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酔現嫌夢サプロアリコン、束の間揺蕩う憩いの村編
入浴1
◆
「ほ……ホントに一緒に入るの……? ってか、脱衣所から一緒に入らなくても……」
そんなことを言いながら、目の前の少年はもじもじとその場で立ち止まる。
今まで散々宥めすかしてやっと脱衣所に入れ込んだというのに、今更そんな事を言われても困る。というか、もうとっくに拒否する時間は終わっている。
ブラックは扉を背にして「絶対に出さないぞ」と体で塞ぎながら、にっこり微笑んだ。
「つ、か、さ、くん? さっき言質取ったって言ったじゃない。……それとも……ツカサ君は、僕のこと弄んだの……? 僕があんなに喜んだのにツカサ君は~!」
「うわあああもう分かったっ、分かったから泣くなってば!! なんでアンタはそうボロボロ急に泣けるんだよもう! ほら鼻水!!」
ブラックが泣いたフリをすると、すぐに慌てて近寄ってくる。
……涙なんて、メスだろうがオスだろうが訓練すれば流せるものだ。そもそも、ブラックの事をある程度知っているというのに、どうしてツカサは毎度騙されるのだろう。
すんなり近寄ってきてくれた獲物につい呆れてしまったが、しかしそうやって「信頼した者の言動」に対しては全く警戒しない所が、ツカサのチョロ……いや、良い所なのだ。
そのおかげで、ブラックは意地っ張りで恥ずかしがり屋なツカサを好き放題出来る。
なにより、ツカサが最初から信頼してくれたからこそ――――恋人になれたのだ。
(困っちゃう時もあるけど、ほんと……ツカサ君のそういうトコ、好きだよ)
どれだけ意地を張っていても、信頼する気持ちは揺らがない。
ブラックの事を誰よりも信頼して、心を許して、甘える事を許容してくれている。
本人は隠しているつもりなのかもしれないが、ブラックを見上げるその濃密で美しい琥珀色の瞳を見ていれば、誰だって分かってしまうだろう。
どんな時でもまっすぐに見つめてくれるその目が、全てを物語っているのだから。
(でも、今日は逃がさないからねえ……。僕だって数日我慢してたんだ、今日こそは邪魔をされずにスッキリするまで愛し合うんだから……!)
そう。わざわざこの村の宿を取ったのは、そのためだ。
【セーナス】で噂に聞いた時から、どうにかしてツカサをここに連れ込めないかと思っていたのだが、今回は本当に運が良かった。
いや、最近は禁欲を強いられている哀れな中年男に、なんらかのいかがわしい神か精霊が力を貸してくれたのかも知れない。
浮かれてそう思ってしまうほど、今回はツカサがうまく帰って来てくれたのだ。
――――【アノ村】という新興の商人村は、一見すると開かれた卸市の村であり、商売に来た人々を癒すために様々な施設が併設されている……ように、見える。
だが、実態は違う。
ブラックが街で聴いた話は、こうだ。
(街の娼館に通うにはどうにも支障が出る“お偉いさん”が、世の中にはいる。ならば、その客を取り込んで商売できないか。街では噂が立つような振る舞いを出来る『隔離された隠れ家』があれば、金を持った人々が訪れやすいのではないか? ……そういうヨコシマな考えで作られたのが、この村だったんだよなぁ)
そう。つまり、あの卸市は全て「隠れ蓑」だ。
商人の妻であるメスや、立場上娼館に行けないオス、そして街ではハメを外せない難儀な御仁のための『都合がつく隠れ家』――――それが、この村の正体なのだ。
(隣街って言っても、商人じゃ顔が知れてるし人の目があるからな。その点、ここに住んでる奴らは全員が織り込み済みのヤツらだ。宿も、娼館も、店の従業員すら『お偉いさんから金と精を搾り取る』目的を知っていて、ニコニコ愛想よくしている。この宿だって……実は、人に絶対に声が聞こえないように曜具で防音されてるんだよなぁ)
思わずニヤっと笑ってしまいそうになり表情を抑える。
だが、ツカサは未だにモジモジしていて気が付いていないようだ。
……まったく、本当にやさしい恋人だ。
(そんなんだから、僕も調子に乗っちゃうんだよ……? すぐ騙されてくれるし、どんなに僕が無茶な愛し方をしても……許してくれるんだもん)
――――この宿の「真髄」を見たら、ツカサはどんな顔をするだろう。
ベッドの横にある、あの扉の奥。
その部屋を見た時にツカサがどんな反応をするのか。
考えただけで……下半身が、熱くなってしまう。
「ぎゃっ!! ばっ……な、何もう勃たせてんだよばか! スケベ!!」
