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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編
光輝なる遺跡、縹渺たる遺跡2
「なっ……なんだこれ……っ」
眩しくて、手を顔から離す事が出来ない。
どうにかして影のある方向へ顔を逃そうとするけど、何故かどこを向いても物凄く明るくて逃げ場がない。そのせいで、俺は必死こいてクルクルと回ってしまった。
我ながら間抜けな事をしていると思うけど、しかしこれは仕方があるまい。
だってこのままだと光で目が焼けちまうんだから、どうにかせねばいかんだろう。明るさで「失明」しただなんて笑い話にもならない。
しかし、明順応と言う現象が起こったのか、はたまた光が急激に柔らかくなったのか、いつの間にか両手の向こう側はそれほど眩しくなくなっていた。
そっと手を外すと――――。
「うわっ……。な、なんだこれ……」
「光る通路、だな。どうやら俺達がやって来た事で何らかの装置が起動したらしい。だが、ずっと立ち止まっていたら目を焼かれそうだ。先に進もうツカサ」
「う、うん……」
「キュゥ~」
そう。ラスターの言う通り、ここは光る通路だ。
俺達を取り囲む通路の壁から天井まですべてが白く光っていて、暗い部分などどこにもない。影を探そうとするけど、床にも天井にもその光は見つける事が出来ない。
俺やラスターの体のそこかしこに小さく残っているだけで、それだけ通路は明るい光に満たされていた。
なんつうか……照明ロードって感じだけど、なんでこんな事になってるんだ。
通路は一直線に続いてるけど、全部明るいせいなのか遠くが良く見えないし……うーん、何を思ってこんな道にしたのか不可解にもほどがある。
不思議に思いつつも、俺はラスターの後ろについて通路を進んでいく。
だけど、こう明るくっちゃあどこまで進んだのかすら曖昧で、俺はすっかり不安になってしまった。
「これ……ずっと道が続いているよう見える幻覚とかじゃないよな……?」
「安心しろ、ちゃんと進んでいる」
「え、ホント? それなら良いんだけど……」
「……しかし、こうまでして道を光らせる意味が分からんな。俺の眩いほどの美しさに対抗しようと意地を張った結果だと言うのなら、褒めてやらんでもないが……」
「何言ってんのアンタ」
顎に手を当てて真剣に考えるんじゃないよそんな事。
だがしかし、悔しいことながらラスターのそのイケメン具合は確かに本物だ。
この明るい通路のせいで金色の髪がよりいっそうキラキラ輝いていて、なんかもう見ているだけでクラクラしてくる。
今更だけど、ほんとコイツ見た目だけは「白馬の王子様」なんだよな……。
さっきの台詞みたいな自惚れ傲慢発言さえなければ、性格もブラック達よか真面目だし正義感も有るしで真っ当なイケメンになれそうなのに、どうして神様は人に二物を与えまくったうえで要らないスパイスをちょっと足しちゃうんだろうか。
いくら女子はギャップに弱いと言っても、このレベルの胸焼けするような大欠点は頂けないだろう。
そこは少し同情するが……いやでもイケメンは敵だ。俺の中では敵なのだ。
つーか美形でモテている時点でラスターは俺よりランクが上じゃないか。
ゆ、許せん。顔面偏差値が高い奴に同情するなんてやめだやめ。
「ツカサ、少し上へ向かって傾斜があるようだ。転ばないように気を付けろ」
「あ、う……うん……あんがと……」
…………でも、まあ……コイツ、悪い奴じゃないんだよなぁ。
そりゃ、最初はめちゃくちゃ嫌な奴で傲慢だしどつきまわしたいと思ってたけど、でもそれは周囲からのプレッシャーや毒殺なんかの危険から、自分を強く保とうと思った末に辿り着いてしまった性格みたいだし……それに、辟易するとこは有るけどラスターは俺の事を助けてくれるし……なにより、俺の【黒曜の使者】の力を見ても、警告するような事は言わずに大事な事を教えてくれた。
