異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編

  聳え立つ巨塔2

 
 
 背後の怨念を振り切るようにしつつ、しばらく草原を歩いて行くと――目的地の山がどんどん近付いて来た。遠くから見るといかにも「そびつ!」って感じのいかつい岩山だったけど、やっぱりふもとは他の山と変わらない。

 ただ、ちょっと違うのは、岩肌を削って伸びる道路が有る事だろうか。
 手すりが無い道って感じだけど、実際は馬車がすれ違っても大丈夫なくらいに広い道なので、あやまって落下すると言う心配はどこにもない。
 道もこの世界にしては凄くなめらかで、小石もあまり落ちていなかった。

 岩山だったら上から落石があってもおかしくないと思うんだけど、ここまで綺麗にしてあるって事は……誰かが頻繁に片付けてくれてるのかな?
 不思議に思いつつ、山をぐるりと回りながら徐々に登って行く道を歩いて行くと、左に面する岩肌になにやら変化が見えた。

「キュ~?」

 俺の肩に乗っていたロクが、一足先にパタパタと確認しに行く。
 動きがちっちゃな龍みたいで可愛いことこの上ないが、俺はもう、ちょっと、ハァ、ちょっと待って、はぁ、はぁあ。

「ツカサ君ほんと体力ないなぁ……。シアンよりちからが無いってどういう事なの」
「こらブラック、ツカサ君に失礼でしょ。私は神族なんだから、普通のお婆ちゃんとは違うの。身体能力は落ちてないんだから、比べようもないでしょう?」

 シアンさん、それ俺が若い姿の時の自分より弱いって言ってるも同然っす。
 フォローがフォローになってませんと思ったが、しかし今の状況では何も言えず、俺は先頭からあっという間に離されて最後尾まで落ちこんでしまっていた。

 はぁ、ハァ……し……シアンさんは、ともかく……なんで、コイツらっ……俺より年上なのに体力あるんだよ……フツー逆じゃない!? オッサンどもが俺に「ツカサくぅん、待ってよぉ」とか言うんじゃないの!?
 マジでファンタジー世界のオッサン達の体力おかしいんですけど!!

「ムゥ……ツカサ、そろそろオレが抱いて行ってやってもいいんだぞ」
「ぐ……え、遠慮します……」

 俺が心配で隣に付いていてくれるクロウが、横で頻繁にお姫様抱っこをするポーズをかましてくるが、つつしんでお断りいたしますと首を振る。
 最近それ多過ぎなんだよ、マジで勘弁かんべんしてくれ。俺は女じゃねえんだってばよ。

 しかし俺が断ると、クロウは無表情ながらもしょんぼりと耳を伏せて見せる。そうすると俺が「うっ……」となるのを解っていて、あえてやっているのだ。
 ちくしょう、オッサンのくせにあざとい事しやがって……そ、そんな顔されたって俺は男としてのプライドは貫き通すんだからな。こんな所でお姫様だっこなんて……

「オレもツカサがいなくて寂しかったのに、オレは触れては駄目なのか……」

 そっ……そんなションボリされても、く……熊耳をふるふるさせながら伏せられたって俺は、俺は……!

「ぐぐぐぐ……!」

 シアンさんやラスターが居るのに、二人が厳しい視線を送って来ているのに、その状況でお姫様抱っこなんて……くっ……抱っこなんて、中年熊さんの腕に背中を預け膝裏から抱えて貰って運搬をお願いするなんてこんな楽なことは……!

「いや、何をさらっと抱っこされてんのツカサ君」
「嬉しいぞツカサ……」
「はっ、体が勝手に!」

 しまった、疲れるのが嫌だと言う俺の怠惰たいだな心がプライドを抑え込んでしまった。
 ブラックに指摘されて気が付いたが、俺はもうクロウに抱え上げられている。いつの間にこんなことに。いや、不思議な事もあるもんだな。

「んもー……ツカサ君たら、本当体力たいりょくクソザコなんだから……。早く体力つけて貰わなくちゃ全然セックスも楽しめないよ」
「こんな場所でンなこと言うな!!」
「セッ……? なんだその単語は……」
「アーッ! 詮索せんさくしないでお願いしますラスター様ぁあああ」