「ふ、ふへへ……だってツカサ君と一緒にお風呂に入ると思ったらつい……」
半分嘘、半分真実の言葉を返すと、ツカサは真っ赤になって絶句してしまった。
丸く見開かれた目の中央で動揺する瞳が可愛らしい。ツカサの眼球が無事で済むなら、そこにも唇を落したいところだったが、グッと堪えてブラックはエヘヘと頭を掻く。
勃起していても、朗らかな表情を見せる事でツカサは一応落ち着いてくれる。
なんだかんだで長く一緒に居るのだ。
ブラックが「勃起してはいるが、まだ冗談の範疇」という状態でいられることも知っているし、それを恥ずかしがりつつも把握してくれている。
まあ本当は冗談ではないのだが、それがバレるとツカサが常に警戒してしまいセックスの回数が更に減ってしまうので、隠すより見せる事が大事な時もあるのだ。
というわけで隠しもせず「無害ですよ」とツカサの好きな笑顔を見せると、相手はチラチラとブラックのズボンの出っ張りを見つつ、訝しみながらも「は、はやくそれ鎮めろよ……!」と、本日何度目かも解らない許容をしてくれたのだった。
(ふ、ふへへ……ツカサ君たらもう、カンタンなんだからぁ……)
簡単に勃起するのが男の体とはいえ、ブラックの欲望が本気であることはツカサ自身嫌と言うほど教え込まれてきただろうに。
だが、そうやってすぐに騙されてくれるから、ついついまた騙したくなってしまう。
本当に、可愛くて可愛くて仕方がない。
ブラックは股間を手で握って勃起を抑えながら、片方の手で脱衣所の扉の鍵をかけた。
ついでに、出られないように曜術で一時的に鍵を開けるためのつまみを溶接する。
これでもうツカサは出られない。万が一脱衣所に逃げても、相棒の準飛竜に助けを求める事は出来ないのだ。その時のツカサの絶望に満ちた表情を想うと、また股間が張りつめそうになり、ブラックはいけないいけないと股間を鎮めたのだった。
「も、もう……っ、分かりやすく抑えるなってば……!」
「だってぇ、ツカサ君が焦らすから……。早く脱いでくれないと、僕、恥ずかしがるツカサ君が可愛すぎてここでセックス……」
「わかったわかったから風呂入る前に汚すのやめろよな!?」
大惨事を想像してか青ざめたツカサは、慌てて上着を脱ぎ始める。
やはり簡単で可愛い。
ブラックはツカサの表情に満足しながら、自分も脱衣所の籠に立った。
「ねえツカサ君、知ってる? ここのお風呂お湯に香り袋を入れられるんだって」
「香り袋?」
ツカサが委縮しないように、ブラックはさりげなく色気とは別の話題を出す。
すると、ツカサはそちらの話題に興味を引かれて、シャツを脱ぎ平気で上半身を露わにしながらもブラックを見上げて話を急かしだす。
(そうそう、ツカサ君ってばこういう話が大好きだもんね……)
しかも、ツカサは興味を惹かれた者に熱中してしまうタチだ。
ブラックは笑みに細めた目でじっくりと裸のツカサを眺めつつ、いたって普通の様子を装い話を続けた。
「野草や花を混ぜ合わせて作った、良い香りのするお風呂専用の袋らしいよ。その袋からは香りや薬効だけじゃなくて、綺麗な花の色も染みだすんだって」
「なにそれバスクリ……いや、えっと、入浴用の面白い染料じゃん!」
「そうそう。入浴剤とも言うらしいよ? 染料みたいだけど、色がつくのはお湯にだけみたい。色んな効能があるから、色々試すのも楽しいかもね」
そう言うと、ツカサは目を輝かせて「うわぁ……!」と期待に満ちた声を漏らす。
どうやらこういうモノもお気に召してくれるらしい。
似たようなものはブラックも何度か見た事があるが、それらは大抵娼姫が自分の体の香りを更に良いものにするためのもので、遊び目的ではなかった。
だが、ツカサにとってはこれも「楽しい物」の一種のようだ。
「ふふっ……」
「な、なんだよ急に笑って……」
「いや、ツカサ君といるとみんな“楽しい物”になっちゃうなあって」
「なにそれ……ま、まあいいけど……」
イヤミではないと理解したのか、ツカサはちょっと不満げながらも少し照れくさそうに目を逸らすだけに留める。……自分がもう下着一枚なのは、まったく気にしていないようだ。
そんな無防備な体を早く全て観察したいと思いながら、ブラックは自分の下着も躊躇わずグイッと引っ張って脱ぎ去った。
→
※もうしわけねえ、ガッツリ遅れまくった上に短いです…!
_| ̄|○ちょっと仕事がギリギリだった…
次はブラックがひたすら変態目線なのでユルシテ
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