異世界日帰り漫遊記!

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遠日幻望ユグドラシル、崩壊兆す瀑流の寇盗編

11.殺してやりたいほどに1

 
 
「っ……!!」

 体が、一気に冷える。
 マズいと思ったけど、逃げようとしても体が動かない。たぶん、片腕で拘束されてるだけのはずなんだけど、全然腕が動かないんだ。
 がっちり抱え込まれていて、背中には何か硬い物が当たっている。

 ……呼吸をしているから、恐らく……俺を捕まえてるヤツの体だ。

 逃げたいけど、体にめいっぱい力を込めてもうんともすんとも言わない。……さすがに、これはおかしい。いくらこの世界の人達が怪力な性質とはいえ、ちょっとくらいは腕が由来だっていいはずだ。

 俺が弱ってるからってのもあるけど、でも、この腕力は尋常じゃない。
 まるで、ブラックやクロウのような力強さだ。ってことはこれ、冒険者とか武人とか、俺が絶対に適わないタイプの相手なんじゃ……。

 ひ……ひぃい……っ。
 どうしよう、丸腰で来るんじゃなかった。

 だ、だってあんな小さくて変なスライムを操ってる人なんて、武力行使とか大泥棒的な行動が出来る人じゃないのが普通だろ。
 自分じゃ難しいから、従魔みたいなものにやらせたのかと思ってたのに。

 なのに、こ、こんな怪力なんて詐欺だっ。絶対に詐欺だあっ!

「あ゛? なんだメスかよ……チッ、商売後の娼姫か? 色んなオスのニオイプンプンさせて歩いてんじゃねえよ。とんだメスブタだな」
「なっ……!!」

 ちょっ、な、なにそれ。
 してないけど、俺そんなことしてないけど!?

 あとメスブタってなんだよ! 俺はメスだけどメスじゃないからいいけど、そんなことを女の人に言うヤツは嫌われるんだからな!?

 ふざけるんじゃないと暴れようとしたが、やっぱり腕は動かない。それどころか地面から腕に吊り上げられてしまい、俺はグッと腕に体重がかかる姿勢に講義する声も出ず呻いてしまった。

 う、うぐっ……みぞおちの部分に腕が押し付けられて苦じい゛……っ。

「なに怒ってんだよ、喋ったら殺すっつったろうが。……一人じゃねえな……三人……立て続けに三人も相手にしたのかよ。小せぇナリして随分オスに媚びるのが上手じゃねえか。こんな場末の街に淫魔みてえな娼婦がいるとは驚きだ」
「……!?」

 さ、三人って……まさか、ブラックとアドニスとロサードってこと……?

 ……っていうか、待て。三人分ってどういうこと?
 まさかロサードやアドニスがブラックと同じことをしたとは思わないが、それならそれで俺を拘束している男の発言がおかしいことになる。

 えっと、あっ、でも待てよ。
 前にアドニスやキュウマが「オスとえっちすると、精液や唾液でオスの曜気がメスの中に流れ込んで、メスの曜気が押し流される」みたいなことを言ってたっけ。

 「気」が全てを構築する世界ならではの不可思議現象ではあるけど……それがもし本当なら、アドニスの診断と同じように感知できる人がいるってことだよな。
 例えば……水の曜術師である『医師』とか……。

「ん……でもお前、三人分を相手したメスにしては随分曜気が残ってるじゃねえか。元気な女だな……だから三人とヤれたのか?」

 ま、また酷い事を……。
 けど「曜気」に反応してるって事は……やっぱりこの人曜術師だ。

 たぶん、三人が触れた事で俺の体内にそれぞれの曜気が入り込んでしまった事で、この人は変な勘違いを起こしているんだろう。
 ……アドニスは俺に触って無いはずなのに、どうしてそんな事になっているのかが謎だけど……と、ともかく、これで勘違いの謎は解けたぞ。

 …………でも、解けたからってどうすりゃいいんだろう。

 一瞬真顔になってしまったが、思考停止で動きを止めた俺に背後の男がググッと体を密着させてきた。う、うわっ、体を前に曲げてるんだ。
 これもしかして顔を見ようとしてるのか!?

 相手が誰か分からないけど、悪い人には違いないんだろうし、素性を知られるのはちょっとヤバいよな……。

 この世界の人なら、暗がりの中でも夜目が効くだろう。顔を見られたら更にヤバい事になるに決まっている。ああでもこのままだと顔すら隠せない。
 こんなことになるなら両腕はホールドアップしておくんだったと悔やむが、横から男の呼吸が聞えて来たことに思わず息を呑んでしまう。

 う、うう、こっちからじゃ相手の事が全然見えない。
 辛うじて相手もローブのようなもので頭を覆っているのは解る。わかるんだけど、顔の輪郭もぼんやりとしか見えないんだ。夜目が効かない俺じゃ確認できない。

 どうしよう、完全に不利だ。
 こんなことなら鉄仮面でも被って来るんだったと思っていると――――俺の横顔が見える所まで頭を付き出した相手が「あ゛?」とヤクザみたいな声を出した。

