異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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酔現嫌夢サプロアリコン、束の間揺蕩う憩いの村編

1.地獄の釜の蓋が開く

 
 
「……っと……」

 古くてボロボロになってしまっているお社の裏。

 いつもの場所に「出口」が開いた事を確認した俺は、空中に浮かんでいるその「出口」から慎重に飛び降り、草だらけの地面になんとか無事着地した。

「ふー……。今回は何とか無事に降りられたな」

 異世界ではともかく、こっちの世界ではケガをしたらすぐには治らないし、両親だけでなく友人達にも心配されてしまうのだ。慎重に慎重を重ねないといけない。
 俺は今一度自分の姿がおかしくない事を確認すると、お社の裏に隠していたバッグを肩に背負って、周囲をきょろきょろと見回した。

「にしても、結構な日数あっちに居たせいか、だいぶ遅くなっちゃったな……」

 もう既に周囲は薄暗くなっていて、鮮やかなはずの緑の色も暗く沈んでいる。まだ夏なのに、この暗さと言う事は……結構な時間が経っているはず。

 慌ててスマホを起動させると、もう六時も半ばを過ぎていた。
 げ……げぇっ、これは早く帰らないと母さんにカミナリ落されるぞ。

 俺は慌ててお社の角から顔を出し周囲に人がいないことを確認すると、急いで崩れかけの古い石段を慎重に、しかし出来るだけ素早く降りた。
 この【禍津神神社】には何度も訪れてるし、もうこの斜めったりへこんだり崩れたりしている石の階段には慣れっこだ。

 とはいえ、やっぱりスピードは出せず、段々と呼吸が苦しくなってくる。
 もう夕方だってのに、まだ空気が熱くてじめっとしてるんだ。

 気候が安定した常春の国に今まで居たせいか、一気に日本の蒸し暑い夏が半袖の腕や肺に襲い掛かってきて、俺はすっかり息を上げてしまった。

「は、ハァッ、はぁ……な、なんちゅう暑さだ……っ」

 階段を降り切ったけど、もうたまらん。
 さすがに休憩したくて一段目に座り込み、俺は深い息を吐いた。

 ――――アスファルトを舐めた生ぬるい風が、俺の所に届く。

 帰ってきて改めてわかるけど、やっぱり俺の故郷はだいぶ水分が多いと思う。乾燥しないのは良いんだけど、夏場は辛いんだよなあ……。
 それにしても、この湿気は尋常じゃない。夜に雨でも降るんだろうか。

 そう思いながら見上げる空には、いつの間にか分厚い雲が見え始めている。

 住宅街と小高い丘のような山に挟まれた空は、雲のせいなのかどす黒い赤色に染まっていて、とても気味が悪い。
 流れてくる分厚い雲も、なんだか黒くてスッキリした気持ちはしなかった。
 夏に限らず、空って時々ゾッとするくらい怖い色になるんだよな。

 父方の婆ちゃん家の田舎でも、こういう空を見た事がある。
 あそこは山の上だし空も広かったから、ガキの頃は余計にこういう色の空が怖かったんだよな。まるで何か悪い事が起こりそうな……ああそうだ、婆ちゃんが「地獄の釜の蓋が開いたような空」ってよく言ってたっけ。

 そのせいで俺の恐怖心が増してしまった気もするのだが、ま、まあ今の俺はオトナだし、全然怖くないけどな。これもキショーゲンショーってヤツだって知ってるからな!

「……うう、暑い……帰るか……」

 石段すら、昼の暑さに負けて未だにじりじりする熱を持っている。
 俺は尻を軽く叩くと、ゆっくりと家へ向かって歩き始めた。

「…………駅まで戻ってタクシー使って家に……とか、もう間に合わなさそうだな」

 スマホで見た時刻の上に表示されていた日付は、今日。
 つまりヒロと遊んだ日付のままだ。

 ――こちらの世界で一時間過ごすと、あちらの世界では一日ほど経過する。
 だが、それとは反対に、あちらの世界で一日過ごしても、こっちでは五分程度も経過していないことになっているのだ。

 キュウマが「そういう風になるように」調整してくれたらしいが、それでもあちらで濃すぎる数週間を過ごすと、今日の出来事が遠い昔のように思えてくる。

「今から駅は……もういいや。怒られ覚悟で徒歩で帰ろう」

 ……元々、今日は神社に行ってから、駅に戻ってタクシーで家に帰るっていう偽装工作をするつもりだったんだけど……なんだか、そんな気分じゃなくなってしまった。

 こちらの世界に戻ってくると、駅に着いた後、すぐに“あちらの世界”に跳んでしまった時の気持ちが生々しく蘇ってくる。
 今日はお昼からヒロと二人で遊んで、楽しく漫画も読んで、電車で帰って作戦通りにやるはずだったんだ。でも俺は、電車で物凄く自己嫌悪に陥ることになってしまった。

