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遠日幻望ユグドラシル、崩壊兆す瀑流の寇盗編
4.隠された庭1
「ツカサ君っ!」
「ツカサちゃん大丈夫かよ!?」
ずざざ、と後ろで二人が降りてきたような音が聞こえる。
恐らく上からは俺達が落ちた地点が見えていて、危険は無いと思ったのだろう。
しかし二人には俺達が見た“眼科に見える光景”までは確認できなかったらしく、俺達に近付いた所で、掛ける声が途切れた。
「これ、は……」
「え……これって……なん、スかね……神殿……?」
困惑するのも無理はない。
何故なら、俺達が今居る奇跡的な出っ張りの下には、数十メートルの巨大な穴が在り――そこには、もうほとんど土に埋まった建物の入り口があったのだから。
「神殿……にしては、ちょっとこじんまりしてる気もするけどね」
ブラックは崖になっているこのでっぱりから落ちないように下を見て、それから俺を抱え少し下がる。おい、俺がドジって落ちると思ってやがるなこのやろー。
いくら俺でもそんなドジはせんわいとご立腹しつつも、ペコリアと匍匐前進しつつ、再び高すぎる崖の下を覗いた。
「うう……さすがにこの高さはちょっと怖いな……」
「クゥ~……」
おなかをぺったりと地面にくっつけているペコリアは、先ほどの好奇心はどこへやらという様子で俺にぴったりとくっつく。可愛い。可愛すぎる。
つい意識が昇天しそうになるがグッと堪え、リオルが「神殿」と形容した建物の事をジッと観察してみた。
……確かに、アレは神殿に見える。
突然ぽっかりと口を開けた土の中の巨大な穴は、下を見ても底に辿り着けるような道がどこにもない。天井は土で完全に塞がってるし、底は不自然なほど円形の広場のように作られているのに、通路らしきものがどこにもないのだ。
ただ、壁の一部に神殿の入口の様なものがくっついているって感じで、そこ以外の壁には通路があった痕跡すら確認できない。
「この穴、完全に埋まってたみたいだね。とはいえ……こんな大穴があれば、地面も落ちると思うんだけどなあ。これはどういうことだろうね」
そう言われるとそうだな。
俺達が今まで立っていた場所の厚みを考えると、そこまで分厚くは無いはずだ。
となると、天井になっている地上は、誰かが上を通っただけで崩れる可能性がある。だけど、ここの穴の上の地面は全く崩れる様子が無い。
これはいくらなんでもおかしいよな。
もしかして、何らかの術が掛かっているってことなんだろうか?
それに、なんというか……奇妙な事に、全く光が差さない場所だというのに、穴の底の建物の入り口は、不思議とハッキリ見えているのが奇妙だ。
土にめり込んだ神殿の入口のようなモノは、まるで月光を反射しているように青白くぼんやりとした光に照らされているのに、その光源がどこにもない。
もちろん、俺の【ライト】程度じゃ自分の周囲を照らすので精いっぱいなのだ。
それなのにあんなにハッキリ見えるなんて……。
まるで、あの建物が自ら青い光を発しているみたいだ。
「……俺達は上の穴からの光でなんとか視界が確保できてるッスけど、あの穴の底は、高さからすると本来は見えないハズですよねえ。うーん……」
リオルが穴の底を見て、少し唸る。
すると、ややあって「うしっ」と何かを決心したように声を漏らした。
「ツカサちゃん、あの建物なんか気になるし……俺ちょっと見てくるわ」
「えっ、ちょっ、こ、ここ登るところないんだぞ!?」
「まあ見ててよ、妖精の本領発揮だって。あっ、ロクショウ先輩念のため頼んます」
「キュ~」
ああっ、ロクまで。
どうするつもりなんだと思っていると――リオルは、突然崖から飛び降りた。
「うわああ!?」
「ツカサ君大丈夫だって、アイツ妖精なんだから」
いやブラックお前そんなこと言ったって…………あれっ。
思わず驚いてしまったけど、リオルは落下する……どころか、まるで空中に階段があるかのように、軽い足取りで巨大な穴の底へと降りていく。
……って、そういやそうだったな。
リオルは魔族の妖精だし、召喚されてくる時も浮かんでたし、そりゃ飛べるか。
ちょっとホッとしてロクショウとリオルの動向を見守っていると、二人は下まで降りて周囲を細かく確認し始めた。
神殿っぽい青白い建物の中には入っていないけど、入口から中をじっと見て、それから不思議そうに腕を組んだり首を傾げたりしている。
何をそう不思議に思っているのかと気になっていると、二人は降りた時と同じように軽い足取りでポンポンと空中を昇ってくると、再び出っ張りに帰ってきた。
「戻りました~っと」
「何か分かったのか?」
ブラックの問いかけに、リオルは片眉を歪めて唸る。
