異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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酔現嫌夢サプロアリコン、束の間揺蕩う憩いの村編

  お土産選びは慎重に2

 
 
 ご、ゴホン。とにかく揃えられるものは全部揃えておこう。

 時間も勿体無いので、サクサクっと買い物しようと心に決めつつ、俺は最初に雑貨屋さんに入った。

 ――雑貨屋、と言っても女子が好むお洒落ショップというワケではない。こちらの世界では専ら生活雑貨ばかりで、ここには家具屋に置いていない調理器具などが売られている。
 家具や庶民の食器なら樵や木工職人の領分だけど、彼らは金属製の物は作らない。鍋にナイフにフライパンと言った金属の調理器具は、鍛冶師や金の曜術師の領域だ。

 そのため、家具屋さんには調理器具が置いていない事が多いのだ。
 つまり、職人ごとにお店が分かれてるってコトだな。だけど鍛冶師ってのは木工職人よりもずっと数が少ないから、鍛冶師が直接営んでいる店以外だと、雑貨屋さんや卸の人が営むお店にしか調理器具は置いていないのである。

 まあそもそも、鍛冶師は大体が金の曜術師だし……ブラックが言うには「金の曜術師は、自分が作りたいものを優先して他が疎かになる」らしいので、鍛冶屋自体がそもそもお店を開いているかどうかも怪しいってことが多いんだが……。
 ……俺の友達にも似たような金の曜術師がいるから、なんとも否定しづらいな。

 ま、まあともかく、そういう人から器具を買い取って売ってるのが雑貨屋さんって事だ。
 さてさて、新しくできた村である【アノ村】の雑貨屋さんには、どんな調理器具が売ってあるのか。オープンな店の入り口から中に入ってみると、少し薄暗いお店にはたくさんの籠と棚が置かれているのが分かった。

 人もそこそこいて、近場の村から日用品を買いに来ているらしい。
 むむ……夫婦っぽくてちょっと羨まし……いや、目の毒だ。見ないようにしよう。

「えーと、調理器具調理器具……」
「クゥーククゥー、クゥーククゥー?」

 俺の真似っ子をする可愛いわたあめうさちゃんを撫でつつ店の奥に入っていくと、とうのような素材で出来た大きいバスケットが棚の陰に置かれているのが見えた。
 なんだろうかとバスケットの中を見てみると。

「えっ、調理器具が一緒くたで山盛りに……しかも【格安!】って……」

 バスケットに取り付けられている小さなプレートに、スーパーとかで見かける「お得ですよ」アピールが記されている。
 だがバスケットの中身は、本当に信じていいのか疑うような器具ばかりが入っていた。

 中世ファンタジーで見かけるような、スープを煮込むための吊るせる丸い深鍋に、広めの平たい鍋。フライパンのような形状のものや、おたまなどの小物まで多種多様なものが全部まとまりもなく混ぜられている。
 本当に特価品のワゴンみたいだなこれ。驚いて見つめていると、ブラックが見知った物のように、バスケットの中の物を表した。

「ああ、これ中古品だね」
「中古品?」

 それなら格安と言われているのも納得だし……確かにお鍋は使い込まれた鈍い光沢を放っている物ばかりで、新品とは言い難い感じだった。

 吊るせる深鍋の中でも小さなものを取ってみるが、手入れはされているものの吊り手……金属の蔓を軽く動くと、それだけでキイキイ鳴ってしまう。まるで油を差していない機械の音みたいだ。新品はもう少し大人しい音……だよな?

 それに、どれだけ手入れしてもやはり焦げ跡やへこみの痕は残ってしまう。
 よく見てみると、確かに新品の鍋とは言い難い様相だった。

 けど……ここは普通の雑貨屋さんなのに、どうして中古品が売られてるんだろう。
 不思議に思った俺の顔を見て察してくれたのか、隣にいるブラックが説明してくれた。

「ツカサ君は街の雑貨店やギルド系列の雑貨店にしか入った事ないでしょ。でも、村とかの小さな雑貨屋では、廃村になった村とか廃墟から手に入れたものや、旅をしてきた人達の持ち物を買い取ったものを綺麗に修繕して売ることが多いんだよ。金の曜術師は他の属性の術師に比べて数が少ないからね。鍛冶師がいない村はそうすることが多いんだ」
「へえ~なるほど……! 鍛冶師とかからは仕入れないんだ?」
「近場に居るなら、新品も買うかもね。でも、大体はこういう感じかな。……まあ、森の中とかで、骨や死体と一緒に見つかる事も多いみたいだし……売りに来るヤツが、何故か毎回同じだったりするらしいけどね」
「ヒエッ……」