 ひ、ヒロは、そんな気持ちじゃ無かったのに……ヒロの足にぐいぐい股間を押されて、電車の揺れのせいで妙な動きで刺激されて、独りよがりに感じてしまったのだ。
 ……別に、ヒロにはそんな気持ち微塵も抱いていなかったにも関わらず……。

「いやもう、ホント俺マジでヤバいよ……」

 いくらブラックに色々されて体が敏感になってたからとはいえ、あの時の気まずさや自分の恥ずかしさを思い出すと、もう居た堪れなくて……ヒロにも母さんに会わせる顔が無くて、神社に逃げ込んでしまったのだ。

 自制しよう、頑張ろう、とは思ったものの、いざ帰ってくると気持ちが萎んでしまう。
 アッチじゃ色々ありすぎてそれどころじゃなくて、自分でも性欲を制御できているのか否か分からないのだ。それもあって、帰るのに気が重かった。

 タクシーなんて使っちゃったら、すぐ家に到着しちゃうし……だから、使う気になれなかったんだよ。せめて、もう少し気持ちが整理できる時間が必要だった。

「はぁ……危険が無い世界だと、ついつい決心も緩んじゃうみたいだ」

 生ぬるい風に軽く髪を乱されながら、家へと続く通学路の道へ進む。
 明日、どんな顔をしてヒロに会えばいいんだろう。というか、ダチに変に勘ぐられる気がして顔を合わせられない。母さんにならまだギリ隠せそうな気がするんだけど……でも、覚悟が足りない。もっと歩かなければ……。

「そりゃ、えっちな文字でも興奮しちゃうお年頃ってヤツだけど、さすがにあんなことであんな風になったら、気まずくて仕方ないっていうか……はぁ……」

 ブツブツ独り言を小声で呟くが、やっぱり最後は溜息だ。
 重くなってしまっている気分が浮上しないまま、足はどんどん進んで家が近くなる。

 人通りの多い場所から再び静かな住宅街に入ると、もうすぐ俺の家だ。
 結局覚悟が決まらないまま帰って来てしまったなと思いつつ、ふと前方を見やる。と。

「…………え?」

 前方を、今、数人の人影が曲がった姿が見えた。
 薄暗くなった視界では視認しづらい距離だったが、しかし俺は彼らの歩き方と遠目に見た顔をハッキリと認識できてしまっていた。

 それは、俺が夜目のスキルを手に入れたのか、それともこれまでの「嫌な記憶」が成せる技だったのか。いや、もう、そんなことどうでも良い。

 見た。見てしまった。
 なんでここに。なんであんな大人数で。なんで。

 一気に疑問と寒気が押し寄せてきて、足が止まる。
 だって。
 だって、俺が今、見たアイツらは……。

「あ……あの……先輩達…………」

 そう。
 シベに対して何かの対抗心を持っている、俺達が本来接触する事も無かっただろう、素行の悪い金持ち息子が集まった先輩グループ。

 俺を男子便所で脅したり、ヒロと俺を追いかけてきた挙句にヒロを殴ったり、シベへの嫌がらせのためなのか、俺達に対して執拗に攻撃を仕掛けてくるアイツら。
 間違うはずなんてない。アイツらが、いま、そこの角を曲がったんだ。

「う……うそ、うそっ……」

 こんなに蒸し暑いのに、背中が冷たくてゾワゾワする。
 体が一気に冷えて、普通の汗じゃない汗がドッと体から噴き出て来た。

「角、まがったら……俺の家……俺の家の方に行くじゃん……なんで……!?」

 理解できない、頭が混乱して、答えを探して目がガクガクと動いてあらぬ方向を見る。
 でも、答えが分からない。嫌な予感しか出てこない。
 違う、偶然だ。きっと偶然この道を使っただけだ。けど、繁華街や駅の方に行くなら、もっと近道がある。住宅街を通る必要なんてない。金持ちならバスにでも乗ればいい。

 なのになんで。なんで俺の家の近くに。よりによって俺の家の近くに。

「ぅ……あ……」

 そうだ、母さん。
 母さんに何か、何かするつもりじゃないだろうな。
 まさかそこまで外道じゃないよな。違う、絶対に違う、俺の家じゃない、アイツらの目的地は俺の家じゃない、絶対に違う!!

