異世界日帰り漫遊記!

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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編

13.懐かしさはいつからか1

 
 
 
   ◆



 翌日。
 俺達は夜も明けぬうちにバルサスを出て、目的地である【サウリア・メネス遺跡】に出発する事となった。もちろん準備は万全だ。食料ヨシ、道具ヨシ、シアンさんが担当だった回復系のおくすり準備もヨシだ。

 昨日はブラックにかまったりクロウにかまったり、途中でシアンさんと薬関係の整理をおこなっていてわりといそがしかったが、さすがに二日連続えっちな事はされず、俺の体調は完璧に近かった。そうなんだよ、変な事されなきゃ俺だって動けるんだ。

 さあ、今日から俺もバリバリ戦ってやるぜ……と山を下りたのは良かったのだが。

「…………遺跡ってこっからどのくらいなんです……?」

 目の前に広がるのは、大草原と森とあと遠くに山。
 そのさらに奥の方には、青くかすんでいる、まるで「世界の壁」のように見えなくもない【国境の山】が見える。もうそんな国の端っこまで辿たどいたのかと思ったが、王国騎士団の団長サマと物知りなオッサンが言うには、それでもだいぶ距離があるのだとかなんとか。

 俺達は何度か国境を越えてるけど、でもそれも「国教の山の切れ目」から別の国に出国しているので、実際にあの国同士をへだてる山脈がどれほど長く高いのかってのはボンヤリとしか解って無かったんだよな。

 なんせ、国境の山ってのは並の冒険者でも歯が立たない高ランクのモンスター達が跋扈ばっこする恐ろしい所だと言うし、それがエベレストかって高さでそびえ立ってるんだ。
 国境の山に近い区域と言うと、関所以外では百眼の巨人が居た街・アーゲイアと、シアンさんが所属している【世界協定】の本部エリアぐらいしか俺は行った事が無いけど……でも、凶暴なモンスターがワンサカ居るなんて、考えるだけで恐ろしい。

 ブラックやクロウやラスターならバリバリに強いし、ソロで【国教の山】に登っても平気だろうが、俺は残念ながらそこまでの力は無い。
 というか俺が無駄に小市民で真っ当な現代人なせいで、動揺したり精神状態が安定しないとめっぽう弱くなる曜術師の弱点をモロにかぶってしまっているので、例えこの【黒曜の使者】の能力が有っても俺一人では山に近付く事も出来ないだろう。

 そう思えば、遠くに見える青く果てしなく広がる山脈がより一層いっそう怖い物に思えたが――まあ、今回はそんなに近付かないっていうから、安全だよな!

 アーゲイアでも、結局山に最も近い場所には行かなかったんだし、世界協定の本部だって安全安心だったから、今回も大丈夫だきっと!
 ……とか言ってると死亡フラグが立ってるような気がするんだが、まあとにかく、今の俺達の目的地は遺跡なのだ。

 ああそうだ、遺跡なんだよ。
 なのに、なぜこう俺の目の前には広大な自然が広がっているんだろうか。
 恐らく二時間くらい歩いたんだけど、一向に見えてこないぞ遺跡は。

 この調子で辿り着けるんだろうか……そんな不安な気持ちでつい「遺跡はここからどのくらいなんです?」なんて訊いてしまったが、そんな俺の懸念が伝わってしまったのか、隣にいたブラックがクスクスと笑いながら目を細めて俺を見下ろしてきた。

「んもーツカサ君たらそんなこと言って……もしかして疲れちゃったの? しょうがないなぁ、だったら僕がおんぶ……」
「ならオレが背負って行くぞツカサ」
「おいクソ熊!」

 ブラックが何か不穏な事を言おうとしたが、反対側のクロウが割り入って……って、お前ら結局同じようなセリフ言ってんじゃねーか!