――力という物は、使う人間の心ひとつで善にも悪にもなる。
だから、俺が災厄の象徴であっても、いつか【勇者】として俺達と戦わなきゃ行けなくなるとしても、俺の心を信じて味方になるって……そう言ってくれたんだ。
その言葉がどんなに嬉しかったかなんて、今でも言い表せない。
あの後、何度か再会したけど……その時だって、やり方は色々とアレだったけど俺を心配したり守ったりしてくれたんだ。
ムカつくヤツだけど……やっぱり憎み切れない。
ラスターは俺にとって恩人みたいなヤツだもんな。だから、妻とか何とか言われても「マジでイヤだから」って嫌悪感マックスで拒否できないのかも知れない。
「…………待て、ツカサ」
「わぷっ、な、なんだよ」
考え事をしながら歩いていたせいか、思いっきり背中に顔をぶつけてしまう。
くそっ、男のくせに良い匂いしやがって……いやそうじゃなく。どうしたんだろうかと相手の顔を見上げると、ラスターは横顔をこちらに見せて、人差し指を立てた。
「道の先から何か音がする……先を確かめながら慎重に進もう」
そう言いながら、ラスターは服のポケットから数個ほどクルミのような小さい種を取り出した。
「それなに?」
「ああ、そう言えばお前も木属性が使えたな。どうせだから覚えてみるか?」
そう言いながら、ラスターはビー玉くらいの大きさのクルミを掌に乗せて、俺に「気を意識して良く見ていろ」と呟く。その言葉に、俺は集中しようとラスターの掌を凝視する。と――――ラスターの手先から手首に掛けて、緑色をした綺麗な光が炎のように立ち昇った。
「我が麗しき名に応え写し身となれ――――【グロウ・アバタール】……!」
ラスターが詠唱したと同時、光が小さな種に吸い込まれていく。
その光景をしっかりと見せつけた後、ラスターはもう一度「よく見ていろ」と言うように拳を握って軽く振って見せると、そのまま種を前方へと投げた。
「あっ……! …………おっ?!」
急な行動でびっくりしてしまったが、しかし俺はその種になにやら緑色のピアノ線のような物が引っ付いているのが見えた。
それが、前方までコロコロと転がって行く種とラスターの手を繋いでいる。
種も不自然なくらい止まりもせず前方へ転がって行ってるけど……これってどんな術なんだろう。繋がってるってことは、種を捨てたワケじゃないんだよな。
それに、先を確かめるってことは……ラスターは、あの種を操ってるのか?
「アレで、罠が無いか確かめてるのか?」
「キュキュ?」
ロクと一緒に首を傾げると、ラスターは薄く笑った。
「半分正解だな。だが、あの極限まで細くした曜気の糸を見分ける事が出来るだけで上々だ。さすがは俺の……」
「も、もう半分はなんだよっ」
「むぅ……まあいい。もっと種を良く見て見ろ」
「んん……?」
そう言われて種を再び凝視すると――――種を覆う緑の光の玉が見えた。
緑の光ってことは、木の曜気ってことだよな。
だけど俺にはその意味が分からず困っていると、ラスターが答えを教えてくれた。
「グロウ・アバタールは索敵系の曜術だ。体外から曜気を取り込むのではなく、植物の持つ曜気と体内に保有している曜気を混ぜ合わせて練り上げて、それを再び植物に纏わせる事で触覚を拡張する事が出来る」
「えーと……つまり、遠くの事を感じる事が出来るってこと?」
「そう言う事だ。植物の持つ性質によっては、触覚ではなく視覚や嗅覚なども写し身に出来るらしいが……まあ、普段使うのであれば触覚がせいぜいだな」
そんな術が木属性に存在するなんて知らなかった。
いや、多分これは騎士とか警備兵(この世界の警察みたいなモン)だけが使うような特別な曜術なんだろう。この世界には、基本的な術の他に【口伝曜術】っていう、個人個人で生み出したオリジナル曜術みたいなモンがあるんだもんな。
そういう物があるのなら、騎士団や貴族だけに伝わっている特別な曜術が有ってもおかしくはない。索敵系と言っていたから、こう言う術がいくつかあるんだろう。
