異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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酔現嫌夢サプロアリコン、束の間揺蕩う憩いの村編

8.娼彦サマのお願い

 
 
「もしかしてって……ハァ~~? ンなことも説明してねーのかよ。つっかえねーなー冒険者ギルドってのはー!」

 使えねーじゃなくて、アンタが「話しに来い」って言うから冒険者ギルドの方も秘匿情報だと思って依頼書にも乗せなかったんだよ!!
 まあピンと来なかった俺も悪いけど、こんなこと言われる筋合いはねーだろ!

 ……はぁ。しかし……ショウゲン、ってなんだっけ?
 コイツが見た目で「娼姫」じゃないことは分かるんだけど、でも娼館が多い場所で「女性の相手」と言ってたんだから、たぶん……娼姫の男版……つまりホスト、的な?

 いや違うか、もっと直球かも。ベッドが有る部屋をあてがわれてるんだから……コイツは、娼姫のお姉さんたちと一緒で、メスの男女にえっちなことをする仕事って事か。
 でもなんでヒメじゃなくてゲンなんだろ。ゲンってなんだ?

 まあそこはどうでもいいか。
 とにかく、メスの男女がお金を払って抱かれに来るってことで……――

 ………………あ。
 そういえば、ブラックが昔……そういうことをさせられてたような事を、言ってたような。

 確か、ブラックを恨んでいたレッドってヤツに別荘に連れて行かれた時に、ブラックの事を逆恨みする原因……というか勘違いする原因になったのがそういうコトで、レッドのお母さんがブラックと……そういうコトして、執着してたんだったよな。

 ……あれ、じゃああんまり思い出させるような事したら良くないんじゃないのか。
 ブラックだって、出来れば口にしたくない記憶だったはずだ。

 じゃあショウゲンって人の前に居たら、一気に嫌な気持ちがぶり返すんじゃ……。

「――――……」

 心配になって、咄嗟にブラックの顔を見上げる。
 だけど相手は俺が何を考えているのか分かったのか、依頼者であるマエルに「うざい」と顔を歪めていたが、俺を見ると「大丈夫」と笑って見せた。

 …………俺には、大丈夫じゃない作り笑顔にしか見えなかったけど。

 でも……ブラックだって大人だ。自分の感情を隠し通したいのかも知れない。
 そう感じたから、俺は敢えて軽く頷くだけにとどめて再びマエルを見やった。

「あの……貴重な休憩時間に申し訳ないんですけど、詳しい話を教えてください」

 ブラックが何かを言うとケンカになりそうだったので、ここは俺が話しを進めねば。
 自分が前に行こうとするオッサンを手で押し留めて紹介状を差し出すと、マエルという優男はベッドに気だるげに横たわりつつ「こっちまで持ってこい」と指をクイクイ動かした。

 こ、この……っ。
 いや落ち着け俺。イケメンに呪いをかけたくなる自分を抑えるんだ。

 なんとか冷静を装い腕を伸ばしてデカいベッドに寝転がるクソイケメンに紹介状を渡すと、ササッとブラックの隣に戻る。いやなんでかってすんげー花の匂いの香水してたから、普段は自然の香りしか嗅いでない俺にはちょっと……。

 っていうか、アレかな。お香みたいなものなのかな?
 そういやホストも男臭さをなくすために香水やデオデラントを欠かさないって聞くし、こちらの世界の似たような職業の人も、こんな感じで女性を緊張させないようにしてるのかも。

 確かに、ニオイって重要だよな。
 良い匂いのお姉さんだと遠慮なく飛び込めるけど……いや待てよ、でも「わ、私いま、凄く汗臭いかもだから……!」って恥らう女子も可愛い。じゃなくて、逆の立場なら嫌がられるのはイヤだし、ニオイ対策はしちゃうかも。

 俺だってブラック達に汗臭いって思われるのイヤだから、風呂も洗濯も出来る時は絶対に欠かさないもんな。
 けど男臭さは消せないものなのかも……。俺がモテないのはニオイも一因か?

 ……俺も何か香水とか買った方がいいのかな……?

