異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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酔現嫌夢サプロアリコン、束の間揺蕩う憩いの村編

17.穏やかな時間になると気付くこと

 
 
「ふぅ~、食べた食べた……」
「ツカサ君二皿しか食べてないじゃない。大丈夫?」
「いやアンタが食いすぎなんだよ六皿で腹八分目ってどういう大食い記録だよ」
「えっ、まだ食べられるけど……」
「いせかいじんこわい」

 毎回食事を作っていて思うけど、この世界の人達の食事量……いや曜術師達の食事量は異常だと思う。曜気がエネルギーみたいなもので、それを蓄えるためにたくさん食べるってのは理解できるんだけど、それにしたってとんでもない大食いだ。

 俺だってダチと比べると結構食べる方だと思うんだけど、ここまではいかない。
 こういうの見てると、やっぱ違う世界の人なんだなあって感じるよな。いや、俺の世界でも大食いの人はいるけどさ。

 まあそれは置いといて……食べたら食べただけ後片付けってのが発生するわけで、俺はブラックとペコリア達が積み重ねた皿の山を崩すべく、キッチンへ向かおうと腰を上げた。
 食卓から遠目に見ると怖ろしい量だが、ホテルの人に頼むわけにもいかないからな。

 やらねば終わらないが、やれば終わるのだ。
 まあキッチンが歩いて数歩の場所にある事が救いだなと思っていると、太い酒を一瓶丸々開けて赤ら顔になっていたブラックが立ち上がった。

「あっ、ツカサ君、皿洗いは僕がやるよ」
「え……でもあんた酔っぱらってるだろ」

 フォークやナイフで怪我をしたらどうすんだよ。危なく思ったので遠慮しようとしたのだが、ブラックは「良いから良いから」と俺の肩を掴みムリヤリ椅子に座らせると、キッチンの方へと行ってしまった。いやいや心配だってば。

 慌てて立ち上がり横に立つ俺を気にせず、ブラックは手慣れた様子で食器を水場へ入れ洗い始めた。

 …………こいつ、こういう後片付けは意外にも積極的にやってくれるんだけど……なんというか、当たり前にやってますって感じが違和感あるんだよな。

 俺からすると、ブラックみたいな男臭いオッサンって、食器なんて軽く洗ったりほっといたりするイメージだし風呂も面倒臭がるから、最初はてっきり皿洗いも適当にやるんだと思ってたんだけど……これが本当に丁寧にやるんだよなぁ。
 でも、そういうのって貴族みたいな綺麗な食事の所作とか、反対に粗雑な行動を取ったりする事と妙にかみ合わない感じがする。

 まあ、洗ってくれるのは勿論嬉しいけど……家事が上手いのは改めて見ると不思議だ。
 そういうのも冒険者仲間に教えて貰ったのかな。それとも、自分で学んだとか?

 ……考えてみると、ブラックのそういう部分も知らないんだよなぁ、俺。

 何でもかんでも知りたいってわけじゃないし、ブラックが教えもいいと考えた事だけで良いとは思ってるけど、こういう場面を「意外」と思っちゃう自分が何かヤなんだよな。
 なんというか……俺の中のイメージの方が、現実のブラックよりよっぽど強いんだなって。

 じゃあ俺って、ブラックのこと全然理解できてないんじゃないのかって思ってさ。

「…………」

 横からじっと見つめる流し台の泡の山からは、大きくて太い筋が走った男らしい手が何度も見えては隠れている。ガシャガシャと音が立っているけど、その食器の扱い方は大きな手とは思えないほど丁寧だ。

 筋肉で引き締まった太い腕に袖をまくって、楽しそうに皿洗いをしている横顔は、正直な話……古い外国のドラマに出てくるみたいな男らしい美形って感じで、こうして黙って見ていると同じ次元に居る人間のような気がしなかった。

 何しても絵になる奴って、いるんだよな。
 うねった赤い髪が後れ毛みたいに出てる姿も、野性味のある横顔に妙にしっくりくる。俺がやったって「寝ぐせダセェぞ」って言われるだろうに変な色気が有るようにも見える。

 ったく、美形ってホントズルいよな。何してても絵になるんだもん。
 ……まあ、そんなオッサン見て色気が有るとか言ってる俺もどうかと思うけど。

 だけど格好いいと思っちゃうんだから仕方ないだろ、俺だって「カッコいい男」って存在には憧れがあったんだからさ。
 でも……そういうのってやっぱり、俺の中のイメージでしかないんだよな。

 実際のブラックは甘ったれですぐナヨナヨして、そのくせ小狡くってさ。
 俺が考える、というか婆ちゃん達に見せて貰ったり自分で見たりしたカッコイイ男とは全然違う。それどころか、こんな変なオッサン今まで見た事も無かった。
 格好いいけどそれだけじゃなくて、どうしてか俺にばかり構ってきて。

 そのうち絆されて、こんな関係になっちゃったけど……良く考えたら、ブラックって俺が思う大人と全然違うんだよな。なのに、ふとした時に普通の大人みたいに「格好いい」なんて変な事を考えてしまう。

