異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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謡弦村アルフェイオ、陽虹を招くは漆黒の王編

22.異世界に神はつきものです

 
 
 
   ◆



「……っ、と」

 毎回この段になると俺を引き留めようとするブラックを振り切って、俺は真っ白な空間に足を踏み入れる。いつも思うが、色が付いた世界から急に白一色の空間へ放り出されるのは、なんだか妙な感じになる。

 床があるという感覚が無ければ、自分がどこにいるかもわからなくなりそうなほど、この世界には淡く発光したような白しか存在しなかった。

 そんな場所に、ぽつんと座って作業をしている背中がる。
 少し遠い場所に有るその背中は、空中に浮かぶ無数の半透明の画面をながめつつ何かを必死に書き取っては、髪の毛をガシガシと掻き回していた。

「キュウマ!」

 そう名前を呼びながら近付くと、キュウマは俺に振り返る。

「……おう。今回は帰って来るのが早かったな」

 ぶっきらぼうにそう言いながら、キュウマは目を細めて軽く息を吐いた。

 きいっ、まったくいつ会ってもヤレヤレ系チート主人公みたいな仕草しやがって。
 まあでも、実際そうだから仕方ないんだけどなコイツは!

 クセ一つない栗色の髪に、イケメンと言えなくもない容貌ようぼう。飾り気が一切ない黒縁くろぶちスクエアフレームの眼鏡は、いつも冷静で言いたい事をずけずけと言うその青年――キュウマに、嫌味なくらい似合っている。
 俺よりも学年が上に見えるくらい大人っぽいけど、でも、コイツは俺と同い年だ。服装もシャツにスラックスと言う色気もクソもない現代的な物だが……


 彼が、この異世界の神なのだ。


 …………嘘ではない。
 そう。俺の世界と異世界を繋いでくれているのは、まぎれもなくこの長身でいけ好かないイケメン寄りな顔をした同年代の“日本人”だ。

 元々“俺の世界”の住人であった彼は、今はこの世界の神様なのである。

 ……チートもの小説にありそうな話だが、これは残念ながら現実だ。
 どうみても俺と同じ日本人高校生にしか見えないキュウマは、俺が今まで冒険していた異世界の神として、あの世界をたもつべく色々な仕事を頑張っている。

 空中に浮かぶモニターを見てうなっていたのだって、その仕事をしていたからだ。

 どうやら、神様と言うのはネットゲームの管理者のようなものらしく、細かい所まで設定を確認し監視しないといけないらしい。しかも、キュウマは今、この世界の事をイチから把握はあくする段階から始めなければならなくて、こうして神様モニターと首っ引きで“神の領域”に引きこもを行っている……というわけである。

 何故キュウマがこの世界の神になったのかと言うと、一言で言えば、コイツは元々【黒曜こくようの使者】……つまり、今の俺と同じチート能力者だったからだ。
 と言っても、キュウマは数百年以上前の【黒曜の使者】で、そのチート称号は現在俺に移動してるんだけどな。そして俺は神様では無く、今のままで居る事を望み、キュウマも俺と相対して神様でありたいと願った。だから今、こうしている。

 そこらへんの事を詳しく話すと凄く長くなるので割愛するが、まあとにかく、俺とキュウマは色々あって今のような仲の良い関係になっているって事だ。うむ。
 ……仲良いかな。友達程度ていどには仲良いと思うんだけど、たぶん……。

 ご、ゴホン。
 それは置いといて。キュウマは俺達の全ての事情を知る一人だ。この場所で、俺達を見守りながら、俺がこちらとあちらを行き来するのを助けてくれているのだ。

 そんなキュウマは、俺をじろじろと見ながら己のあごを指で擦った。

「……余計なモンは持って来てないな? ちゃんと服は持って来ただろうな」
「わ、解ってるって。はいよ」

 そう言いながら渡すのは、異世界で着用している俺の服とウェストバッグだ。
 今の俺は制服を着ているが、ちょっとヒンヤリしていて着心地が悪い。かばんも“ある場所”に収納していたからか、しっとりしていて少々持つのがつらかった。

「何度も言っているが、指輪以外の物はアッチには転送出来んからな。無論、その鞄も、中身は神社の前に飛び散ってるだろうから後で拾っとけよ」
「う、うぐぐ……まあ、大した中身じゃ無いから良いけど……でも、せめて鞄の中の物くらいはどうにかなんない……?」

 異世界に来るために飛び込んだ場所の前に、自分の筆記用具とかお菓子がバラバラに飛び散っている様を想像しつつ、俺は改めてキュウマに言う。
 しかし相手は眉根を寄せて首を振った。

「前回も重々注意したつもりだが、まだ“転移”は未完成なんだよ。調整のためにお前を一々この領域に飛ばしてから降ろさなきゃならんし、お前以外のほとんどがコチラに転送出来ない不具合の理由もいまだに調査中だ。アスカーが構築した転移システムは、あらが多過ぎる!! プログラムとして美しくないし独自の日本語プログラム言語とかバカか! それを読み解く俺の苦労を、お前は理解しているはずなのに……」
「ひえっ」