「なんだこのローブ、術でもかかってんのか? 顔が見えねえじゃねえか」
「ひっ……。ぅ……や……やめてください……顔、みないで……」

 殺されるかもしれないが、言わないよりマシだ。
 そう思って、俺は出来るだけ弱々しく無害を装うように女の人っぽく呟いた。

 ……非常に恥ずかしいけど、でも相手が俺を女性だと思っているんだから、これは乗っかるしかない。なんとかこれで俺を取るに足らないと思ってくれないだろうか。
 そう必死に思っての言葉だったのだが……何故か相手は動揺したように呻くような声を漏らすと、すぐに顔を引っ込めた。

「……そ、そうか。そりゃ悪かったな。…………三人も相手した後なら、化粧も崩れて見られたくねえ顔だろうしよ」
「…………」

 どうしてもう俺が三人とえっちしたみたいな前提なんだろう。
 いやまあ誤解して遠慮してくれたんならいいんだけど……それなら、俺をもう離してくれないだろうか。しかしそれとこれとは別だったのか、男は俺に問いかけて来た。

「まあそれはどうでもいいか。……それよりお前、どっから付いてきた? まさか、あの商館の専属娼姫じゃねえだろうな。正直に喋らねえと殺すぞ」

 ひいっ。また低くて怖い声で脅してくるぅう!
 今度は喋らないと殺すとか本当にどうしようもない犯罪者のオッサンだ。
 うう…………あれ、でも、なんで俺オッサンだって思ったんだろう。

 低くて渋い声の若い男なんているわけだし、オッサンとは限らないよな。
 だけど……ああ、そうだ。やっぱり、俺この背後の男の声に聞き覚えがあるんだ。
 たぶん、似ているだけだと思うけど。でも……本当に、しばらくどこかで聞いていたような声に、すごく似ていて……。

「おい、殺されてもいいんだな?」
「んん゛っ! ぃ……言いま、す……っゲホッ。あの、おっ……じゃなくてわ、私はその、港を歩いてたら……変なもの、ごほっ、見つけたから……ぇほっ」
「…………」

 どうしよ、まだ喉が治って無くて掠れる以上に痛くて苦しい。
 これじゃマトモな言い訳もできないじゃないか。ううう、それもこれもブラックがっ。
 でも信用して貰えないとブラックをどつきにも戻れないしぃいいい。

「……ああもう良い、いいから喋るな聴くに耐えん」
「え゛……」
「喉を酷く傷付けてる女に喋らせるほど俺も鬼畜じゃねえよ。……とはいえ、お前の事をハイそうですかと返すほどお人好しでもないんでな」
「……?」

 どういうことだ。やっぱり殺すってこと?
 このひとさつじんのひと? こわい? こわいひと?

 再び一気に緊張が高まってきて思わず知能が限りなく下がってしまったが、そんな頭を慌てて正常に戻してどうにか逃げるべきだと持ち直す。
 だけど、以前として相手は俺を離してくれないし、この状態だと地面に足を付けて逃げる事すら出来ないし……なにより苦しい。

 俺が咳き込む原因の半分以上は背後のオッサンのせいなんだけど、これ以上どうする気なんだ。こ、殺……いや、落ち着け、落ち着け俺。
 俺だって修羅場は潜って来たじゃないか。タコ殴りにもされたし、腕も焼かれた。
 覚えてないけど、めちゃめちゃ高い所から落ちて一度死んだこともある死……。

 だ、だから……イザって時は、覚悟して刺されたり折られたりしても……。
 …………ああでも痛いのは痛いし怖いんだよおお!

 せ、せめて哀れに思って殺して貰えるようにしないと……っ。

「おい、勝手に人を悪人にして震えてんじゃねえよ。……別に殺しゃしねえよ。女を殺すなんて、寝覚めが悪りぃ。野郎なんざいくらでも殺してやるがよ」
「う、ぅう……」

 俺も一応野郎なんですけど……。
 でも言ったら更にヤバいことされるかな。
 ……いや、待てよ。このタイプの人だったら「テメェ! 女じゃねえの黙ってやがったんだな!? 殺す!」ってなりそう!!

 女なら殺さない人って、逆に言えば男絶対殺すマンじゃん。
 例え俺がヒョロくても関係ないだろうし、むしろ勘違いさせる紛らわしい真似をしたぶん怒りも二倍になる可能性がある。

 い、言おう。もう先に言っちまおう……引き延ばせば絶対ヤバいことになる……!