「っ……!」

 怖くなって、目の奥からじわりと熱い物がこみ上げてくる。
 だけど泣いている暇なんてない。俺は勝手に乱れてくる息を必死で調えると、急いで道の曲がり角まで走り、壁に引っ付いてそっと曲がった方の道を見た。

 ……いつもの、俺が毎日使っている通学路。
 住宅街で、人通りが少なくて、でも俺が小さい頃から使ってる見慣れた道。

 なのに――――少し、先に、あの集団が居る。

「ぅ……」

 見間違いじゃ無かった。見間違いであってほしかった。
 けどもう、間違いで済ませることが出来ない。

 俺は必死で息を殺しながら、アイツらに気付かれないように角を曲がると、物陰や庭木の陰などに隠れながら、先輩達の集団がどこへ行くのかを見守った。

 まさか、ありえない。ありえないけど。
 でも、万が一そうだったとしたら。

 そんな不安が拭えない。
 生ぬるい風が喉に入って来るたびに、その温度に嗚咽を吐きそうになる。けれど、自分を気取らせるような真似は怖くてできなくて、必死に息を詰める。

 ああ、もう、家が見えてくる。近付いてくる。
 古めかしくて、道路の方に外廊下があってドアが並んでいる少しセキュリティの甘い俺の家があるマンション。もし道路に誰かが居て、俺の家の番号が分かっていれば、そこから誰かが出てくれば解ってしまう、シベが言うには「セキュリティの認識が甘すぎる建物」が。

 もし、アイツらが本当に俺の家に向かっていて……万が一、母さんが、ドアから出たら。

 そしたら…………アイツらは、俺の家族に、何かしやしないだろうか。

「っ……!!」

 思わず、口を押える。
 だけど嫌な妄想は消えない。
 その妄想のせいで、涙が滲んできて、足がガクガク震えはじめた。

「ど……どうしよう……っ。どうしよう……!」

 自分が殴られるのは良い、殴り返せるんだからそれでいい。でも、母さん達は違う。母さんがアイツらに目を付けられるなんて考えたくない。
 親を脅迫するかもしれないと考えたら、体が震えで自由に動かなくなる。

 どうしよう。
 俺とヒロを襲った時のように、アイツらが凶器を使って母さんを襲ったらどうすればいい。
 考えたくないその場面を考えると、腹の奥が焦燥感と怒りで熱くなって、今すぐ飛び出して混乱のままに暴れたくなる。

 けれど、動かない。
 怖くて、知られたらと思うとどうしようもなく怖くて、足が、思うように動かなかった。

 だけど震えていても、先輩達は歩いて行ってしまう。
 もっと、もっと俺の家の方に近付いてしまう。行って、近付いて、もうすぐ俺の家に近付いて。

「う……ぁ……あぁ……っ」

 どうか頼む、おねがい、お願いだから通り過ぎて。
 俺の家を見つけないでくれ、俺の家とは無関係だと証明してくれ。

 祈るようにそう思いながら、震える体で音を立てないよう必死に隠れながら近付いた。
 けれど……――――現実は、非情だった。

「へえ、ここがクグルギくんの家かぁ」

 リーダー……確か、ヨッシーとか呼ばれていた奴の声が、耳に届く。

 静かすぎてアイツらの声が少し離れていても聞こえるんだ。
 俺は近付かないで良いことに内心安堵しながらも、アイツらに見つからないようにすぐ近くの駐車場に入り、車高の低い車の陰にしゃがみ込んで再び耳を澄ます。すると、アイツらは俺の家を見上げているのか少し声を張り上げながら話し始めた。

「ヨッシー、マジでやんの? 接近禁止って言われたけど」
「奉祈師部に媚びやがった馬鹿親どもに遠慮する義理なんてないだろ」
「そーそー、むしろあんだけ権力使って俺ら潰しに来たってことは、クグルギくんが奉祈師部の弱点で確定っしょ。それにアイツ、……だし」
「うっわ、マジこわ! 特殊性癖のマジ極みって感じで草ぁ」

 ところどころよく聞こえない。
 けれど、シベのことを馬鹿にして笑っている。

 ……そのせい、いや、そのおかげか、少し震えが治まった。
 何故俺の家の前でシベを馬鹿にしたのかは分からないが、でも一つだけ確かな事がある。コイツらが、シベとの何らかの約束を破って俺の家の前に居ると言う事だ。

 「接近禁止」で「親が媚びた」と言う事は、シベは先輩達の親を呼び出して何か話し合ったのだろう。その結果、先輩達には「俺やヒロに近付くな」という約束を呑ませ、個人間での“接近禁止命令”が出されたのだ。
 ――少なくとも、先輩達の親はそれを了承したはず。