「ふーん……確かにちゃんとした紹介状だな。……って、二人とも曜術師ィ? なんっだよ、見た目が流浪人の臭そうなオッサンとダッサい初心者服のガキだったから警戒してたけど超アタリじゃん!」

 そういえば、紹介状には俺達の素性が軽く紹介されてたっけ。
 流石にブラックが【限定解除級】だとかいう情報はプライバシー保護のためか記載されてなかったけど、曜術師って時点で冒険者の中では結構強い方だからな。

 しかし、ギルドの証明があるとこんなにも態度が変わるんだなぁ……。

 っていうか、俺達普段そんな風に見えてたの。

 でもしょうがないじゃんブラックは無精髭で顔を隠したいみたいだし、俺は俺で服の替えが欲しいし、重い装備じゃ後方支援出来ない事を考えたら、この服が一番なんだから。
 まあ俺の場合、この世界の人間が基本的に高身長なせいで既製品の服でスッポリと入るのが、冒険者見習いの子供が着るようなこんな服しかなかったんだけども。

 …………ぜ、全部この世界の奴らが外国人風で高身長だからいけないんだ。

 というかダサくないだろ俺の服!
 ちゃんと、なんかこう……異世界感あるだろ!
 なんだコイツ、ばーかばーか!!

「キュ~」

 心の中で空しい負け犬の罵倒をしてたら、俺の心が伝わってしまったのか肩に乗っているロクが「やれやれ」な感じの声で、俺のほっぺを鼻先でつついて慰めてくれた。
 うう……ほんま優しい子やなぁロクちゃんはぁっ。

「ん、なになに? 怒ったの? さっきダッサって言ったの怒った? でも本当にダサいからなぁ~お前ら。売れっ子の俺からのありがた~い視点よ? し・て・ん」
「…………」
「なに。俺がメスにモテまくりの売れっ子なのが悔しいの? うお~僻み気持ちいい~!」
「ぐううううう」
「ツカサ君もう相手しなくていいよ、早く依頼もらって帰ろう」
「ぐうう……そ、それで依頼内容は……」

 そうだ、ちんこ破裂しろとか思ってる場合じゃ無かった。
 ブラックだって、というかブラックの方が嫌な思いをしているんだ。マエルが悪いってワケじゃないけど、早めに終わらせてしまった方が良い。

 ブラックが過去の事で苦しむのは、俺も嫌だもん。
 だから、歯軋りをしながら下手に出たのだが、マエルは何故かそれを面白がって、ベッドの端にズリズリと移動すると、座って俺達の事をニヤニヤ眺め出した。

 キーッ、この調子のり野郎がーっ!

「属性は違うけど、普段俺らにツンケンしてる曜術師どもに遜られるのって気持ちい~! クセになっちゃうかも」
「依頼内容は何でしょうかね!?」
「ハイハイ。ちょっと待てって。早漏そうだね~キミ。ちんちくりんだし絶対モテないでしょ」
「憎しみで人を殺せたら……!!」
「ツカサ君どうどう……」
「キューキュー……」

 くっ……。
 どつき回したいのは山々だが、ブラックの為にも話を早く終わらせないと。
 俺は怒りを飲み込んで、ササッと元の位置に戻りマエルを睨んだ。そんなこちらに満足気なニヤニヤ笑いを見せながら、相手は話しだした。

「俺が手に入れたいのは、【ブレガ・ラスナフォラ】っていう毒草だよ」
「ど、毒草!?」
「まあ聞けって。毒草とは言うけど、適量を調合すりゃ薬になるんだ。お前らライクネス所属の冒険者だろ? だったら知らないだろうけど、アコールの高級娼彦の一部にゃ伝わってる“あるモノ”を作るのに重要な野草なんだぜ」
「へえ……あるモノって何なんです?」

 なにそれ、ちょっと気になるかも。
 怒りも引っ込んでしまい興味津々で聞くと、マエルは意外にも素直に答えてくれた。

「体調を短時間で整えられる薬だよ」
「薬、ですか……」
「ホントは【ラスナフォラ】って言う方の薬草の方が良いらしいんだが、滅多に生えないらしくてな。だが、毒草の【ブレガ・ラスナフォラ】なら、ここら辺にある【毒呑みの森】の毒沼周辺に生えてるんだ。コレがあれば、俺達は助かるのさ」

