異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
144 / 1,149
竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編

3.聳え立つ巨塔1

 
 
「りゅっ……えっ、えぇえええ!?」

 なにあのでっかいの!
 ツノが何本もえててデッカい蛇みた……あれ、じゃあ、あの紫色のモンスターは竜ってワケじゃないのかな。竜ってこの世界じゃ滅多に見かけないんだよな?

 たしか、モンスターが強くなって体を変えて行く内に到達するのが【竜】で、そのちからはモンスターとは別の扱いをされている【龍】に匹敵するんだっけ。
 冒険者ギルドが定めているランクでは、最高位のランク8……いわば神話級だ。
 だけどそんなモンは滅多に居ないって話だったような。

 いやでも俺の可愛いロクショウは【準飛竜】で竜に近い姿をしているし、いない事は無いんだよな。つーかここどこ。前に居た所は、ラッタディアの【シムロ】って街だったのに、またブラック達は移動したんだろうか。

 ていうかコレ俺も参戦した方が良い?
 でも途中から入ってリズム崩したら申し訳ないし、呼ばれるまで黙って待ってた方が良いかなあ。うーむ……とりあえずシアンさんに近付いてみるか。

 遠景に森を望む小高い丘の草原からコソコソと降りて、後衛で待機しているシアンさんに近付く。と、相手もこちらに気付いてくれたのか振り返った。

「あらツカサ君! 来てくれたのね~」
「はわーっ!」

 気付いた途端、シアンさんが近寄って来てぎゅーって! ぎゅー!
 あああ良い匂いがするぅううう。落ちちゃうっ、さらにシアンさんが好きになっちゃうっ熟女を好きになる趣味は無いのにそっちにも落ちちゃうぅううう。

「お婆ちゃんとっても寂しかったから、戻って来てくれて嬉しいわ……!」
「おおおふっおへへっ、俺もお久しぶりで嬉しゅうございますぅう」
「戻ってきて早々こんな感じでごめんね、騒がしかったわよねえ」
「ぷはっ、あの、これ一体どうなってるんです?」

 美老女にしては上向き豊満過ぎな胸から脱出した俺は、細く優しい腕で抱き締めてくれているシアンさんを見上げる。すると、シアンさんは「あらあら」とでも言わんばかりの困ったような表情をしながら答えてくれた。

 ――――どうやら、シムロの街から俺が自分の世界に帰った後、ちょうど入れ違いでメッセンジャーの毒舌金髪巨乳美女エルフことエネさんがやって来て、ブラック達を強制的に【カスタリア】に呼び出したらしい。
 で、何で呼び出したかと言うと……ライクネス王国からの要請だと言うのだ。

 その内容は『ラスターとともにライクネス王国のに行って、調査の手伝いをして欲しい』というような内容で、これがよりにもよって王様直々の命令だってんでブラック達も断れずに連行され……今に至るというワケなのだそうだ。

 あ、ちなみに【カスタリア】っていうのは、この大陸の国を分割している複数の【国境の山】という山脈群のひとつに存在する、とある独立機関の施設だ。
 この施設は【世界協定】という国家間のいさかいを鎮めたり国をまたぐ事件を引き受けて調査したりする機関の総本山で、シアンさんはそこで裁定員という職に就いている。世界協定でも数人しかいない最高権力者の一人なのだ。

 でも、シアンさんは水のグリモア――【碧水へきすいの書】のグリモアで、しかもこの世界での俺のお婆ちゃんになってくれるって言う太っ腹なエルフお婆ちゃんなので、俺はこうしてシアンさんの胸に全力で甘えられるのである。
 ふはは、役得とはこのことだ。今更だけど、この調子でグリモア全員が女性だったら良かったのになあ。この世界って八割が美形なんだし。
 まあ、もう済んだ話だけども。それはともかくとして。

「えーっと……ここがライクネス王国のどっかで、なんでラスターがいるのかとかも分かりましたけども……それで、この状況はどういう事で……?」
「移動していたら、ちょうどポイズンスラグの亜種が暴れているのを見つけたのよ。あの子達は放っておこうと言うのだけど、大きさがあの通り尋常じゃなかったから、王国騎士のラスター様が放って置けなくてね……それで、今戦闘中なの」
「ぽいずんすらぐ」
「私達の言葉に直すと、毒ナメクジね」

