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酔現嫌夢サプロアリコン、束の間揺蕩う憩いの村編
12.【毒呑みの森】1
翌日。
昼前に【アノ村】を出発した俺達は、売れっ子娼彦(娼姫の男版)のマエルが出した依頼【ブレガ・ラスナフォラ】の採取のため、俺達は村沿いの街道を外れて広い草原をのらくらと歩いていた。
――――依頼主のマエルが言うには、目的の植物は【ドラグ山】の方へ進んだ所にある【毒呑みの森】という森に生えているらしい。
形状はなんとも想像しがたいものであり、正直一発で見つけられるかどうか自信が無いのだが……それよりも先に俺には体に大きな負担がのしかかっており、先程から仰向けで空を見ながら、六匹のペコリアにえっさほいさと運んで貰っていた。
「ツカサ君……僕が抱っこして行ってあげるって言ってるのにぃ」
「人の体を好き勝手するような輩に預ける体は無い……」
横で平然と歩いている憎たらしいオッサンが声をかけてくるが、俺はそんな相手に睨みを利かせる事しか出来ない。
ち、ちくしょう……人を陸に打ち上げられたマグロみたいにしやがって……。
昨日の風呂場でのアレのせいで、腰が痛いわ股関節がおかしいわで、今日目が覚めても体がギシギシで動けなかったんだからな。
それもこれも全部お前のせいだってのに、なんでお前はそう元気なんだよ。
俺は情けない事に、ペコリア達に頼んで運んで貰っているというのにぃいい。
「んもー、ツカサ君だって僕のためにって思って協力してくれたんでしょ? だったら仕方ないじゃないか。僕のペニスはツカサ君にはおっき」
「わ゛ー!! ペコリア達の前でそんなこと言うなってば!!」
「どうせ解らないんだからいいじゃない。ツカサ君たら本当に恥ずかしがり屋なんだから」
「クゥ~?」
恥ずかしがり屋とかそういう問題じゃないだろうが!!
純粋無垢で可愛いペコリア達に変な言葉を教えるんじゃありませんっ!
でも起き上がれないのが悔しい……ぐうう……。
もう少し時間が有れば俺だって立ち上がってブラックをどつく事が出来たのだが、いかんせん今は腰もケツも足も調整中だ。
森に着くころには歩けるようになってるとは思うけど……はあ、返す返すも恥ずかしい。
久しぶりな上に変な体勢だったせいで、こんなことになるとは……。
にしても、ふ……風呂場であんなことするとか、本当にスケベオヤジだよな、コイツ。
男の無い乳でパイズリとか、お、お湯が汚れるの嫌だって言ったら、あんな格好で下からガンガン突いてきやがって……うう……遠慮ってもんがないんだよ。
久しぶりって自分で言ったくせに久しぶりにやる体位かアレが。殺す気か。
また体が初期状態に戻ってたせいで、今回のダメージはかなりのものなんだぞ。まったく、これじゃロクに探索も出来ないよ。
「ところでツカサ君、ロクショウ君はお留守番で本当に良かったの?」
「クゥックゥ~」
「クゥウ~?」
ブラックの問いかけに、俺を運んでくれているペコリア達も「いいの~?」と無邪気に体……いや首を傾げる。
超絶可愛い生き物がいることに感謝しながらも、俺は宿で待っている可愛いロクショウに思いを馳せた。
「仕方ないよ……だって今回行くところって言ったら【毒呑みの森】なんてとんでもない名前が付けられた森なんだぜ? いくら元・弱毒持ちのロクショウだって耐性が無い毒には弱いだろ。それに、毒持ちのモンスターが現れないとも限らないし……だから、今回は大抵の毒に耐性があるアンタと超回復できる俺だけで行く方が良いんだよ」
それを説明した時、ロクショウは「キュゥ~」と目をウルウルさせてションボリしていたが、俺は心を鬼にしてお留守番をさせたのである。
いつも一緒にいたいとは思うけど……やっぱり、毒に侵された姿など見たくはないのだ。
ロクショウに万が一があるなら、俺は安全な方を選ぶぜ。
「普通なら危険な場所にはモンスターをお使いに行かせるもんなんだけどねえ……。まあ、ツカサ君らしいっちゃらしいけど」
「なんだよ、毒が相手なら毒耐性があるヤツで固めるのが基本だろ」
ゲームでも、そう言う相手には毒耐性を持ってるヤツを出すのが定石なのだ。
無茶をして戦わせてはいけない。なにより可愛い俺の相棒やペコリアちゃん達を毒や沼の餌食にするなんて絶対に嫌だからな!!