 キュウマの手が伸びるが、俺は動けない。
 そんな俺を睨むような目で見つつ、キュウマは両手でほっぺを引っ張り始めた。

「それなのにおーまーえーはー!! 前回『余計な物を持ちこんだら座標が狂うから小物は置いて来い』と言ったはずなのにうっかり鞄なんぞ持ち込みやがってクズボケノータリンのエロ猿があああああああああ」
「ひひゃひゃひゃひゃひゃ!! ごえんやはい! ごひぇんははひぃいい」

 あーっ、痛いっ、痛いです許して下さい神様キュウマ様!!
 そーかそう言えばそんなコト言われてたな、ああだから今回は街からかなり離れた場所に落ちちゃったのかー! あははうっかり学校の鞄持って飛んできちゃったよ!
 ぎゃーごめんなさい痛いです反省するから許してー!!

「ったくこの……お前マジでINTインテゼロじゃねえのか……」
「今度からは気を付けますぅ……」
「次やったら全裸で街に放り込むからな。…………まあそれはひとまず置いといて、何か相談ごとがあるんだろ。ライクネス国王のことで」
「おっ、話が早い。さすが神様」

 この白い“神の領域”に引きこもっていても、やっぱり世界の事は把握はあくしているんだなと改めて感心する。いや、俺達の事は特に見守ってくれてるからかもだけどさ。
 でも、説明する手間が無いのはありがたいなあ。
 そんな思いでつい口に出た言葉だったんだが、キュウマはお気に召さないようで。

「茶化す元気があるって事は、全裸で放り込まれたいって事だな」
「ごめんなさいすみません真面目に話します」

 俺そんなに能天気な声でしたか。
 キュウマは相変わらず気難しいなと思いつつ、俺は居住まいを正してみせる。
 それに良しと頷くキュウマは、またもや溜息を吐いて眼鏡を直した。

「ハァ。……ま、ライクネス国王は初代から異世界人の実在を知ってるからな……。さすがは最古の国を束ねる支配者だ。当然、ピルグリムの件も大体の見当は付いているだろう。だとしたら、俺の事も当然、話す流れになるだろうな。……そうでないと説明が付かない事が多いんだから」
「けど……それだと、キュウマも困るよな」

 問いかけると、キュウマは「当たり前だ」と言わんばかりに俺をにらんだ。

「お前……つまり【黒曜の使者】の実在を知っているだけでも厄介なのに、そのうえ神の実在を人族に知られる事はマズい。この世界は“意志が具現化する”世界だ。特にライクネス国王のようなバケモノなら、マジでココに攻めて来かねん。今のこの状態は前例がないからか、俺の【神】の称号も“ヘルプ”を出せないみたいだし……なんにせよ、相手に俺とお前の事を知られるのは絶対に避けなければならん」

 確かに……あの底知れない嫌味な陰険王なら、特殊な力を使ってこの“神の領域”にまで突入して来るかも知れない。シアンさんが言ってたけど、アイツは普通の人間じゃなく、一国を治める存在なんだ。国の利益になると判断したら動きかねない。

 相手が何をして来るかわからない以上、俺もキュウマも下手には動けなかった。

 ……俺もキュウマもチートな存在だけど、実際は無双なんて出来やしない。
 俺は元々の能力が低いし、キュウマは神様になって日が浅いせいか神様パワーも戻っておらず、神様の仕事を覚えている途中だ。つまり、レベルが低いのだ。

 そんな二人が、他国からおそれられる大国に狙われて無事でいられるはずも無い。
 俺はともかくキュウマはいまだに本調子じゃないんだから、最悪の事態は絶対に避けないとな。でも、だったらどうすれば良いんだろう。
 ここに来るまでに考えたけど、俺には良い案が思い浮かばないしなあ……。

「キュウマ、どうしたら良いかな……」

 思わず問いかけてしまうと、相手は眼鏡を直しつつ腰に手を当てた。

「そうだな……まあ、あの国王の事だ。お前の返答が何にせよ、ピルグリムに関しての調査を申し出はするだろう。今【世界協定】は“ポートスの一族”のがあるし、お前達をサポートしていた事を持ち出して来るだろう」
「ええっ!? でもギルナダ達の調査は任せて貰ったって……」
「バカ、大人の世界はそう馬鹿正直で簡単じゃねえんだよ。あんなん貸し借りが働いてるに決まってんだろ。自国の領土を任せるってのは、お前が思ってるより簡単な事じゃねえんだからな」
「うう……」

 でも、そしたら……シアンさんは国王に借りを作っちゃったって事だよな。
 俺のお願いのせいでそうなったとしたら、本当に申し訳ない。何も考えずにお願いせずに、ちゃんと考えて国王に条件付きで申し出れば良かった。
 そうしたら、もう少しマシな展開になったかもしれないのに。