「バカバカ違うやめろ疲れてないっ、無意味な喧嘩すんな! 俺が言いたかったのは、遺跡が全然見えてこないけどいつ到着すんのかなってことだよ!」

 俺を左右からはさんでいがみあうオッサンどもを俺とロクとで押さえていると、前の方を歩いていたラスターとシアンさんが同時に振り返った。

「なんだ、また愚かな中年どもが醜い争いをしているのか」
「もう……そんなに喧嘩するなら、またツカサ君から離しますよ」

 そのシアンさんの言葉に、オッサン達の罵詈雑言ばりぞうごんがピタリとやむ。
 ……怒られた事への効力は今日も続いているらしいな。

「それで、どうしたんだツカサ」
「あ、ええと……まだ遺跡が見えてこないなぁって」
「それはそうだろうな。……ああ、そうだ。まだツカサは知らなかったんだったな。俺達が向かう【サウリア・メネス遺跡】は、地上には存在して居ないんだ」
「えっ!? ち、地中にあるとか?」

 思わず驚いてしまったが、俺の回答は正解だったのかラスターはうなづいた。

「その通りだ。さすがはこの天上天下無類の美貌を持つ俺が選んだ未来の妻だな」
「さりげなく自分めるのやめろ、あと妻言うな」
くだんの遺跡は、偶然の地盤沈下によって発見された遺跡でな。今現在は埋め直されていて、その全貌を知っているのは限られた者のみとなっているのだ」
「無視すんなオイ」

 こんちくしょう、そこは絶対曲げないつもりだな。
 もういい加減コイツにも「俺は未来の妻じゃねえ」って言わないと……。

「それにな、遺跡は地下に存在しなければ扉が開かないようになっているんだ」
「えっ? そうなの!?」

 思っても見ない言葉に思わずラスターを見やると、相手はフフンと勝ち誇ったような顔をしながら腰に手を当てた。

先程さきほどの説明を正確に言うと、周囲を元の状態に戻してある……というのが正しいかもしれんな。まあ、行ってみればわかる。あと三刻ほども歩けば到着するぞ」
「みと……っ、さっ、三時間ん!?」

 思わず声を上げてしまった俺に、シアンさんがフフフと笑う。
 ああっ今日もお美し……じゃなくて三時間て!

 まさかそんなに時間が掛かるとは思っていなくて目を剥いてしまったが、俺以外の全員が「そんなもんか」とばかりにケロリとしている。
 ブラック達はまだしも、たおやかで貴婦人のようなシアンさんまで平気そうな顔をしていて、俺は、俺は……。

「キュー」
「う、うん、大丈夫。大丈夫だぞロク。ま、まあ三時間歩くなんて平気だし!」
「ほんとかなぁ。ツカサ君ぷにぷにだからなぁ」
「ムゥ」
「オッサンどもうるしゃいっ!」

 チクショー馬鹿にしやがってっ。
 お、俺だってなあ、体育の授業では頑張ってるんだからな。短距離走ならクラスの中でも良い感じの順位でいけるんだからな!

 オッサンどもの態度についつい憤慨ふんがいしてしまった俺だったが、これがさいわいしたのか俺の足は止まる事なく、なんとか歩き続ける事が出来た。
 ……まあ、気が滅入らないように気を使ってくれたのか、ブラック達が話しかけてくれたからってのもあるんだろうけど……お、お恥ずかしい。

 つーかやっぱり俺、子供扱いされてるよな……?
 シアンさんになら赤ちゃん扱いされたって嬉しいけど、普段俺の事を色々と言って来る男三人組はどういう了見なのだろうか。
 この世界では俺も成人扱いなのに……解せぬ……。

 いやそれとも、俺がこっちに来た時にあまり良さげな状態には見えなかったから、こいつらなりに気を使ってくれてるんだろうか。
 そう言うのを「子供扱い」だと思うのも、俺が子供な証拠だよなぁ……。
 ……うーむ……色々と考えてしまうが、まあ今はそんな場合じゃないよな。

 とにかく今は、ラスターの言う「ある時刻」までに遺跡に到着するのが大事だ。
 ごちゃごちゃ言う前に早めに到着しなけりゃな。

 ――――そんなこんなで、俺達はしばらく草原をテコテコと歩き続けた。

 特にモンスターが出ることも無く、拍子抜けするほど草原は平和そのものだったのだが……ちょうど、ラスターの言う三刻ほどになった頃だろうか。少し遠い前方に、ぽつんと小さな岩のような物が見えて来たのに、不意にロクが「キュウ」と鳴いた。

 今まで肩の上でスヤスヤと寝ていたのに、急にどうしたんだろうか。
 不思議に思ってロクを見やるが、相手は背筋を伸ばして眠気を飛ばすと、小さくて可愛い蝙蝠羽こうもりばねをパタパタと動かして俺の前に出て来た。

