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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編
3.聳え立つ巨塔1
「りゅっ……えっ、えぇえええ!?」
なにあのでっかいの!
ツノが何本も生えててデッカい蛇みた……あれ、じゃあ、あの紫色のモンスターは竜ってワケじゃないのかな。竜ってこの世界じゃ滅多に見かけないんだよな?
たしか、モンスターが強くなって体を変えて行く内に到達するのが【竜】で、その力はモンスターとは別の扱いをされている【龍】に匹敵するんだっけ。
冒険者ギルドが定めているランクでは、最高位のランク8……いわば神話級だ。
だけどそんなモンは滅多に居ないって話だったような。
いやでも俺の可愛いロクショウは【準飛竜】で竜に近い姿をしているし、いない事は無いんだよな。つーかここどこ。前に居た所は、ラッタディアの【シムロ】って街だったのに、またブラック達は移動したんだろうか。
ていうかコレ俺も参戦した方が良い?
でも途中から入ってリズム崩したら申し訳ないし、呼ばれるまで黙って待ってた方が良いかなあ。うーむ……とりあえずシアンさんに近付いてみるか。
遠景に森を望む小高い丘の草原からコソコソと降りて、後衛で待機しているシアンさんに近付く。と、相手もこちらに気付いてくれたのか振り返った。
「あらツカサ君! 来てくれたのね~」
「はわーっ!」
気付いた途端、シアンさんが近寄って来てぎゅーって! ぎゅー!
あああ良い匂いがするぅううう。落ちちゃうっ、さらにシアンさんが好きになっちゃうっ熟女を好きになる趣味は無いのにそっちにも落ちちゃうぅううう。
「お婆ちゃんとっても寂しかったから、戻って来てくれて嬉しいわ……!」
「おおおふっおへへっ、俺もお久しぶりで嬉しゅうございますぅう」
「戻ってきて早々こんな感じでごめんね、騒がしかったわよねえ」
「ぷはっ、あの、これ一体どうなってるんです?」
美老女にしては上向き豊満過ぎな胸から脱出した俺は、細く優しい腕で抱き締めてくれているシアンさんを見上げる。すると、シアンさんは「あらあら」とでも言わんばかりの困ったような表情をしながら答えてくれた。
――――どうやら、シムロの街から俺が自分の世界に帰った後、ちょうど入れ違いでメッセンジャーの毒舌金髪巨乳美女エルフことエネさんがやって来て、ブラック達を強制的に【カスタリア】に呼び出したらしい。
で、何で呼び出したかと言うと……ライクネス王国からの要請だと言うのだ。
その内容は『ラスターと共にライクネス王国のある場所に行って、調査の手伝いをして欲しい』というような内容で、これがよりにもよって王様直々の命令だってんでブラック達も断れずに連行され……今に至るというワケなのだそうだ。
あ、ちなみに【カスタリア】っていうのは、この大陸の国を分割している複数の【国境の山】という山脈群のひとつに存在する、とある独立機関の施設だ。
この施設は【世界協定】という国家間の諍いを鎮めたり国を跨ぐ事件を引き受けて調査したりする機関の総本山で、シアンさんはそこで裁定員という職に就いている。世界協定でも数人しかいない最高権力者の一人なのだ。
でも、シアンさんは水のグリモア――【碧水の書】のグリモアで、しかもこの世界での俺のお婆ちゃんになってくれるって言う太っ腹なエルフお婆ちゃんなので、俺はこうしてシアンさんの胸に全力で甘えられるのである。
ふはは、役得とはこのことだ。今更だけど、この調子でグリモア全員が女性だったら良かったのになあ。この世界って八割が美形なんだし。
まあ、もう済んだ話だけども。それはともかくとして。
「えーっと……ここがライクネス王国のどっかで、なんでラスターがいるのかとかも分かりましたけども……それで、この状況はどういう事で……?」
