異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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大叫釜ギオンバッハ、遥か奈落の烈水編

24.こういう時は寝るのがいちばん

 
 
   ◆



 エネさんと一緒に今後の事を話し合った後、俺達は再び自室に戻った。
 それは旅立ちの用意をするためでもあったけど、一番の理由は疲れたからだ。

 仲間の家庭事情とかいう踏み込んでいいのか悩ましい領域に冷や汗を垂らし、今回の事件をまとめても判明しなかったデジレ・モルドールの組織や俺の記憶などに頭を抱え、そのうえエネさんの殺意をビンビンに感じてしまっていたのだ。
 これで疲れるなと言う方が無理がある。

 一度にワッと言葉の洪水を浴びせかけられたようなモンで、俺だけでなくブラックとクロウも、椅子の背凭せもたれに思いっきり体をあずけて座ったり床の敷布しきぬのに横たわったりして、それぞれに魂が抜けたように脱力し黙りこくっていた。
 ……まあ俺もベッドに沈んでるので、同じような物なんだがそれはともかく。

 三人そろってだらしなくなってしまったが、でもこれは仕方が無い事なのだ。
 今後のことを考えるとなんともイヤ~な雰囲気が漂っているように思えて、俺のみならずブラックとクロウもゲンナリしてしまっているんだろう。
 わkる、わかるぞお前らの気持ちは。俺も同じ気持ちだ。

 まあ今回の旅は最初から「ちょっかいを掛けて来た【アルスノートリア】が本格的に動く前に、獣人の国・ベーマスの玉座の下にあるつちのグリモア――【銹地しょうちの書】を持って来る」という目的があったし、そのついでに「贋金にせがね出所でどころを調べる」という、シリアスにシリアスを重ね掛けしたような頼みも受けてしまったので、気軽な楽しい旅ってワケではなかったんだが……それでも今回はだいぶんキツい。

 だって実質この一件は解決してないし、首謀者達は逃げおおせちゃたし、その首謀者の中にシアンさんの息子であるセレストってヤツがいそうな感じだし……。
 ともかく、人間関係の事が何も片付いていない。

 特に、セレストってヤツの事を聞くと――――今度出会った時、どうなるのだろうという漠然ばくぜんとした不安が湧いて来てしまい、俺達はもう考え疲れてしまったのだ。
 予測できない未来の事を考えるのは、本当に疲れてしまう。

 だけど、俺達は旅に出なきゃ行けないのだ。
 なにも解決してないのに、もう次に行かなきゃ行けなかった。

 ……考えてみれば、こんなにモヤモヤした感じで旅立つのは初めてかも。
 それもあって俺もブラックもクロウもこうなっちゃってるんだろうか。

 はぁ……ホントに、今後が憂鬱ゆううつだよ……。

 溜息ためいききたいが、普通の吐息といきしか出てこない。
 エネさん的にはなるべく早く出立して欲しいとのことだったが、せめて今日ぐらいは一晩ぐっすり寝て英気を養っておきたい。シアンさんのことだって心配だし。

 とはいえ、もうなんか色々考え過ぎて逆に頭がぼーっとしちゃってるんだがな。

「うぅ……これからどうなるんだろう……」

 ベッドに突っ伏して思わず呟いてしまう。
 と、俺の背後――――少し離れたところにあるテーブルの方から、ブラックの気の抜けた声が聞こえてきた。

「まあ……色々不安要素はあるけどさ、僕達がやらなきゃいけない事はそれとは別の事だし、なんにせよ出発はしないとね……」
「そうだな。ベーマスに向かう事がオレ達の使命なのだから、とにかく今回の事件は横に置いて気持ちを切り替えないといかん」

 ブラックとクロウの言う通りだ。
 どれだけ頭を悩ませたって、結局俺達の使命は変わらない。

 すべてはもう終わったこと。脱出できたのだから、もう振り返らず元々の使命だけを考えて行動すべきなのだ。…………ってーのは解るんだけど、人間そう簡単に切り替えが出来るんなら苦労はしないし休息も要らないワケで。
 ともかく今はもう、ぐっすり寝るべきだ。こんな状態じゃ悩むだけだしな。

 そんな事を思い、俺は寝返りを打とうと突っ伏した体を動かす。――と。

「んぁああ~っ、ツカサくぅうん癒してぇええっ」
「ぐわあっ」

 また変な声を出してしまったが、図体ずうたいのデカいオッサンがベッドに飛び込んできて押し潰されたんだから仕方が無いだろう。そう、オッサンの体重がぎゅむーっと俺にだな……って重いんだってばっ、こら、離れろっ、離れんかいお前、抱き着くな!

「でぇえい鬱陶うっとうしい! もう一個ベッドあるんだからそっちで寝ろよ!」
「え~? それじゃツカサ君で癒されないじゃないかぁ。ツカサくぅん、ねっ、ねっ、ぎゅ~っとしてぇ。頭撫でて~あわよくばキスしてぇ~~~」
「要求が尻上がりに図々ずうずうしくなってる!」

 ベッドの上で抱き着いて来るだけに飽き足らず、俺を両腕で拘束しながらねだってくるなんて、もうそれなかばお願いっていうより脅迫きょうはくなんじゃないのか。
 オッサンの硬くて分厚ぶあつい胸板に背中を押されている身にもなれっ。何が悲しゅうて疲れてる時にオッサンをあやさにゃいかんのだ。

