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遠日幻望ユグドラシル、崩壊兆す瀑流の寇盗編
17.だからちょっと遊ばせて?1
――俺も薬師として学ぶために【クレノボ】を探したい。
と、アドニスに宣言してから探し始めたのはいいのだが、これがまた中々思うように進めず……十分もすると、俺はほとほと困り果ててしまった。
なんで困っているかと言うと、進もうとするとタイミングよく周囲から悲鳴が聞こえて来たり、助けを求める声が飛んでくるからだ。
……どうやら、藪のようになった所や天然のトラップに引っかかってしまう学生は、俺達が考えていた以上に多かったらしい。
そんな事実に閉口してしまうが、しかし助けないわけにもいかない。
監督責任があるのだ。監督責任って正直よくわかんないけど、とにかくアドニスがストレスを俺に向けないようにするためにも、怒りの芽は摘んでおかねば。
ってなワケで、悲鳴が聞こえるたびに走り回っていたら、目的の野草を探すヒマもなくなってしまって……俺達はいつの間にか森の中で座り込んでしまっていた。
「はぁあ……も、もう悲鳴とか聞こえてこないよな……大丈夫だよな……?」
草の上に足を投げ出した俺が誰に向けるでもなく問うと、アドニスが周囲を軽く見回しながら、やれやれと言った様子で眼鏡を直す。
「一先ずは落ち着いたようですね。他の学生も、ようやく『無暗に草叢に入る行為は危険だ』と理解してくれたようです。……とはいえ【クレノボ】を見つけて温室の入り口まで戻ってきている者は未だいないようですが」
「まあ、危険な事になってなきゃ次第に戻ってくるんじゃないか?」
何も知らない俺でも“ちゃんと見れば”違いが分かるって話だから、それなら真面目な学生や【学術院】から転院してきたような人はすぐ分かるはず。
まだ一時間も経ってないだろうし、時間が経てば正解者も出てくるだろう。
うーむ、俺も早くそれっぽい野草を見つけたいな。
一番最初に教えて貰った場所に戻れたらいいんだけど、アドニスがそう優しくない事は俺も知っているからなぁ……。
ともかく、最初に見たあの野草を思い出しながら探してみるか。
よっこいせと立ち上がり、ズボンや膝の裏側にひっつく草をパンパンと落しつつ、俺は周辺の草をかき分けて例の野草を探してみた。
「さてさて、どこを探せばいいものやらっと……」
ざっと近くを見ても、コレって感じの植物は見当たらないな。
相変わらず鬱蒼としていて、ジャングルにありそうなデカい葉っぱの植物がもっさりと視界を覆っている。
せめてなにか、植物以外の特徴はないだろうか。
例えば……生えている場所とか。
例えばモギは日の当たる場所が好きだから草原に生えているし、反対にロエルは陰になった場所が好きみたいで、ちょっと見つけにくい場所に生えている。
植物って、結構そういう「環境による特徴」とかも重要なんだよな。
だから【クレノボ】にも、何かそういう特徴があるんじゃなかろうか。
と、考えて――俺は、あることを思い出した。
そういえば、助けを求める学生が居た場所は、どこも少し開けていて木々がまばらだったような気がする。
ちょうどそこだけ木々が避けていると言うか、ちょっとした休憩所のようになっていたのだ。それは、俺が最初に見た野草がある場所と同じ特徴だった。
――もしかして……アドニスは「採取しやすい場所」をわざと作って、目的の野草を置いているんじゃなかろうか?
考えてみれば、薬草採取に慣れていない学生達なんだから当然手加減はしてくれてるはずだよな。アドニスだって、ドSだけど人の心が分からないヤバい奴じゃないんだから、講師を引き受けた以上はしっかり「学習」させようと思っているだろう。
なら、案外俺の推測は正しいかも知れない。
そう思いつつ、しばらく座っていた場所を起点に周囲をがさがさ探っていると。
「おっ……! あった!」
「見つけましたか」
背後から聞こえるアドニスの声に頷き、俺は慎重に草木を掻き分けながら慎重に目的地へと近付いた。
やっぱり開けた場所の藪の中に、これみよがしに「なんか違うな」って野草が一本生えてるぞ。……なるほど、アドニスってば案外優しいところあるじゃん。
最初はこんなジャングルの中でどう探せば良いんだよって思ってたけど、採取とか全くやってない学生でも分かるようにしててくれるとか、やっぱりそれなりに人に何かを教える素質があるじゃないのさ。
いや、俺に言われてもって感じかもしれんが、こういう“分かる”と嬉しくなるような事をやってくれるのは、宝探しをしているみたいで楽しいし、良い事だと思う。
少なくとも、俺は勉強が苦手だから、アドニスの教え方はワリと好きだ。
自分で発見して理解するってのが楽しいんだよな!
