異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編

28.心なきものとて命が在るならば

 
 
 ――――あれ。どこだろう、ここ。

 頭を動かして周囲を見やるが、明らかにさっきまで居た場所とは違う。
 キュウマが居るような真っ白な空間……というだけではなく、俺を囲むように緑色に光る何本もの線が走っている。

 かなり離れた場所から囲っているので圧迫感は無いけど、なんだかデジタルチックな感じで光はチラついていて、それぞれが所々途切れているようだった。

 なんというか……アレだ、サイバーとかエスエフとか、電脳世界とかってのが題材のアニメで見るような感じだな。
 縦に重なって回っている線はクルクル回っているが、何を表しているんだろう。

 近付いて確認してみたい気もするが、近付いて変な事になったら怖い。
 どうしたもんかとキョロキョロ目を動かしていると――前方が急にチラつき出した。

 まるで、ブロックノイズみたいに四角いドットが様々な色で現れては消えていく。
 だがそれは留まる事無くあらわれ続け、やがて俺の前で人の形のように収束すると……そこから、一人の女性が現れた。

 えっ。
 女性っ!?

「っ……!? あっ、え、えっと君は……!?」

 驚いて思わずまじまじと見てしまい、自分の行動に恥ずかしくなる。
 だが無理もないだろう。まさかそんな方法で女の人が現れるなんて思ってもみなかったし、そもそも予想外なんだもの。

 申し訳ないと思いつつも、俺は再度彼女がどういう人か確かめてしまった。

 ――――左側に長い髪を流した、アシンメトリーの短い髪型。
 だけどボーイッシュと言う感じでは無くて、知的でクールな女性って感じだ。

 髪型の通り彼女は顔立ちも涼やかで、俺より少し年上にくらいの年齢に思えるが、その落ち着いた雰囲気は賢者とでも言いたくなる感じだった。

 そう、賢者……。ってことはもしかして、この人がリーザンって人……!?

 きっとクール美人だろうと妄想してはいたけど……俺の想像以上に美人だな。
 知的で伏し目がちな目は少し幼げな感じを思わせる大きさで、睫毛も長い。服装が神族の女神官って感じだからなのか、何だか神秘的だ。

 小枝のように小さく枝分かれした装飾を持つ金の髪飾りは、彼女が世界樹の番人であると無意識に感じさせるほど精緻で……なんかもう、全体的にキラキラしているように見えるな。これは一目ぼれもやむなし……っていやいや。

 俺は何も考えてない。考えてないからなブラック!!

『……私は全知全能の世界樹、ラシル。検索機構の実行において前例のない異常が検出されましたので、使用者の意識に介入しています』
「ら、ラシルさん? リーザンさんじゃなく……?」

 思わず問いかけると、彼女は表情を変えずに俺を見た。

『それは私を想像した創造主の一人です。そして、人族の使用者に警戒されないよう私が姿を借りている人でもあります。』
「ってことは、姿はリーザンさんなんだ」
『はい。ですがもし貴方が獣人族であれば私は知識上の獣人族になったでしょう』

 こういう風に、とラシルが言うと、またブロックノイズが彼女を包んで膨張する。
 と――――俺の前に、クロウに良く似た褐色肌の熊獣人が現れた。

 おお……クロウと違ってサラサラの黒い髪だが、眼差しはなんとなく似ている。
 ラシルの知識上にある熊獣人の誰かなんだろうか?

 不思議に思っていると、再び姿がリーザンさんのものに戻った。

『御理解いただけましたか』
「要するに、貴方はあくまで世界樹であって姿とかは無いんですね」
『正確に言うと、内部機構の応答機能です。私自身に人格は存在しません。そして、姿を構築できているのはあくまでも貴方の力です。私自身には大地の気を変容する能力がありませんので、使用者の曜術師としての力に依存しているのです』

 ってことは、ラシルがリーザンさんの姿になれるのは俺の力ってことか……。
 これは【黒曜の使者】の力があるからかな?

