異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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海洞都市シムロ、海だ!修行だ!スリラーだ!編

2.そっちかよ

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   ◆



 前回、俺とブラックはアーゲイアにて一つの事件を解決した。

 それは、アーゲイアと言う古い古い街に関わる重大な事件だ。
 ――“百眼の巨人”という忘れ去られたモンスターが残した、“街の繁栄をになう大事な毒花”がわずらった病気を直して欲しい――――。

 国王のそんなムチャな依頼から始まり、それを守る一族まで絡んだ一大事だったのだが……俺達はこれをからくも解決したのである。

 ……と言っても、大団円というワケではない。

 当事者だった当代領主のネレウス・アーゲイアさんは、呪いによって女神の加護を失って“真の姿”を暴露されてしまい、“百眼の巨人”となり暴走してしまった。そんな彼をなんとか助けた俺達だったが、しかし助けた代償で……巨人の目玉から生まれる【クレオプス】という毒花は、これ以上はもう生まれなくなってしまったのだ。

 なにせ、その毒花は……呪いが体中に満ちて加護を失ってから死んだ“過去の領主の目玉”を種として生える、特殊な花だったのだから。
 そう。ネレウスさんを助けてしまったら、もう彼は「巨人に戻ってしまった事をいて自殺する」ことはない。呪いも浄化されてしまった今、新たな【クレオプス】が成長する事は出来なくなってしまったのである。

 ライクネスの国王から「クレオプスのやまいを治せ」と命を受けた俺達にとって、この事実は「依頼を失敗した」という事と同意義だ。世が世なら極刑である。

 それを改めて考えた時、俺は「大団円どころか牢屋行きでは?」と肝が冷えたが――しかし、事態は俺達が思っているよりも大事おおごとにはならなかった。
 何故かと言うと……それは、俺の“チート能力”が再び役立ってしまったからだ。

 …………しっかし……チートとは言っても、なんか格好良くないよなぁ。
 ネレウスさんの息子であるネストルさんの呪いは、俺の血液を呑ませて完全に浄化出来たし、貴重な薬の材料になる【クレオプス】も、俺が回復薬を掛けた物を“鑑定”に出して貰うと「従来よりも効果がある、大幅に調合過程を短縮できる」などという結果になってしまい……つまるところ、全てすんなり収まってしまったのだから。

 ……いや、うん。まあ、俺のチート称号である“黒曜の使者”は、この世界の根源である“気”や“五曜”を生み出して自由に操れる能力だ。
 それはすなわち、神の御業みわざと一緒で「大抵の悩みはコレでなんとかなる」という事になるワケで。つまり、これこそ【デウスエクスマキナ】ってヤツなワケで……。

 うーん……でも、実際にソレを自分がやるってなると、どうにもわりが悪い。
 実際、一族の呪いは浄化出来たし、俺の能力で呪いを除去した【クレオプス】は、植物を成長させる【グロウ】と枯らす【ウィザー】で種を収穫し、再び【グロウ】で成長させる事が出来るようになった。つまり、量産が可能になったんだけど……。

 でも、だからってそれは「俺のおかげ」じゃないんだよなあ。
 俺のチート能力が誰かを救ったのは間違いない。だけど、こんな、たまたま貰っただけの凄いチートで「ツカサさんのおかげです!」なんて言われても、スッキリしないワケで……。ああ俺って面倒臭い。素直に喜べたらいいのに。

 けど、やっぱたまれないんだよなあ。
 全て丸く収まって感謝もされたけど、俺の実際の能力が貧弱なせいで、巨人化したネレウスさんを足止めする事も出来なかったし、そもそも彼を元の人の姿にも戻せていない。「紫色を忌む」という習慣だってそのままで、俺自身が解決した事と言えば、ブラックの機嫌を直したことだけだった。
 んで、後処理は王様とシアンさんに丸投げだ。
 そんなの、チート持ちの格好いい主人公のやる事じゃないよ。

 俺が好きで読んでた小説は、万能な主人公が一人でなんでも解決するんだ。
 そうして人に感謝される。確かにチートを使ってはいるけど、使い方を考えるのも「自分の力で誰かを助けられる」って自信があるのも、その主人公自身の知恵と努力がみのったからに他ならない。
 例え凄いチート能力を持っていようが、やっぱり使う人が有能じゃなきゃ輝かしい活躍ってのは無理なんだよ。そういうスマートな立ち振る舞いってのはさぁ。

