異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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神殿都市アーゲイア、甲花捧ぐは寂睡の使徒編

3.神様の入れ知恵

 
 
「運動オンチが無いお前が悪いんだろうが……それはともかく、妙に急いでこっちに来たようだな。どうかしたのか?」

 何で解ったんだろう。キュウマは元・俺と同じ世界の人間だけど、俺の世界の事は把握はあく出来ないはずなのに。やっぱ神様パワーである程度ていど解るのかな?
 でも、まだキュウマは神様として色々出来るほどのパワーが戻って来てないから、この真っ白な“神の領域”から出て来る事すら出来ないはずなんだが……いや、そこは神様だからなんとかなるのかもしれんな。

「お前の顔が馬鹿正直でわかやすいだけだ」
「なんでお前も心読めるんだよ!」
「顔がバカ! バカ正直つってんだろこのバカ!」

 顔がバカってなんだよ凄い罵倒ばとうしてきたコイツ!
 バカって言う方がバカなんだからなばーかばーか!!

「俺はバカじゃない、赤点常習犯なだけだ!」
「中途半端に自覚が有るバカが一番厄介やっかいだな……。それはともかく、お前今度は何をして来たんだ?」
「ぐぅうううう……」

 なんか出鼻一番で物凄い罵倒された挙句あげく、会話を大暴投されてくやしいんだが、これ以上言い合っても何にもならないのは俺にも解る。
 もう一度言うが、めっちゃ悔しかったがこらえて、俺は今までの事を話した。

 キュウマが異世界に転移して来た年代は遥か大昔なんだけど、俺の世界に居た時は平成のどっかの時代に生きていたらしいので、言う事はわりと理解してくれた。

「ふーむ……まあそうだよな。二週間も失踪してニュースにもなっちまったんなら、そのくらいの騒ぎにはなるか……。今の時代、個人での監視や盗聴もお手の物だし、ネットで何でも書き放題だしな。野次馬にたかられ追われるのもありえるか」
「おかげで俺、お子様スマホを持たされてるんだよ。今はアニメ配信サイトしか見れんし、ダチとも一々通話しなきゃならん。テレビも親と一緒に視聴だぞ」
「テレビはともかく、元々ネサフなんぞエロ動画集めとチート物小説を読むしかしてなかったんだろ? どっちもすぐには消え無いから良いじゃないか」
「チート小説は途中で止まったり消えたりするんだよォ!」

 まあ元々SNSとか通話アプリとかは使用してなかったから、制限されても困らないんだけど、行動まで制限されるってのはやっぱキツいよ。もしかしたら、家の周囲に俺を監視している人が居るかもしれないってのも精神的に辛いんだ。
 ていうか二次元エロ画像の新作が手に入れられないのが死ぬほど悲しい。

 家の中に有る資源だけでシコると言うのもいずれは限界が来るだろうし、そもそも丸一日監視状態では興奮も出来ん。……まあ、今はこっちに来たら否応なく絞られるので、今は全くオナニー欲が湧かないから不幸中の幸いなんだけど。

 とにかく色々困ってて、学校でも家でも休まるひまがない。
 それを言うと、キュウマは眼鏡を直して息を吐いた。

「それでも……治まるのを黙って待つしかないだろう。お前一人で収拾できないほど広まってしまったなら、ヘタに動かない方が良い。親御さんは、お前が悪く言われてないか心配で過剰に制限してんだよ。解ってやれ。こういう風評被害が起こりそうな時は、用心しすぎて悪いことは無いからな。今は、口をつぐんで大人しくしておくのが一番だ。そうすりゃ、いずれ周囲の興味も失せるだろうさ」
「うん……」

 そりゃ、親や友達や、もっと言うと俺を入院させてた病院の人までもが徹底して俺の情報を流さないようにって守ってくれてるのは解る。

 だけども、やっぱり人の口に戸は立てられない物だし……黙っているのも別の火種を生みそうで何だか怖い。今日だって、俺を追って来たワケじゃない車を勘違いして怖がってしまったくらい、心がビクビクしっぱなしだった。それなのに、ただ黙って耐えるだけなんて、俺に出来るんだろうか。

