異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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謡弦村アルフェイオ、陽虹を招くは漆黒の王編

14.災いは畳み掛け

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「ああもうっ、なんでツカサ君ってば大体こうなるのかなあもう!」

 そんな声が聞こえたと同時、薄目うすめから見える鳥籠とりかごの天井に何かが広がりつつ飛んできて、格子こうしの隙間から俺に思い切りぶっかかった。
 これは……水……?

 一瞬考えたと同時、体が温かい何かに包まれて急激に体温と感覚が戻っていく。
 どういう事だと目を開けて自分を確認すると……金色の優しく淡い光が、俺の体を包んでくれていた。これは……もしかして“回復薬”か。しかも俺特製の。

「う……さ……さすが、俺の薬……」

 そう、曜術師ようじゅつし・二級である俺の薬は凄い。
 俺がチートを使わず自分の手で丁寧ていねいに作って「おいしくなあれ」とアホみたいな事を思いながら調合した回復薬は、洒落しゃれにならないくらい効果が高いのだ。完全に自慢だが、そこらの薬の何本分だよってレベルで回復量が違うのである。ふ、ふふふ。

 そう言えばほとんど自分で使った事が無かったが、なるほどこれは素晴らしい。
 温かくて、痛みが徐々に薄らいで消えていく。失った血や腕などは元には戻らないけど、それでも素晴らしい薬だ。こんなものが簡単に作れるんだから、本当に異世界というものは素晴らしい世界である。そういう所だけね。

 でもまあ、こういう薬があるから逆に殺伐としてるのかも知れないけど……。
 いや、そんな事を考えている場合ではない。

 少しだけ動けるようになったんだ。ここまでくれば、俺のチートな【黒曜の使者】の能力がきっちり仕事してくれるだろう。これもチート能力の恩恵なんだが、俺はちょっとの怪我なら能力の恩恵ですぐに修復する事が出来るのである。

 まるで人外みたいな体になってしまったが……まあ、俺は弱いから丁度いいのかもしれない。とにかく、今は回復薬で加速しただろう俺の自己治癒力に任せるしか無いのだ。だが、そんな俺を余所に状況は大きく変化していた。

「なっ……お、お前ツカサを犯していた盗賊!?」

 ギルナダの驚いた声に必死で首を動かすと、そこには蔓に掴まったままの二人と、つやつやと陽の光に体を照らす黒い馬……藍鉄あいてつにまたがったブラックが居た。

「は……あ……」

 う……な……なんか……格好いい……っ。

 ……だ、だって、ブラックそもそも顔だけは格好いいオッサンだし、上背もすごく有るし、髪だって光に当てたらキラキラ輝くくらいに綺麗な赤い髪だし……そりゃ、その……黒っぽい肩当て付きマントをなびかせながら黒い馬で乗り込んで来たら、その……か、格好いいっていうか……。

 ぐ……。ず、ずるい、お前ばっかりずるいぞ、そういう格好いいのやって!!
 黒馬の騎士様ってか! ヒーローだってかこんちくしょう!!
 俺だってなあ、いざって時には格好良くばばーんとチート出来るんだからなあ!
 でも助けに来てくれてありがとうなこの野郎!!

「……おいそこの雑魚ザコ村人。何やってんだ僕のツカサ君をあんなにして!! 衣装はえっちだからいいけど、首筋を切らせるなんて殺されたいのか!?」

 いや違う、ブラック怒る所ちがう。
 ていうかギルナダ達はこの場所に到着したばっかりで、俺を助けるひまなんて欠片かけらもなかったんだってば。そんな数秒で助け出せるかっての。

 しかし、ブラックもギルナダも、なんだかよく解らない方向に口論がヒートアップしてしまっているようで。

「何が“ボクの”だ、村の客人に乱暴をしておいて盗人猛々しい!! クソッ、こんな時じゃなきゃ速攻でたおしているものを……!」
「はぁ? つるで身動き取れない癖に、バカみたいな寝言を言うねクソガキ風情が。夢なら揺り籠に揺られながら見てろよ」
「オラは赤子じゃねえ!!」

 ああああぁ……また田舎っぽいなまりが出てるよギルナダ……。
 いや、駄目だ、こんな時にブラックを抑えられないでなにが恋人だ。このままだとギルナダを攻撃しかねないぞ。薬のおかげで意識もはっきりしたんだ、ガンバレ俺、立つんだ俺……!