 …………やっぱし、このままじゃいけないと思う。
 そのせいでバツが悪くて、逃げるようにしてアーゲイアを出て来てしまったし……やっぱ、チート能力に見合うだけの力を俺も持ちたい。
 ブラックを守りたいし、他の人達だって救えるなら救いたい。
 俺は、好きな奴の前に立って盾になってやれる立派な男になりたいんだよ。

 今度こそ、ちゃんとブラックを守ってやりたい。
 俺だって男で、ブラックの恋人……いや、その……指輪、持ってるんだから……。

 と、とにかく!
 だから曜術も使いこなしたいし、調合のなんたるかもしっかり学びたい。
 今回この右腕にやっと装備した黒く細長い箱のような者――――俺の武器である、魔法ボウガン“術式機械弓アルカゲティス”の立派な射手になって、格好良く立ち回るんだ。
 そのためには、嫌いな勉強だってやってやんなきゃな!

 なので俺は、シアンさんに「俺を鍛えてくれる薬師の師匠」を紹介して貰い、これからその師匠が滞在していると言う場所に向かおうとしているのだが……。

「はぁあ~~……幸せぇえ……」
「ツカサ君さっきから凄く気持ち悪い……悩んだり上機嫌になったりする……」

 上空の強い風に髪を乱されながらの道中、俺の背後に乗り込んだブラックが、凄く失礼な事を言う。おい、なんだその気持ち悪いって。仮にも指輪渡した相手に!
 いやしかし、それも仕方がないと思い直す。

 だって俺は、この上空の風や冷たさや罵詈雑言などでも無い、無上の喜びを噛み締めているのだから……。ああそりゃ他人から見れば気持ち悪いだろう。
 しかしこの喜びには変えられない!

 俺は大股でまたぎ乗っているその黒い首の付け根から、思いっきり“乗っているもの”の首を抱き締める。うろことは思えないほど大きな、黒く艶やかな鱗。まるで黒い甲冑のような頑強で滑らかな鎧鱗がいりんまとった姿は、俺達より何十倍も大きい。
 その大きな体で、蝙蝠こうもりのような巨大な翼を操り空を飛んでいるのだ。

 雄大で勇ましい姿に、俺は思わずすすり泣いて大きな首を抱く腕に力を込めた。

「あああぁあ……ロク、ロクショウぅうう! 会いたかったよぉおお」

 久しぶりに背に乗れた嬉しさと再会できた喜びに、思わず目と鼻から水がだばだばと流れる。背後でブラックがあきれたような溜息を吐いたが、もはやどうでもいい。
 俺はもう、この瞬間が楽しみで楽しみで、だからこっちに来たかったんだ!

「グォッ……グゥッ、キューッ、キュゥウ~」

 俺に甘えるように、竜の咆哮から甘えた甲高い声に変えて喜んでいるのは、そう、俺の相棒であり今乗せて貰っているこの黒竜――――ロクショウだ。

 ああ、本当、鎧のような鱗に覆われた格好いい姿が凄く素敵だ。それに、そんな姿なのに、手は小さいのがチャームポイントで可愛い。そのうえ、こんな凄いドラゴンに進化しても瞳は小さな蛇だった頃の体の色を受け継いだ緑青色なんだ。
 いつ見ても、俺の相棒は最高だ。こんなに可愛くて強い竜はこの世にはおるまい。

 そのなついてくれる声が愛おしくて首に頬擦ほおずりをしてしまうが、そんな俺に背後から再び不機嫌な溜息がたっぷりと吹きかけられたようだった。

「はぁー……。にしても、ホントにツカサ君ってロクショウ君が好きだよねえ……。まあ、初めてこの世界で出会ったモンスターだからってのは解るけど……」

 むっ、それはまだ説明不足だぞ。
 思わず振り返り、俺は眉根を寄せて顔を顰めた相手に人差し指を突き立てた。

「それだけじゃないぞ! ロクは可愛いヘビちゃんで、賢くて優しくて我慢強くて、それに俺のために準飛竜ザッハークにまで進化してくれたんだ世界最高のヘビなんだぞ!」
「はいはい……」

 ブラックは呆れ返るが、俺にとってロクは特別なんだからこうもなろう。
 だって、ロクショウは守護獣(この世界での召喚獣のような物)契約をしなくてもずっと付いて来てくれたし、俺のために今までずっと魔族のヴァリアンナさんの所で修業をしていたんだ。そんな健気で頭のいい、俺より賢いこと請け合いのへびちゃんが、このたびついに俺達と一緒に旅が出来るようになったんだぞ。
 これを喜ばずして何を喜ぶんだ!!

