異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編

27.大人を甘く見てはいけない1

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   ◆



 なんだかおかしい。

 ……いや、うん、おかしいと言えば遺跡に入った時からおかしい事は多々起きてるけど、そうではなく……今、俺と一緒に居るヤツが何だか妙なのだ。
 庭園を抜け、水の試練を越えて先に進むにつれ、目の前の背中の持ち主……つまりラスターの態度が、なんだかヘンになって来ているような気がするんだよな。

 うまく言えないんだけど、その……なんというか……。

「またわけの分からない罠か……」

 いつもより少し低い声で呟きながら、ラスターは先に部屋に入る。
 慌てて付いて行くと、真っ暗な部屋の中央にラスターは立っていた。何かを見上げ黙っているので、俺もつられて高い天井を見やると――――部屋の上部には、何やらボコボコとせり出している。

 どういう事かと思っていたら、ラスターは両手を広げててのひらを上に向けた。
 途端、その手から炎があふれ出し橋のようにラスターの頭上で繋がる。何が起こっているのかと思ったら、その半円形になった炎は放射状に炎の玉を放出し、部屋の上でせり出しているでっぱりにぶつかっていった。

「えっ、えぇ!?」

 ラスターの手から炎!?
 木の曜術以外のラスターの術なんて、初めて見たぞ。ってことは……あれが、第二の属性ってヤツなのか。ラスターは木と炎の曜術師だったのか。
 いや、しかし、こんな術なんて見た事が無い。一体どういう事なんだ。

 何が起こっているのかと目を白黒させて見つめていると、炎を当てられたでっぱりが次々に動き出し、壁が回転しつつ下へと引っ張られるように流れていく。地面まで降りて来たでっぱりは、いつのまにかくっついて……階段に変化していた。
 手も届かないはずだった場所へと登る、高く剛健な黒い階段に。

「……この遺跡って、どんだけの広さなんだろ……」

 俺の体感に間違いがなければ、恐らくまだ真夜中にもなっていない時間のはずだ。つまり、たったの数時間しか経過して居ない。
 長く見積もっても、日が昇る時間までは行っていないだろう。

 なのに、えらく遠くまで来ているような気がする。
 あのエレベーターっぽい最初の部屋がどこまで下りたのかは分からないけど、アレから登りばっかりだと言う事は、相当な地下まで降ろされたって事だよな。
 それはそれで、古代人はどんな技術力を持ってんだよと言いたいところだが、前もこんな遺跡ばっかりだったのでそういう部分は割愛する。……ともかく、この遺跡は一体どういう意図で作られたんだろうか。

 神殿というのは間違いなさそうだけど、それにしたって次から次へと凶悪な仕掛けが多くないッスか。どう考えても殺しに来てたよねアレ。
 もしかしてここは修行僧専用の神殿か何かだったんだろうか。
 それとも、侵入者だけにはああいった厳しい罠に変化するのかな。

 なんにせよ、とんでもない遺跡には違いない。ここまで大きなギミック満載だと、冒険映画で良く見る古代遺跡みたいだけど……実際に入るとキツいのが悲しい。
 リアルはワクワクよりしんどいが先に来るんだよな……トホホ。

「ツカサ、何を考えているんだ。早くいくぞ」
「え、あ……う、うん」

 ラスターにかされ、あわてて付いて行く。
 階段自体は少し段差が高いって程度だったのでなんとか付いて行けたけど、でも、近付いたら近付いたでやはりラスターの態度の違和感に意識が行ってしまう。

 やっぱりなーんか変なんだよなぁ、ラスター……。
 あの一件があった後から、なんか急に寡黙かもくになっちゃってズンズン進んでいくし、俺に対してもいつものナルシストっぷりを見せようとしないし。

 ここまで来ると、なんだか別人のように思えてしまって不気味だ。
 いや、でも、さっきの事でショックを受けてるのかな。
 ……そうだよな。いくら自分に自信があるからと言っても、ラスターだって普通に傷付くし悲しい気持ちにもなるんだ。感情だけは俺達とまったく違わないのに、すぐに立ち直れるはずもない。俺だってそうなんだから。

 でも、俺にはブラックがいるし、やっぱりラスターの気持ちは受け取れない。
 どんなにラスターを悲しませる事になっても、それだけは譲れないんだ。それに……もう俺にとってラスターは「仲間」なのに、今更その認識は変えられないよ。