 今も俺を拘束し続けている腕の力強さに「どんな殺され方をしてしまうか」を想像し体が緊張してしまうが、しかしここでまごついているワケにもいかない。
 相手は男に容赦ない泥棒なんだ。
 死ぬなら死ぬで、覚悟を決めないと……っ。

「あっ、あの、俺ちが……っ」
「あ゛? ったく、喋るなっつったろ、喉ぶっ壊れてえのか」
「そうじゃなくっ……ぅエホッ、ゲホッ! だ、だから、ぉれ……っ、ぉ、とこ……っ」
「トコってなんだよ、お前が娼姫なのはもう知ってるっつったろ。顔は隠す癖に、こんな所丸出しにしやがって……こんな格好してりゃオス三匹簡単に釣れるだろうよ」
「ひあ゛っ!?」

 ぺちん、と左足を叩かれて思わず声が出る。
 掠れてしゃがれた、いつもの俺じゃないみたいな声が。

「靴すら持ってねえのに、いい肉付きしたメスだな。場末の娼姫ってのはそんなに服に金かけらんねえのか? ……よくわかんねえな」
「ぅ……あっ、待っ……! やっ……さわ、るの……っやめて……っ」

 冷たい空気に曝された丸出しの左足が、震えている。
 腰布のせいでほぼ丸出しになってしまったせいで、相手に視えちまってるんだ。体を浮かされてるせいでバタバタしたから、俺自身で足を露出させてしまったのか。

 なんてことをしたんだと自分をパンチしたくなるが、こうなってはもう遅い。

 必死に男の手から逃れてマントで隠そうと努力するけど、既に俺の足は発見されてしまったから逃げられるはずもない。
 ざらついてて、大きくて、ブラックの手みたいな皮の熱い手が、俺の足の、ふ、太腿の内側に……指でゆっくり、這い寄ってきて……。

「…………三匹ものオスの汚ねぇ曜気に穢されてるワリには、まだお前自身の曜気もかなり残ってるじゃねえか。……なんだ、しかも水……か? ……へぇ、こりゃあ、なんともおあつらえ向きだな」
「っ……んっ……! だっ……だから、やめっ……俺、お、おんな、じゃ……っ」

 い、いや、でも、女じゃないって、言ってる場合じゃないんじゃないのか。
 むしろ「娼姫じゃない」って言う方がいいんじゃないのか?

 だって俺、今、知らないオッサンに太腿触られてて、なんかどう考えてもこの先俺が解放して貰える感じがしない台詞を言われてるんだぞ。
 こんなの、俺が男だとバレたら更に殺意があがる可能性が……。

 と、一瞬余計な考えが脳裏をよぎって意識がよそへ行ってしまったと、同時。

「う゛あぁっ!?」

 股間に、大きな手が貼り付いたのを感じ、俺は悲鳴を上げてしまった。

「……おい、なんだよ。なんか変だと思ったら……お前男メスか? なんか体つきが女と違うとは思ったが……そうか、さっきから何か言いたげだったのはコレかよ」
「ん゛っ……!! っい、い、ぁ……や゛っ……ゲホッ、そ、ごっ、触、なぃ、で……っ」

 伝わった。思ったより怒ってない……けど、呆れてるみたいだ。
 殺され無さそうなのはホッとしたけど、でも、困る。触んな、触るなってば、頼むから、股間を全部手で覆ってソコ包むのやめて……っ!

「っはは、全部手で包めちまうちっちぇえ股間だな?」
「ぅ、う゛ぐっ……っ」

 手が、熱い。
 パンツ代わりのあの下着の記事が薄いせいで、いつもより人の手の感覚を強く感じてしまう。いつもの下着だったら、こんなに感じなかったのに。
 もう、触れる手の起伏や、指を合わせた所の溝まで、感じるみたいで。
 それくらい、まるで、直に当てられてるみたいで、こんなの……っ。

 うう……っ、い、いやだ。こんなのおかしい。なんか変だ。
 早く、早く離して貰わないと。逃げないと。

 そう思うけど、急所を握られていては逃げようもない。
 体を完全に拘束されて動けないのに、こんなことまでされたらもう。

 これじゃもう、どうしようもない……。

「…………お前を見てると……鬱憤をぶつけたくなるな」
「――っ!?」

 背後の声が、もっと、もっと低くなる。
 まるで、誰かを恨み憎むような声。「鬱憤」という言葉では済まされないような、確かな殺意を感じて俺の体がすくむ。

 だけど相手はそんな俺が面白かったんか、息だけで笑うと……フード越しの俺の耳に、その体を凍らせるような声を押しつけて来た。

「丁度いい。……おい、男メスのメスブタ娼姫さんよ。…………俺のために、お前が体に蓄えている曜気……絞って貰おうか?」

 絞っ…………。

 え……それ……どういう……。

「ぇ……あ……。あ゛っ……!?」

 ま、まさか、アンタこのまま俺の事……――――

「安心しな、金はちゃんと払ってやるよ」

 驚き動けない俺を当然のように無視しながら、男はそんな酷いことを言い捨てて。

 そうして……俺の意志など関係なく、指を動かし始めた。











※かなり遅れて申し訳ない…!_| ̄|○
 もう明日も更新日なので明日も更新しますね…!

 体調が戻っても仕事とか用事があるとやっぱり落ちますね……
 無理しないように頑張ります…!。゚(゚´ω`゚)゚。 
 いつも応援して下さって感謝です!!!

 
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