 クロウに抱えられて必死にラスターに手をぶんぶん振るが、当然届きようも無い。
 つーかマジでそう言う事をおおっぴらに言うのやめてくれよブラック!!
 なんでこう、このオッサンは、スケベな単語を恥ずかしげも無く堂々と言っちゃうんだろうか……。他人が知らない言葉とは言え、訊かれたら絶対ヤバいのに。

 頼むから節度を持ってくれと肩を落としていると、ロクがパタパタと戻ってきた。

「キュキュ~! キュー」

 なんだか楽しそうで、早く行こうと言わんばかりに俺の半袖をちっちゃくて可愛い手で引っ張って来る。なんだかはしゃいでるな。ふふふ、い奴め。

「よーし、ロクと見に行くぞっ。クロウ号はっしーん!」
「がおー」
「キュー!」
「いや何言ってんの君達」

 ブラックのあきれた声が聞こえるが、こういうのは正気に戻った方が負けなのだ。
 俺は目的地をロクと一緒に指差して、クロウにどんどん進んで貰う。お姫様抱っこはキツいが、ようするに早く目的地に到着してしまえばいいのだ。
 決して楽チンだからこのまま途中まで乗って行きたいなんて思ってないぞ。

 ブラック達を追い越して山を登って行くと、違和感が有った場所が徐々にハッキリと見えてくる。登り切ったそこには……なにやら、洞窟の入口のような物が有った。
 だけど、ただの入口じゃない。ちゃんと岩壁を綺麗に削ってあって、自然に出来た物とは到底とうてい思えないような感じだ。ここも人の手が加わっているらしい。

「キュキュ~」

 早く中に入ろうとせかすロクに、俺とクロウは顔を見合わせて薄暗い中に入る。
 ロクがこんなにはしゃぐなんてよっぽどの事だな。いったい何を見たんだろう。
 外からの光で薄明るい洞窟を、暗がりへと進んでいくと……外からの光がちょうど途切れた所で、進行方向から水色の光がぼんやりとこちらを照らしてきた。

 なんだろ……なんだか水みたいにゆらゆら揺れてるけど……。

「月光が映る水面みなものような光だな」
「お、おう。まあその、綺麗だな! 早く行ってみようぜクロウ」
「んム」

 なんかポエムっぽい事言うからちょっとドギマギしちまったじゃねーか。
 いや、違うぞ。ドキッとかしてないからな。これはただ虚を突かれただけなんだ。

 クロウって見るからに肉体派だし、実際に自分を武人だってほこるぐらいに拳で戦うタイプだけど、実際はそれだけじゃないから時々こうなっちまうんだよ。

 たしかに筋肉で戦うけど……実は俺より頭が良いし、本だって色々と読んでいる。それに、インテリと言って差し支えないぐらいには結構な物事を知っているのだ。
 何も知らずに見れば、無表情で始終ムゥムゥしているだけのオッサンになりたての無口なオッサンに見えるけど、それだけじゃない。
 ブラックとは違うタイプだけど、クロウも獣人族の知識人なのである。

 だから、その……筋肉キャラって俺の中では「本能で進むぜ!」みたいなイメージだったから、今でもクロウが詩的な事を言うとちょっと身構えてしまうというか……
 いや、別に生意気だとかそう言うんじゃなくて、その……普段がムゥとかウムとかばっかりだもんで、急に来られるとムムッてなるっていうか……。

「光が大きくなってきてるな。先は海の中のようだぞツカサ」
「う、うん……」

 ……でも、二人っきりの時は結構喋るんだよな……クロウ……。
 なんだか急に恥ずかしくなってしまって視線をらそうとするが、置き場に困って何度も視界を動かしてしまう。だが、それとクロウの腕の揺れも相まってか、乗り物酔い寸前の気持ち悪さが込み上げてきたので、俺は仕方なく相手を見上げた。

 ………………ず、ずるい……やっぱりずるい……。
 イケメンだと中年になっても渋みが増すだけで、全然カッコ悪くならないってえのはどういう了見だ。何で俺の父さんみたいになんないんだよっ!
 ブラックもそうだけど、オッサンってもっとこう、ほおがだるっとなったり目尻が下がったり肩が情けない感じになだらかになったりビール腹だったり……こう……なんていうかこう、ダメな部分があるだろ!?

