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酔現嫌夢サプロアリコン、束の間揺蕩う憩いの村編
7.アーケードと冒険者ギルド出張所1
◆
【アノ村】のアーケード商店街は、昼と言う事もあってか人がごった返している。
軒先に品物を並べるテーブルや台を広げたり、木箱を斜めにして客が並べ取りやすいようにしてみたりと店ごとに様々な工夫が凝らされていて、そぞろ歩くだけでも面白い。
もちろん、並んでいる商品はかなり多彩だ。
【マイラ】の名物でもある色とりどりのキノコが「産地直送」という板が掲げられて山盛りに積まれていたり、【ベイシェール】や俺が名前を知らない港から揚げたというカトルセピアの干しイカや乾物を吊り下げたお店も有る。
……カトルセピアというと、巨大イカにもなれる可愛いイカちゃんのお友達が俺にはいるので、何とも言い難いのだが……しかしこれは酒の肴として大人気らしい。
乾物屋ということだが、この大陸では魚を食べない人が殆どなので、魚介類ではなく川で採れた貝やイカちゃんを干した物や、キノコや植物、肉の干し物も並んでいる。
お肉屋さんの干し肉と違って、キノコや野草を擦りこんだ干し肉らしく、そこの辺りが普通のお肉屋さんと違う部分なんだろうな。
こちらはさしずめハーブを擦りこんだ干し肉ってところか。お味が気になるな。
「うーん、歩いてると色々欲しくなっちゃうなぁ」
さきほどの乾物屋さんもそうだけど、見た事のない食材や果物がいっぱい並べてあって、ついお店ごとに立ち止まってしまう。
説明を聞くだけでも楽しくてつい時間を喰ってしまうが、アーケードは長いのだ。この調子だと日が暮れちゃうかもしれない。
そんな俺を見かねたブラックに「今日は泊まるんだから、ざっと見てから買い物してもいいんじゃない?」と釘を刺され、俺は言われた通りササッと奥まで向かう事にした。
にしても、異世界のアーケードってのは誘惑が多いなあ。
人が集っている場所はつい覘きたくなるし、元気な呼び込みをされるとふらふらっと両足がソッチを向いてしまいそうになる。
なまじ異世界なもんだから、商品もファンタジーでついつい全部見たくなってしまうのだ。
しかし、今は目星を付ける事が最優先だ。
俺が持っているお金はそれほど多くない。というか、正直また少なくなってきている。
冒険者としてのお仕事もしてないし、報酬を貰った後から色々入用になるもんだから、金が気が付いたら減ってしまっているのである。
なので、何かを買うにしても先に全ての店を見て、買う物を決めた方が良い。
それは解っているんだが~……っ。
「ああっ、なんでこうこの世界って面白いモンばっかりあるんだろうっ!!」
「ツカサ君ほんと店を見て歩くの好きだよねえ……」
「キュ~」
うう、ロクまでブラックの言葉に同意しているぞ。
でも仕方ないじゃないか、俺からすれば全部ファンタジーなんだからさ。
宝石みたいに透明な果実に、座布団くらいドデカすぎる干し貝柱、道具だって何を釣るのか分からない金属のエサや、体を固定するベルトがついた頑丈そうな釣竿もある。
冒険者用の武器や防具だって一般的なものは揃ってずらりと並べられており、そのうえ、工芸品なのか薄らと虹色に輝く透明な刃と金の柄が眩しい芸術品のような剣もある。
あれか、京都の修学旅行で買う木刀みたいなものか。
使えないと解っていても、つい買いたくなる気持ちは分かる。俺も買いたい。
しかし今は金が無い。金が無いから無駄遣いをせずに済んでいるのだ。
俺だって、欲望には弱い高校生なのだ。目の前にドラゴンが巻き付いた宝石付きの剣のキーホルダーがあったら購入してしまうくらいには物欲が有るのである。
今無駄遣い出来るお金があったなら間違いなく手が伸びていただろう。
高校生にもなって、と言われそうだが、少年心はオッサンになっても持ってる物らしいじゃないか。だから、使えないけどめっちゃ格好いい剣には惹かれるワケで……。
「ツカサ君、使わない物買っちゃだめだからね。工芸品とか持ってても使わないからね!? アレは商人とかが買ってよその国で売るため品なんだから!」
「わ、分かってるよ……。俺、剣使えないし……」
「でも視線がずっとキラキラの剣に向いてるじゃない」
「うっ……」
わ、分かりましたよ分かりました。余計な物は買いませんから。
ええい工芸品や装備品は目の毒だ。もう見ない、見ないぞ。幸いなことにそういうお店はアーケードの奥に配置されているから、ざっと見る行為が終わったら、奥まで歩かなければいいのだ。明日はもうアーケードの奥まで行かないぞ。
……にしても、なんというか独特なお店の並びだな。
多分、高額な物が多いから、工芸品や装備品とかは盗人がおいそれと逃げられない場所に集まってるんだろうけども、考えてみたらキッチリした作りだ。
ふつうの街みたいに「商売できる場所だから」と入ってとりあえず店を開いた感じではなくて、最初から「このお店をここに入れる」って決まってたみたい。
そういう部分が商人の作った新しい村っぽいな。
物を売るための村だから、最初から色々と決まっているってことか。
うーん……俺の世界で言う所の、ショッピングモールみたいなものなのかな?