「う~ん……。なんつーかアレ……なんスかね……」
「なんだ、急激に降下して頭が混乱してるのか? 殴って正気にしてやろうか」
「おバカ! 説明が難しいモノが中にあったのか?」
ブラックの厳つい肩を手でパァンして抑えつつリオルを見やる。
リオルがこんなに悩ましげに言いよどむと言うなら、そういうことだろう。
俺の予測は当たっていたのか、相手はロクと一緒にコクンと頷いた。
「なんつーか……近寄れないんスよねえ」
「近寄れない?」
「うん……アレたぶん、人族以外のモノは完全に遮断するような術が掛けられてるんじゃないかな~って。だから、俺とセンパイにゃ、あの建物の中が全っ然見えなくてなぁ……。術だってことは分かるけど、何の術なのかもよくわかんなくて……だから、正直近寄らない方が良いんじゃねえなかなって」
その言葉に、俺とブラックは顔を見合わせる。
人族以外のモノを遮断するって、どういうことだろう。
「中には入ろうとしたのか?」
ブラックに言われて、リオルは肯定する。
「けど、入れなかった。なんか……拒絶……ともなんか違うんスけど、やんわ~り、中に入らないでね~って断られて優しく手で押しやられるみたいな」
「キュ~。キュキュ~」
「クゥ~?」
ロクも同じ感じだったのか、ふよふよ~と不安定な感じで浮かびながらバックする。
なるほど、それは確かにおかしいなって感じになるよな。
ハッキリした拒絶ならまだ分かるけど、やんわり拒否されるってのは……結界とか、そういうものじゃないような気がする。
モンスターってのは本来は人族を襲う物なワケだし、もっと強く拒否するはず。
だとしたら……そんな柔らかい術でモンスターを排除するあの建物は何なんだ?
モンスターも魔族も寄せ付けたくない理由が、何かあるんだろうか。
「気にはなる、けど……なんだか嫌な気配がするね」
「え……」
ブラックの思っても見ない言葉に、思わず振り向く。
うすら明るい視界に映ったのは、何だか訝しむような、だけどなんとなく、少しだけだけど――――嫌がっているような雰囲気が、その横顔に見えた気がした。
「――――ん? ツカサ君どしたの」
「あ、いや……。嫌な気配って事は、入りたくない感じってこと?」
気のせいかな。
俺に振り向いたら、ブラックの顔から嫌がってる感じが消えた。いつもの、雄っぽさ満点の昔の外俳優みたいな外国人風の顔のクセに、普段はゆるゆるでよく表情が動く普通の顔だ。相変わらず無精髭で勿体無い顔だけど、いつもの顔……。
やっぱり、俺の見間違いだったっぽい。
気を取り直すと、俺は改めてブラックに問う。
嫌な気配と言っても色々あるからな。危険なガスとか危険な罠とかさ。
そんな俺の問いに、ブラックも少々悩むような様子を見せながら答えた。
「それが……いや、何でだろうね。……なんか、嫌な感じがしたんだよな」
「冒険者のカンってヤツっすか?」
「…………」
ブラックは、リオルの問いを無視する。
いや、無視と言うより答えられなかったと言うのが正しいだろうか。
なんだかいつものブラックの様子ではなくて、俺達はつい心配になってブラックの顔を見つめてしまうが、そんな俺達に気が付いたのか、ブラックはアハハとごまかすように笑うと、ヒラヒラと手を振って見せた。
「ま、まあ、あんまりアテにならないけどね。……とはいえ、変なものを見つけちゃったなぁ……。これが【空白の国】なら面倒臭いことになるぞ」
「そうなの?」
「一応、【空白の国】を発見したら報告する義務があるからね。もし遺跡だったら凄く面倒……いや、冒険者ギルドのある街に戻って報告しなきゃいけなくなる」
「人族ってそんな決まりがあるんスねえ。見つけたらソイツのもんでいいのに」
そういえばこの世界の魔族も「欲望第一主義」だっけ……。
普段はチャラつきながらも大人の男としての常識を見せているのに、こういう事に関しては、やっぱり魔族としての主義がちょっと出て来ちゃうんだなあ。
とはいえ、ホントに遺跡かどうかは確認しなきゃいけないってことか。
「俺達も下に降りてみる? 足場だったら俺が【グロウ・レイン】で作れるけど」
「そうだね……何にせよ、一度確かめなきゃダメそうだ」
ブラックの様子が心配だけど、確認しないとこれはこれで問題だからな。
【空白の国】にはスライムみたいなモンスターが徘徊していることが多いし、万が一這い出てきて【エスクレプ】の街に害を及ぼさないとも限らない。
そうなる前に、報連相はしっかりとしなきゃな。
……などとオトナなことを考えつつ、俺は【グロウ・レイン】を発動すべく集中した。
「迷宮の枝のように、螺旋を描き地の底まで崩れぬ道を伸ばせ……【グロウ・レイン】――――!」