 冗談じゃない、俺は今から寝るんだ。明日への英気を養うんだからな。
 ふざけるんじゃない、とのがれようとするが……まあ、当然げられるはずもなく。

「ツカサ君、だめぇ……? 僕、す~っごく頑張ったんだよ。穏便おんびんにツカサ君を救出するために、我慢していっぱい頑張ったんだよ……?」
「ぐ……」

 甘えたようなわざとらしい声でささやかれ、言葉がまる。
 ……確かに、ブラックなら単独で俺を見つけ出して、力技ちからわざで一気にあの場所を壊滅させる事も出来ただろう。というか、普段のコイツならたぶんやったはずだ。
 でも、今回は珍しくエネさんや警備兵達と協力していた。被害も最小限で、俺以外の人達も助けようとする姿勢は見て取れたのだ。

 クロウはともかく、基本的に協調性のないブラックが大人数でコトを進めるってのは、凄く珍しいことなのである。
 そう考えると、確かに我慢して頑張ったとは言えるのだが……。

「…………アンタ昨日さんざん好き勝手やったじゃんか……」
「それはそれ、これはこれっ。ね……ツカサく~ん……」

 ゆっくりと体を反転させられて、俺は強引にブラックの顔とご対面させられる。
 だが、いざ向き合った顔はと言うと、しょげてるどころかニタニタとしまりのない顔で、今にもよだれを垂らしそうで。

「…………」
「えへ……えへへ……ツカサ君、きょ、今日も、僕と一緒に寝ようねぇ……」
「何故今更いまさらそんな変態オヤジみたいな言葉を……」

 改めて言われると何かゾワゾワしてくるからやめろ。
 素直に甘やかしてやるべきかとも思ったが、その直球なスケベ顔のせいで気持ちが霧散しちまったじゃねえか。なんでお前はそう顔に締まりが無いんだ。

「ムゥ、ブラックばっかりずるいぞ。ツカサ、オレも甘やかしてくれ」
「ちょっ……お前までベッドに乗ってくんな駄熊!」

 クロウの不満げな声が聞こえてきたと思ったら、背後からベッドが大仰おおぎょうきしむ音がして、思いっきり背中側の地面がしずんだ。
 何事かと思ったら、吐息がうなじに吹きかかり、ふんふんとがれる。

「ふあぁっ! く、クロウくすぐったいってば……!」
「ツカサ……んん……いいニオイだ……」
「うう……」

 ブラックと同様にクロウも頑張ったし、それを考えたらこの程度ていどは許してやるべきだとは思うんだけど……あの、あのですね、そう前も後ろもぎゅうぎゅう密着されると非常に苦しいと言いますか、オッサンの供給が過多すぎて俺が死ぬといいますか。

「ツカサくぅん……あぁ……もーこのまま寝ちゃいたい……今日は疲れたよぉ」
「んむむ……癒される……」

 ブラックは俺の髪の毛に顔をうずめて来て、クロウは相変わらずうなじに顔をぎゅっと押し付けて、深呼吸をしている。
 どんな状況だよと思ったが……でも、まあ……いつものことだしな……。

 なんかもう逆に、このなしくずしな感じになつかしささえ覚えてしまう。
 ギオンバッハに来てから色々あって、クロウもブラックのために遠慮してくれたりしてたけど、これが俺達の“いつもの”なんだよな。
 ……まあ今日はちょっと密着され過ぎてる気もするが。

 でも、そう思うと何だか……しょうもないけど安心してしまって。

「あ……ツカサ君もまんざらじゃないでしょ~。へへ……」
「ツカサの美味そうなニオイがさらに美味そうになったぞ。かりやすいな」
「だーもーだまらっしゃい!!」

 ふざけたら逃げるからな、と前と後ろのオッサンの横っ腹をつねると、二人は少しも痛くなさそうな軽い声で「いてて」と漏らし、二対の肌色の違う腕で俺を捕えた。
 一つは胸下で、もう一つは腰のあたり。どちらも俺の腕よりたくましくて、逃げようと思っても無駄だろうなと確信してしまうほど太くがっしりしている。

 こうなってしまったら……まあ、もう……仕方ないよな。
 別に俺はやりたくないんだけど、逃げられないし。ブラックもクロウも、このままが良いと思ってるみたいだし。だったら、まあ……その、なんだ。

「…………寝るだけだからな。ほんとに」
「えへぇ……わ、わかってるよぉ……! ふ、ふふっ……つ、ツカサ君のにおい……良い匂いでいっぱいにして安眠するから大丈夫ぅう」
「オレも良い夢が見れそうだ」
「ぐぅう……適当な事を言いやがって……」

 男のにおいをいでなにが安眠だ、普通に汗臭いだけだろうが。
 そう毒づいてしまったが、吸い込んだ空気にブラックとクロウの“におい”が混じっているのを感じて、俺は無意識に息を飲んでしまう。

「………………」

 ち、違うぞ。飲み込みたいほどのニオイだったとかじゃないからな。

 俺は、その……。
 二人のにおいを感じて、無意識に安心してしまった自分に気が付いてしまったのに、ちょっと反応しちゃっただけで……。
 でも、そんな事を言えるわけがない。

「ツカサ君、好きぃ……」
「ツカサ……」
「ぅ……うう……っ。もう良いから早く寝ろばかぁ……」

 早く寝て頭の中をスッキリさせたいのに、これじゃ眠れる気もしない。
 だけど俺を挟んだオッサン二人はすでにうとうとし始めていて、そのことに俺はイラつかずにはいられなかったのだった。












 
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