 だけど、アイツらはその約束を破った。
 いや、最初から従う気は無かったのかも知れない。

 そう言えば、俺を高級別荘地に呼んでくれた時、シベはどこかに電話をしていた。アレは、もしかしたらコイツらが抵抗しているというような連絡だったのかも。
 だとしたら、シベが俺をわざわざ連れ回したり、家にまで付いてきた理由も納得がいく。
 コイツらはアレから全く反省せず、シベと俺達を標的にし続けていたのだ。

「くそっ……金持ちのクセに庶民の家を狙ってきやがって……っ」

 シベに真正面から立ち向かうような度胸もないのか、と喚きたくなったが、口を噤む。
 そんな俺を知ってか知らずか、先輩達は話を続けた。

「にしても、クグルギくん遅っせぇな。あのデカキモと駅で別れたって連絡あったんだろ?」
「ラッシュのせいで乗り過ごして、だいぶ先の駅で降りたっつってたから、戻ってくるまでに少し時間がかかるんじゃねーかな」
「うわ~、可愛い間抜けエピじゃんワラ」
「あのデカキモに痴漢されてたから乗り過ごしたとかじゃなく?」

 デカキモってなんだ。もしかしてヒロのことか?
 何てこというんだコイツら。イケメン顔のヒロのどこがキモいんだよ。
 それにヒロが痴漢なんてするわけないだろ、ましてやなんで同性同士で痴漢するんだよ!
 つーかヒロが俺なんかを痴漢するわきゃねーだろボケ! バーカバーカ!!

 ……いや、待てよ。駅で降りたって連絡があった……?
 ってことは駅で誰かが俺達を見張ってたって事か。それとも、もしかして実は俺達は最初から誰かに尾行されてたとでも言うのか?

 だとしたら、コイツら接近禁止どころか新たにストーカーしてるじゃねえか!

「それ面白れーけど、そういう報告は無かったわ。まあでも……ご招待のついでに、本当はどうだったのかを訊くのも面白いかもな」
「クイズ~! いいねえ、ご褒美付きでおねがっしや~す」
「おい車近くで待機させとけよ。連絡行ってんだろうな」
「そこの駐車場に事前に停めてるから大丈夫じゃね。ご招待の準備はオッケーっすよ」

 駐車場。
 思わず心臓がキュッと縮んで息が停まる。

 まるで自分を名指しされたように思って緊張してしまったが、そんな俺の耳に駐車場の奥の方からエンジンがかかっている車の音が微かに聞こえてきた。
 夕方の暑さと、アスファルトを舐める生ぬるい風の向こうで、何かが稼働する音がする。
 あ……あれだ。ここからじゃ見えないけど、多分この音を出してる車がコイツらの仲間の車なんだ。ヤバい。このままここに居ても見つかるかもしれない。

 もしも、アイツらに見つかったら……――――今度は、何をされるんだろう。

 ご招待ってなんだ。車で連れ去られるのか?
 どこに? 連れ去られた先で、何をされるんだ?

 殴られるのか。それとも、それ以上にひどい事をされて、最悪の場合……――

「っ……」

 暑さで出てくる汗とは違う、じっとりと貼り付くような汗が一気に噴き出てくる。
 同時に、俺の呼吸は勝手に浅く苦しいものになって行った。

 怖い。恐怖で、膝が震えてくる。想像できない状況になるのが一番怖かった。
 それ以上に俺を揺さぶったのは、もしかしたら「母さんにも被害が及ぶかもしれない」という予測で。ありえない事じゃないのが、どうしようもなく俺を焦らせた。

 逃げた方がいいのか。逃げるべきなのか?

 けど、今一番大事なのは母さんと父さんだ。
 どうにか、どうにかしなきゃ。でも警察を呼んでも多分意味が無い。アイツらは今別に何もしてないし、警察が来たってなんとでも言い逃れできてしまう。

 むしろ、通報した時点で向こうは俺達が気付いた可能性を考えるだろう。
 相手だってバカじゃない。そうなると、今度はもっと動きやすい学校で何かしてくる可能性だってある。どうか、アイツらが気付かない内になんとかしないと……っ。

 ああ、でも、どうしよう。どうすればいい。
 俺一人では何も対抗できない。だけど今母さんに連絡しても、心配させてしまう。アイツらに家を知られてしまっている以上、迂闊に連絡して外に出られでもしたら怖い。

 相手は金持ちだ。手足として動かせる人間を何人も雇えるんだ。
 俺じゃ無くて母さん達に標的が移ったら、俺、おれは……っ。

「ぅ……う……」

 怖くて、涙が出てくる。
 何をするか分からない奴らに家を知られるのって、こんなに怖いのか。
 自分一人ではどうすることも出来ないのが分かっていると、こんなに心が切羽詰まって頭が真っ白になるのか。