 ともかく、リーザンさんの姿を見られる存在はそう多くないってことだろう。

「なんとなく理解しましたが……どうして出てきてくれたんですか?」
『それは、例のない異常を検知したからです。通常、検索結果が膨大な時は制限がかかるのですが、使用者の曜気が想定以上の数値だったため検索結果をそのまま反映させてしまいました。そのため、使用者が情報過多で失神したのです』
「そうだったのか……」
『この例のない異常を検知した時にのみ、実行される命令が在ります。使用者には少々負担をさせてしまいますが、恐らくは【黒曜の使者】であろう貴方には重要な事と創造者が明示していますので、引き続き実行してもよろしいでしょうか』

 【黒曜の使者】にとって重要な事?

 なんだろう……。でも、わざわざ【黒曜の使者】が使用しに来た時にだけ実行されるプログラムみたいな物を作ってるんだから、きっと重要な事だよな。
 俺で良いのかと少し不安になったけど、この場所を訪れることが出来る人間だってそう多くは無いんだ。

 俺には理解不能でも、神であるキュウマなら記憶していてくれるかもしれない。

 だったら、聞かないなんて選択肢は無いよな。
 俺は頷いて、ラシルの返答を待った。
 すると彼女は俺の肯定を理解したのか、ふっと目を閉じる。

『ご協力感謝します。……では、お手をどうぞ』
「えっ、あっ、ふぁっ、はいっ!」

 うう、思いっきりキモオタな返しをしてしまった。
 でも綺麗な女の人に手を出されて「どうぞ」って言われたら、ついどもっちゃうだろ。そもそも俺はモテない人生まっしぐらの男だったワケだし……。

 こんな美女の手に触れられるなんて、一生に一度あるかないかだ。
 でも、彼女は……っていうかリーザンさんは昔の『黒曜の使者』の妻……ぐぬぬ……どうしてこうも世の中ってのは不公平なのか。

 人妻であることでちょっと冷静になった俺は、彼女の手を取る。
 ひんやりとしていて……だけど、確かに人の手のような感じはしない。

 実態があるのに、なんだか空気が固まっているみたいに手ごたえが無いのだ。
 これも「本当の姿じゃない」からなんだろうな。
 そう考えていると、彼女がそっと俺の手を握った。

 はうっ……! か、感触は無いけどなんかドキドキしてしまうんだが……っ。

 つい緊張してしまう俺に、目を閉じてただ静かに俺の手を握っていたリーザン……いやラシルは、凛とした声でゆっくりと語り始めた。

『新しき【黒曜の使者】に、今この時よりこの“ラシル”の全ての知識を引き出す権限を与えます。以後、神の采配により知識が断たれようと、貴方が蓄積した知識は神々の目を逃れた世界樹に保存され、貴方の意志に従いましょう。この知識を貴方がどう使うのか、誰のために使うのか……。願わくば、善き人々の為でありますように』

 ――それが、我が創造主リーザン・トルテスフィアの願いです。

 ラシルがそう呟いた瞬間、金色の光で作られた文字が周囲に溢れだす。
 この世界で今使われているものではない、かつての文字だ。

 地面から湧き上がって空へ浮かんで行く文字を見上げていると、今度は戻ってくるように降ってきた金色の文字が俺の体に染みこんでくる。
 なんだか温かいような気もするけど……この文字は「知識」なのかな。

『使用者……いえ、新しき【黒曜の使者】に、もう一つお教えします』
「もう……一つ……?」

 思っても見ない言葉に目を瞬かせると、ラシルは薄ら目を開いた。
 金色の光を宿した瞳が、俺を見やる。

『世界樹の力は、あくまでも“貴方が確信を持っている情報”に対する知識を検索して結果を出す能力であり、推測や予測を出力することはできません。……それを踏まえたうえでの、貴方の能力をお借りした特別な演算での予測ですが……おそらく、それは既に貴方がご存じの薬のどれかだと思います』
「えっ……」
『これ以上私は貴方の力にはなれません。貴方に接続してこのような姿を取るのも、負担が大きすぎますので、今後こうして話す事は無いでしょう。……どうか、貴方が私の力を善きことのために使って下さることを願っています』