 なるほど。ていうかそうか、この世界って日本人の神様が代々管理して来たから、英語が公用語じゃなくて日本語が普通なんだっけ。だから、所々に英語が有ったり、外国人風のブラック達の名前だけがカタカナ系だったりするんだっけか。
 文字は異世界風なのに、ホントこう言う所がチグハグなんだよなぁ。
 まあ、多国籍なごちゃまぜファンタジーが日本のラノベだろうがって言われると、完全に否定する事は出来ないんだけども……。

 それは置いといて、ようやく全部スッキリしました。
 ラスターが騎士として放置できなかったんだな。うむ、相変わらず傲慢ごうまんナルシストのくせに正義漢で真面目なやっちゃ。

 そんな事を思いながら、三人の大人が竜の顔に擬態していた部分を叩き、徐々にポイズンスラグの形をナメクジらしいものに戻していくのを見ていると、なにやら急にシアンさんの胸元がモゾモゾと動きはじめた。
 えっ、シアンさんのおっぱいもしかして自分で動けるんですか。
 予想外すぎて一瞬変な事を想像してしまったが……シアンさんの服から飛び出してきたのは、ちっちゃくて黒くて可愛い、俺の相棒だった。

「キュ~!」
「あっ、ロクぅ!」

 小さな蝙蝠羽をパタパタと動かして俺の胸へと飛び込んでくるロクに答えて、俺も「ただいま」と言わんばかりにロクの小さな顔にほおり寄せる。
 シアンさんが胸の中であやしてくれていたおかげで、ロクの体は温かい。
 普通ならこんな風にヘビちゃんと触れ合うのは難しいが、この世界でならたくさんスキンシップしてもオッケーだから、本当にこういう所はありがたい。

 そんな事を思いつつ、ロクとほっぺを摺り寄せ合戦をしていると――――目の前で物凄い悲鳴が響き渡り、ポイズンスラグの体が燃え上がった。
 あっ、ブラックが炎の曜術で一気に燃やしたのか。
 そう思った刹那、ポイズンスラグの体が大きくふくらんで……

 心臓が驚きそうなくらいの轟音を立て、一瞬で破裂した。

「わあっ!?」

 いきなりはじけたと思ったと同時、その紫色の肉片がこちらへ豪速で飛んでくる。思わずロクをかばって背を向けたが、シアンさんは俺を守るように背中を向けて、何事かをつぶやてのひらを前へと押し出した。

 肉片が、もう目と鼻の先に来る。
 目をつぶりそうになったが……シアンさんと俺達の周囲には、青い水のような円形の障壁がいつのまにか出現していた。
 その障壁は飛んできた肉片を溶かし、形を飲み込んでいく。

 何が起こっているのか解らず目を丸くした俺達の前で、シアンさんが曜術で作ったのであろう障壁は、飛んできた全ての肉片を消化し切ってしまった。

「し、シアンさんすげえ……」
「うふふ、そう言って貰えて嬉しいわ」

 水の曜術ってことは、俺にも使えるのかな。いや、でも、こういうのって水のグリモアしか使えなかったりするのかも……でも水バリア格好いいぞ。俺もやりたいぞ!
 もしかしたら教えて貰えるかもしれない、などと淡い期待を抱きつつ、俺はロクを頭に乗せてシアンさんに教えをおうと口を開いた……と、同時。

「ツカサくぅうううううん!! あぁああ会いたかったよぉおおおおお」
「おぐふっ!?」

 どん、と体を押し倒すほどの強い衝撃が来たと思ったら、いつのまにか俺は中年のオッサンのにおいとともにぎゅうぎゅうと抱き締められていた。
 ……ああ、約一週間ぶりだなこの感じ……学校だとオッサンに近付く機会すらないから、なんか帰るたびに改めてブラックがオッサンだと言う事を実感してしまうぞ。
 いや、嫌とかじゃないんだけど、あの……毎回こっちに来るたびに抱き締めて来るのは勘弁してくれないか。そもそも人前だしここ外だしラスターいるし……!

