1,126 / 1,143
酔現嫌夢サプロアリコン、束の間揺蕩う憩いの村編
15.お土産選びは慎重に1
◆
「いや~今回は大金星だったな! フレドレカルのおかげでマエルも大喜びだったし、報酬をかなり上乗せして貰えたし! まさかの金貨三枚だぜ!?」
「クゥッ~クゥ~!」
冒険者ギルドへ「依頼達成」のご報告をするために路地を歩きつつ、俺は先程の興奮が冷めやらずついつい上機嫌ではしゃいでしまう。
食いしん坊のペコリアも短くて可愛いお手手を挙げて喜びのポーズだ。
そんな俺達だったが、何故かブラックは不満そうな顔をしていた。
「まあそりゃいいんだけどさぁ……にしてもあんの腐れ娼彦め、ツカサ君がメスだってやっと気が付いたら、万年発情期のモンスターみたいにツカサ君を誘ってきやがって……もう娼彦の依頼なんぞ絶対に受けないんだから……」
「あ、あはは……」
どうやらブラックが怒っているのは、報酬にではなくマエルの態度だったようだ。
まあ……確かにあの態度は凄かったよな……。
フレドレカルの御厚意で【ブレガ・ラスナフォラ】を丸ごと手に入れた俺達は、鉢植えに新鮮な土を入れて「暗所で育てるように」と言われた通り布で日光を遮るようにして、早速娼館に持って帰って来たのだが――そこで、実は一悶着あったのである。
鉢植えをマエルに見せて、近くでどのように保護してやったらいいかを説明していたら――不意に、マエルが俺をジッと凝視してきたのである。
そりゃもう、視線がビシビシ分かるぐらいにじいいいっと。
当然、それほど見つめられたら流石の俺でも気付くわけで……そんで見返した刹那、なんとマエルは態度を急変させたのだ。
俺の手をがっちり掴んだと思ったら「ああごめん、今まで君に酷い事を言って悪かったよ」などとイケメン声でのたまい、だらしない姿を急に気怠いイケメンに切り替えたかと思うと、俺に対して甘い言葉を囁き始めたのである。
その切り替えの早さといったら、ブラックも一瞬呆気にとられるほどだった。
常日頃からイケメンは爆散してほしいと思っている俺ですら、マエルの仕事モードである「万人がドキッとくる美形」の演技に気圧されてしまったんだからな。
いや、縁起じゃなくて本気だったからこそ、俺は動けなかったに違いない。
同性に対してはどうしようもない態度だが、異性に対しては心の底から愛を囁く。
そういう本気度合が、ナンバーワンだの売れっ子だのと言われる所以なのだろうな。
考えてみれば、娼姫のお姉さん達だって、オスを心から癒そうとしてくれてるんだ。彼らにとって、「癒されよう心の隙間を埋めようとやってくる人達は愛すべき存在だ」という職人魂が有るのかも知れない。これも一種の仕事人の矜持ってやつなのかもなあ。
……まあともかく、マエルの豹変っぷりったら、本当凄かったのだ。
マエルの事を薄ら嫌いだった俺ですら、もう凄いなってぐらいしか思えなくなっちゃったし。あっ、でも甘い言葉にグラついたって話じゃないぞ。俺みたいなのにまで本気で接する相手に気高さを感じてしまったからって理由だからな。
にしても、アレがナンバーワンの本気か……。
同性ですら圧倒するんだから、メスの淑女はきっとイチコロだろうなぁ。
「依頼を受けるかどうかは別にして、さっきまでオス認定してたヤツに可愛いとか魅力を隠すのが得意だねとか、本気で言ってくるのには驚いたよ。全然イヤミもなく本気の大真面目な顔だったしな。うーん、ああいうのがモテる男ってことなのか?」
ツラが良いのは勿論だけど、やっぱハートが熱くないといけないのか。
悩みつつ首を傾げると、ブラックが口を挟んできた。
「いや、アレは特殊でしょ……っていうか問題は、ツカサ君が珍しいからって本気度合の中に、ちょっとつまみ食いしたい気持ちが滲んでたことだよ……。依頼人じゃ無かったら、すぐ剣で真っ二つにしてやってたのに……」
「真顔で言うな真顔で」
本気度マシマシの殺気はやめなさい。ペコリアが怯えてるでしょうが。
このおじさん怖いね大丈夫だからねと可愛いわたあめうさちゃんを撫で落ち着かせつつ、俺は話題を変えようと殊更明るい声を出した。
「まあともかく! 依頼は達成したし予想外の報酬も貰えたし……ギルドに行ったら必要な物を買いに行こうぜ」
「必要な物?」
ようやく広場に出ると、既に日は傾き始めているのか日差しの強さが緩んでいる。
ギルドを目指して歩を進めつつ、俺は未だに不満げなブラックの問いに答えた。
「フレドレカルのための調理器具だよ。一式用意してやれば、俺達が旅立っても一人で調理できるだろ? 幸いな事に、ここには色んなものが揃ってるからな」
「えぇ!? ツカサ君もしかしてアイツの為に無駄遣いするつもり!?」
「無駄遣いじゃないだろ、これはお礼なんだから!」
フレドレカルのおかげで金貨を貰えたんだから、つまりこれは彼のお手柄と言っても良い。だったら、多少なりとも恩返しはすべきだろう。
俺達は依頼通りの金額どころか、その倍以上のお金を貰ったんだからな。
だから、せめて不健康な生活にならないように最低限の食事をさせてやりたいのだ。
そんな俺の説明にブラックは唸って腕を組んでいたが、仕方ないと溜息を吐いた。
「はぁ……ツカサ君てばこういう時だけ言い出したらきかないからなぁ……。まあ、予定外のお金は持ち歩かない方が賢明だし……恩を売っておいて損は無いか……」
……どうやらさっきの話題は忘れたようだな、なによりだ。
とはいえ、ブラックがすんなり折れるのも珍しいな。恩を売って損は無いと言うけど、フレドレカルに何かして欲しい事が有るんだろうか?