……まあ、危険じゃ無ければ、だけども。
「ふーん? 随分甘っちょろいんだなぁ」
ブラックもアドニスの「手加減」に気が付いたのか、面白くなさそうに目を細めて隣の相手を見やる。けれど、アドニスはどこ吹く風って顔だ。
「学習、というからには“収穫”がなければ意味が無いでしょう? ただ無様に森の中で惑わせるだけなら、それこそ外に放り出せば済む話ですから」
そりゃそうだ。
でも意味のないものにしないあたり、やっぱりアドニスは隙が無いと思う。
俺も実りある学習になればいいなぁ、と思いつつ、【クレノボ】かも知れない柔らかで細い葉っぱが綿のようについている茎を目指して足を進めた。
もちろん、俺も落とし穴などに気を付けて、拾った枝で前方を突きながら。
「ここなら大丈夫か……な゛っ!? うわっ、穴じゃん!!」
ずぼ、といきなり枝が沈んだかと思うと、俺の目の前の地面が沈み込む。
盛大な音を立てて落ちたその場所には、かなり深い穴が開いていた。
うわ……こりゃうっかり踏み入れたら俺なんて埋まっちゃうぞ。
中は草だらけだから、よっぽど悪い落ち方じゃなかったら怪我はしないだろうけど。
「おいっ、罠は無いんじゃなかったのかよ! つーかテメェっ、あのバカどもの時の穴は偶然じゃなく完全に故意じゃねーか!! ツカサ君が怪我でもしたらどーすんだ、この鬼畜クソ眼鏡ッ!!」
「地形を強引に作った弊害で、意図しての物ではありませんよ。しかしまあ、こんなに深い穴になってしまったんですねえ」
ブラックの指摘を否定はしているものの、全然深刻そうじゃねえなこいつ。
もしかして本当にわざとなんじゃ……いや、深く考えるのはよそう。
「でもどうしようかな……こんだけ植物があるんだし、術で橋を作って渡るかな?」
ここでなら、植物を操れる【レイン】単独で橋を作れるかもしれない。
そう思ったのだが、背後からアドニスが「無理ですよ」と声をかけて来た。
「この密林は私の【グリモア】で発動していますから、普通に術を使っても私の曜気に負けて術が効かないんですよ。そもそも、森の植物のほとんどが私の曜術で形作られていますから、曜術は使えないと思ってください」
「あ……そっか、曜術って普通は乗っ取ったりとか出来ないんだよな」
獣人大陸での事だったかな、ブラックからそういう話を聞いた記憶があるぞ。
アレは確か、精神支配の術を受けた傭兵達の話になった時に、もし術による支配であればこちらの支配に書き換えられるって説明だったような。
そして、クロウがアクティー……【アルスノートリア】の土属性である【礪國】と対峙した時も、相手の土の曜術で出来た土壁を自分の術で呑み込むことで支配権を奪う事が出来るという話をしていた。
つまり、強い曜術で呑み込んでしまえば支配権を奪えるのだが――逆に言えば、相手よりもレベルが高い存在でなければ術を上書きすることは不可能なのだ。
ってことは、ヒヨッコ曜術師の俺の力じゃまずアドニスが創り出した植物を支配する事なんて不可能だし……学生達でも操れないって事だよな。
あっ、だからみんな何も出来ずに「助けて」って言ってパニックになってたのか!
当たり前に使える術が使えなかったら、そりゃみんな混乱するよな……そうか、今の今まで忘れていたけど、そんな理由があったから学生達はあんなに恐怖していたんだな……そりゃそうか、植物がこんなにあるのに術が使えないんだもんな。
言ってみれば、翼をもがれた鳥のようなものだ。
さぞかし恐怖しただろうことは想像に難くないが……じゃあ、俺も学生達と同じように術に頼らずどうにかするしかないのか。
「まあ、ツカサ君の【黒曜の使者】の力を使えば操る事も可能かもしれませんが……せっかくですから、自力で渡って見ませんか? これも薬師の修行の内ですよ」
「それもそうだな……んじゃ、月並みだけど蔓でロープでも作ってみるか」
曜術師である薬師が「術を使えない」という事態になる事は滅多にないだろうが、材料を探すあまり体力と精神力が尽きて……という事態も十分にあり得る。
その時に自力でどうにかするのも一人前の曜術師なんだよな。
……よし、俺もアドニスの助言に従って自分の力でやってみよう。
まあでも俺は元々曜術なんて使えない世界から来ているから、特に難しいような気はしないんだが……こういうのもたまにはいいかも!