 短時間で体調を調えられる薬だなんて、聞いた事が無いな。
 【回復薬】ともまた違う類の薬だな。ゲームで言うなら【ヒーリング】とかの毒素を抜くような魔法なんだろうか。この世界だと麻痺や毒は個別の薬を使わないと治らないし、治癒魔法のような物は存在しないから、体調を整える薬が有っても不思議はないな。

 でも、どうしてそんな薬が必要なんだろう。
 毒草を使ってまで作る薬って、どう考えても切羽詰まってるよな。

 そんな俺の疑問を読み取ったのか、相手は説明を続けた。

「俺達みたいな売れっ子娼彦は、時間単位でメスの相手をしなきゃいけなくってな。そうなると、どうしてもタマが足りなくなっちまうんだよ。タマ、わかる? 子種、精液のことな」
「いいい言わなくていいですううう」
「照れちゃってまー。……ま、触って機嫌取るだけでいい女なら助かるんだけどさ、女だって性欲パンパンの奴はいるワケよ。夫が仕事で忙しかったりとかな。でも、貴族ならまだしも、商人の妻やちょっとした小金持ちの女じゃオスを囲うのも難しいだろ? だから、娼姫よりも数が少なくたって俺達娼彦も食い扶持があるってワケさ。メスだって、道具だけじゃ無くて、オスの精液で他人の熱を感じたいのよ。無論、素性がハッキリした安全なオスがな」

 なるほど……。
 この世界って男女ともに性欲にオープンだけど、やっぱりしがらみが有って地位のあるメスの男女は誰彼かまわず誘うってことが難しいんだな。
 性欲が肯定されてる世界だからこそ、禁欲状態に悶々とする状態は俺の世界の人間より酷い苦しさなのかもしれない。

 そんな肉食お姉さんがいるのなら不肖俺がお相手したいが、素性のしれない男を相手にするのは、それなりの地位だと確かに怖いだろう。
 だからこそ娼彦……つまり女性専用風俗が成立してるってワケか。

 とはいえ、中出し希望な人が多いのはこの世界ならではだろうなあ。
 お腹にタネを植えないと妊娠しない世界じゃ、そりゃ中出しし放題だろうし……。

「ともかく、熱心な“お世話”をするには、そりゃ俺達だって本気でタマぶっぱなす必要があるワケよ。でも、そうするために精の付く食いモンや酒をかっくらったら体調が悪くなるだろ?」

 マエルの言葉に、ブラックが俺に分かりやすいように更に解説してくれる。

「曜術師じゃなくても、人族の体内にはそれぞれ相性のいい属性の曜気が巡ってる……的な話を前に聞いたでしょ? だから、それを回復するために大量に食事したり、得意な属性が多い場所に行ったりするんだよ。特にオスはメスに曜気を渡すために、精液には曜気がたっぷり含まれてるからね。こんな商売してたらいくらオスでもカスカスになるんだよ」
「そ……そうなのか……」
「なに、オッサンよく知ってんじゃん! そういうワケで、俺達も結構曜気ってのを意識して、食事したり曜具で摂取してんのよ。でもさ、急いで摂取しても体に馴染むのは時間がかかるし、酒や煙草や薬だと余計な症状まで出ちまうワケよ」

 マエルは面倒臭そうに言いながら頭を掻く。
 確かに……普通に食べたってお腹いっぱいになりすぎたら気持ち悪くなるし、お酒は泥酔状態になるほど飲んだら商売も出来ないもんなぁ……。

「その不都合を解決してくれるのが、件の薬なんですね」
「そーそー。薬が必要な曜気を吸収するのを助けてくれて、毒になる他の物をしょんべんで出せるように整えんだ。おかげで俺達は毎日戦えてるってワケ」
「……なんか、ショウゲンって体力勝負の大変な仕事なんですね」
「ま、好みじゃない女に勃たない根性なしはお呼びじゃねえな。俺みたいに“イイとこ探し”が出来る天才絶倫美形か、メスなら誰にでも嬉しいってヤツしか生き残れないのさ」

