異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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海洞都市シムロ、海だ!修行だ!スリラーだ!編

6.見知らぬ土地だろうと既知感は湧く

 
 
 
   ◆



 翌日。

 陽が昇る前に宿を出た俺達は、ロクショウの力を借りて再び目的地へと出発した。とは言え、そこまで大変な旅ではない。むしろ楽ちんだ。

 最後尾にスカートをはためかせる無表情のケモミミオッサンが居ると言う、絶対に振り返ってはいけない案件を背負い込むことになってしまったが、それを差し引けば何も怖い事は無い。むしろ、本当なら二日ほどかかるであろう距離を二時間ほどの旅に短縮できてバンバンザイだった。

 いやもう、本当にロクさまさまですよ。
 人に見つからないように目的地から少し離れた場所に着地したが、それでも陸路と比べれば子供のお使いみたいな距離だ。歩いても三時間かからないだろう。

 それに、俺は今物凄くヤル気だった。
 修行をついに始められると言うのもあるが、何より俺の心をおどらせたのは――ロクの背中越しに見た、地上の特異な光景だった。

「海っ、山っ、森!! まさかこんな荒野と砂漠だらけの国に、あんな田舎町みたいな凄くいい場所が存在しているとは!!」

 荒野から少し歩いて道に出て、そこから大地が隆起した巨大な谷間の街道を地道に進む。視界はせばまり上を見上げると道なりの小さい空が在るだけだったが、それでも俺は今から見られるだろう光景に興奮しきりだった。

 なんてったって、この道を抜けたら……俺達は凄い街に到着するのだから!

「ツカサ君ホント元気だねえ……。僕熱くて仕方ないんだけど……」
「軟弱だな。武人はこういう時心頭滅却するものだぞ」
「お前は南国出身だから熱さに強いだけだろうがっ! 殺すぞ!!」

 谷間の道は太陽が少しさえぎられていて、荒野などと比べるとそこそこ涼しいのだが、しかしブラックには充分暑いらしく、さっきから荒い息を吐いて不機嫌そうだ。
 そりゃあゴツい肩当ての付いたマントを羽織はおっていれば暑いだろうよ……と思ったけど、むしろ熱いのは手やら顔やららしく、しきりに汗を流している。

 どういう理屈かはわからないけど、あのマントって恐らく炎耐性も有るだろうし……実は防寒だけじゃなくて断熱効果みたいなのも有るのかな?
 でも、ただ単に隠してるだけで中も汗だくってセンも捨てきれない。

 しかしこの程度の暑さでバテるとは。少し湿気が在るのが駄目なんだろうか。
 外国の人って、日本の湿気のある気候がしんどいらしくて、夏は母国以上にキツいって言う人も結構いるらしいからなあ……。常秋の国出身のブラックからすると、日本と同じような感じの湿気のある夏はつらいのかも。

 その証拠に、ラッタディアはカラッとしてたから暑くても過ごしやすくて、そんなにブラックも文句を言ってなかったんだよな。ハーモニック連合国はその全土が常夏の国とは言え、地域によって気候が違うと言う事なのだろう。
 ううむ、当たり前ではあるんだろうけど、なんだか不思議な感じ。

 しかし、そう不機嫌な顔をするほど暑いかなあ。
 俺としては、この暑さは妙に感じ慣れた物が有って、むしろ風が吹くと汗ばんだ肌が気持ち良くなるから、このくらいなら全然気持ち良い暑さなんだけども。
 そう思うのは、俺がコンクリートジャングル出身だからだろうか。
 ふふ、都会っ子もイマドキはひ弱じゃないぜ。

