたが、もすは世界樹の案内人兼番人もす! 新しいごすずん、なんでも命令して欲しいもす! がんばるもす!」

 な、なんという健気なモグラさんだ……。
 この健気さと可愛さは、ロクショウやペコリア達に通じるものがある。
 本当にもう、どうしてこの世界の動物っぽい子らは可愛いんだろう。

 つい抱き締めてしまいたくなったが、さすがにそれは失礼かと思いぐっとこらえた。
 とりあえず、モグさんが協力してくれそうなのは良かった。
 だったら、この際出し色々と聞いてみるか。

「じゃあモグさん、えーと……俺達はそもそもなんでここに連れて来られたのかな? 世界樹に用事がある人は、全員ここに通されるもんなの?」

 そう、まずはソレだ。
 外で待っている樹木人間は、どうして俺をここに連れて来たのだろうか。

 世界樹を理解する前に、まずそこを聞いておきたい。
 モグさんの最初の様子では、どうも俺を「リーザン」と間違えてたみたいだし……何が勘違いの元になったのかも聴いておきたいよな。
 そこがハッキリすれば、リーザンが【グリモア】かどうかも確定になるだろうし。

 俺のそういう思惑がこもった質問に、モグさんは鼻先を動かす。

「んー、そういうワケではないもす。たぶん、タンコロリン達は、新しいごすずんのことを、昔のごすずんと勘違いしたもす。ごすずんは、いつもボスずんと一緒だったもす。だから、この中でメスだった新しいごすずんを昔のごすずんと思ったのす」
「なるほど……リーザン・トルテスフィアは女性という話でしたしね」
「もす。ボスずんは、ごすずんの夫でボスもす。ごすずんがこの世界樹を創るために、ボスずんがオスの曜気いっぱい渡したもす。だから新しいごすずんの中にオスの気が入ってるのをタンコロリンは勘違いしたもす」
「あいつらタンコロリンって言うのか……」

 ブラックは別の事を気にしていたようだ。
 タンコロリン……なんか聞いた事のある名前だな。木の妖怪にそんな名前のものが居たような気がする……って重要なのはそこじゃなくて。

 モグさんが言う「ボスずん」っていうのは、恐らく【黒曜の使者】だよな。
 だとすると、やっぱり彼女は【グリモア】で……俺と同じく異世界から来たその男性と一緒に、旅をしていたって事か。

 で、ここに辿り着いて巨大チョウチンアンコウを倒し、知識を残すために夫である【黒曜の使者】の男性の曜気を使って、世界樹を創った……と。

 …………そうか、ソイツは女性と結ばれたのか……。
 何故か暗澹たる気持ちに成ったが、過去の人間を羨んでも仕方ない。

 というかこういう思考になるとブラックに読まれてまた変な事をされるので、さっさと捨てて置いて。……ともかく、そうだとすれば俺達の事を勘違いしたのも納得だし、彼女が強力な力を使えたのも不思議じゃないな。
 にしても、メスの曜術師だったんだなリーザンさんって。
 【グリモア】になるほどの力を持っていたみたいだけど……まさか、残りの六人も女でありメスだなんてことはないよな。

 おいおい、ハーレムはもうキュウマの話でお腹いっぱいだぞ。

「なるほど……【グリモア】には恒久的な物体を創造する力など無いと思っていましたが、【黒曜の使者】の手助けが有れば充分可能だったわけですね。これで、ツカサ君のような名前ではない存在が世界樹を創れた謎が解けましたよ」
「あの木がツカサ君を連れて来たこともな。……でも、胸が萎んだのの何が異常って言うんだ? というか老女でもない女の胸が縮むなんてことあるのか?」
「だからもすも驚いたもす。ごすずんは、ボスずんに揉まれておっきくなったって喜んでたもす。だから、一大事だと思ったもす……タンコロリンは、もすの意志を少しだけ共有できるから、たぶん同じこと思ってたもす……。勘違いしてはずかしいもす」