 けれど、このままじゃ、いずれ最悪の事態になる。

 助けを。誰か、助けを呼ばないと。

「……っ、で、電話……」

 スマホをタップして、震える指で電話を掛けようとする。
 でも、誰に。

 ……尾井川が、一番先に思い浮かぶ。
 けれど、アイツは今大事な大会のために一生懸命練習している。小学校の時からずっと、尾井川が柔道というものを大事にしてきたのを俺は知っているんだ。

 そんな大事な時期に、これ以上迷惑をかけて良いんだろうか?
 アイツが頑張っていることを無暗に中断させて、アイツには関係のないことに巻き込んで、本当にいいんだろうか?

 俺が巻き込まれて、ヒロまで巻き込んで、シベに全部任せているのに?

 最初に因縁を付けられた俺は、結局何も出来てないのに。

 なのに、尾井川やクーちゃんに迷惑をかけるのは……嫌だ……。

 痛い目に遭いたいとは思わない。でも、ダチの夢に関わるような事を邪魔するのは嫌だ。情けない俺のために、少しでも瑕になるようなことはさせたくないんだ。
 もし、そんなことになったら、俺は尾井川達の友達を続けられる気がしない。

 けど。
 だけど。

 思い浮かばない。

 もう、助けてくれるのが、俺の事、ずっと、昔から助けてくれた、守ってくれたヤツが、もう、尾井川しか……おもい、うかばない……っ。

「ご……っ、ごめ、ん……ごめん……尾井川、ごめん……っ」

 涙がこぼれる。
 自分の無力さへの怒りと、恐怖と、助かりたいと言う気持ちで指が尾井川の番号を押す。

 悔しい。迷惑をかける事しか出来ない自分が悔しくて、だけど、ずっと昔から俺の事を助けてくれた親友に縋るしか今は何も解決策が思い浮かばなくて、俺は膝の上に涙をぼたぼた零しながらスマホを耳に当てて膝を抱えた。

 1コールが長い。いつも以上に長いような気がする。
 怖い。この状況でアイツらがこっちに来たらどうしよう。そんな思いで足が震える。

 助けて、そう言えるだろうか。言って良いんだろうか。
 情けない、悔しい、怖い、こわい、こわい。

 額を膝に擦り付けて必死に嗚咽を堪えながら四度目の呼び出し音を聞いていると――

 プツッと音が途切れて、騒がしい音が耳に届いた。

『おい、どうした?』

 尾井川の声。
 声変わりしても変わらない、体型通りの太くて少し詰まってて、だけど俺にとっては隣でずっと聞いてた、安心できる……一番の、親友の声。

「っ……う……ぁあ……っ。お、おい゛がわっ……っ」
『なっ……!? ど、どうしたぐー太、なんかあったのか!?』

 尾井川だけが呼ぶ、俺の昔からのあだ名。
 だけどそれが何故かヤケに心を揺さぶって、俺は声を押し殺して必死に涙を抑えようとしながら、それでも嗚咽が漏れてしまう情けない声で尾井川に必死で状況を伝えた。

「お、尾井、川……助けて……っ。ごめん、こんな時に頼るの間違ってるって、わかってる、迷惑かけるってわかってるのに、でも俺……っ!」
『ぐー太、落ち着け。いいか、まずは落ち着いて深呼吸するんだ』

 尾井川は俺に怒る事も無く、ただ俺を落ち着かせようと何度も繰り返す。
 その間に、どこかに移動しているのか金属の扉を何度か閉めるような音がした。武道場の更衣室から別の静かな場所に移動したらしい。
 その音を聞きながら、俺はせめて声だけでも落ち着けようと、顔を拭いながら深呼吸を繰り返し、やっと少し涙声が収まってきた。

「尾井川、おれ……」
『……お前の声で何となく状況は察した。GPSで位置を確認したが、つまり、そのまま帰る事が出来ない状況になって隠れてるってことでいいんだな?』

 尾井川は本当に頭が良いし、話が早い。
 頼りになる親友が自分の事を理解してくれたことに、やっと心が落ち着いてくる。

 でも、状況が変わったわけじゃない。
 俺は出来るだけ簡潔に、早く状況を伝えることが出来るように話し始めた。









※眠すぎて頭が回らなくて寝たらこんな時間になってしまった
 /(^o^)\すまねえ……

 そんなこんなで新章です!
 素直に引き下がるなら因縁つけないんだよなぁ

 
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