「すぐ終わるから待っててね」

 落ち着いた、低くて響くような大人の声。
 そんな声を出せるくせに俺の前だと「そういうとき」しか使ってこない。

 ほんと、変な奴なんだけど……知らない事ばっかりなんだよな。

 だから今みたいに食器を洗ってるコイツに、申し訳なさと言うか自分に対する恥ずかしさのようなものが湧いてくるんだ。
 ……結局、俺は今まで見て来たものや知ったものしか想像できなくて、ブラックがこんな風に「皿洗いがうまいこと」も、今更驚くみたいな有様だ。

 よく気が付くイケメンなら、女の子が数センチ髪を切っただけで解るのに。
 なのに俺は、ずーっと一緒に居るのにこういう所を気付けないんだよな……。

 ブラックが過去を話したくないと思ったって、一緒に居る事が出来ればこうやって小さな事を気付いてやれるし、もっとアンタのこと理解できるのに。
 なのに、俺はブラックが移動中に何をしているのか考えもしないで、自分の世界に帰って情けなく逃げ回ってオッサンに助けられて……ほんと、なにやってんだろ。

 好きだって言うなら、一生一緒にいたいって思ったんなら、気にかけてやるべきなのに。
 少なくとも俺は、ブラックに対してそうしてやるべきなのにな。

 …………なんか、今更ながらに日帰りであっちこっち飛び回って良い物かと考えちゃうよなぁ……。自分で決めた事だし、結局どっちも捨てられなかったから仕方ないんだけど、今こうやってボーっとブラックのことを見ていると、自分の不誠実さを考えちまうよ。

 でも、俺は物語の人間みたいに片方の世界を諦めたくなかったんだ。
 自分の世界も、アンタのことも……諦めたくなかった。
 ……そう思うのなら、もっとブラックの事を見なくちゃいけないんだよな、きっと。

 俺のワガママに付き合わせてる以上、こ……婚約者、として……ちゃんと、ブラックが心に傷を負ったり悲しまないように、見ててやんなくちゃいけないんだ。

 俺が思う「恋人を持つ男」ってのは、そういう男だ。
 好きな女を泣かせない、自分の力で幸せにしてやれる。そういうイメージだった。
 現状、俺は「頻繁に一人にさせている」時点でそういう男には程遠い。

 ――――背中を守りたい、一緒に戦いたい、だけじゃだめだ。

 ブラックには、ブラックなりの意志が有るのだ。俺の理想とはちがう心を持っていて、俺が知らない何かに傷付いて、知らない所で落ち込んだりもする。
 今はこんな幸せそうな顔をして皿を洗ってるくせに、それを見せてくれない。
 背中を守るだけじゃ、一緒に戦うだけじゃ寄り添えないほどの苦しみを抱えている。

 …………だから、俺はもっと……何か、何かすべきなんじゃないのかな。

 干し肉でズボラにメシを済ませたり、昔の事で心が苦しくなっても平気な風を装ったり……料理で慰めるだけじゃ無くて、か、体とかで、なにかするんじゃなくて……。
 その……何も知らなくたって、アンタの事が大事だって解って貰えるような事、とか。

 と、とにかく!
 俺からもブラックを真正面から見てやるべきだと思うんだよ。

 皿を洗ってるアンタの姿を「アンタならやれる」ってすんなり受け入れられるように、もっと俺自身がブラックの事をちゃんと見てやれたら……少しは、恋人らしく、なれるかな。

 アンタが一人で抱え込まずに、情けなく泣くアンタを抱きしめてやれるだろうか。
 些細な事で思い出して苦しんでも、泣いてスッキリできるように。
 何かでご機嫌をとらなくたって、正直に自分の気持ちを吐き出せるように。

 ――――どんな過去が在ったって、何も聞かずに慰めることくらいはできるはずだ。
 アンタが、もう「本当に見せたくない傷」を持っていても素直に苦しんだりできる場所になるくらいは、俺にだって出来るんじゃないだろうか。

 いや、出来るんじゃなくて、やってやるんだ。

 例え俺がアンタの過去を何も知らなくても、アンタを見つめ続ける事で理解してやれることは、きっとあると思うから。

「ふぅー……ツカサ君、お皿洗い終わったよー!」

 最後の皿を水切り台に置いて、へにゃりと笑うブラック。
 相変わらず気の抜けた笑顔だけど、その裏に暗い物が無いことを見取って、俺はいつものように、元気よくニッと笑い返してやった。

「あんがとな!」

 まったく、何も考えないで良い時間があると、すぐ重い事を考えちまうな。
 でも、気付けないよりはずっといいはずだ。
 苦しみを一人で抱え込む苦しさは、俺も知っているから。

「どしたのツカサ君」
「ううん、なんでもない。それよりお前、もう今日は酒だめだからな」
「ええ!? 僕まだ全然酔ってないのに!?」
「明日もやることあんだろーが!! 今日はもう普通に寝るからな!」

 そもそも、ここで長く滞在するつもりはないのだ。
 俺が釘をさすと、ブラックは子供のように口を尖らせて不満を見せたが、何を思ったのかコソコソと耳打ちをしてきた。

「じゃあ……今日は、一緒に寝てくれる?」

 まるで、ねだるような声。
 カワイコぶったその言葉には、暗い影は無いけど。

「…………寝るだけだからな」

 さっき色々と考えていたせいか、拒むことが出来なかった。










※またもやガッツリ遅くなって申し訳ない…_| ̄|○
 遅くなりすぎて一週回って戻って来てますが
 どうなんだこれは…(>'A`)>

 
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