 なのに、クロウはムキムキだし、黒に近い群青なのに紫色に光る変な髪もふさふさしてる……っていうかフサフサしすぎて後ろでポニテしても野生児状態だし、目尻も全然垂れてないどころかキリッとしたまんまだし……。
 ……俺も大人になったらこういう風にイケメンマッチョになりたいんだけどなぁ。
 無理かなぁ……俺、準日本人の父さんの子供だもんな……。

「ツカサ、もうすぐ……ン? どうした」
「な、なんでもない」

 じっと見ているのに気付かれてしまって顔を逸らすと、なんか「フッ」とか笑う吐息が顔に掛かって来て、ちゅっと音がした。な、なんか顔がムズムズする。ほおに何か……い、いや、触れないようにしよう。俺はなにも感じてないぞ。

「急に恥ずかしくなったか。可愛いぞツカサ」
「うっ、も、もうそう言うの良いから……!」

 こう言う時だけ笑うのずるい、いつもはぬぼーっとした無表情で、熊耳しか動かさないくせに……! ああもう降りるっ、降りるぞおれはっ。
 やめんかとクロウの頬を手で押しやり降りようとするが、クロウは俺を固定する腕をさらに強めて逃すまいと引き締めて来る。い、いでででで!
 すんませんっした調子に乗ってました謝るからやめろが出る!ミが!

「ツカサは疲れてるんだから無理をするな。オレがバルサスまで運ぶぞ」
「ぐぅううう」

 自分から乗っておいてなんだが、してやられた気分だ。
 負けてしまってくやしいながらもクロウに抱っこされたままで進んで行くと、段々と水色の綺麗な光が強くなってきて――目の前が開けた。

「うわっ……! なっ……なんだここ……」

 俺達の目の前に広がるのは、岩が所々に残る小さな広場だ。しかしその広場の岩は、そこかしこが水色に光ってれている。
 どうやら俺達を照らしていた光の正体はコレだったらしい。

 だけど、かなり部分的だな……天井とか壁とか崩れた場所とか、まちまちな場所で光っている。しかもその強さもそれぞれ違うみたいだ。
 ちょっとしたスポットライトって感じだなぁ。

「これは……鉱物だな。それぞれの光を反射していたから、かなり遠くまで届いたんだろう。しかし、光も無い場所でずっと発光を続ける鉱物なんて珍しいぞ」
「そうなの? なんかこういう世界だと普通そうに思えるけど……」
みずから光を放つものも存在するが、数は多くない」

 ほう、そうなのか……。
 それにしても、光る鉱石なんて凄いな。何だか海の中に居るみたいだ。
 しばらくクロウとロクと一緒に光をながめていると、後ろから複数の足音が聞こえた。

「鉱石に興味があるのか」

 背後からのラスターの声に、俺はクロウに降ろして貰ってそちらを向く。

「ラスターは知ってるんだよな? これ、なんて名前の鉱石なんだ?」

 そう言うと、相手は少し自慢げなムカツク顔でニヤッと笑った。
 なんだお前は、そんなにイケメンな顔を鼻に掛けたいってのかチクショウ。

「バルサスに行けば正体が分かる。さ、あと少しだ。道に戻るぞ」

 そう言って、ラスターはシアンさんときびすを返し外へ戻って行く。
 ブラックはそんなラスターを白けた顔で見ていたが、頭の後ろで手を組んで、ハァとあきれ気味な吐息を漏らした。

「ツカサ君相手に知識をひけらかすとか、ホントやることがちっさいのなんの……」
「俺がなんだってぇ!?」

 ふざけるんじゃないよと睨むと、ブラックは俺に近付いて来て睨み返してきた。

「なに? ツカサ君、この鉱石の名前とか特徴知ってるの?」

 な、なんだなんだ。妙に機嫌が悪いぞ。
 怒鳴り返そうと思ったけど、急に不機嫌になられたらワケが分からなくて、怒りが急速にしぼんで行ってしまう。だけど、どうしてそんな風になっているのか解らず、俺はおずおずと問いかけた。