 淡々と、だけど伝えるべき事をしっかりと伝えるようにラシルは言う。
 このリーザンさんの姿も、この言葉も、きっとラシルという名の世界樹自身の言葉ではないのだろう。あくまでも、プログラムされた言葉を伝えているだけなのだ。

 だからこれは……リーザンさんが伝えたかった言葉なのかもしれない。

 一気にまくしたてられて、正直全部理解しているとは言い難いけど。
 でも……もしラシルが「新しい黒曜の使者」に権限を渡すことをずっと待っていたのだとしたら、俺には首を横に振る事など出来なかった。

 自分を産んでくれた人の願いを叶える使命があるのなら、例え心が無くたって自分の死力を尽くして果たそうとするだろう。
 ラシル自身は苦労という感覚すら感じていないのかも知れないが、でも、モグさんと一緒に数百年以上待ち続けていたと言うのなら、それは他人からすればいじらしいと感じずにはいられない。

 人間ってのは、五十年もずっと動いている古いジェットコースターにすら感情を寄せてしまう存在なのだ。独りよがりの感傷とは分かっているけど、でも……ラシルが己の創造主にそう頼まれていたのなら、受けてやるのが次代の俺の役目だろう。

 俺で良いと言うのなら、受け入れようじゃないか。

 でも、まあ、その……詳しい話は、ブラック達やキュウマに噛み砕いて貰わないと、よく分からないと思うけど……。

 そんな事を考えていると、ラシルがクスリと笑ったような気がした。

「え……ラシル?」
『貴方の中は不思議ですね。これが、喜びという感情でしょうか』
「…………」

 驚いている俺に、ラシルは顔を上げて俺の顔をじっと見つめる。
 その表情は、薄らと微笑んでいた。

『貴方が新しい【黒曜の使者】であることを、私は嬉しく思います』

 どこか嬉しそうな声。
 その声と共に、彼女の姿が薄くなっていく。

 彼女……いや、そもそも性別など存在しない、大樹のラシルの意識が消える。

 そう認識したと同時、俺の視界もまた白から黒へと塗り潰されていった。









 古めかしいローブを被った男が、岩場に屈んで海に手を浸している。

 本来ならば人の手には余る水だが、幸い岩場の水辺には大地から流れ出る水が混ざっており、男はその水を求めて手を浸していたのだ。
 しかし、その手に青く美しい水の曜気が宿っていたのは、誰も気付かないだろう。

 崖の下から密かに染み出た水を見分けた男は、その厳つく筋張った手で水からの情報を得ようとしていたのだ。

 ――水の曜術師は、本来ならば「水質や水脈を判断する」ために術を使う。

 だが、男の能力はその異質な能力すらも超えた「異端」だった。

「なるほど……。そういえば、耳長どもの集めた文献に載ってやがったな……この世のどこかに、神の伴侶が遺した“知識を蓄える世界樹”があるだのなんだのと」

 水辺から退き、適当に手を振って水気を飛ばす。
 そうしてローブから覗く口を不満げに曲げると、男はゆっくりと立ち上がった。

「馬鹿な事を言ってやがると思ったが……こんな所にあったとはな……。ククッ、あのクズども、たまには役に立つじゃねえか」

 人気のない岩場で密かに笑い、マントを翻し岩場から離れる。
 ……夕暮れの海辺は、モンスターを恐れてか街の人々の誰も近付こうとはしない。
 そんな事をするのは冒険者か警備兵、それとも命知らずのものくらいだ。

 だが、男はそのどれでもない。

 そんな自分を顧みる事も無く、男は街の頂上に見える建物を睨んだ。

「世界樹・ラシル……テメェなら確かに“答え”を教えてくれそうだ」

 まるで恨みを持つかのように憎々しげに見つめるその空色の瞳には、目的の大樹ではない別のものが映っていた。












※だいぶ遅れちゃいました…。゚(゚´ω`゚)゚。 もうしわけねえ…
 体調が思わしく無くて寝てたらめちゃくちゃ寝ちゃったのです…
 引き続き九月は乱れまくりなのでご了承ください_| ̄|○

 修正はちょこちょこ進めておりますです…!

 
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