 いつか決定的な間違いをしでかしそうだ。
 …………。
 本当は、誰かに監視される生活よりも……それが一番怖いのかも知れない。

 ああ、そう考えると余計に“俺の世界”での暮らしが窮屈きゅうくつになって来た。
 自分でも驚いてるけど、人に奇異の目で見られるって言うのがこんなにキツい物だとは思わなかったよ……。他人なんて気にしないなんて思ってても、やっぱり人ってモンは他人と接触する以上、自分や周囲を気にしてしまう物なんだな。
 こう言う意味で帰るのが億劫おっくうになるなんて思ってもみなかった。

 でも、キュウマが言う通り口を閉じて黙るしかないんだろうな……。
 女子やクラスメートに無視一辺倒を貫かれていた時もそうだったが、少しでも何かを言えば相手をつつく事になってしまうんだ。これも苦行の一種だと思って耐えるしかないか……ただでさえダチには迷惑かけてるんだしな……はぁ。

「まあ、それは置いといて……あのライクネス国王の事だが」
「あっ……そう言えばまた来た時に説明してくれるって言ったっけ」
「おう。まあ着替えながら聞け。ほら、お前の荷物だ」
「う、うん」

 前回はブラックに預かっていてもらった俺の異世界の荷物だが、今回はキュウマが「ここまで持ってきて良い」と言ってくれたので、遠慮なく持って来た。
 どうやら少し“調整”が進んだらしくて、今度から俺の服は全部ここに置いて行って良いらしい。前回ちょっと汚しちゃったから母さんに勘ぐられたんだけど、これなら今回は安心だな。キュウマに感謝だ。

 別に隠すような物は何も無いので、ポイポイとトランクス一丁になって服を着ると、キュウマが露骨に嫌そうな顔をした。おいお前、なんだその顔は。
 そんなに同性の裸が嫌か。いや俺も別に見たくないけどね!

「……今度から試着室か、一瞬で服を変えられる機能でも作っておくか……」
「なにその戦隊ヒーローみたいなやつ! えっそれ異世界で使えるの!?」
「バカ、物質を改変転送すんのは色々大変なんだよ。そう何度もやられたら、世界に不具合が起きかねんだろうが。この狭間の領域でしか使わせんぞ」
「ちぇー」

 一瞬で鎧を装着! とか、ちょっとやって見たかったんだけどな。
 まあ構造上難しいと言うなら、この場所でしか出来ないのも仕方ない。

 いつもの飾り気のない質素な半袖はんそでシャツに、少し柔らかめの皮のベスト。そして、ジーンズのような汎用的なズボンをベルトで止めて、そこに尻が隠れてもまだ余る、少し大きいウェストバッグを装着する。中身はそのままだ。

 このバッグの中には、俺の愛馬である藍鉄あいてつだけでなく、他の召喚獣……この異世界では“守護獣”と呼ばれる、友達になったモンスターの召喚珠しょうかんじゅが入っている。
 またよろしくなとバッグの中から撫でると、キュウマは勝手に話し始めた。

「それで、あの国王との話し合いのことだが……国王に謁見する前に、お前達には一芝居ひとしばい売って貰うことにした」
「一芝居?」

 バッグの位置を調節しながら問い返す俺に、キュウマはうなずく。

「幸い、あの召喚命令は今すぐに来いってもんじゃない。……まあ、地上へ降りればすぐ警備兵か騎士団がお前達を迎えに来るだろうが……しかし、世界協定のシアンに確約を取らせる事で時間を作る事は可能なはずだ」
「かくやく?」

 何をシアンさんに言わせようと言うのだろうか。
 首をかしげつつも、俺はバッグの中からキンピカで細かい装飾が掘り込まれた腕輪を取り出して右腕に装着した。

 この腕輪は名前を【庇護ひごの腕輪】と言い、以前色々あってライクネスの国王から貰った。国王の“お墨付き”を証明する『水戸黄門の印籠』的な腕輪だ。それを隠す黒のリストバンドを両手首に付けたら、俺の冒険者ルックは完成である。

 本当はここに“術式機械弓アルカゲティス”という魔法ボウガンの武器を右の腕に装備するはずだったのだが、アレはこっちに持って来られずブラックに預かって貰っている。
 いまだに使いこなせない宝の持ち腐れな武器だが、凄い一品なのだ。

 …………でも、よく考えたら俺、ボウガン以外全く主人公ぽい服じゃねえな。
 いやまあ、俺自身主人公ってガラじゃないし、現実は強度が有って取り替えやすい平凡な服になるってのも解るんですけどね。ええ。

「それにしてもお前、本当に平民みたいな恰好だな」
「気にしてること言わないで下さる!?」

 ちくしょー俺だって鎧装備したいわ、ブラックみたいに肩当てマントつけたいわ!
 でも似合わないんだからしょーがないだろ、どっちもぶかぶかなんだよ!
 あの世界マジで背ぇ高い奴多過ぎ!! なんだあれ、巨人の国かチクショー!!