 嫌いじゃないからこそ、アンタには分かって欲しいんだ。理解して、どうにかしてお互いに決裂しないで済むような解決方法を見つけたい。だって、仲間だから。……だから、どうあっても、今までのように付き合えるのならそうしたいんだ。

 それが虫のいい話だって事は分かってる。けど、それは俺の本心だ。ずるい気持ちかも知れないけど、俺は本気でそう思ってる。
 アンタがくれた言葉が、今までの俺を支えてくれたから。俺にとって、ラスターも大事な恩人の一人だから……このまま別れるのは、どうしても嫌だった。

 だから、ラスターを意識する以外で俺に何か出来ればいいんだけど……でも、こういう時ってフッた張本人が触っても悪化するだけだって言うしな……。

 それに、ラスターも出来るだけ普段通り俺に接してくれているんだし、それを思うと「大丈夫か?」なんていちゃいけないような気もするし。
 ……俺だって男だ。その気持ちは解る。意地を張っているのに、その意地を見透みすかされて「大丈夫か?」なんて訊かれるのが、一番恥ずかしい事なんだよな。

 自分が意地を張っているのなんて、本人が一番分かっている。
 だけど、それでも、格好悪い所を見せたくないからやせ我慢するしかないんだ。

 そう思っているのに、心配されたら……意地を張り切れていない自分が嫌になってさら意固地いこじになってしまう。ダチになんて、一番気取られたくない。こんな時のやせ我慢ってそういうもんなんだ。
 相手に心配させたくないからこそ我慢するのに、気付かれたら本末転倒だよ。
 そんなの男として恥ずかしくて死にたくなる。
 きっと、ラスターも今そんな気持ちなんだ。心配するのは野暮ってもんだろう。

 …………。
 とは言え罪悪感はぬぐえない。俺がいた種でもあるし……。
 でもやっぱり、吹っ切れてくれるまで待つしかないよな……。

 今は、信じるしかない。
 ラスターは大人だし俺達よりずっと理性的し、きっと解かってくれるよな。

 ――――そんな事を思いながら、階段を上っていると。

「…………?」

 なんだかよく分からないが、熱気がもわもわと下から来ているような気がする。
 どうしたんだろうかとふと階段の下を見てみると――――

「う、うわ!? マグマ!?」

 そう。どこから湧き出て来たのか分からないが、階段の下には赤々とした恐ろしいマグマがまっていたのだ。しかもそれだけじゃ無く、今まで俺達が登って来ていた所を飲み込み、どんどん追いかけて来る。
 こ、今度は水じゃなくて炎かよ!!

「ツカサ、早く登れ!」
「う、うわぁあっ、わ、解ってるって!!」

 なんでこう毎回毎回ヤバい何かに襲われなきゃ行けないんだ!
 しかし今度ばかりは五体満足では済まない仕掛けにおののいて、俺は必死に階段を駆け登った。もう最後らへんは四つん這いのような格好になっていた気がするが、もはや格好などどうでも良い。今は助かる事だけが最優先だった。

 そんな鈍足な俺を、ラスターは鼓舞して息一つ乱さずに扇動する。
 だが俺と差が開く事を見てか、少し苦々しげに顔を歪めたが――――何を思ったのか、俺が居る段まで下りて来て。

「文句は言うんじゃないぞ」

 そう言って、俺を軽々と抱き上げやがった。

「うわぁあっ」
「落ちるから暴れるな!」
「は、はひっ」

 ラスターの首に腕を回すと、相手は先程さきほどとは比べ物にならないほどの速さで、高い段差を物ともせずに登って行く。
 足が長いからなのか、それとも元々の体力が違うのか。ともかく、俺を先導してた時とは段違いの速さで天井近くにある順路まで登り切り、マグマを簡単に振り切ってしまった。む、むむ……本当この世界の奴らって体力凄いな……。

 っていうか俺が弱すぎるのか。またもや助けられてしまった事が恥ずかしい。
 お礼を言わねばならないくらいに助けられているのが情けないが、しかしこういう時は感謝しなければならないだろう。
 俺は自尊心を押さえつけて、自分をお姫様抱っこしているラスターに礼を言った。

「ラスター、ごめん。ありがと……」

 明るい黄土色の石を積まれて作られた質素な通路の中に、声がほんの少し響く。
 だが、ラスターはその言葉に応える気配が無い。
 どうしたんだろうと思って相手を見上げると。

