異世界日帰り漫遊記!

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神殿都市アーゲイア、甲花捧ぐは寂睡の使徒編

17.夢が語るのは

 
 

   ◆



「…………あれ、またこの夢……」

 白い柱が並ぶ薄暗い空間に、自分の間抜けなシャツイチパンイチ裸足はだし姿。
 いつものアレだ。三度目ともなると、最早驚く気も起きない。

 脳みそも「またか」と思っているのか、今回は目覚めも早かった。まあそりゃそうだよなぁ……何度も何度もこんな事が起これば、そりゃさすがに学習しますわ。
 そうなると、今回もあの“黒いの”が祭壇と花の間にいるのかな。

 いつ訪れても悲しそうだったけど、今回は泣いてないと良いな。そう思いながら、俺はいつものようにヤケに軽い大扉を開けて部屋の中に入る。
 すると、今回も“黒いの”は、病気になったクレオプスを一本の触手で撫でていた。

 ――溶けかけたコーヒーゼリーのようにブヨブヨした体に、無数の紫色の目を埋め込んだ姿。目はギョロギョロと動いているけど、俺がいる事には気付いていない。
 ただただ色素が薄くなったクレオプスを撫でて落ちこんでいるようだった。

 …………怖いっちゃ怖いんだけど、やっぱ放っておけないんだよなあ。
 だって、あの“黒いの”は全然襲って来ないし、気弱そうだし、それに……なにかに凄く悲しんで、クレオプスの事を心配しているように撫でてるんだもん。
 俺に対しても「助けて」とは言うけど、それ以上の事はして来ない程度ていどには確かな理性があるみたいだし。

 だから、今日もそばに近付いて、俺は喋りかけてしまった。

「花、治らない?」

 訊くと、目の前の体がブヨンと震えて小さく曲がる。うなづいたみたいだ。
 今回は俺の事を最初からちゃんと分かっているらしい。不思議に思いつつ続けた。

「あのさ、俺……ここから病気の花を一株貰って回復薬を掛けて見たんだけど、俺が作った回復薬を振りかけたら、治るどころか毒性が消えちゃったんだ。その……そういうのって、やっぱダメなんだよな? なんかごめんな、一株無駄にして……」

 そう言うと、いくつかの目がこちらを向いた。

『目……色、ナイ……目、ナイ……消エル……。優シイ、ナイナイ……』

 そう言いながら、別の場所から触手を出して“黒いの”は俺の頭を撫でる。
 よく解らないけど……慰めてくれているんだろうか。ああもう、もどかしいなあ。俺が全ての言葉を理解出来るスキルでも持ってたら良かったのに。

 そうしたら、この“黒いの”が本当は何を望んでいるか分かるのになぁ……。

「なあ黒いの、お前……一体なんなんだ? 花と、巨人と関係が有るのか? ずっと悲しんでるのは……巨人が死んじゃったから……?」

 もどかしいせいで、つい何もかも問いかけてしまう。
 すると、相手は花を撫でていた触手を体に戻して、ずるずると音を立てながら俺の方に正面……正面なのか? とりあえず、向き直ったみたいだった。

『死ンダ……悲シイ、ナイ……。悲シイ……目……花、落チルコト……』

 言うと、また“黒いの”はポロポロと涙を流し始める。
 いろんな部分の目から涙を流すもんだから、ぬぐってやってもキリがない。
 でも何もしないワケにも行かなくて、俺は相手の涙を指ですくい続けた。

『花、新シイ……出来ル……イヤ……。悲シイ……悲シイ……目……ホシイ……目……ヤサシイ……タスケテ……目……ナイ……ホシイ……』
「目が欲しいの?」

 問いかけると、首……というか体の上部分を横に振る。
 目を自分にくれ、という意味ではないようだ。だったら、ホシイとナイという言葉は、どこに掛かっている言葉なんだろうか。
 もっとちゃんと話したいけど……これは夢だし、どうしたらいいのやら……。
 悩む俺に、どこか悲しそうな“黒いの”は言葉を続けた。