「移動していたら、ちょうどポイズンスラグの亜種が暴れているのを見つけたのよ。あの子達は放っておこうと言うのだけど、大きさがあの通り尋常じゃなかったから、王国騎士のラスター様が放って置けなくてね……それで、今戦闘中なの」
「ぽいずんすらぐ」
「私達の言葉に直すと、毒ナメクジね」
なるほど。ていうかそうか、この世界って日本人の神様が代々管理して来たから、英語が公用語じゃなくて日本語が普通なんだっけ。だから、所々に英語が有ったり、外国人風のブラック達の名前だけがカタカナ系だったりするんだっけか。
文字は異世界風なのに、ホントこう言う所がチグハグなんだよなぁ。
まあ、多国籍なごちゃまぜファンタジーが日本のラノベだろうがって言われると、完全に否定する事は出来ないんだけども……。
それは置いといて、ようやく全部スッキリしました。
ラスターが騎士として放置できなかったんだな。うむ、相変わらず傲慢ナルシストのくせに正義漢で真面目なやっちゃ。
そんな事を思いながら、三人の大人が竜の顔に擬態していた部分を叩き、徐々にポイズンスラグの形をナメクジらしいものに戻していくのを見ていると、なにやら急にシアンさんの胸元がモゾモゾと動きはじめた。
えっ、シアンさんのおっぱいもしかして自分で動けるんですか。
予想外すぎて一瞬変な事を想像してしまったが……シアンさんの服から飛び出してきたのは、ちっちゃくて黒くて可愛い、俺の相棒だった。
「キュ~!」
「あっ、ロクぅ!」
小さな蝙蝠羽をパタパタと動かして俺の胸へと飛び込んでくるロクに答えて、俺も「ただいま」と言わんばかりにロクの小さな顔に頬を摺り寄せる。
シアンさんが胸の中であやしてくれていたお蔭で、ロクの体は温かい。
普通ならこんな風にヘビちゃんと触れ合うのは難しいが、この世界でならたくさんスキンシップしてもオッケーだから、本当にこういう所はありがたい。
そんな事を思いつつ、ロクとほっぺを摺り寄せ合戦をしていると――――目の前で物凄い悲鳴が響き渡り、ポイズンスラグの体が燃え上がった。
あっ、ブラックが炎の曜術で一気に燃やしたのか。
そう思った刹那、ポイズンスラグの体が大きく膨らんで……
心臓が驚きそうなくらいの轟音を立て、一瞬で破裂した。
「わあっ!?」
いきなりはじけたと思ったと同時、その紫色の肉片がこちらへ豪速で飛んでくる。思わずロクを庇って背を向けたが、シアンさんは俺を守るように背中を向けて、何事かを呟き掌を前へと押し出した。
肉片が、もう目と鼻の先に来る。
目を瞑りそうになったが……シアンさんと俺達の周囲には、青い水のような円形の障壁がいつのまにか出現していた。
その障壁は飛んできた肉片を溶かし、形を飲み込んでいく。
何が起こっているのか解らず目を丸くした俺達の前で、シアンさんが曜術で作ったのであろう障壁は、飛んできた全ての肉片を消化し切ってしまった。
「し、シアンさんすげえ……」
「うふふ、そう言って貰えて嬉しいわ」
水の曜術ってことは、俺にも使えるのかな。いや、でも、こういうのって水のグリモアしか使えなかったりするのかも……でも水バリア格好いいぞ。俺もやりたいぞ!
もしかしたら教えて貰えるかもしれない、などと淡い期待を抱きつつ、俺はロクを頭に乗せてシアンさんに教えを乞おうと口を開いた……と、同時。
「ツカサくぅうううううん!! あぁああ会いたかったよぉおおおおお」
「おぐふっ!?」
どん、と体を押し倒すほどの強い衝撃が来たと思ったら、いつのまにか俺は中年のオッサンのにおいとともにぎゅうぎゅうと抱き締められていた。
……ああ、約一週間ぶりだなこの感じ……学校だとオッサンに近付く機会すらないから、なんか帰るたびに改めてブラックがオッサンだと言う事を実感してしまうぞ。
いや、嫌とかじゃないんだけど、あの……毎回こっちに来るたびに抱き締めて来るのは勘弁してくれないか。そもそも人前だしここ外だしラスターいるし……!