とはいえ、そんな場所に宿屋が付属してるのも何だか変ではあるけど。
「おっと、そろそろ終点みたいだね」
ブラックの言葉に前方を見やると、確かにアーケードの屋根が途切れている。
その先は円形の広場のようになっているみたいだった。
「そういやこの先って何が有るんだ?」
問いかけた俺に、ブラックがニヤッと笑う。
な、なんだよその笑顔は。まさか変なモンがあるんじゃないだろうな。
「まあ行ってみればわかるよ」
「んん……?」
なんか……宿に着いてから含んだような笑顔ばっかり向けてくるなぁ……。
よからぬことを企んでいるのかも知れないが、こんな人が多い村で変な事をする余裕などあるのだろうか。そんな事を思いつつ、アーケードを抜けて広場に出てみると。
「……普通……だな……?」
「いやツカサ君、一応これ村とかの範疇じゃないからね?」
ブラックの言う通り、広場を囲う建物は酒場だったりお洒落な酒場だったり酒場……いや酒場がほとんどだな!?
どん詰まりになっている広場はかなりの敷地が有るが、それを囲うお店は歓楽街と言うか、酒場や食事処ばかりだ。途中冒険者ギルドや商会の出張所などが挟まれているけど、村の設備ではなかった。ていうか、建物がみっしりしててなんか井戸の中にも思える。
一応、狭い道に入れるみたいなんだけど、この圧迫感は相当な物だった。
これだと高い防壁で囲ってあるのも全く分から無さそう。
「ここは“人が住むための村”じゃなくて、商人達が小さな拠点にするための村だからね。人を歓待したり、卸す商品を小手調べに並べたりする目的が有るんだよ」
「あ~、だから酒場とかばっかりなのか」
「そうそう。ちなみに……」
ブラックは不意に腰をかがめ、俺に耳打ちをする。
「あの路地を入って行ったら、高級娼姫がいる宿やツカサ君大喜びのお道具がたくさんある“蔓屋”があるけど……入ってみる?」
「いいいいいらんいらん!!」
「ふふ、照れちゃってぇ。まあ、ツカサ君は普通の道具じゃ満足できない体になっちゃったもんねっ。なんたって僕のペニ」
「だああああ! 人がいる場所で変な事言うなあああ」
何でお前はそういう事を明け透けにポンポン口から吐き出してえええ。
頼むから人がいる場所で恥ずかしい事を言うな、とすぐ横の口を両手で塞いだが、相手は俺の口封じもなんのそので、掌に吸い付いてきやがった。
「ぎゃあああ!!」
「んも~。恋人からのキスで叫ぶなんて、ツカサ君たら本当にウブなんだから……」
「こんなもん誰だって叫ぶわい!!」
チュッとか軽いもんじゃなくて、皮膚丸ごと吸い込む吸引力でキスしてきやがって。
どう考えても妖怪レベルの吸い付き方だったんだからな今のは。
「さて……路地には行かないなら、もう行き止まりってことになっちゃうけど……帰る?」
「そうだな。改めて食料品を……」
――と考えて、俺はふと良い事を思いついた。
ここには、冒険者ギルドの出張所っぽい建物が有る。
ということは、この場所から受けられる依頼が何かあるんじゃなかろうか?
多分輸送や護衛の依頼が主なんだろうけど、この世界の冒険者ってチート物小説とかでよくある設定と一緒で雑用とかも張り出されているから、この村で完結する簡単な依頼などもあったりするんじゃなかろうか。
新興の村だし、人手も多いし……もしかしたら、実入りの良い依頼もあるかも!
「いや、方針変更だっ。ちょっとギルドの依頼が無いか見て行こうぜ!」
「え~、仕事するのぉ?」
「路銀が心許ないからな。受けられる依頼が有ったら儲けもんだぜ」
「だから僕がぜんぶお金出してあげるって言ってるのに……」
そりゃアンタが実はお金持ちってのは俺も知ってるけど、でも何度も口を酸っぱくして言うが、その膨大な金はアンタが冒険者をして依頼をこなした金じゃないか。
言わばアンタが頑張った証なんだから、使うならもっと有意義な事に使ってほしい。
それに、俺だって日々を暮らすお金は稼いでおきたいし。
アッチじゃ俺は自宅が有ってぬくぬく両親の金で暮らしているけど、いつかは一人暮らしも考えなきゃいけないだろうし……とにかく労働の味ってのを覚えておかなきゃな!
まあ別の種類の肉体労働なので、参考にはならないかも知れないが……。
ともかく、何か依頼が無いかギルドに行ってみよう。
一応持ってきていた冒険者の証であるメダルをポケットの中で確かめつつ、俺はブラックとロクショウを連れてギルドへと向かった。
→
※遅くなると言うてましたがまたもや夕方ですまない…
昨日は寒すぎて疲れ切って寝てましたおむすびさむさよわい
明日もちゃんと更新するので許してくだせえ
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