 あ……なんか効きたくない。物凄く聞きたくない。
 まあ確かにそういう話ってよく聞くよな。女の子の胸は揉まれてデカくなるとかいう。
 そうか、揉んだのか。揉みやがったのか昔のハーレム野郎は……。

 揉まれてデカくなったと思うくらいイチャイチャしまくってたし、それをモグさん達も知ってたから、俺をリーザンさんと勘違いしていた時に「あれ、胸が萎んでるぞ」とか思って、俺の胸を執拗に触りまくってたんだな。
 んで、その萎み具合が異常事態だからモグさんの所に連れて来た……と……。

 …………そうか……萎むなんてありえないくらい、デカくなってたんだな。
 そんくらい、異世界の男はリーザンさんとイチャついてた、と……。

「ツカサ君、鬼みたいな顔してるよ」
「異世界の男性でも、妬ましい時はこういう顔になるんですねえ」

 でえい煩いおっさんどもっ、シャラップ!!

 ああもう話を聞いてたら見知らぬ野郎に殺意を覚えそうだ。
 っていうか、こんな事をしてる場合じゃないだろう。落ち着け俺。この場所に来たのは嫉妬するためじゃなくて、知識を得るためだったはず。

 今は、ラスコーさんの薬に必要な材料を探さなければ。
 せっかく一日で一気に情報源まで近付いたんだから、ここでモダモダしているヒマなんてないよな。モグさんに協力して貰って早く世界樹に助言して貰わねば。
 気持ちを切り替えると、俺はモグさんに向き直った。

「それでモグさん、世界樹にはどうやって教えを請えばいいんですか? 俺達、知りたいことが有ってここまで来たんですよ」

 そう言うと、モグさんはコクコクと頷いて立ち上がった。

「新しいごすずんを案内するもす! 久しぶりに外からしとが来たから、びっくりしてもしたが……番人として、立派に御役目を果たしもす!」

 フンフンと気合いの入った鼻息を漏らしつつ、モグさんは「付いて来て」と診察室を出る。歩いて行けるってことは、やっぱりここは最下層に近いんだろうか。
 何にせよ、こんなに早く情報を貰えるなんてありがたい。

 ハーレム男には殺意を覚えてしまったが、まあここは水に流そう。
 ソイツのお蔭で、俺達の用事も早く解決するかもしれないんだもんな。

 胸を触られたのも怪我の功名だと思っておこう。
 乳首を弄り回したブラックは後でお仕置きすることにするが。

「ツカサ君? なんかヤなこと考えてない?」
「さてな……」
「ええ~!? ツカサ君なになに、なんで怒ってるのー!?」

 逆にお前はなんで俺が怒って無いと思ってんだよ!!

 しかしここで答えたらまた丸め込まれる気がするので絶対に言わないぞ。
 今度と言う今度は許さないんだからな。いつもと逆だが、今度は俺がお仕置きする番なんだからな! 覚悟しておけブラックめ!

 そうだ、ついでが許されるなら、世界樹に口が達者で頭が良いオッサンをこらしめる方法がないか聞けないだろうか。
 全知全能と言うなら、それくらいはきっと答えてくれるはず……。

「なんだか新しいごすずんもむかしのごすずんと似てもすなあ」

 モグさんがそう言うが、リーザンさんも振り回される側だったんだろうか。
 だとしたらなんか余計にムカツクな。
 もしそのハーレム男の正体が分かる時が来たら、サンドバッグに名前を貼り付けてやろう。そのくらいの事は許されるはずだ。

 そんな男として情けないことをやってやろうと強く決心しつつ、俺はモグさんの案内に従って小さな診察所から外へ出たのだった。












※もぐらもかわいい…( ˘ω˘ )

 時間通りにしたかったけど無理じゃった…
 でも深夜なのでギリギリセーフかもしれない…
 修正ちょこちょこ進めてまいります!
 やっと体調も回復しはじめたので(;´Д`)

 
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