「ふぁあぁツカサ君のほっぺぇ……」
「ぎゃーっ! 吸い付くなぁああ!」

 抱き締めただけじゃ興奮が抑えられなかったのか、今度は俺のほっぺをもちのように伸ばすがごとくチュッチュと吸い付いて来る。
 そんな事をされて黙っていられるはずも無く、逃げ出そうと必死でもがいていると、またもや知ったような声がこちらに近付いてきた。

「おいやめろ小汚い中年め! ツカサが嫌がっているだろうが!」
「ムゥ……オレもツカサに吸い付きたいぞ……」

 ラスターとクロウだ。ラスターは相変わらず自惚うぬぼれても仕方がないぐらいキラキラしたイケメンだが、クロウもちょっと老けてるものの負けず劣らずの野性的イケメンだなぁもう……なんで俺の周り男ばっかりなんだろうな……。

 さっきのキュウマの衝撃的な過去が尾を引いていて思わず落ちこんでしまったが、そんなこちらの気持ちなど余所よそに、ブラックは俺を抱き締めて起立し後退する。
 しかし、これで立ち止まるような人間なんてここにはいない。

 ラスターとクロウはヅカヅカと距離を詰めて来て、こちらに手を伸ばしてきた。
 軍服に似たような服をまとう腕と、筋肉質な褐色の腕が俺をつかもうとするが、こちらのオッサンもさるもので器用にその追跡をのがれてさらに距離を取る。

「おいっ、いい加減にツカサを離せ!」
「ブラックだけずるいぞ」
「あーもー話が進まないだろ!? もう良いから早く目的地に行こうって!」

 ここでグダグダしても仕方ないだろうと全員をなだめる俺に、シアンさんも頷きつつ近付いてきた。そうして、ブラックの腕を優しく解いて俺を解放してくれる。
 何だかんだでブラックもシアンさんには弱いんだよな。助かったぜ。

「ツカサ君の言う通り、早く街へ向かいましょう。ここまで巨大なポイズンスラグが出たなんて、余程よほどのことだし……次が無いとも限らない。冒険者ギルドに報告して、周辺を警戒させなければ」
「むっ……水麗候すいれいこうがそうおっしゃるのであれば、仕方ない……」

 水麗候すいれいこうっていうのは、シアンさんの呼び名の一つだ。
 なんかよく分からないけど、ラスターやクロウはそう呼ぶんだよな。敬意を払う時の呼び名なんだろうけど、位の高い人しか呼ばないから俺としては違和感だ。
 いや、シアンさんの名前を気軽に呼べる俺とブラックが変なのかな……。

 まあそれはそれとして。シアンさんのおかげ一旦いったんは落ち着いた俺達は、丘の向こうにると言う目的地へと歩き始めた。

「ところで、目的地ってどこなんだ? ここってライクネス……なんだよな?」

 いつもの事ながら右にブラック左にクロウと中年どもに挟まれて歩きつつ、前を歩くシアンさんとラスターに問いかけると、ラスターが軽く俺の方を振り向いた。

「そうか、ツカサは知らなかったな。大体の事は水麗候から教えて頂いただろうが、俺達はこれから【バルサス】という都市に向かう事になっている。そこで詳しい情報を仕入れて装備を整えるんだ」
「装備を整えるって……バルサスって所が最終目的地じゃないの?」

 ラスターの言い方は、なんだか別の場所に行くための休息地みたいな言い方だ。
 不思議に思って問いかけると、相手は少し顔を引き締めて目を細めた。

「そのことは宿屋で話そう。説明するにも、少し長くなりそうだからな。……ああ、そろそろ近付いて来たぞ。ツカサ見て見ろ。あの山が目的地だ」
「え……山……?」

 ブラック達から離れてラスターの隣に並ぶと、緩やかに下った草原から少し遠くに青くかすんだ岩山が見えた。まるで、獣の牙を逆さにして置いたような鋭い山だが……良く見てみると、その山には中腹辺りから黒ゴマっぽい物がポツポツと付いている。
 あれは何だろうかと眉根を顰めた俺に、ラスタは―少し笑うような声を漏らした。

「あの山はこの国でも珍しいものだ。近付いたらもっと驚くぞ」
「そうなの?」
「ああ、あの黒い点もなんなのか分かる」

 そう言って、ラスターは嬉しそうに笑う。
 ぐっ……ま、睫毛が長い……本当コイツ顔だけは整ってやがる……。

 一瞬ドキッとしてしまったが、男にときめく趣味は無いと首を振って、俺は前だけを見て、再び目的地へと歩き出した。
 ……後ろは見ない。見ないぞ。なんか凄い怖いオーラをヒシヒシ感じるからな。












※思ったより長くなって切りどころが微妙になってもうた…
 _:(    _ ́ω`):_スミマセ…

 
感想 1,277

あなたにおすすめの小説

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。