「ぐ……ぅ……っ」

 まだ体が重い。動こうとすると頭が酷く揺れて気分が悪くなる。
 体を揺らすたびにせきが出て口から残ったどす黒い血があふれ出た。
 その鉄臭さに、余計に頭がぐらぐらしてくる。やばい、なんだこれ。

 貧血なのかどうなのかよく解らないけど、涙が込み上げてくるぐらいの強烈な吐き気に襲われて、状態を起こすのすら上手く行かない。体が重すぎる。
 回復薬で無理矢理治した体とは、こんなに自由に動かない物なのか。
 そう考えると、冒険者の凄さが余計に身に染みた。やっぱり俺、情けねぇ……。

「敵に相対して動けない雑魚の何が赤子と違う? 簡単に刃を突き立てられる程度のクズが調子に乗ってんじゃねないよ。それより、ツカサ君の怪我の痕が長い間肌に残ったらどうしてくれるんだ!? えぇ!? 僕が胸糞悪くなるだろうが!」
「お前の都合かよ!! 盗人猛々しいのは誰だっつの!!」

 おっしゃる通りで……いやそうじゃなく、今は誤解を解いてブラックを止めねば。
 このままじゃマジで取り返しのつかない事になるかも知れない。

「うっ……ぐぅ……!」

 何とか声を振り絞って、口の中に残っている血を吐き出す。
 すると、その咳に反応したのかブラックとギルナダがこちらを向いた。

「ツカサ!」
「ツカサくぅんっ! あはぁっ、気が付いたんだねっ、流石はツカサ君の薬」

 語尾にハートマークつけてないでその剣早く降ろして……。
 じゃなくて。

「ブラック、ぎ、ギルナダは……ムアンさん、の、しり゛あ゛ぃ、だ……。ギルナダ、ッ! ゲホッ、ぶ、ブラック、は……味方、だがら゛ッ」

 何とか大きな声を張り出したが、やはり血が絡んだせきが止まらない。苦しい。
 自分の血でまみれた鳥籠とりかごの床を必死でつかみながら、俺は起き上がる。
 チートのおかげで自己治癒能力が化け物並だっつったって、何もすぐ治るわけじゃ無い。まったく面倒な体だと内心舌打ちしながら、俺は意地で顔を上げた。

「ツカサ、味方とはどういうことだ!」
「は? ここまでやってまだ解んないの? これだから田舎者って学が無いなぁ……ツカサ君と僕のアツアツな関係を見ても理解出来ないなんて可哀想だねえ」

 ねっ、ツカサ君。などと怒っても致し方なしな戯言を言いながら、ブラックは俺が入っている鳥籠に近付いて来て躊躇ちゅうちょなく剣を掲げた。
 背後でギルナダとオサバアの悲鳴が聞こえたが、ブラックは構わずに馬上から鳥籠の檻を斜めに切り落とす。しかも、器用に俺を避けて。瞬時の事だった。

「あぁ~血塗ちまみれのツカサ君もエッチだねぇ! この服なになに、民族衣装? いいねぇ~こう言う服だと、ツカサ君もどっかの王子様みたいだよ~! あっ、そうだ、これを着て今夜は奴隷に堕ちた王子様と奴隷商の芝居で一発……」
「ゲホッゴホッ!! バッ、馬鹿な事いっとる場合か!!」

 視界が開けたが、それでもまだ俺の体調はロクなもんじゃない。
 心配そうに俺を見つめる藍鉄から降りて、ブラックは近付いてくる。

「何でもしてくれる約束だよね? 僕の好きにセッ」
「分かったっ、わかったからとにかく今大変なの理解して……ゲボッ」

 ああもうほら、ギルナダが信じられないような物を見る目でこっちを見てるよ。
 どう考えてもアタマがおかしい二人だと思われちまったじゃないか!!