……というわけで、ペコリア達も森の近くで帰って貰う予定だ。
ちなみに、ロクショウの傍には別のペコリアを喚んで、仲良く遊んで貰っているのでお留守番で可哀相な思いをさせないようぬかりない対策をしている。
ふふふ、ロクもオッサンと二人きりの旅で遊べなかっただろうし、今頃はペコリア達とキャッキャウフフで遊んでいるに違いない。早く帰って俺もまざりたいわ。
「ツカサ君よだれ」
「ハッ……! と、ともかくロクショウだって休息は必要だし、今日はこれで良いんだよ。俺達だけでも出来る依頼だしな」
「まあ、それはそうだけど……っと、向こうに何か見えて来たね」
「え、マジ?」
不満げな言葉を切って、見えてきた何かへ声を放るブラック。
少し腰が楽になったので、俺も腹這いに体制を変えてペコリア達のもふもふ体毛とウサ耳の間から前方を見やると――――少し下った道の向こうに、何か妙なものが在った。
「あれが……目的地の【毒呑みの森】……?」
「なんだかイカニモな色だけど、あれ本当に入って良い森なのかなあ」
ブラックが訝しむのも無理はない。
何故なら、俺達の前方――谷のように緩やかに落ち窪んだ底に広がっている場所――には、とんでもない色をした森が広がっていたのだから。
「む……紫と、なんかスライムみたいなぬめった蛍光緑が混ざった森……」
そう。俺の言葉の通り、緩やかな坂道の底にある森は、紫色の葉や幹を持つ木々と蛍光色っぽいサイケな緑色の植物が混ざり合う、独特な場所だったのだ。
これは……とんでもない所に来てしまった……。
「こんなとこが【アルテス街道】の近くにあったのか……」
思わず呟くと、ブラックがウームと唸る。
「例の【腐食の森】もそうだったけど……汚染された土地でもないのに急にこういう毒々しい森があるのが不思議だよねえ。アコール卿国は“大地の気”が豊富な土地だけど、この国だけにこんな森が複数あるのは気になるなあ……」
そう言われるとそうかも……。
毒沼とか毒の森って、普通なら荒野とか毒素が溜まりそうな場所にあるよな。ゲームだと、急に出てくることもあるけど……でも、穏やかで豊かな土地であるこの国の中に、いくつも毒を含む場所が存在するってのはなんだか奇妙だ。
毒の植物が群れる場所、なんて、そう多くないに違いないし……そんなものがあったら、次々に増えていって一帯が汚染されるはずだ。
なのに、アコール卿国ではそういうモノが一か所にとどまっている。
……うーん……そういう、なにか特別な土地柄なんだろうか?
例え猛毒植物が生えていても、なんらかの効果で広まらないようになっているとか?
