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酔現嫌夢サプロアリコン、束の間揺蕩う憩いの村編
18.毒じゃないけど毒っぽい1
◆
明けて翌日。
俺達は再び【毒呑みの森】を訪れて、フレドレカルの闇空間に招かれていた。
「……どウしタ? 何か、ズッと顔が赤キノコのヨうだガ」
「えっ!? いいいいやなんでもないよ!?」
何でもない、そう何でもないのだ。
べ、別にブラックと一緒に寝るのも珍しい事じゃないし、添い寝だってもう何度やってんだよって感じだし、恥ずかしがることなんてないんだけど。つーか俺だって場合によっては特に恥ずかしがることもなく寝たりするんだけど!!
でも昨日はそうじゃ無くて、その……。
い、一緒に寝たはいいんだけど……朝起きたら何故か体にキスマークが大量に……。
「ツカサくぅん早く終わらせようよぉ」
「じゃかしい蚊の化身め!! お前はそこで正座して反省してろい!!」
「ケ、喧嘩すルの、ヨクなイぞ……?」
フレドレカルは特徴的な大きい鼻の下で、口を居心地悪そうにもごもごさせている。
こんな犬も食わない言い合いに巻き込んでしまって申し訳ないが、しかし今はオッサンに毅然とした態度を取らないといけないのである。
というか単純に余計な事……つまり恥ずかしいことをを言わせないために正座で待たせているんだが、本当にこのスケベオヤジは反省のハの字もないな。
今日はフレドレカルに会いに行くって分かってただろうに、どうしてコイツは俺が寝ている間に好き勝手に体の至る所にキスマークつけてんだよ。
毎回俺が寝ている間に色々やりすぎなんだよお前はっ!!
し、しかもシャツから見えるか見えないかギリギリのところに残しやがって……っ。
寝てる間にそんなことされたら、怒る一択しかないだろう。
今朝起きた時に鏡を見て驚いたんだからなマジで。
あんな、何かにかぶれたのかとビビるくらい体に何個も痕をつけるなんて……っていうか俺が寝てるのにどうやってあんなに……まさか、シャツの中に頭を突っ込んで変な事をしてたんじゃなかろうな。ヤバい怖くなってきた。もう考えないようにしよう。
大人しく正座させてれば変な事は言わないだろうし、キスマークも隠してればいい。
打撲痕かよってレベルだったけど、俺の体質なら痕もすぐに消えていくしな。
ともかく、今は怒っている場合ではあるまい。
俺はブラックをどつき回したい気持ちをグッと堪えつつ、フレドレカルに向き直った。
「まあそれはともかく……今日は、フレドレカルに良くしてもらったお礼をしに来たんだ!」
「ン……だガ、オれは……」
「いや、お礼って言っても俺の自己満足みたいなもんだからさ、要らなかったら捨ててくれてもいいんだよ。だから、一先ず見て……っていうか、良かったら試してくれないかな」
じっと見つめる相手は、少し照れくさそうに縦長なヤマネコの耳をぴるぴると動かしている。馬のような尻尾は、忙しなくふさふさと動いていた。
フードを頭から外したその姿は、やっぱり俺達とは少し違うんだよな。
耳や尻尾もそうだけど……何より、目が違う。
眉の下の落ち窪んだ目は不健康そうに隈が有るけど、それに言及するよりも先に、やはりその目……内側から明確な光を放っている不可解な赤い瞳が意識を持って行ってしまう。
今まで、ブラックみたいに俺の世界ではありえない色の瞳や、虹彩に金の光や銀の光が散った不思議な瞳の人は見た事が有るけど、彼の瞳はそれとは別の凄みがあった。
これが精霊の証なんだろうか。
ライトのように自ら光りを放つ瞳ってのは、やっぱ普通ではないからなぁ……。
でも、フレドレカルは普通に良い人だ。
ニンゲンの言葉には慣れていなくても、優しいし思いやりがあるし、誠実だ。
アーグネス山の泉で出会った水の妖精アグネスさんも、自然から発生した精霊から妖精に進化した美女だったけど、そういえば彼女もずっと誠実に“黒髪の女の子”との交わした約束を守って、あの山と大河に流れる水源を守り続けているんだったっけ。
……精霊って、真面目な存在なんだろうな。
妖精の国の妖精たちは子供そのままだったので、精霊が妖精になるとどうしてあんな事にと思わないでもないけども……。
「つカサ?」
「あ。あははっ、とにかくさ、お節介だとは思うけど……」
だめかな、とフレドレカルの顔を見返す。
と、相手は見つめられる事に慣れていないのか、軽く赤面して目を泳がせた。
「ウ……うぅ……ワか、った……」
「あ゛っ! ツカサ君コイツツカサ君に惚れたよ! 今惚れたっ処刑しよう!!」
「んなワケあるかあっ!!」
ったくこのオッサンは毎度毎度ありえないことをべらべらと……。
反省してないから今日の酒はお預けにしようと決心しつつ、俺はフレドレカルの暮らしが楽になるようにと買ってきた物を広げた。
「コレらは……」
「知ってる?」
問うと「知らない」と首を振るので、俺はそれぞれの名前や使い方を教えてあげた。
鉄製のしっかりした野宿用の三脚に、その三脚のフックに吊り下げて使う、大きくて丸い壺型のスープ鍋。その他調理器具や食器、フレドレカルの闇空間では必要ないかもだが、一応敷き布やふかふかのクッションも買って来てみた。
ブラックには「それ何に必要なの」と冷めた目で見られたが、ふかふかのクッションは座るだけでなくぎゅーっと抱きつくと癒し効果があるのだ。
ヤマネコ耳の人がやると絶対可愛……ゲフンゲフンきっと癒されるに違いない!