「よーし、んじゃそこらへんの木から蔓を引っ張って……」
キョロキョロと蔓を探して、手ごろなものが木の枝に絡まっているのを見つける。
ジャンプしたら掴めないかと思い、近寄って軽く跳んでみるが……手を伸ばしても、全然届かないみたいだ。
木登りするべきかとも思ったのだが、生憎と樹にも色々な植物が覆い被さっており、適度に刈り取らないと登るのは難しそうだった。
しかし、他に俺の体重を乗っけられそうな太い蔓は見当たらない。藪の中だと、更に採取するのが面倒臭そうだし……ちょっと時間はかかるけど、丁寧に蔦や葉っぱを刈って登るしかないか。
そう思っていると、横からブラックが顔を覗き込んできた。
「ツカサ君、何か忘れてなーい?」
「ん? 何かってなんだよ」
「んも~。ほらほら、ここにいるじゃない! ツカサ君の頼りになっちゃう、とぉ~っても強くてカッコイイ婚・約・者がっ!」
何を言っているんだコイツは、と一瞬頭が真っ白になってしまったが、敢えてツッコミは口に出さずブラックを見返す。
確かに……ブラックに持ち上げて貰えば楽々蔓をゲットできるよな。
その状況を思うとだいぶ情けないが……まあ我慢すれば良いか。
「……じゃあ……ちょっと持ち上げてくれる?」
自分からねだるのは恥ずかしいが、この際背に腹は代えられない。
少々恥ずかしくなりつつもブラックを見上げると、相手はスケベオヤジ丸出しの顔でにへらと笑うと、俺に両腕を広げて見せた。
「いいよぉ~! おいでツカサ君っ」
「…………変な事すんなよ……」
「大丈夫大丈夫ぅ! ちゃんとしっかり持ち上げてあげるからっ」
……なんかアヤシイな……。
でもまあ、持ち上げるだけなら変な事も出来ない……よな?
こうやって問答していても恥ずかしいだけだし、さっさと手伝ってもらうか。
ブラックの広げた両腕の間に入ると、相手は俺の脇腹を掴んで軽々と上へあげてしまう。ぐうっ、なんでそうアンタは高校生を軽々持ち上げられるんだよ!
絶対に俺が軽いわけじゃないと思うんだが、やっぱりこれもこの世界の人間の力が成せる技なのか……いや、考えるとまた落ち込みそうだし、脇腹を掴まれているだけというのも指が食い込んで苦しいので、さっさと蔓を頂いてしまおう。
そう思い、先程よりも近くなった蔓を取ろうと手を伸ばしたのだが……届かない。
あと少し……というか、結構足りないみたいだ。
おかしいな、真下から見たら近そうに見えたんだが、結構束になって垂れ下がっているから、近いように見えちゃったのかな。
「届かない?」
「うん……結構足りないみたい……」
ブラックに聞かれて、俺は頷く。
これは俺の身長が足りないとかじゃなくて、単純に枝が高すぎるな。
そう思っていると、また不意に俺の体が上へ浮き上がった。
「じゃあ……こうしたら取れるかなっ」
ブラックの腕で更に高く掲げられた俺は、思わず何をしているんだと下を見る。
すると、ブラックはニタリと笑って――――俺の体を自分の方へ少し傾けると、突然顔をこっ……うえぇっ!? ちょっ、ば、バカっ、なに股間に顔を……っ!!
「ほらほらツカサ君暴れちゃダメだよ。ちゃんと僕の方に足をかけて」
「そっ、そこで喋るなあっ!! やだっちょっ、せめて肩車は後ろ……っ」
「おやおや、暴れると落下してしまいますよ」
「ぎゃああっ!?」
アドニスの声が背後から聞こえたと思った瞬間、しっ、尻にっ、尻に何かしっかりとした感触がっ、なんか尻がガッチリ固定されたんですけどお!?
いや、ま、待ってこれ、もしかしてアドニスの両手……っ。
「ほら、しっかり足を肩に乗せてくっついて」
「そうだよ、遠慮しなくていいから」
「~~~っ!! やだっ、やっ、あ゛っ、待って、そんな押さないでっく、くっついちゃうってば、顔にくっつくんだってば!」
なんとかブラックの顔に押し付けないように離れようとするが、背後から俺の両ケツを掴んでくるアドニスが許してくれない。
逃げようとすればするほど指を喰い込ませてブラックの顔の方へと押してくる。
何故こんな事をするのか分からなくて混乱するが、最早逃げる事も出来ない。
「ほらほらぁ、蔓を採りたいなら早くしなくちゃ。ねっ、ツカサ君っ」
「ん゛ぅっ!? だ、だめっ、頼む、からっ……喋んないでぇ……っ!」
半ズボンのせいで、ブラックの無精髭のチクチクとした感触や髪の毛のくすぐったさが直で伝わってくる。それだけでも恥ずかしいのに、股間の、い……いやなところに、ブラックの高い鼻が軽く当たって、突かれてるみたいに思えて……っ。
それだけでもつらいのに、ブラックが喋ると吐息や低い声が伝わってきて、変な所に低い声が響いて来て、一気に前進に鳥肌が立つ。
だけど、ブラックもアドニスも俺を離してくれなくて……。
「ほら、ツカサ君。せっかく君が落ちないようにしてあげてるんですから、しっかりと手を伸ばして蔓を取らないと」
「うぅうう……っ!」
なんで急にこんなことするんだよ。
バカ、ばかばかバカ変態オヤジスケベ眼鏡!!
お前ら絶対わざとだろ、わざとこんなことしようってずっと狙ってたんだろ!
つ、蔓を取ったらもう許さないからな、どつき回してやるんだからなあああ!
→
※めちゃめちゃ遅くなって申し訳ない…_| ̄|○
次回も月報を優先するので遅くなると思いますが
ご了承ください…!
代わりにド変態回なのでゆるして(許されるのか?)
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