緑の綺麗な光が両手に強く集まるようにイメージし、あの【ハイギエネ薬神院】の中にある【杯の棟】の光景を頭に思い浮かべながら穴に手を翳した。
すると、俺の詠唱に応え両手に集まった光が強く輝き、それらが穴の壁を伝うように螺旋となって降りていき――――光が通った場所から、次々に枝がメキメキと音を立てながら生えて、それぞれがまるで半分に切った丸太のように上部が平らに変化した。……おお……ちょっと便利になればいいかなと思ったけど、思った以上に階段ぽくなってしまった。
「ツカサ君……楽に移動することに余念がないねえ……」
「いっ。いや、こうしたほうが歩きやすいかなとおもっただけで……!」
「うんうん、ツカサちゃんの先輩がたへの愛が伝わってくるねぇ」
そ、そう。リオルそれだよ。ペコリアも降りやすく、モンスターが強襲しても大丈夫なように、緩い螺旋を描いて底へと降りるようにイメージしたのだ。
別に俺が落ちそうで怖いからしっかり安全性を考えたワケじゃないからな。
「と、ともかくこれで安全に降りられるだろ!? ほら、行こうぜ!」
「キュキュー!」
「クゥー!」
ごまかすような俺の言葉にブラックは溜息を吐いたが、聞いてない振りをしてさっさと下へ降りはじめた。
……うん、ちゃんとしっかり土の中にまで貫通しているのか、しっかり乗っても全然動かないな。ブラック達が同じ段に降りて来たが、全然揺るがない。
これならペコリアや藍鉄も安全に降りられるだろう。……いや、危ないかも知れないし、みんなを呼ぶのは後にしよう。
そんなことを思いつつ慎重に降り、数分かけてようやく俺達は底に到着した。
「…………ホントに不思議な建物だ……」
上から見ると大きさがよく分からなかったけど、穴の底に降りてようやくこの神殿のような建物がかなり大きい物だとわかった。
三角形の屋根を左右に立った柱がしっかり支えており、内部に入るための二、三段の短い階段が同じ材質のもので作られている。
その様子は、ギリシャにあるような神殿と確かに似ているような気がした。
とはいえ、三角形の屋根の正面には、色々な花が寄り集まったような独特な模様が彫り込まれており、柱にも百合らしき特徴的な花が彫られている。
全体的に青白い石材で造られているせいか、月の光に照らされた花園のようにも見えた。やっぱギリシャとかそういう感じじゃないよなあ、これ……。
「………………」
ちらりとブラックを横目で見やると、やっぱり何だか不機嫌そうな顔をしている。
嫌な雰囲気だと言っていたけど、近付いた事でその感覚がより強くなったんだろうか。だとすると、近付いてみようとは言い難いな。
……よし、俺が確かめてみるか。
ペコリアとロクショウにはここで待っているように目配せすると、慎重に神殿のような建物に近付く。
ぼんやりと光っている建物は、それほど威圧感は感じない。
入口は、普通の家程度の大きさでなんだかアンバランスだが、奥の方は暗くなっておりどうなっているのか見えず、ちょっと不気味な感じだった。
「ツカサ君……」
「まあちょっと待ってろって」
ブラックが近付いてこようとするが、後ろ手で制して階段に足をかける。
…………うん、やっぱり威圧感とか拒否されてる感じは無いな。
リオル達は近付けなかったけど、やっぱり人族は近付けるんだ。
だとしたら、多分危険は無いはず。
ブラックにも無理をさせたくないし、ここは俺がガツンと調査してやらないとな。
俺は漢気を全開にしながらそう思い、難なく短い階段をあがると、罠が無いか慎重に周囲を確かめつつ入口に辿り着いた。
そうして、ゆっくりと暗い中を覗く。
と、俺の目に入って来たのは。
「え…………ん? ……えぇ……?」
「ツカサ君なに、何か見えたの?」
ブラックが少し大きな声で遠くから問いかけてくる。
その声に我を取り戻し、俺は覗き込むのをやめると頭を掻いた。
「えーと……多分、なんだけど……」
「なにー?」
「……なんか、この中に……庭園がある……っぽい」
俺のその言葉に、ブラックとリオルは数秒固まったが、すぐに同時に大声を出した。
「ハァッ!?」
そ、そんなところで仲良くユニゾンしなくても。
とはいえ、その反応は御尤もすぎて俺は何も言えなかった。
→
※もう丸一日じゃん!!てなるくらい遅れちゃって申し訳ない_| ̄|○
体力もどった!と思ってたらもう仕事してたらすぐ疲れるね(´;ω;`)ウッ
まだちょっと後を引いてるっぽいのでもしかしたら
十月中乱れまくるかも知れませんが、更新見て下さると嬉しいです…!
いつもご支援や拍手やエールありがとうございます…!!。゚(゚´ω`゚)゚。
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