「…………お……怒ってる……? なんで?」
「僕、恋人なんですけど。僕に頼めばおぶってあげるし何でも教えてあげたのに」

 えーと……それってもしかして、ねてるってこと?
 そりゃまあ、恋人だったら何かしてやりたいと思うのは人情だけども、クロウとの事はともかく、ラスターに教えをうて嫉妬と言うのはどうなんだお前。
 いやしかしブラックは嫉妬心がヤバいくらいに凄い奴だったしな……ええと……。

「ごめん……」
「じゃあ、ごめんねのキスして」
「…………」

 やっぱりそれかと思ったが、しかしやらねばブラックの怒りは収まるまい。
 俺はラスターとシアンさんが行ってしまったのを確認して、クロウとロクに別の方向を見ていてくれと頼むと、ブラックのそでを引いて少し屈ませた。

 我ながら手際が良くなったと思うが、これも前回の「恋人らしくなるため」の毎日のキスが少しスキルをあげてくれたんだろうか。恋人のスキルって意味が分からんが、それはともかく。早くやろう。やるんだ俺。
 そう自分を鼓舞し、目の前のブラックの顔を真正面に見て――――俺は、無意識にあごを引いてしまった。

「…………」

 ぐう……こう……なんでこう、俺の周りってこういう顔の奴が多いんだ。
 俺だって人並みに自分の容姿をイケてると思ったり違うと思ったりすることが有るけど、ブラックの前だとひたすら自分と相手の「色んな差」にくやしくなったり、妙に恥ずかしくなってしまう。
 色んな気持ちがぜになって、いつも俺は熱を上げずにいられない。
 それがからかわれるんだと解っていても、なんかもう、治りそうにも無かった。

 ちくしょう……俺だってコイツがこんな無精髭ボーボーでだらしない中年ってだけなら、こんなにキーキー挿って無いわい。だらしないくせして、無駄に顔が良いから悪いんだ。コイツにドキドキしている自分にも分かりやすくて腹が立つ。

「ふふ、早くぅ」

 おいコラてめえもう笑ってんじゃねえかやめるぞコラ。
 いや、落ち着け俺。い、一気にやればいいんだこういうのは。
 恥ずかしがってたら、またニヤニヤされる。ここらでもう男らしく、こう、ドンと構えてキスくらい笑い飛ばしてやらないと……男のメンツが立たないだろう。行け、行くんだ俺。これが格好いいオトコの第一歩だ。

「ほ……ほっぺだからな……」
「濃厚キスは夜にして貰うからいいよぉ?」
「ぐぅうう目え閉じろバカ!」

 謝るとか言った癖に罵倒してしまったが、このくらいは許して欲しいと思う。
 カッカしながらも、俺はブラックの無精髭だらけの頬に近付いて……音もたてずに、軽くキスをした。本当にもう、触れるぐらいの。
 ……いや、だって、ヒゲちくちくするし、ブラックみたいに凄く密着してぶちゅーっとかするのは、流石さすがに耐え切れないっていうか……。

「えへっ、えへへぇっ。ツカサ君がキスしてくれたぁ」
「変な感じで笑うな! もう行くぞ!」

 そう言ってそでを引くと、ブラックは嬉しそうにほおゆるめた。
 だらしない顔ったらありゃしないが、まあ……ある意味これで機嫌を直してくれるのはありがたい事かも知れない……いや、ありがたく思っておこう。

「ツカサもブラックも簡単だな」
「キュー」

 後ろのお二人さんそこはツッコミ入れないで下さい頼むから。
 恥ずかしさに頬が痛くなりながらも、シアンさんとラスターが居る道へと戻って、俺達はしばらく中腹まで歩き続けた。すると、ちょうど俺達が歩いて来た方向とは真反対の所に差し掛かった時に、急に山が縦に割れているのが見えてきた。

 形としては、Cの字を横にした感じだろうか。俺達の方から見えていた鋭い山は、裏から見ると高い壁を三方に持つ平地を隠していたのだ。

 だけど、俺が驚いたのは……その平地の入口から見た風景だった。

「ツカサ、ここが【竜呑郷】バルサスだ」

 ラスターが何故か誇らしげに言う、三方を岩壁に囲まれた場所。
 そこには――――都市全体が豊かな水に囲まれ、黄土色の遺跡のような家屋が並んでいる、俺の想像とは全く違う場所が広がっていた。












 
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