「にしても……なんでこんな辺鄙へんぴな場所に滞在してんのかね、ツカサ君の師匠になる予定の何某なにがしかは……」

 ウンザリしたような顔をして付いて来るブラックに軽く振り向きつつ、俺は出発前にシアンさんに聞いた事を思い出す。

 たしか……シアンさんから聞いた話では、俺の修行に付き合ってくれる薬師さんは「薬師がいない場所を回って薬を調合している、徳の高い人」とか言ってたよな。
 そういえばこの世界って医者とか薬師は曜術師でないと成れないし、結構シビアな感じなんだっけ……それをカサに着る人もいるらしいけど、俺の師匠になる予定の人は、そういうヤな奴ではないらしい。
 やっぱりシアンさんが紹介してくれるだけあって、素晴らしい人なのだろう。

 ううむ、思い出すと余計に会いたくなってきた。
 そんなこころざしの立派な人から学べるなんて、実際とても名誉な事だ。自分をかえりみると少々気後きおくれするけど……でも、頭のいい人に学べば、バカな俺でも難しい事が理解出来るかもしれない。
 学ぶ努力は俺もするが、こればっかりは相手にも頼るしかないからなぁ……。

 ……で、できれば、優しく教えてくれる人だったらいいんだが……。

「それにしてもツカサ、今から会いに行くと言うその師範しはんはどういう人物なのだ?」

 都合のいい事を考えていた俺に、相変わらず涼しい顔をしたメイド服姿のクロウが改めていて来る。
 昨日、まあその色々あって忘れたいが、クロウにも目的を話していたんだよな。
 しかし内容までは教えてなかったんだっけか。話すのを忘れてたよ。

「そういや、詳しい事は全然教えて無かったよな。えっと……シアンさんの紹介でって所までは話したんだよな」

 問いかけるとうなづくクロウに、俺は続けた。

「その人は、医師や薬師がいない街にちょくちょく旅に出ては、安価で薬を調合してくれたりする、凄く偉い人なんだって。旅をしてるから各地の薬の事にも詳しいし、当然色んな人を見て来たから色々な調合方法も知ってる。それに、一人旅をするから木の曜術師としても文句なしの実力だってんで、シアンさんが忙しいその人に紹介状を書いてくれたんだ。それで、相手から『いいよ』って連絡も届いたから、いま滞在しているっていうシムロの街に向かってるってワケ」

 手短に相手がどれほどの実力者なのかを説明すると、クロウはあごに手を添えると、感心したかのように「ほう」と軽く頷いて見せた。
 クロウは武人だから、わりと実力主義みたいな所があるんだよな。

「なんとも素晴らしい人物のようだな。……まあ水麗候すいれいこうの知り合いであれば、そんな賢人が居ても不思議はないが……それにしても、こんな僻地へきちにまで来るとは、本当にその薬師は人々に献身的なのだな……フム……それほどの傑物けつぶつなら、オレも会いたくなってきたぞ」
「表面上の評価だけで期待値あげない方が良いと思うけどねー」
「ブラック!」

 ああもうやさぐれてやがるな。そんなに暑いの嫌なのか。
 でもまあ、どんだけ若々しい動きをしていてもブラックはオッサンなんだもんな。体温調節がし辛いと言うのなら怒るのもこくと言うものか。

 ここは俺が大人にならなきゃなと注意を飲み込み、俺はリングの中からキンキンに冷やした麦茶を取り出してブラックに飲ませてやった。
 水分補給は大事だからな。この世界でもそれは鉄則だ。
 大人しく受け取ってのどを鳴らすブラックを見ながら、俺とロク、クロウも飲む。

 冷えた麦茶が喉を通って胃に流れて行く感覚が、なんとも涼しい。
 俺としてはここにソーダみたいな炭酸飲料があればなあなんて思ったけど、ポテチもスナック菓子すらもない世界では高望みと言うものだ。ぐっとこらえて、グロッキー気味のブラックを励ましつつ、俺達はひたすら谷間の道を先へと進んだ。