まあとにかく、これで更に居心地のいい空間になって欲しいってことだようん。
「こっちハ、食べ物カ?」
「そうそう! 塩とか胡椒とかデカめのツボで買ってきたから遠慮なく使ってくれよ」
一応、保存に向くものをいっぱいチョイスしたのだ。
いつも旅をしているけど、実はこういう風に色々選ぶのは楽しかったりする。
冒険の準備とか籠るための準備ってなんでこうワクワクするんだろうな。
「ダが、こッチは……毒のナい、植物……?」
俺が広げたモノを一通り見て理解したフレドレカルは、不思議そうに首を傾げた。
またヤマネコ耳が素直に片耳を垂らすので、思わず心臓がギュッとなってしまう。くそっ、フレドレカルもわりとブラックに近い容姿なのにキュンとしてしまう……っ!!
いかん、オッサンのケモミミに反応するのは本当にヤバい。クロウ以外のオッサン獣人にまでキュンキュンしだしたらもう終わりだ。いやもう終わってる気もするけど。
荒ぶる心を必死に抑えつつ、俺はフレドレカルに説明した。
「これは、フレドレカルの為のちゃんとした食事に必要な植物だよ。ほら、フレドレカルって、普通の食事も食べられるって言ってたけど……本当に必要なのは“大地の気”なんだろ? だからフレドレカルが美味しく食べられるようにって、種苗屋さんに“大地の気”をたっぷりと吸い上げる果樹とか野菜を選んで貰ったんだ」
「果樹? そレは……毒がアるノか?」
「な、ないよ!? フレドレカルが食べるためのものなんだから!」
そう言うと、相手は目を瞬かせた。どうやら「毒のない食べ物を自分が食べる」という想像すら出来ないようだ。いくら毒呑みの森の守護者っつったって、そんなに徹底しなくても良いだろうに……。
ええい、俺達と同じような食事が出来るのに毒キノコを生でばっかり食べるから、フラフラになっちゃうんだよ。それに、ここには“大地の気”が湧かないみたいだし……だからせめて土に深く根を張って栄養を吸い上げる植物が有ればって思ったんだ。
というわけで、俺はいくつかの果樹と野菜を選んだのである。
「オれが、食べル……。こレらは、闇の中デも、育ツのか……?」
フレドレカルの馬の尻尾が忙しなげに動く。
やっぱり好き好んで毒を食べている訳じゃないんじゃないか。言ってよかったよ。
でも、俺もこの闇空間の事は何だかよくわからないから慎重に行かないとな。
「俺がいれば育つかどうかは大丈夫だと思うけど……それより、このフレドレカルの空間の中で毒のない植物を育てても大丈夫なのか?」
その俺の言葉に、フレドレカルは何かを思い出そうとするかのように視線を空に彷徨わせると、問題ないと頷いてくれた。
「オれ、毒の森の守護者ダが……元々ハ、森ノ淀む沼ニ居た。体かラ、毒ヲ生むモンスターではナい。ダから、大丈夫……ダが、闇の中でハ植物ハ、育たナイのデは……」
「それは大丈夫! じゃあまあやって見せるよ。すぐ食べられるようにするからな」
「エっ……!?」
フレドレカルのヤマネコ耳が驚いたようにピンと立ち、陰になった目が見開かれる。
俺の発言に絶句しているようだが、まあ見ていてほしい。
「こういう時に使わずになにがチート能力だっ……と!」
フレドレカルの家であるストーンサークルから近く、明かりが灯る木々とは離れた場所。
ちょうどなんの植物も這い得ていない所に目星を付けると、俺はそこを深めに掘り返して、種苗屋さんから購入した苗木を植えた。
そうしてポンポンと軽く被せた土をならしてやると、俺は気合いを入れるためにゆっくりと息を吸い込む。……そう、いつもやっているみたいに、大地の気が自分から湧き出すイメージを作り上げながら、それらがこの苗木を健やかに育てるように。
苗木が大樹となり根を土深くまで巡らせ、毒の森では消えてしまう大地の気を潤沢にその体内へ取り込み蓄えられるように、と。
そうして――――俺は、仕上げに術を唱えた。
「命を抱く苗木よ、このとこしえの闇に深く根を張り自ら命授けんとす巨樹へと成れ――――
【グロウ】……!」
前にやった時は完全に無意識……というかうっかりだったけど、今度は本気だ。
どうかフレドレカルのために、この森を一人で守っている誠実な精霊の為に、大地の気を絶やさない元気な木でありますように。心からそう願って――――掌に集めた緑に輝く木の曜気を苗木へと注いだ。と――――
「っ……!!」
「ナんだ……っ!?」
苗木が光りを放ち、緑の光と金の光を螺旋状に汲み上げながら形を変えていく。
小さな光に包まれていた形が、曜気の渦と共に上へ、上へと伸びて枝を生やし葉を生む。そして……その果実が、無数に生成された。
「うわっ!!」
…………うん、まあ、背後のオッサンの驚く声は想定外だ。
でも実際に“この果樹”が成長して、フレドレカルのために果実を実らせた姿は……確かに驚かれても仕方がないような姿だった。
→
※まだまだ遅れております(;´Д`)スマヌ…
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