いや、だからって恩を売るってのはなんだかヤクザみたいだが……まあ、ブラックも鬼じゃないんだし、今のは言葉のあやってヤツかも知れない。
ブラックも中々のツンデレだからな。クロウのことを友達だと思ってるくせに、いざ顔を合わせたらツンケンするんだから。「そうじゃない」ってゲンナリした顔で言われるが、ツンデレに詳しい俺にはそういうのも分かるんだからなっ。
「ツカサ君、僕が吐きそうになるようなことを可愛い顔で考えないで……」
「だから心を読むなってお前は!!」
なーにが吐きそうだこの。
っていうか誰が可愛いだ。ここに可愛いの現物であるペコリアが居るのに何を言う。
まったく、吐いたり目が曇ったり忙しいおじさんだ。なーペコリア!
「クゥ~」
「あっ、またヨダレが……お腹減ったのか……」
「そいつ放っておいたらツカサ君の手をしゃぶりそうだし、さっさと用事を終わらせてご飯でも食べようか。色々済ませてたら夕方になるでしょ」
「そうだな、んじゃ手早くギルドで達成証を渡そう」
冒険者ギルドと言えば依頼、依頼と言えば達成報告。
この世界でも俺が知るチート小説の例に漏れず、達成した証明を依頼主からもらったり、他のやり方だと現物を直接ギルドに持ってきて達成認定して貰うのだ。
まあ、依頼主が直接達成報告してくれることもあるし、小さな街だと俺達が報告するより先に何故かギルドが知っていたりもするのだが、さすがに新しい村だとそうはいかないからな。いやまあ、ここって村っていうかもう街みたいな気もするけど。
そんな事を反芻しつつ、俺達はギルドの受付さんに達成証を見て貰い上乗せされた報酬を見事ゲットしたのだった。
達成証の良い所は、報酬を上乗せされた時に即座に払って貰えるところだよな。
なんでもギルド謹製の証明書は偽造防止の術がかかってるらしく、依頼者かギルド職員でないと内容が変更できないそうで、信頼性が高いらしい。
まあ、高いと言っても、この世界だったら偽造とかいくらでも出来そうだが……。
俺の世界でも偽札作ろうってヤツも後を絶たないからなぁ。
今回はいい方向での修正だったからなんも言わないけど。
――――ともかく、用事も済んだことだし今度は買い物だな!
日が暮れないうちに買えるものは買っておこうと言う事で、俺達は早速昨日のアーケードへと足を運んだ。
「やっぱ一日中混んでるんだな~」
広場からアーケードの入口をパッと見ても、人が減った気がしない。
むしろ、少し強くなった日差しから逃れたい人が多いのか、朝よりも人が多い気がする。夕飯前だからってのもあるんだろうけど、それにしても大人気だな。
俺達もその輪に加わるべく、アーケードへ入った。
「朝よりも値段が下がってるものがあるね。大体がナマモノかな?」
「今日売りつくしたいんだろうな。俺の世界でも当たり前にやってるぜ」
いや、こっちの世界の方が「夕方割引」は切実なのかもな。
だって夜は昼間のモンスターより凶暴な奴が出てくるって言うし、それを避けるために人は夜になるとあまり出歩かなくなるんだ。
つまり、俺の世界より生鮮食品は売れ残りやすい。夜になる前にもと食品を売ろうとする商人達が、朝よりも声を張り上げて人を呼び込もうとするのも無理はないよな。
けど安いのは好都合だ。
フレドレカルへのお土産は別にして、俺達も贅沢してもいいんじゃなかろうか。
「ねえねえツカサ君、どうせなら今日のご飯ここで買った材料で何か作ってよう」
「クゥ~! クウックゥ~!」
俺の財布のひもが緩んだことに気が付いたのか、ブラックと食いしん坊ペコたんがタッグを組んで夕飯のおねだりを始める。
まったくわかりやすい……。
「わかったわかった、ついでに何か買うか……何が良い?」
「肉料理!」
「クゥウ~!!」
「やっぱり肉か……まあいいけど、鮮度が落ちるから肉は最後な!」
「わ~い!」
俺は子供のように騒ぐ二人を制しながら、人の波を縫うようにアーケードの中心部へ歩き始めた。まったく、このオッサンときたら怒ったりはしゃいだり子供なんだから。
ま……まあ、そこまで乞われて悪い気はしないし、別に良いけど……。
→
※仮眠しようと眠ったらいつの間にか朝でして…
遅くなりました…思考能力が落ちる時期ですね(;´Д`)スマヌ…
依頼主だから金を貰うまで無暗に切り捨てられない
変な所は常識が有るおじさんであった(昔の仲間に口酸っぱく言われたせい)
あなたにおすすめの小説
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件
月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。
翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。
「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」
逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士
貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。