異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
316 / 1,149
豊穣都市ゾリオンヘリア、手を伸ばす闇に金の声編

5.似合わぬ似合わぬと言いつつも

 
 
「まあまあ、とにかく着てみて。話はそれから……ねっ」

 そんないきなり……とは思ったが、そう言われると仕方が無い。

 引き受けた以上はどんなに嫌がっても話を進めなければならないのだ。というか、こういう事なら事前に言っておいてほしかった。
 自分が女装するのも嫌なんだが、近しい人間が女装するというのもそこそこ覚悟がいるというか……とにかく心臓に悪い。

 別にそういう事に何か思う所がある訳ではないのだが、俺が女装するのはゴメンなタイプなので、強制されている奴を見ると悪い意味でドキドキするというか……。
 うーん、あのせた茶碗ちゃわんごとくスカートが広がっているヒラヒラなドレスを、体格の良いブラックが着用するんだと思うと頭が思考停止してしまう。

 二つの物事が俺の中で処理し切れていないようだ。
 なんか頭から煙が出ているような気もしたが、ローレンスさんの侍従とおぼしき人達はそんな俺などおかまいなしに控室ひかえしつさらうと、俺の服を脱がし始めた。

 わっわっ、ひ、一人で脱げますっ。
 あわてて自分で脱いだ俺に、彼らはまゆひとつ動かさずテキパキと衣装を着せる。
 十二単じゅうにひとえのように様々な布を重ねて美しい色を見せている腰布は、案外あんがい重い。刺繍ししゅうが豪華なベストも重いと言えば重いのだが、それより腰から下の負担ふたんがハンパなくて、着せられている途中に俺は思わずよろけてしまった。

 だが侍従さん達はそつなく俺を立ち直らせると、俺が礼を言うひまもなくさっさと服を着せてしまった。気が付けば、頭にもしっかりとかんむりが乗っている。
 青々とした若葉がまぶしい、枝のような細いつるが綺麗に絡んで円環を作っているかんむりだが、その所々には宝石をあしらった金細工が取り付けられている。

 自然と街が一体化したこの都市に相応ふさわしい感じの冠だけど……鏡で見ると、俺には全然似合わないな……。王子様ってツラじゃねえよなぁ……我ながら……。

 だけど自分で「コレ似合ってます?」というのはプライドがちょっとうずく。

「よくお似合いですよ」
「えっ、ほ、ほんとですか」
「ええ。触れめし王座の君のようでとても」

 侍従さん達は満足げだが、そのめ言葉は正直よくわからん。
 これ褒められてんのか? 俺完全に衣装に負けてない? 侵食されてない?
 そもそも俺にこういうキラキラの宝飾品や服ってどうなんだろう……。

「ささ、稽古場へ戻られませ。お連れ様もきっとお似合いですよ」

 似合……いや、この場合は似合った方がいいのか……。
 しかし女装して似合ってますなんて、身も心も立派なオスであるブラックに対しての褒め言葉としてはどうなんだろうか。
 深く考えてしまいながらも、侍従さん達に連れられて重い衣装を引き摺りつつ稽古場へと戻って来ると……もうそこにはすでに背が高くてガタイの良い後姿うしろすがたが在った。

 片方はエスニックな、俺と似た感じの薄い布を重ねた艶やかでエキゾチックな服。もう片方は……あからさまにスカートの部分が浮き上がっている、ベルサイユ宮殿にでも居そうな豪奢なドレスだ。
 ……そこだけ見れば、綺麗だ。うん。綺麗なんだけど……背中が厚すぎる。

 なんだあの世紀末覇者みたいなガチガチの背中は。
 女性物の服を着ると、こんなに筋肉が目立つようになるのか。
 その見た事の無い光景に思わず目をいてしまったが、ローレンスさんの明るい声に俺の驚きは掻き消されてしまった。

「おおっ! これは予想以上に可愛ら……いやいやお似合いですねツカサ君!」

 何か嬉しそうですけど、今可愛いって言ったか。おい。
 やっぱりこの服似合ってないんじゃないかとゲンナリした俺に、ローレンスさんが近付いて来る。それに合わせて、世紀末覇者的な背中の主がこちらを向いた。

「お゛っ……」

 エスニックでエキゾチックな方……クロウの方は、頭から宵闇色の薄い紫色をしたヴェールやキラキラしている透けた色布をかぶり、シンプルな金属のティアラのような物をつけている。女性的な服装だけど……肩以外には露出が無いので、男の正装だと言われても納得できる。キラキラしていて、こっちのが砂漠の王子様みたいだ。

 しかし問題は、もう片方。
 ベルサイユなフリルたっぷりのドレスを着させられているブラックの方だった。

「ふえぇ~っ。ツカサくんんんヒゲ剃られちゃったよぉおおっ」

 そう言いながら突進してくるのは、波のようにゆるくウェーブした艶やかな赤い髪をなびかせている御婦人……――――には全然見えない、男一貫のオッサン。
 アゴもがっしりしているし鼻も男らしく主張しているし、ぶっとい両眉も喉仏のどぼとけも、まるきり隠せていない。男臭さ全開な姿を隠しもしていない衝撃的な姿だった。