『ヌシ……死ンダ……イイ……。デモ……新シイ……出来ル……ツギ……ツギニ……来ル……悲シイ……タスケテ……ヤサシイ、タスケテ……目……ヌシ、目……』

 何度もそう言いながら、ポロポロと涙を流す。
 やっぱり、この“黒いの”は悲しんでるんだ。でも、俺がちゃんと分かってやれないせいで、もっと“黒いの”を苦しめている。
 どうにか理解したい。言葉をちゃんと理解して、この“黒いの”を助けたいんだ。
 もっと、理解出来るすべが有ると良いのに。俺がもっと、ちゃんと……。

『…………』
「え?」

 “黒いの”が何か言ったような気がして、俺は相手の目……どこを見たんだか自分でもイマイチよく解らないけど、とにかく紫色の瞳を見る。
 すると相手は俺に二本の触手を伸ばしてきた。何をするのかと思ったら、一方で俺の腰回りをぐるりと捕えて、もう一方の触手の先端を指先のように細くして俺の口に近付けて来た。敵意は感じられないけど、何がしたいのか解らない。

 ただ“黒いの”がするままを見ていると……相手の細い触手が、俺の唇を遠慮がちにつついて来た。口を開けろと言う事だろうか。
 素直に開けると、相手は何故か一度触手を引いたが、ゆっくりと口の中に侵入してくる。そうして、口腔を優しく探り始めた。

「んっ……ん、ぅ……」

 本当に、指みたいだ。
 いや、指よりも一回り二回り大きいけど、でもまるで指みたいに動いて、口の中や舌を触って来る。遠慮がちなせいで妙にくすぐったくて、変な感じになるというか……その……俺の、下の方の一部が……。

 い、いや、イカンイカン。興奮してる場合じゃないだろ。何を考えてるんだ。俺は背筋がゾクゾクする感覚にひざを閉じてこらえようとするけど、でも何故だか思った以上に体が動いてしまう。

 変だ、こんなの。体の奥の方から熱くなってきて、感じ慣れたヤバい感覚が股間に集まってくる。探られる口の中では、唾液だえきがたっぷり出てしまってるみたいで、触手が濡れたような感覚になっていた。これって、俺が興奮しているからなんだろうか。

 い……いつも、ブラックに色々されてるせいで、敏感になってんのか?
 その興奮を相手に悟られるのが異様に恥ずかしく思えて、俺は必死にこらしょうのない自分を制した。

 だけどやっぱり、夢の中だからなのか耐え切れなくて。
 口の端から零れんばかりの唾液を含んでしまう自分に羞恥を感じていると、相手は不意に指のような触手を移動させて、口の中の唾液を舐めるようにすくった。
 そうして、ゆっくりと触手を口から離す。

「あ……ぇ……」

 どうしたんだろうかと、少し虚ろになった目で“黒いの”を見る。と。

「…………!?」

 そこには……この神殿に見合うような巨大な……いや、巨人のような姿になった、何者かが居て。影のような色の体にいくつも貼り付いている紫色の目が、ぎょろりと俺の方を見つめていた。

 これ……もしかして“黒いの”なのか?
 やっぱりこいつは、かつてこの場所で討伐された百眼の巨人だったのだろうか。

 変な感覚も引っ込んでしまい、ただただ巨人を見上げる俺に、相手は腰をかがめてゆっくりと床にひざまずくと、頭をおおっている目すべてで俺を見やった。

『チカラ、貰ッタ……少シ…………』
「ちからって……」
『優シイ……タスケテ…………マタ、花……生マレテ、シマウ……』
「…………え?」
『タスケテ……優シイ、ヒト……。目……ホシイ……目……助ケテ……ホシイ……。今度、チガウ……アイツ……マタ、呪ウ……モウ……花……ウマレナイ……! 街……アーゲ、ぃア……滅ブ……!』

 巨人はそう言いながら、顔中の目をうるませて俺の上に涙を落とした。
 大きな、大きな涙のしずくだ。でもこれは塩辛くなど無い。夢の中だからなのか、人の事を悲しませるような刺激など一分いちぶも無かった。

 でも、今の言葉って……どういうことなんだ……?