でも……ラスターがこういう斥候っぽい術を使うなんて思わなかったな。
「これって騎士団だけが知ってる術なのか?」
「いや、俺の一族だけが知る曜術の一つだ。……と言っても、別段隠しているワケでは無いのだがな。こういう曜術は高度な操作と資質が要求される。それゆえ、滅多に使える奴が居ないと言うだけだ。それに、騎士団には木や土の属性は少ないしな」
「そっか……あ、でも、それなら余計に俺が覚えても良いモンなのか?」
ラスターの一族だけが使う曜術だと言うのなら、秘密にしておいた方がお得なんじゃなかろうか。そう思ったが、相手はフッと微笑んで目を細めた。
「お前は特別だ。妻だ伴侶だと言う前に、お前は俺の大事な存在だからな」
「なっ……ばっ……ぅ……うぅ…………そ……そうか……」
何をバカな事を言っている、と、言いそうになったが、堪えた。
だって、大事な存在ってのは別にヘンな意味じゃないし、俺が意識し過ぎて変な方に取っちゃってたかもしれないし……。
もしそうだとしたら、罵倒するのはちょっとダメな気がしたんだ。
だから押し留めたんだが、何故だかラスターは妙に機嫌が良さそうになって、背後からキラキラを撒き散らして俺を凝視してきやがる。
やめろ、そんな顔で俺を見んなっ、イケメン顔をこっちむけるんじゃねえっ!
「ツカサ、お前と言う奴は…………」
「わーっもーっ良いからっ、良いから早く先に進もうって!」
「まったく、情緒が無い奴だな……まあいい、今のところ罠は無いようだ。それに……先に行くと、どうやら広い部屋があるようだな。そこまで進んでみるか」
「ぐぬぬ……」
ちっとも悪いと思ってないな。
これだからコイツの自信満々っぷりは困るんだ……と思いつつも、一緒に進む。
まあ、ぐずぐずしてても仕方ないしな。
「キュキュッ」
「うん……何か、確かにちょっと雰囲気が変わって来たかな……」
ロクが変化に気付いて声を上げるのに、俺も頷く。
種が先行して転がって行ってくれている通路は、進むにつれて徐々にその光が薄くなっていて、今は壁の紋様が見えるくらいのちょうど良い光量になっている。
壁はエスニックな感じの緻密な迷路図みたいになっているもので、見ているだけで頭がクラクラしそうなほどの細かさだ。
これが通路の壁を光らせている回路か何かなんだろうか。
でも、弱まって来ているわけだし違うのかな。
うーむ、なんだかよく分からない遺跡だ……。
「…………どうやら、部屋の中にも罠らしきものは無いみたいだな」
不意にラスターがそう言ったと思ったら、手を引いて種を自分の手の中に戻した。
おお、そんな事まで出来るのか。見ただけじゃ覚えられないけど……俺もそういう感じの術が使えたら、もっとブラック達の役に立てるかな……。
いやでも、アイツは異常な程の広範囲の索敵が使えるからいらないか。
…………あのオッサンめ、無駄にハイスペックで嫌になるな。チート主人公の隣で何もする事が無くてボーッとしているサブキャラってこんな気持ちなんだろうか。
何とも言えない虚無感を覚えつつも、少し先に見えてきた部屋への入り口を見やると――その上には、またもや変なレリーフがあるのが見えた。
あの顔と手足だけのドラゴンだ。でも今度は足が一つしかないな。
もしかして「第一の部屋」という事なんだろうか。
不思議に思いつつも、ラスターと一緒に境を潜ると。
「おお、石造りの部屋……と……なんだあれ」
ピラミッドの内部のように、石壁に少し褪せた色で壁画が描かれている小部屋。
俺達が入って来た場所からちょうど正面には、妙な物が置かれていた。
「なにやら……大きな杯のようだな」
そこに有ったのは、石で掘り上げた大きなワイングラスのような物。
次へと続く扉も無く、ただそれだけがポツンと置かれていた。
→
※次はブラック視点です
だいぶん遅れてしまって申し訳ないです…_| ̄|○
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