 そんなドレスのオッサンに、俺は思いっきり抱き着かれる。
 ああ、香水の匂いがする。いつもいでいるブラックのオッサンスメルと違う。
 視覚触覚と嗅覚の剥離はくり具合ぐあいに一瞬意識が遠くなってしまいそうだったが、なんとかこらえて俺は自分を拘束するブラックの顔を見上げた。

「あ、あのなあっ、抱き着いてくる奴があるか!!」
「だってぇ~……あいつら僕のヒゲを強引にるし、香水をぶっかけてくるし、それにギュウギュウ腰を矯正具で締め付けて来るし……」

 そう言いながら、ブラックは俺に対して「ボクいぢめられたの」と言わんばかりに目をうるませて、同情を引こうとして来る。
 確かにソレは男としてはキツいし、泣きたくなる気持ちも分かるが……。

「いや、あの……もうちょっと顔離して……」
「ふぇ…?」

 ……べ、別にどうでも良い事なんだが、その……ヒゲをったブラックの顔って、本当にあまり見ないから、その、な、なんか変に意識しちゃうというか……。

「ツカサ君なんでぇ? ねえねえね~~~」
「わーっ頬擦ほおずりして来るなっ、やめろ! ひ、人前っ、人前ぇえっ!!」

 やだっ、なんかやだっツルツルしてるっ、こっ、こんなブラック、顔がツルツルで何故か妙にキラキラしてるブラックなんて、直視できない……!!

「ヌゥ……ツカサ、顔が真っ赤だぞ」
「変ですねえ、お三方さんかたとも今日はお化粧けしょうをさせて頂いてはいないのですが」

 真面目に不思議がらないで下さい侍従さんっ。
 頼むから助けてくれとクロウに救難信号を送っていると、ローレンスさんが助け船を出してくれた。

「ははは、まあとりあえず採寸は問題なかったようですね。衣装に付いては一考する余地があるとして……まあ、今日はとりあえずその衣装に付いてお話しましょう」
「話すって、この悪趣味な衣装がどうしたってんだよ」

 やっと頬擦りするのをやめたブラックに、ローレンスさんはニコニコとした笑顔のままで、指を一本立ててみせる。

「一つは“異国のうら若き王子”の衣装、一つは“異国の美しい占い師の女”の衣装。そしてもう一つは……この国のあわれな“悪徳の令嬢”の衣装です」

 配役を言うたびに、ローレンスさんは指を増やしていく。
 だが、その最後の配役に引っ掛かりを覚えて、俺達は眉を歪めた。

「この国の……令嬢?」

 なんだその悪役令嬢みたいな役名は。
 思わず俺の世界でよく見る小説を思い浮かべてしまったが、多分そう言う感じの役ではない。悪徳っていうからには……なんか、凄く悪そうだ。
 でも、その配役がブラックってちょっと……。

「……なにそれ。わざとやってんのか」

 不機嫌そうに返すブラックに、ローレンスさんは違いますと笑みを消し首を振る。その真剣な表情にやっぱり嘘は見えない。
 だからなのか、ブラックもどう攻めたらいいか分からないらしく、珍しく罵倒ばとうするでもなく黙ってにらんでいた。

 そんなこちらの様子に、ローレンスさんは「気を悪くさせたのなら申し訳ない」と頭を下げ、何故この配役なのかを説明しだした。

「悪徳の令嬢は、そちらのお二人がやってしまうと、んだ。それに……もう一人の“主役”からすれば……同じ種族の方が良いと思うし……ね」
「もう一人の主役?」

 俺が思わず聞き返すと、その声に頷いてローレンスさんは後ろを向く。
 そこには、彼が入って来た別の扉がある。
 もう誰も入って来ないものだと思っていたその扉が、俺達の視線にタイミングよくドアノブを回し、ぎいっと音を立ててこちら側に開いた。

 誰かが入って来るのか。
 全員が注目したドアの向こう。その視線をものともせずに入って来たのは――

「おや、みなさん愉快ゆかいな格好をしてますね」

 黒に近い暗緑色の長髪を流した、金の瞳を持つ背の高い男。
 常冬とこふゆの国の服を常に着こなす独特な風体で、涼やかな顔つきの相手を見て――――俺とブラックは、一斉に同じ声を発していた。

「おっ、お前!!」
「やあ、お久しぶりですねえツカサ君。……と、お二方」

 ローレンスさんの裏表のない笑顔とは違う、腹の内が見えない意地悪な猫のような薄い微笑み。眼鏡の奥でに歪むその目は、忘れようったって忘れられない。
 しかし、まさかこんな所で再会するとは思っていなかったので、俺はつい大きな声を上げてしまった。

「あっ……アドニス、なんでここに!?」
「いやですねえ。話を聞いてなかったんですか? 私もここに呼ばれてるんですよ」

 そう言いながら笑みを深める相手は、唯一無二とも讃えられる最高の薬師。
 オーデル皇国の中枢に座する科学者であり、俺達の仲間でもある木の曜術師。

 ――――のグリモア【緑樹りょくじゅの書】を有する、のアドニス。

 俺達がこの街で合流するはずの相手だった。











 
感想 1,277

あなたにおすすめの小説

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。