 そ、そういやそういう世界だったわここ。
 ブラックや仲間達が強いので忘れていたが、モンスターや盗賊が普通にいるんだよな。
 盗賊は街道にはほとんど出て来ないから、今まで存在を忘れていたが……。

 しかし今更ながらにそういう話を聞くとゾッとするな。
 何度か盗賊に遭遇した記憶が一気に蘇ってきたが、願わくば今後は出会いたくない。
 っていうか、この格安のお鍋たちもそういうモノなのだろうか……。

「あ、この店は街の商人の物だろうし、別に血生臭いことはないと思うよ」
「ホッ……そ、そうか……」
「こういうのは、鍛冶師の所に戻ってきた奴じゃないかな。大抵はつぶして再利用するために鍛冶師や古物商が買い取るんだけど、最近は鉱石も豊富に取れてるらしいから、古い物をわざわざ溶かす必要も無くて売りに出したんだろうね」
「なーるほど、そういうのもあるのか」

 ブラックの話では、古い鍋などの調理器具はつぶして金の曜術師が練習するための地金にするらしい。古い金属は人の気が混ざっているから扱い難くて、それを自在に変形させる事が出来るようになれば鍛冶師としていっぱしの扱いになるんだとか。

 まあそれとは別に、古い器具のための接ぎ材用ってのもあったらしいんだが、今は鉱石が豊富らしいのですっかり必要なくなっちゃったみたい。
 だからでっかい鍋までこんなに安く売られてるんだなぁ。

 なんにせよ、俺達にとっては好都合だ。
 古くたってモノがしっかりしていれば更に長く使えるに違いない。よーし、この中で掘り出し物を探してみるか!

「おっ、ツカサ君これ良いんじゃない? 大鍋で使い勝手が悪いけど、底もすり減ってないし金の曜気が綺麗に全体に行き渡ってるから頑丈だよ」

 …………探そうと気合いを入れた瞬間にオッサンにぶち壊されたぞ。

 そういやブラックは炎と金の属性を持つ【月の曜術師】だっけ……そら得意な属性なんだから、俺よりもしっかりした審美眼を持っているわけだ。
 く、くそう……悔しいけどぐうの音も出ない。
 なにより人に贈る物だし、こういうのは俺のプライドより信頼のおける鑑定眼だよな。

「ありがと……じゃあこれと、あとお玉とか買ってこう」
「他も僕が選んであげるっ! まあどうでもいい奴への贈り物ってのがシャクだけど」

 コイツの場合本気でそう思ってるのが何とも言えないんだよなあ。
 まあでもわざと悪い物を選ぶようなヤツじゃないって俺は知ってるし、こう言ってくれた以上は、良い物を選んでくれるだろう。……俺も調理器具を新調する時はブラックに頼もうかな?

 そんな事を考えつつ、フレドレカルが使いやすそうな器具を買い込み、足早に次の目的地へ向かう事にした。荷物は多くなったが、店主さんが気を利かせて大鍋の中に入れてくれたので、それほど持ちにくさはないな。
 まあ、ブラックが肩にさげて持っててくれるから、俺は手ぶらでラクチンなのだが……。

「クゥ~」

 そうそう、ついでにペコリアもお鍋の中に入ってるんだよな。
 なんか空中ブランコのアトラクションみたいで楽しそうだ。そしてもちろん可愛い。
 ネコ鍋ならぬペコ鍋……これは流行るな。

「次はどこに行くの?」
種苗しゅびょう屋さんだよ。昨日アーケードを歩いている時にちょろっと見かけたんだ」
「苗……? あんな場所に何か生やすつもりなの?」

 ブラックは難色を示すが、しかしそこは俺にも考えが有るのだ。
 まあ見てなさいと制しつつ、俺は種苗しゅびょう屋さんに「大地からたっぷり栄養を取り込んで蓄える木」を見繕って貰い、その中で果実が取れそうな樹木の苗を購入した。