「キュッ、キュキュ」

 何かを訴えるように鳴くロクショウに、ラスターは「ほう」と感嘆の息を吐く。

「やはり小さくても準飛竜ザッハークだな。大地の気や曜気の残り香を感じ取ったらしい」
「え……それ、どういうこと?」
「目的地が近いということだ。……ふむ、予定よりも少し早めに到着したようだな。どうせだから、あの森の木陰こかげで食事を済ませてしまおうか」

 そう言うと、ラスターは前方の小さな岩から視線を外し、左方向に在った小さな森へと向かい始めた。それに、シアンさんも何の疑問も無くついて行く。
 しかし俺には何が何だかよく分からなくて、頭に沢山疑問符を浮かべてしまった。

「あー、こりゃツカサ君分かってないなぁ」
「ムゥ……ドンカンだぞ」
「な、なんだよ言いたい放題言いやがって。何がドンカンだって?」

 両側からツンツンつつかれて左右のオッサンをにらむ俺に、ブラックはニンマリと笑いクロウはぴるぴると熊耳を動かした。
 なんだその楽しそうな感じの反応は。

 いぶかしむ俺の肩を抱いて森へと誘導しつつ、ブラックは先程の事を解説して来た。

「僕らの目的地は、たぶんあの小さな岩だよ」
「えっ……あそこが? じゃあ……あの岩って遺跡の目印なのか?」

 ブラックを見上げると、横からクロウが言葉を加える。

「あの場所に近付いた途端、妙に体が高揚する感じが有った。入口いりぐちかどうかは分からないが、遺跡と関係のある場所というのは間違いないだろう」
「そんなのも分かるのか……ブラックも? ロクも感じたのか?」
「キュゥッ!」

 問いかけると、すぐに「はい!」と言わんばかりにちっちゃくて可愛い手をぴょんと上げるロク。ああ可愛い、もうこの仕草だけで心が浄化される…。

「ロクショウ君は、モンスターだからね。曜気が濃く含まれた物ほど反応するのさ。僕らの場合は、グリモアだからって所もあるかもしれないが……まあ、熟練の曜術師であれば、気付いたかもしれないなあ」
「ぐうう……」

 浄化された心が一気に荒んだじゃねえかチクショウ。
 本当にこのオッサンは一言多いな。俺をはげましたいのかけなしたいのかどっちなんだまったくもう。いや、まあいいですけどね。事実ですから良いんですけどね!
 くそう、俺だってもうすぐ一人前の薬師になってやるんだからな。

 ともかく、あの場所には遺跡に関する何かがあるのは間違いなかろう。
 俺達は無事、時間前に目的地に到着する事が出来たんだな!

「とりあえずまあ、何も問題なく到着したなら後は調査だけだね」

 ブラックがそう言うと、横からぐぅとお腹が鳴る音が聞こえた。
 この力強い音は、クロウの腹の音だ。

「ムゥ……朝から歩き通しだから、腹が減ったぞ……」

 言いながら、無表情でありつつも自分のお腹を見てさするクロウ。
 その姿がちょっと微笑ましくて笑ってしまい、俺は気持ちを切り替えて頷いた。

「じゃあ、昼は豪勢にしないとな! ……よし、じゃあ、あの森の中に料理の材料がないか、ちょっと探してみるか」
「キューッ!」

 嬉しそうに宙返りするロクの後ろで、ブラックとクロウも嬉しそうに肩を揺らす。

「あはっ、久しぶりのツカサ君の手料理だ! やったー!」
「やったー」

 クロウの「やったー」は力がこもってないが、それもまたいつも通りだ。
 そう、こういう感じでメシを作るのがいつもの旅の定番だったんだよなぁ。

 ……でもこう言うのって、久しぶりかも。
 なんだか、三人だけで旅をしていた時の事を思い出して、俺はちょっとだけなごんでしまった。だって、本当に久しぶりだったから。

 最近はあっちこっち即座に行かされてたから、こんなひまも無かったんだよな。
 というかこうして野外でメシ作るのも久しぶりじゃないか?
 うーむ、長らく冒険の醍醐味を忘れていたな……。
 よし。折角せっかくブラックとクロウも期待してくれてるんだし、だったら今日は俺の腕を存分に振るってやろうではないか。

 力や能力はブラック達にかなわなくとも、俺には料理を作る力くらいはあるんだ。
 上手い料理を作って、四人とロクショウを喜ばせてやろう。

 よーし、そうとなったら材料探し頑張るぞ!











※次は久しぶりのお料理回です\\└('ω')┘//ヤター!

 
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