 つい反省してしまうが、キュウマは待ってくれない。
 「それに」と言葉を継いで頭の痛い事を話しだした。

「ただの人族ならば隠し部屋を探し当てる事など出来ないが……アイツの部下には【黄陽おうようの書】のグリモアが居る。見つけられたら終わりだ。芋づる式に異世界の事もバレちまう。そうなれば、異世界に興味を持ったあの国王はお前に目を向けて、さらに面倒な事になるだろうな」
「ヒィイ……」
「……だが、もしそう来るとするならまだ手は有る。ピルグリム島の所有権は、今もプレイン共和国に有るはずだ。国が崩壊したとは言え、あの島は他の国に奪われてはいない。だったら、他国による調査の必要が無いようにしてやればいいのさ」
「……? ちょ……なん……? なんか待って、よく解んないんだけど」

 何が言いたいのか解らん。俺がアホだからか。
 首を傾げると、キュウマは深い深い溜息を吐いてひたいに手を当てて見せた。
 オイ、お前そういうのやめて、地味に傷付くからやめて。

「まあ、なんだ。……今度お前が来る時に、改めて説明してやる。それより、お前は早くあっちの世界に帰った方が良い。雨でも降ってたら最悪だからな」
「ゲッ、そうだった」

 こちらに来た時は晴れていたが、天気なんてどうなるか判らないからなぁ。
 次に来た時に詳しく説明してくれるって言うなら、帰った方が良いだろう。

「次は……そうだな、あちらの時間で三日後だ。今回は早く帰って来たから、調整も早く済むだろうからな」
「えーと……だったら、ちょうど土曜日……かな? 解った」
「よし、じゃあ“扉”を開くぞ」

 そう言って、キュウマは二三歩俺から離れ両手をこちらへ伸ばす。
 まるで俺に術でも掛けるようなポーズだが、実際そうだから何も言えない。黙って待っていると、キュウマの周囲が淡く光り出し、風が巻き起こり始めた。

 無風のはずの白い空間に、力があふれていると示すような空気の動きが現れて、俺の髪も小刻みに動き始める。その風は、段々と俺の足元に集い始め――――円形の光が俺を取り囲んだ。

「三日後だからな、今度は何も持って来るなよ!」
「わかってるって!」

 まるで友達と別れる時のような物言いだが、本当にそうなんだから仕方がない。
 神様と黒曜の使者でも、俺達はそう言う関係なんだから。

 次第に光に塗れて周囲が掻き消えて行くのをじっと見つめていると、再び足元から今度は金色の粒子をまとった黒い光が湧き起こって来て、俺の視界をすっぽりと包んでしまった。と、すぐにその光は波のように退いて行く。

 俺を目隠ししていた黒い光が去った後は――――古めかしい石の鳥居と、その奥にぽつんとたたずんでいる今にも壊れそうな小さなやしろが現れていた。
 周囲はすでに夕方になっており、社の向こうの鬱蒼うっそうとした森は橙色だいだいいろを混ぜた妙な色に染まっていた。こういう時間の神社って、やっぱちょっと怖いな……。

 そんな事を思いながら、ふと足元を見ると。

「…………あっ! マジで散らばってる……」

 所々欠けたりヒビが入っている古い石畳の上には、かばんの中に入れておいた俺の筆記用具やお菓子が散らばっている。ここは滅多に人が来ない神社だから良かったけど、人が居たら通報とかされてたかも……うおお、危ない危ない。
 今度からはマジで気を付けよう。

「……っと、よし。…………さて、家に帰るか」

 神社を背にして、長く続くボロボロの石の階段を下る。
 眼下に見えるのは見慣れた住宅街で、今まで居た世界とは比べ物にならないほどに文明的であり、異世界から帰って来たばかりの俺の目にはなんだか妙な感じだった。

 別に現代の街並みが変ってわけじゃないし、帰って来たなぁとは思うんだけど……異世界から帰って来てすぐは、ホントに今までの事が夢みたいに思えちゃうんだよな。だから妙な感じに思えるのかも。

 でも、俺にはちゃんと「異世界に行った」という証拠がある。
 シャツの中にしっかりと隠した指輪が、その証だ。このこ……こんやく、の、指輪が、俺の世界とブラックの世界を繋いでくれているんだ。

「み……三日後か……意外と近いな」

 あちらでは三時間ぐらいだろうか。だったら、ブラックも寂しがらないよな。

 そう思うと少し嬉しくなって、俺は無意識に笑いながら家路を急いだのだった。
















※遅れてしまって申し訳ない…(;´Д`)
 次は新章、異世界に行くまでちょっと長いです(といっても二話ですが)
 出来たら一挙二話更新頑張ります…!\\└('ω')┘//

 
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