 迷いのない俺の行動にブラックは「どういうこと?」と不思議そうにしていたが、まあそれは後のお楽しみって奴よ。

「よし……このくらいかな? 後は……」
「まさか、テーブルや椅子も買うって言うんじゃないよね……?」
「そこまではしないって! 普通に今日と明日のメシ買って帰るよ。フレドレカルが言ってた事も試したいからな」

 そう言うと、ブラックは露骨に嫌そうな顔をした。

「つ……ツカサ君本当にアレやるのぉ……?」
「だから食べたくないなら食べなくていいったら。これは俺の実験も兼ねてるんだから……っと、バロ乳あったあった! おじさーん、バロ乳一瓶……いや二瓶下さーい」

 新鮮なバロ乳を入手できるお店を見つけてつい話が逸れてしまうが、ブラックは余程不満なのか、お金を払う俺の後ろでブツブツ文句を言っている。
 まったく、お買い物を楽しむ余裕もないとか……。

 まあでも言いたいことは解る。
 好き好んでやることじゃないと言いたいのだろうし、万が一失敗でもしたら大変な事になるのを心配しているのだろう。とはいえ、俺だって修行の機会を逃したくはない。

「ねえ、ツカサ君本当にあのキノコを毒抜きして食べるのぉ……?」

 バロ乳の瓶をバッグにしっかり入れる俺の顔を、軽く覗き込んでくるブラック。
 その表情は叱られたワンコみたいにしょげていて、自分が食べたくなさそうなのと同時に、俺への心配の気持ちも伝わってくる……ような気がしないでもない。
 勘違いかも知れないけど、なんだかその顔にこそ毒気を抜かれてしまって、俺は苦笑しながら「心配するな」とブラックの腕を軽くポンポン叩いてやった。

「心配するなって、ちゃんと毒が抜けたか確認する方法はあるからさ」

 俺に任せなさいと頼もしくふんぞり返るが、ブラックは納得いっていないようだ。

 まだご不満のようだが、そうなるのも仕方ないか。
 なんせ、俺が今からやろうとしている事は――フレドレカルが「毒が有る」と言って食べていたキノコを、俺が毒抜きして試食してみるなんて一見無謀にも思える事なんだからな。

 ……しかし、無謀だと思うのは待ってほしい。
 これも俺にとっては修行の一環なのだ。

 俺は、フレドレカルが教えてくれた「キノコの毒抜きの方法」を聞いて、これは薬師としての修業になるんじゃないかとピンと来たのだ。
 さすがは俺。冴えている。……って自画自賛はともかく。

 実際に俺にとっては良い機会だと思ったんだよ。
 だって薬師は「毒を食べてみて【鑑定】の知識を蓄える」ことが前提の職業だし、それに、今の俺には「毒を薬にする」という新たな知見も有る。
 あの毒キノコを使って【鑑定】の技術や毒抜きの経験を得れば俺の薬師としてのスキルは絶対に上がるし、キノコの味を確かめる事で美味しい料理を作る事も出来るのだ。

 なら、やらないよりやる方が良い。
 それに、お節介をするならするで、ちゃんと自分が納得したものを贈りたいからな。

 味見もしてない料理を教えたって仕方ないし、なにより……俺の料理をいつも「美味しい」と言ってくれるブラックにも、顔向けできなくなりそうで俺自身が納得いかない。
 誰かに喜んでもらうのって、それだけとても大切な事だと思うから。
 だから、フレドレカルにもキチンとしたものをあげたいんだけど……。

 …………ブラックに似てるなって思って、つい余計に力が入ってお礼しようと考えちゃったような気もするな。なんか前のめりになっている自分が恥ずかしくもあるが……と、ともかく感謝の気持ちってのは大事なんだ!
 味見をするのなんて当然だし、俺は別に間違ったことはしてない……はず。

 だからフレドレカルにも喜んでもらえるように、俺はここで薬師としてまた一歩進むのだ!

「まったく……ツカサ君も勉強熱心だねえ」
「クゥ~?」

 呆れたような声を出すけど、ブラックは緩い苦笑を浮かべている。
 唯一ペコリアだけは不思議そうに頭を傾げていたが、そんな無邪気な仕草が可愛くて、俺は思わず笑ってしまった。

 ブラックに心を読まれなくて良かったな、なんてちょっとドキドキしながら。










※どちゃくそ遅れて申し訳ない_| ̄|○寝てたり色々ありました…

 
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