だとしたら、ホントに魔法って感じだ。ファンタジー的な何かの理由があるのかな。
ちょっと気になるけど……でも、そのまま近付くわけにはいかないよな。
俺はペコリア達にお礼を言ってヨタヨタと降りると、あの森が目的地であることを教えて先に帰って貰う事にした。
「俺達が宿に戻ってきたら、お菓子を一緒に食べような」
「クゥー!」
「クゥッククゥ~!」
おかし、という言葉にペコリア達は大層喜んで、両手をパタパタ振りながら俺にお別れの挨拶をして次々におうちの森へ帰って行った。
「クゥ~ウ~」
バイバイしながら、ぽしゅっという可愛い音と共に白煙を散らして消えるペコリア達。
ううっ、もふもふパラダイスも暫しお預けか……。帰ってくる時は、絶対に水で洗い流して服も着替えて無毒の状態で帰らねばな……なんて思っていると。
「……あれ? ツカサ君、一匹帰ってないんだけど……」
「えっ!? あっマジだ!」
ブラックの言葉に驚いてペコリア達が集まっている方を見やると、なんとそこには白い煙の中でちょこんと立っているペコリアが一匹だけ残っていたのだ。
いつもなら帰っているはずなのに、どうしたんだろう。
「お、おかしいな……いつもならみんな一緒に帰ってるのに……。もう一回、帰れるように【召喚珠】にお願いを……」
と、俺が綺麗な桃色の宝珠を取り出そうとすると。
「クックゥー! クウックゥウ~クゥ~」
「なに、ツカサ君この毛玉なに言ってるの」
「毛玉じゃねーって! えーと……一緒に付いてきたい、みたい……。でも困ったな、さっき『毒がたくさんある森』だから危ないって言い聞かせたのに……」
他のペコちゃん達は「毒こわいー!」ってフクロウみたいに体を縦に伸ばして「ひぃいい!」とでも言いたげに顔に両手を埋め込んでいたが、どうもこのペコリアは毒が怖くないようだ。いやむしろ……。
「…………」
「どしたのツカサ君、なんだか妙な顔して」
「……いや、その……」
「クゥ~」
「あっ、この毛玉ヨダレ垂らしてやがる!!」
……この残ったペコリアは、どうやら魔女の森でも食いしん坊さんだったあのペコリアで、毒の森にも美味しいものが在るんじゃないかと思って残っちゃったらしい……。
伝わってくるぞ……強い「美味しい物たべたい!」という意志が。
森の中に美味しいものが在ると信じてやまないキラキラした目が……っ!
「お、俺には帰りなさいなんていうのは無理だぁあ……ッ!!」
「……ツカサ君、本当にこういうのに弱いよね……」
おいコラ蔑んだ目を向けるんじゃねえ、可愛い物に負けるのは当然だろうが!!
こんなに期待に満ちた目をしているのに「帰れ」だなんて、言えるはずがない。無邪気な顔でワクワクされたら、もう、抱きしめたくなっちゃうよ……っ!
「クゥー!」
「こらこらこらツカサ君抱き締めないの、感極まらないの! 話が進まないでしょ!」
「うう……俺がしっかり抱いてるから、後衛徹底するから連れて行こうっ。こんなに楽しみにしてるウサちゃんを俺は帰せないよぉ……!」
顔をペコリアの薄桃色の可愛いモフ毛に埋もれさせて訴えると、食いしん坊ペコリアも目をウルウルさせてブラックの方を見つめる。
そんな俺達にブラックは心底ウンザリしたような目をしていたが。
「……はあ……仕方ないなあ……。どっかに行かないようにちゃんと抱っこしてね?」
「やったー! 良かったなあペコリア~!」
「クゥ~!!」
わっ、目を輝かせてじゅるじゅるヨダレ垂らしてるわ。
いやあ可愛いなあ、なんでこう食いしん坊な動物って可愛いんだろうか!
「なんかイヤな予感がするなあ……はぁ……」
二度目の溜息がブラックの口から漏れたが、安心召されい。
ペコリアを危険な目に合わせるなんて、ありえないのだ。ブラックは心配しているのだろうが、こういう時の俺は強い。可愛い動物を守るためならエンヤコラだ!
任せておけと視線を送ったが、帰ってきたのは半目の渋そうな顔だけだった。
……うん。信用されてないな、これは!
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