「ふぁあぁツカサ君のほっぺぇ……」
「ぎゃーっ! 吸い付くなぁああ!」
抱き締めただけじゃ興奮が抑えられなかったのか、今度は俺のほっぺを餅のように伸ばすがごとくチュッチュと吸い付いて来る。
そんな事をされて黙っていられるはずも無く、逃げ出そうと必死でもがいていると、またもや知ったような声がこちらに近付いてきた。
「おいやめろ小汚い中年め! ツカサが嫌がっているだろうが!」
「ムゥ……オレもツカサに吸い付きたいぞ……」
ラスターとクロウだ。ラスターは相変わらず自惚れても仕方がないぐらいキラキラしたイケメンだが、クロウもちょっと老けてるものの負けず劣らずの野性的イケメンだなぁもう……なんで俺の周り男ばっかりなんだろうな……。
さっきのキュウマの衝撃的な過去が尾を引いていて思わず落ちこんでしまったが、そんなこちらの気持ちなど余所に、ブラックは俺を抱き締めて起立し後退する。
しかし、これで立ち止まるような人間なんてここにはいない。
ラスターとクロウはヅカヅカと距離を詰めて来て、こちらに手を伸ばしてきた。
軍服に似たような服を纏う腕と、筋肉質な褐色の腕が俺を掴もうとするが、こちらのオッサンもさるもので器用にその追跡を逃れて更に距離を取る。
「おいっ、いい加減にツカサを離せ!」
「ブラックだけずるいぞ」
「あーもー話が進まないだろ!? もう良いから早く目的地に行こうって!」
ここでグダグダしても仕方ないだろうと全員を窘める俺に、シアンさんも頷きつつ近付いてきた。そうして、ブラックの腕を優しく解いて俺を解放してくれる。
何だかんだでブラックもシアンさんには弱いんだよな。助かったぜ。
「ツカサ君の言う通り、早く街へ向かいましょう。ここまで巨大なポイズンスラグが出たなんて、余程のことだし……次が無いとも限らない。冒険者ギルドに報告して、周辺を警戒させなければ」
「むっ……水麗候がそう仰るのであれば、仕方ない……」
水麗候っていうのは、シアンさんの呼び名の一つだ。
なんかよく分からないけど、ラスターやクロウはそう呼ぶんだよな。敬意を払う時の呼び名なんだろうけど、位の高い人しか呼ばないから俺としては違和感だ。
いや、シアンさんの名前を気軽に呼べる俺とブラックが変なのかな……。
まあそれはそれとして。シアンさんのお蔭で一旦は落ち着いた俺達は、丘の向こうに在ると言う目的地へと歩き始めた。
「ところで、目的地ってどこなんだ? ここってライクネス……なんだよな?」
いつもの事ながら右にブラック左にクロウと中年共に挟まれて歩きつつ、前を歩くシアンさんとラスターに問いかけると、ラスターが軽く俺の方を振り向いた。
「そうか、ツカサは知らなかったな。大体の事は水麗候から教えて頂いただろうが、俺達はこれから【バルサス】という都市に向かう事になっている。そこで詳しい情報を仕入れて装備を整えるんだ」
「装備を整えるって……バルサスって所が最終目的地じゃないの?」
ラスターの言い方は、なんだか別の場所に行くための休息地みたいな言い方だ。
不思議に思って問いかけると、相手は少し顔を引き締めて目を細めた。
「そのことは宿屋で話そう。説明するにも、少し長くなりそうだからな。……ああ、そろそろ近付いて来たぞ。ツカサ見て見ろ。あの山が目的地だ」
「え……山……?」
ブラック達から離れてラスターの隣に並ぶと、緩やかに下った草原から少し遠くに青く霞んだ岩山が見えた。まるで、獣の牙を逆さにして置いたような鋭い山だが……良く見てみると、その山には中腹辺りから黒ゴマっぽい物がポツポツと付いている。
あれは何だろうかと眉根を顰めた俺に、ラスタは―少し笑うような声を漏らした。
「あの山はこの国でも珍しいものだ。近付いたらもっと驚くぞ」
「そうなの?」
「ああ、あの黒い点もなんなのか分かる」
そう言って、ラスターは嬉しそうに笑う。
ぐっ……ま、睫毛が長い……本当コイツ顔だけは整ってやがる……。
一瞬ドキッとしてしまったが、男にときめく趣味は無いと首を振って、俺は前だけを見て、再び目的地へと歩き出した。
……後ろは見ない。見ないぞ。なんか凄い怖いオーラをヒシヒシ感じるからな。
→
※思ったより長くなって切りどころが微妙になってもうた…
_:( _ ́ω`):_スミマセ…
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