「俺が【黒曜の使者】だった頃は、普通に鎧も装備できたんだけどな……物価の違いとかか……? そこはまだよく調べてなかったな」
「いや、金欠とかそうじゃないです。まあこっちの世界でもお金ないけど、あんたらが背ぇ高すぎるからブカブカになるだけですって」
「ああ……お前ガキみたいだもんな……」
あわれんだ目を向けるなー!!」

 俺、平均身長にちょっとだけ、ほんのちょっとだけ足りないだけの超健康優良男子なんですよ。なのに、この世界じゃチビチビ言われるのが納得いかん。
 俺だって女の子と並べば普通なのに……チクショウ、世界全体の“改変”が面倒じゃなけりゃ、キュウマに俺の身長がベターになるようにして貰うのになあ!

 そんな事を思うだけで満足しつつ、俺は溜息を吐いてキュウマに改めて問うた。

「で、なんの確約をとるんだよ」
「ああそうだったな。いやさ、これはいわば“等価交換の問題”なんだよ。少なくとも相手側からすれば、それが成立している。だから報酬をすぐに欲しがるんだ。それが交換と言う物だからな。それを誤魔化すのなら……こちらが払う対価に更に付加価値を付ければいい。そうすれば、ある程度の時間が出来るし、真実も隠しやすくなる」
「んん?」

 なんだって?
 何言ってんだこの人。ちょっと解んないんだけど。

 思いきり顔を歪めて声を漏らすと、キュウマは一瞬あきれたように目を細めたが、俺にわかやすいように言いかえてもう一度説明した。

「つまり、報酬よりも“さらに魅力的な土産みやげ”を用意して、そっちに意識を逸らさせるんだよ。そして、本題の方を取りつくろひまを作るんだ。お前だって、駄賃だちんに釣られて親の手伝いをした後で『百円オマケした』って駄賃を貰ったら、駄賃を貰った事より百円に嬉しさを感じちまうだろ。支払いが遅れても、数分は待てるはずだ」
「あ~……確かに……」
「それがあの国王に通じるとは思えんが、充分な“お土産みやげ”なら考えを変える事も有るかも知れない」
「でも……そんなのあるかな……」

 考え込んだ俺に、キュウマはびしりと指を差した。

「あるじゃないか、そこに」
「え?」
「お前は普通の高校生か? 違うだろ、自分でチートって言っといて忘れんなよ」

 それはつまり……俺の【黒曜の使者】の能力が“お土産”になるって事?
 だけど、そんなの買い被りじゃないのか。キュウマがこの力を持っていたら、それこそチート主人公ばりの活躍が出来ただろうけど、俺はぺーぺーだぞ。

 どう考えてもハッタリにしか思えないんじゃないか?

「俺っつっても……俺に出来る事って全然少ないんだけど……」

 素直にそう答えると、キュウマは再びあきれ返ったように深い溜息を吐いた。
 今度は頭に手まで当てて「やれやれ」感を出してきやがる。
 おいお前やめろ! そういうのホント傷付くんだからなホントに!!

「少なくとも、ライクネスの国王はお前の能力が手が出るほどに欲しいはずだ。……特に、アルフェイオで土を蘇らせた能力がな」
「えっと……」
「とにかく、それを元に作戦を練れ。だがお前に考えろとは言わん。シアンに頼んで何とかして貰え。きっとお前ナシでも良い風にしてくれるだろう。と言う事でさっさと降りろ。調整は出来てるから、今回はお前の婚約者の所に降りれるぞ」
「えぇ……」

 何その言いたいだけ言って終わるの……いや、キュウマもいそがしいんだしな。むしろ回避するための作戦を考えてくれてたんだし、感謝するべきか。
 あっちの世界じゃあ俺はゲンナリしてるだけだったしなあ……。