「はぁあ~……ロク、ロクぅ……。これからは、前みたいにず~っと一緒だからな、一緒にたくさん旅をしようなぁ」
「キュゥー!」

 かぶとのような頭を持ち上げて、ロクは俺の言葉に嬉しそうに答えてくれる。
 ああ、やっぱり無理して来て良かった。
 ロクと再び旅が出来るようになるなんて、夢のようだよ。

 いやぁ、あのイヤミなライクネス国王も、たまには良いこと言うじゃないか。
 俺達が薬師の師匠の所に行く前に、ラッタディアに寄ってとある“用事”を済ませるのに、時間短縮するためにロクを使ったらどうかとか言うなんてっ。

 そのおかげで、ロクとヴァリアンナ……アンナさんが居るセレーネ大森林に行く馬車を用意して貰えたし、なによりアンナさんにも「まあ、後は実践で調整だ。駄目だったら、ココに戻ってこい」とすんなり太鼓判を押して貰えたし!

 アーゲイアの領地と、セレーネ大森林があるファンラウンド領は隣同士だったから、それも幸いしたな。お蔭で馬車で一週間とかそこらの旅をせずに済んだし、これならラッタディアの港に“船”が着く日に間に合いそう。
 いや~、ほんとロクさまさまだよ!

 王様にロクとの旅を提案された時、マジもう嬉しくて頭から全部吹っ飛んじゃったもんね。あっちの世界に帰ってからもソワソワしっぱなしで、今日だってキュウマとの話の途中もロクをこうして抱き締めたくてたまらなかったんだ。

 実際、ぎゅっとすると、可愛くて愛しくて止まらなくなってしまう。
 ああ……ロクが居てくれて良かった、ロクは最高だぁ……!

「あのツカサ君、浮かれてるけどちゃんと目的解ってる?」
「むっ。なんだよ、ちゃんと解ってるぞ。ラッタディアの港にを迎えに行くんだろ。それから、俺を鍛えてくれる師匠の所に行くんだ」
「解ってるなら良いけど……はぁ……なんつうかアイツも哀れだなあ……ヘビ以下の扱いとは……」

 そう言いながら、ブラックは強風になびくうねった赤髪を抑えて肩を落とした。
 むむっ、なんだその言い草は。俺は別にロクだけに会いたかったんじゃないぞ。
 ここ数週間、故郷にいったん帰って色々報告して来るってんで、帰郷していた大事な仲間なんだ。そりゃ会えたら嬉しいに決まっている。

 でも、相手は大人なんだし、そもそも同性にそこまではしゃぐのはナシだろ。
 アイツはこのパーティーの大事な仲間で、つまり俺とは対等な関係なのだ。無暗に喜ぶんじゃなくて……そうだな、再開出来たら拳をガツンとぶつけ合うとか……。
 いや格好いいな、それにしよう。とにかく、そういう感じで居たいんだよ。

 それに、まあ……再会したら、ロクショウをたっぷり堪能たんのう出来なさそうだし……。

「なにツカサ君、なにちょっと赤くなってるの?」
「なっ、なんでもない! それより、ラッタディアに着いたらどうする、すぐ出る?」
「……まあ、とりあえず……船の到着次第かな」

 ほっ……興味がれたようだ。
 その事に安堵あんどしつつ、俺はロクが真っ直ぐ飛び続ける先を見据みすえた。

「はぁ……やっぱ凄いなあ……ハーモニック連合国って、独特だよ」

 ロクの視線の先に在る、左右に広がって果てしなく続くような荒野。
 だけど荒野はまだらで、所々に森や湖、様々な山がそびえている。荒野と言っても、見る場所全てが他の場所とは違う。なんだか不思議な光景だ。
 そんな荒野の先に、点在している他の集落とは規模が桁違いの、オアシスのように緑と水があふれる巨大な都が有って――――

「まあ、この景色は……ロクショウ君がいないと見れないかな」

 思わず言葉を失くした俺を背後から抱き締めて、ブラックが呟く。
 その言葉に俺は素直にうなづいて、感嘆の息を吐いた。

「ほんと……この世界の海も、すごく綺麗だ……!」

 俺達が見る、先。
 大地のはじにある、オアシスのような街の向こう側には――――砂粒のように小さな船が浮かぶ、美しい大海原が広がっていた。













※ちと遅れてしまい申し訳ないです(´;ω;`)ウッ

 
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