 ……この一々癇に障るイケメンは好きではないが……それでも、自分の仕事に誇りを持ち真剣に取り組んでいることは、素直に尊敬できると思ってしまった。
 まあだからといってちんこ爆発しろと思う気持ちは消えないんだが。

「それを聞くと、採取依頼を出すってよっぽど切羽詰まってたんですね……」
「おーよ。いや、街に居た時より客が増えちゃってさあ……薬がなくなりかけてんだ。アレが無いと、さしもの俺も一日に十人程度が限度になっちまうし、せっかく来てくれたメスどもを泣かせちまうだろ? だからちょっぱやで採ってきてくれよ。綺麗に持ってこられたら、銀貨三十枚は出すからさあ」

 銀貨三十枚。
 すっかり御無沙汰なお金の単位で数えれば、三千ケルブ。
 つまり金貨三枚分だ。

 この世界では一日銀貨一枚程度あれば一日二食の食事が充分にまかなえる。
 それを考えると薬草採取の依頼としては破格と言えるだろう。っていうかかなり儲かってんだな、ショウゲンってのも。当然、それくらい出してくれるのだから断る理由などない。
 いけ好かないイケメンだけど、女性の為と言うなら協力しようではないか。

 ……とはいえ、ブラックは大丈夫なんだろうか?
 心配になり再び顔を見上げたが、ブラックは特に拒否感も無いみたいだ。無の顔になっているのが気になるけど……まあ、普段はズケズケ言うブラックが黙っているのだから、これは我慢しつつも許容してくれているのだろう。

 俺は改めてマエルに了承し、紹介状にサインをして貰う事で了承を貰った。
 よし、これで依頼受領が出来たな。……とはいえ、どこに採取に行けばいいんだろう?
 【ブレガ・ラスナフォラ】って毒草の形も知らないし、これは教えて貰わないとな。
 それを問いかけると、相手は「それ言うの忘れてたな」と言いつつ頭を掻いた。

「あの毒草は、別名だと【ムカデノコガサ】……つまりムカデっぽい葉がワサーっと繁ってて、花が傘みたいになってるから、見ればすぐ分かると思うぜ。それと採取場所の【毒呑みの森】は、確かこの村から街道を外れて【ドラグ山】の方へ進んで行けばあるはずだぜ。ただ毒沼があるくらいの森だから気ぃ付けて持ってこいよ?」

 ムカデに毒沼……。
 それに場所は、あの媚薬ゾンビ村があった【ドラグ山】方面かぁ……。

「……なんか僕、猛烈に嫌な予感と既知感が襲ってきたよ……」
「キュ~……」

 俺も【腐食の森】の悍ましい臭いと、人間が材料だった怖ろしすぎる媚薬キノコを思い出してしまったが、今回はアレとは関係ないはずだと首を振って思考を散らした。

 そうだ、アレは【腐食の森】だけの話だし、ティタンリリーは生息場所が限られていて滅多に咲かないはずの珍しい植物なのだ。
 腐肉の悪臭でモンスターを誘う植物がそうそうあってたまるか。

 だから、【毒呑みの森】というおどろおどろしい名前だって多分、そういう危険なんて無い、はず……。いや、マエルが臭いには言及してないんだからきっと臭くは無いはず!

 今回は楽なはずだろう。きっとそのはず。
 そう楽観視しようとするのだが、過去の衝撃的な記憶は中々消えなかった。

 うう……こんな情けない「消せない過去」は要らなかったんだがな……。










※朝方だけどなんとか遅くならずにはすみました(;`ω´)ヨカッタ

 娼彦の話しはこれまで単語だけ出てましたが、実際に出てくるのは初です。
 この娼彦の「彦」は「姫」に対応する単語です。
 王は地位的に使えないので、立派な男という意味であり「姫」相当の
 男性を指す単語として「彦」になりました。
 詳しく知りたい人は「彦」と「姫」で調べてみてね!

 
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