 なんて思っていると、キュウマは空に指を差して何やら描き始めた。すると、俺と相手の間に落とし穴のような丸い空間が開く。
 その下には、見慣れた木の板の床が見えていた。

「今回は日数が短かったから座標の狂いはない。心配するな」
「う、うん。いつもあんがとな」

 そう言うと、キュウマは肩を軽くすくめて「気にするな」と言ってくれた。
 俺のダチより辛辣しんらつなキュウマだけど、やっぱり生真面目で根は優しい事もあって、俺にも優しくしてくれるな。まあ、男に気安くしたくないってのは同じ女好きとして解るから、そこは良いんだけどね。

「よし……じゃあ行ってきます!」
「おう、行ってこい」

 挨拶あいさつを交わして、ぴょんと穴に飛び込む。
 俺が降りやすいように穴の位置を低くしてくれているのも、キュウマの優しさだ。
 今度は転ぶこと無く床に足を付けて、俺はすぐ周囲を振り返った。

「おっ、ここは……この前泊まってた宿の部屋……」

 などと気軽な事を言い、後ろを振り返ろうとした、瞬間。

「ツカサくううううんんん!!」
「んぎゃああ!」

 背中に凄まじい衝撃が走ったと思った瞬間、俺は思いっきり床に顔面を打ち付けてしまった。ひたいから床にめりこんだので鼻にはダメージが無かったが、物凄く痛い。
 一体何がぶつかって来たのかと確認しようとして、今度は体が浮き上がる。

「ツカサ君っ、あぁもう戻って来ないかと思ったよおっ」
「うぐぐっ……ぶ、ブラック……っ、ちょっ、い、痛い色々痛いって!」

 ひたいが痛い、ほおに擦り付けられる無精髭ぶしょうひげも痛いし、抱き締められすぎて体も痛い。
 だがブラックの野郎は構わずに俺を自分の腕の中に閉じ込めたまま、頬に何度もちゅっちゅちゅっちゅとキスをしてきやがる。

「だーもーオッサンっ、やめろっ! ばかっ、ばか!」
「んん~っ、ツカサ君の『ばか』は可愛いなぁ~! もっ、もっと言って、僕の事をもっとののしって良いんだよぉ」
「ううううううう」

 ダメだ、こいつには俺の罵倒ばとうも怒声も通じないんだった。
 だけどこんな事をしている場合じゃないんだから、なんとか抜け出さないと。すぐに召喚されるかもしれないんだから。

 そのままベッドへと雪崩なだれ込もうとするブラックの顔を押し退けて、必死の思いでギリギリを死守しながら抵抗していると、丁度いいタイミングでドアがある方向からノックが聞こえた。

「ブラックー? どうしたの、もしかしてツカサ君が帰って来たのー?」
「しっ、シアンさん!」
「チッ……耳が長いだけに耳聡みみざとい……」

 おいこらブラック、シアンさんに向かってなんて口のきき方だ!

「ブラック、お母さんに向かってなんてこと言うんだ!」
「ちょっとツカサ君、今からセックスするのに母親とか萎えること言わないで!」
「萎えさせるために言ってんだよ!」

 しかしそう言ってもブラックは俺をベッドに押し倒そうとする。
 おい待て、そんな事してる場合じゃないだろう。頼むからちょっと落ち着け、扉の前にシアンさんがいるんだってば!
 なんとか退しりぞけようと揉み合いになっていると……ドアが、ガチャンと開いた。

「んもう……ブラック! ちゃんと返事をしたら答えな……」
「…………」

 部屋に入ってきたシアンさんが、俺達の容姿を見て言葉を失う。
 ああ、そら仕方がない事だろう。
 だって今の俺達は……ベッドにもつれこんで、服を乱し合いながら喰うか食われるかの取っ組み合いをしていたのだから……。

「…………お、お邪魔だったわねぇ~」
「ああっ、待ってシアンさん、置いてかないでくださいいい!!」

 待て待てそうじゃない、そうじゃないんです!!

 慌ててシアンさんに助けを求めて、やっと俺はブラックから解放して貰った。毎回毎回、こっちに来たらこうなるのは勘弁かんべんして欲しいよほんと……。

「お邪魔じゃなくて良かったわ。ああ、でも……ツカサ君が今帰って来たとなると、ちょっと困った事になったわね……」
「え……」
「実はもう……来ちゃってるのよ、騎士団が。しかも……あの人まで」













 
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