「そう思うなら、多少は俺に対して礼を尽くすべきだと思うがな」
「え……」

 礼を尽くすって……もっと、態度で示せって事か?
 しかし、何をやったらいいんだろう。土下座か。いや土下座は無いよな。思わず頭に疑問符を浮かべる俺に、ラスターはこちらを見つめながら目を細めた。

「この俺のほおに口付けするくらいの礼は、やって当然だ」
「えっ!? い、いや、でも……俺……」
「礼など出来ないとでも言いたいのか」
「そ、そうじゃないけど! でも、口付けは……」
ほおくらい挨拶あいさつの内だろう」

 そうなの?
 ライクネスでも、そう言うのは挨拶の範疇はんちゅうなのか?
 いやでもコレを知ったらブラックが怒るかも知れないし……いや、ブラックなら、こう言う事も挨拶だって知ってるから怒らないのかな。
 俺がそういう事やったら、不機嫌にはなりそうだけど……。

 でも、やっていいんだろうか。
 しかしここで「ほっぺにちゅー」しないと、ラスターが俺を見捨てて先に行ってしまうかもしれない。どう考えてもこの遺跡で一人で動くのは命取りすぎる。それに、ロクもさっき頑張ったせいか、今はバッグの中でスヤスヤ寝てるし……。

 ここで仲違なかたがいしたら、進むも戻るも出来ないかも。俺一人で動ける自信が無い。
 つーか、ここって双子遺跡なんだし、どうあっても俺一人だけじゃ戻れないよな。いくらブラック達の位置がわかるからと言っても、それで俺があっちのグループと一緒に仕掛けを動けす事は至難の業だろうし……なにより、俺がラスターを怒らせる事でブラック達にも迷惑を掛けてしまう事になる。

 怒られるのは良いけど、迷惑をかけるのは嫌だ。なんか矛盾してるが。

 だったら、望みに応えるべきなんだけど……本当に、良いのかな……。
 本当にブラックを裏切った事にならないだろうか……?

「触れられないほど、俺の事が嫌いか」
「だからそうじゃないって……!」
「では出来るはずだ。俺に触れられるのなら、な」

 何だかラスターの言葉が刺々とげとげしい。
 やっぱり俺に思うところがあるんだ。でも、それでも……キスだけにとどめてくれると言うのなら……したほうが……いいのかな…………。
 口にするわけじゃなし……うーん……。

「どうした。出来ないのか?」
「でっ……でき、できる……けど……」

 そう言うと、ラスターはほんの少しだけ嬉しそうに口端を上げた。

「なら、臆する事もあるまい。……俺にオスの魅力を感じないのなら、このくらいの事は平気で出来るだろう?」
「う……」

 確かに、そうだけど。
 はははバカめー罰ゲームだーギャーってノリで出来るかも知れないけど。

 でも、こう言うのって、そう言うんじゃなくて……ぐ……ああーもうっ!
 ご、ごちゃごちゃ言ってる内に余計に長引いちまうじゃねえか。こういうのは、すっ、すぐやっちまえば済むんだ。忘れちまうモンなんだ!

 俺が意識するからヘンな感じになるだけで、すぐに気にせずにほおにキスをすれば、ラスターだって今度こそ納得してくれるはずだ。きっとそうに違いない。
 よし、やる。やってやるぞ。俺だって男なんだからな。

 お姫様抱っこをされたまま気合を入れた俺に、ラスターは指で自分のほおをトントンと叩いて見せる。その仕草に少々イラッとしたが、俺は我慢して顔を近付けた。
 ……これでいい。こうやって、俺がブラックしか意識できないって実感出来れば、ラスターだって納得してくれるはずなんだから。

 そう自分で自分を信じ込ませ、そうして、俺は…………ラスターの片頬に、他意の無い「お礼」としてのキスのつもりで、ぎこちない動きで唇を軽く引っ付けた。
 ぐ……ぐぅう……やってしまった……。
 別の意味でたまれなくて心臓がドキドキするが、これはブラックにキスする時のドキドキではない。あんな風に胸がきゅうっとなって熱くなる感覚ではないのだ。

 だから……ラスターには、やっぱり何も感じる事は出来ない。
 そうは思っても、自分のあからさまな動揺は抑えきれず、俺は「本当にそんな風に感じているのか?」と嫌な想像をしてしまい、何だか気が重くなってしまった。












 
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