 違うっ、ブラックは相当ヤバいけど俺はノーマルだ、オッサンが恋人だけど俺の心と体はノーマルなんだ普通なんだ真っ当なんだあああ!!

「ツカサ……そ、そいつは、本当に味方なのか……?」
「うぐ……り、理解に苦しむだろうけど味方です……っ。と、とにかく、今はムアンさんをしっかりと拘束して、こんな事をした理由を聞かないと……」

 そういえば、彼女はさっきから何も喋っていないし一ミリも動いてない気がする。
 暴れられるよりはマシだったけど、でも黙っていられると何だか怖い。何かたくらんでいるのではないかと一気に油断がならなくなる。

 でも、そうは言っても彼女を捕まえない事にはどうしようもない。
 早くきりが晴れたのを元に戻さなきゃいけないし……。

「ってそうだ! 霧ッ、霧が晴れてたらヤバイじゃんか!!」

 慌てて周囲を見渡すと……そこには、最早白いかすみなど一分も無い。
 遠景には荒涼とした厳しい傾斜の青い山が長々と連なり、近場は空ばかりだ。
 背後を見ればこの山のいただきのようなものが見えるが、そこまで高くは無い。あとは……この村以外、何もなかった。この場所は、それほど街から離れた場所なのだ。そう。本来なら草一本も生えないような、山の上の……。

 しかし、こんなに厳しい場所だなんて思わなかった。
 晴れた空が照らす村の周囲は、本当に色が無い。灰色の濃淡で作られているだけの、鮮やかな物なんて何もない世界だ。やしろがあるここから坂道を下った所には、深い深い崖が広がっていて……このアルフェイオ村は、斜めに切られた場所に棚田のように引っ付いている村だと知った。

 きりで分からなかったけど……本当に、この村は狭い世界だったんだな。
 そう思うと、ムアンさんがこうまでして村を変えようとしていた気持ちも、解ってしまうような気がした。本当は、解ってはいけないのに。そんな場合じゃないのに。

 そんな自分を叱咤しったし首を振って、俺はオサバアに問いかけた。

「きっ……霧を、元に戻す方法はないんですか……!」

 ブラックに支えられて立ちながらの必死な大声に、オサバアは我を取り戻したようにハッとすると俺を見た。

「い、イスゼルの加護を再び取り戻すには、祭壇に地のみのりを捧げ踊りを……」

 そう、オサバアが言おうとしたところで、視界の端でムアンさんが動いた。

「無駄だ。もう霧は戻りはしない。……そもそもこれは加護などではないのだから」

 逃げるでもなく、何重にも体に巻き付いていた太いつるを軽々と千切りながらムアンさんは冷静に言う。俺達を攻撃をするでもなく、突っ立ったままで。
 そのまま逃げたり攻撃する事も出来たのに、彼女はそうしない。
 ただ、霧の晴れた村を見下ろしているだけだった。

「姉さん……?」

 未だに蔓に囚われたギルナダが、少し戸惑ったように問いかける。
 だが、ムアンさんは応えない。無表情のまま、何かに取り憑かれているかのように村を見続けているだけだ。その様子は、誰から見ても普通では無くて。

 再びギルナダが何かを問いかけようと口を開いた……と、同時。

「――――――ッ!?」

 凄まじい咆哮ほうこうと鳴き声がすぐ近くで聞こえたと思った瞬間、地面が大きく揺れた。思わずブラックにしがみ付くが、事態は好転しない。
 それどころか、崖を揺らすような振動と共に、何かを穿うがつような音を立てながら、うなり声が近付いて来て。

 …………それが“なにか”なんて、俺達はもう嫌と言うほど解り切っていた。

「あーあ、やっぱり嗅ぎつけたか」

 そう言いながらブラックが白いやしろの後ろ……切り立った崖を見やる。
 するとそこから、鋭い爪がにょきっと生えて来た。いや、違う。あれは……。

「グルルルルル……」
「う、うそぉ……」

 蜘蛛のような六つの丸い目を顔一列に張り付けた巨大な犬がそこから顔を出して、だらだらとよだれを垂らしながらこちらを凝視していた。














 
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