 ――――しばらく、崖に挟まれた閉塞感のある道が続く。

 けれど、次第に崖の道が広がって来て、その先にやっと光が見えた。
 と、今まで弱かった風が急に強くなって、俺達の体にぶち当たって来る。その風の香りに少しだけしおの匂いが混じっているのを感じて、俺は駆け足で崖を抜けた。

「っ……! うっわぁ……!!」

 その先に在った風景は――――やはり、素晴らしいものだった。

「ほう……これは……なんだか珍しい街だな」
「ハーモニックでは珍しいね、こういうの昔は隠れ里って言われてたんだよ。ほら、山や崖に囲まれていて、湾も入り江みたいに半月状になってるだろ」

 なんだかんだ教えてくれるブラックを微笑ましく思いながら、俺は息を吸った。
 ――――視界に広がるのは、緩い坂道とそれを囲う緑豊かな森。そして、入り江のようになった場所には、落ち着いた色の建物が隣接している。
 道を下りながら後ろを振り返ると、崖の道を双方から支えるような山が崖を登っているのが見えた。いや、崖の一部が山になってるって感じなんだろうか?

 こういう風景は見た事が無い。どうしてこちら側の崖の一部が山のようになだらかになって、木々が生えているんだろう。
 何か不思議な特性でもあるのかなと思ったけど、考えていても仕方がない。

 再び真正面を見てしばらく森の道を進むと、すぐに森が開けた。

「うむ……なんだか落ち着いた街だな」
「ホントだな。何か、屋根の色もレンガ色だし、壁も古め……でも結構好きかも」

 森から少し先に見える街――シムロの風景は、他の港町と比べてだいぶん大人しい感じだ。でも、俺は結構親近感が湧いた。
 何でかって言うと、俺の世界の港町と雰囲気が似ているからだ。

 俺の婆ちゃんの集落がある地域には、小さな港町がある。
 といっても山を越えなきゃ行けないし結構遠いんだけど、そこは凄く静かで、港町と言っても漁船や小さな渡し船しか停泊しないような所なんだ。
 でも、あのひなびた雰囲気がなんだか夢の中の街みたいで好きだったんだよな。

 異世界でもこんな静かな街があるんだなぁと思いながら、街と外の境界を作る門へ入ろうとしたのだが……そこでふと「この世界」の常識を思い出し、立ち止まった。

「あれ? えっと……門番は?」
「そういや居ないね。田舎のくせに結構大きめな港街だし、警備兵がいなくとも門番くらいは用意してそうなもんなのに」
「ムゥ……休憩にでも行っているのか? 不用心な」

 そう。この世界はモンスターが出てくるファンタジー極まる世界だ。
 昼間はモンスターが活発に活動しないとは言うが、夜は凶暴なモンスターも目覚め食い物を求めてさまようと言う。つまり、夜はどこにいても危険なのだ。

 なので、モンスター除けの魔道具……曜具ようぐもあるし、街や村には柵や壁が必需品になっているんだけど……この場所には、壁はあるのにばんが居ない。
 これではモンスターや盗賊に侵入されてしまうのではなかろうか。

 他人事ながらも心配になって来たぞ……この街大丈夫なのか……?

「んん? なんだこれ」
「え?」
「ちょっと見てよこれ」

 誘う声に振り向くと、そこには壁のある部分を凝視しているブラックがいる。
 何を見ているのか気になり、誘われるがままクロウと一緒に近付くと――ブラックが見ていた壁の一部分には、古びた張り紙と新しく貼り直された張り紙があった。
 しかしそのどちらも、同じような事を書いている。

「なになに……?」

 これのどこにブラックは「ナンダコレ」と言ったのだろう。
 気になって読んでみると、そこには異世界の言葉でこう書かれていた。



 ――――ようこそ、海洞かいどう都市【シムロ】へ!

 この街に存在する世にも珍しい【海廊かいろうダンジョン】に挑戦される方は、まず南地区にある【冒険者ギルド出張所】で登録をお済ませください。
 我々は勇気ある冒険者を歓迎いたします!












 
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