『助ケテ……優しい人…………』
「――――――っ……」
『主の血が、ワタシの血が……目覚めさせられた……アーゲイアが……ワタシと、彼が、愛した街が……崩壊する…………』

 はっきりと聞こえた、人間らしい声。
 男か女かすらも判らない、ぶれたような声音だったけど、でも、確かに。










「――――はへっ!? まっ……ぇ……あれ……夢……?」

 一瞬で視界が暗くなり、思わず「待って」と言いかけて、自分が起き上がった事に気付く。だけど目の前に巨人はいない。小奇麗な部屋の壁が有るだけだ。
 ってことは……また、夢……?

 しばらくボーッとしてしまった俺の横で、不意に声が聞こえてきた。

「まーた僕以外の奴の夢を……」

 うげっ、そうだ、またブラックと一緒に寝てたんだ。いや、まあ、昨日はその……強制的にイチャイチャさせられつつ回復薬作ってたから、寝てて当然なんだけど。
 しかし勝手に同衾どうきんしておいてその言い草はないぞ。
 夢だって俺が望んで見てるワケじゃ……あっ、そうだ。今回の夢はなんか前のよりヤバいんだ。ブラックの文句を聞いている場合じゃない。

「と、とにかくブラック聞いて!」

 起き上がった勢いのまま隣のブラックに振り返って、俺は相手のほおを手ではさむ。
 夜の間にさらに伸びた無精髭が手に刺さってチクチク痛かったが、そんな事にひるひまなどない。お構いなしに俺はブラックに夢の内容を聞かせた。

 すると、さすがにブラックも真剣に聞かざるを得なかったようで。
 俺の夢の内容に不可解そうに眉根を寄せていたが……ふむ、と息を漏らすと、あごに手を当てて考えるように目を伏せた。

「巨人の血が目覚めさせられた……アーゲイアが崩壊する……意味深だね」
「だろ? マジの夢かは分からないけど、これって何かヤバいんじゃないかなって」

 頬を離すと、髪紐を解いて髪を広げたブラックはその頭をガシガシと掻いた。

ってのも不吉だね……。こうなると、病気かどうかも怪しいな」
「それって……どういうこと?」
「もしかしたら、あの花は“病気”じゃなくて……“寿命”とかそう言うもので、毒性が薄まってたのかもしれないってこと」
「そんな事ある?」

 首を傾げると、ブラックもちょっと困ったように笑って肩をすくめた。

「うーん、無いことも無いけど、植物の性質にるものだからね……こればっかりは、資料が無いとなんとも言えない。でも、可能性は充分に有ると思うよ」
「そっか……」
「とにかく、ツカサ君の夢が正夢になるとすれば……後々ヤバい事態になるかも知れないね。昨日言っていた、領主に文献を見せて貰うっての……早めに頼もうか」

 その言葉に、今度は俺が拍子抜けしてしまったように肩から力を抜いた。

「ブラック……なんか今日はのっけから真剣だな……」

 言うと、相手は顔をしかめて口をとがらせる。

「だって、これ以上面倒臭い事に巻き込まれたくないんだもん。僕はね、ツカサ君と早くなんの気兼ねも無いセックスがしたいんだよ!! こんな家早く出て、セックスが存分に出来るところに行きたいの! セッ」
「わーっわーっ! 分かった分かったから!!」

 ああそうだった、コイツは他人の事なんて基本的にどうでも良かったんだった。
 チクショウ、ちょっとドキッとして損した。
 でもやる気が有るってんなら、好都合だよな。えっちするかどうかは別にして。

 よし、このまま早く支度したくを済ませてネレウスさんの所に行こう。
 回復薬も作ってあるし、準備は万全だ。今までの俺の夢が予言なのかどうかはまだ判らないけど、彼ら親子を救うためにも頑張らなければ。














※く……また遅れて申し訳ない…_| ̄|○

 
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