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豊穣都市ゾリオンヘリア、手を伸ばす闇に金の声編
愛とは深く広いもの2
「おいコラなんでお前の前でツカサ君が裸にならなきゃいけないんだよ」
「貴方、前の診察覚えてないんですか? 脳みそが退化したんですか? それを言うなら、ツカサ君と人前で性行為をするとからかった自分にも言って欲しいですね」
「ウムゥ、これは一本取られたなブラック」
「黙れ八つ裂きにして吊るすぞクソ熊」
あーやめやめ! 一々喧嘩すんな!
何でそう三人とも仲が悪いんだ、と思いつつも何とか三人を宥めて、俺は言われた通りベストとシャツを脱いでブラックに持っていてもらう。
このアコール卿国は常春と常秋のちょうど中間くらいの気候なので、日中であれば全然寒くない。むしろぽかぽか陽気で春うららって感じなのだ。
なので、上半身裸になるのは全く問題なかったんだが……背後で何故か歯軋りの音がする。どうしたのかなど見たくもないが、まあその、早く診察を終えて貰おう。
さあどうぞと胸を張った俺に、アドニスは呆れたような顔をすると、ぴしっと指を立て揃えた右手を俺の胸の真ん中に押し付けた。
……そう言えば、前に俺の体を調べる時もこう言う風な触診をしてたな。
アドニスは木の属性の曜術師なので、水の属性の曜術師のように人の体内を流れる力を読み取る医師などにはなれない。だが、木属性という部分に焦点を絞れば人を診る事が出来なくもないのだ。
【曜術師】という存在は、俺の世界の認識で言えば“火・水・木・土・金の自然的な要素だけを使う魔法使い”なのだが、その存在は俺の世界の一般的な魔法使いとは少々異なる。この「異なる」部分の一つが、水属性以外の曜術師が医師になれない理由に関係しているのだ。
曜術師に限らず、この世界の人間は自分が持つ属性以外の術の発動を基本的に感知できない。そして、曜術を使える人間でも、自分が持つ属性以外の力には干渉できないようになっている。
もちろん、同じ属性でも相手の体を流れる曜気を直接操ることは出来ない。
だから、水の曜術師しか医師になれないのだ。
彼らは体内の血液なんかの流れを正確に把握したり治癒したりできるので、相手の曜気に関係なく診察が出来るからな。
まあでも、他の属性の術を絶対に見れないと言うこともない。
かなりのデカい規模で発生する術の光なら、他の属性の人間にも視認できるようになっているみたいだ。
それに、強い曜術師なら相手の曜気の量とかぐらいは見れるらしい。
強くなくとも、同じ属性なら基本的には術の光や流れが解るんだけどな。最低限の動きで発される高度な術の光に気付くには、けっこう修行しなきゃダメらしいが。
……おっと、話がちょっと逸れたな。
ともかく、本物の医師は水の曜術師にしか勤まらないが、同じ属性なら正常か異常か程度はなんとかみられるってことだな。
なので、アドニスも木属性に限れば医師の真似事が出来るというワケである。
“大地の気”という例外もあるけど、アレは属性が有る力っていうよりも、無属性や生命の源って感じで普通の人も使えるからちょっと違うんだよな。
ともかく、例外が一個あるが曜術師には色々と制約が有るのである。
俺はチート能力【黒曜の使者】のおかげで全部の属性が使えるが、一応は水と木の属性をメインに使う【日の曜術師】なので、診察はアドニスにして貰うのが良い。
なんだかんだ、相手は世界最高の薬師と名高いヤツだしな。
それに、前から俺の能力のことで色々と調べて貰っているので、こう言う場合にはアドニスに診て貰うのが最適解なのである。
まあ、シアンさんも水のグリモアなだけでなく、しっかりした医療の心得があるんだけど、でも診察して貰うのは、なんかこう……変に意識しちゃうので俺が居た堪れないし……相手も忙しいので……。
……ゴホン。ともかく、アドニスに任せておけば安心だろう。
というワケで、背後の邪悪な気に耐えながら一二分ほど触診して貰っていると――不意に、怪訝そうな顔をしてアドニスが目を開いた。
「…………ツカサ君、最近何か修行でもしましたか?」
「え? いや……あ、修行はしてるけど……まだ初期段階って感じかな」
俺の木の曜術の師匠であるカーデ師匠の教本に倣って全裸水浴びなどは行ったが、今は城にいるので全裸で森林浴などはちょっと無理だ。
なので、初期段階と言ったのだけど、アドニスは更に眉間の皺を深める。
「よく分かりませんが、君の中の木の曜気の巡りが少し減ってるんですよね」
「えっ!?」
どういう事かよく解らなくて変な声を漏らしてしまうが、アドニスは間抜けな顔をしているだろう俺を冷ややかに見つつ、それでも丁寧に説明してくれた。
「代わりに、アニマ……君達が言う“大地の気”が異常に増えている。そこの嫉妬心の権化から聞いた話からすると、君の“性行為の時に、普段と違い意識が持続している”という症状や“過度な性行為の後なのに、異常なほど体力が回復している”という特殊な事象も、恐らくはこの体内を巡る“大地の気”の異常増加が原因です」
「ええ!? 俺の原因……いや、っていうかお前いつの間に話して……!!」
まさか、俺が気絶している間にアドニスの所に行って説明したのか。
何をやってるんだ……いや目の前で説明するのは恥ずかしかったから、ありがたくはあるけど、でもやっぱ何をどう説明したんだお前!
堪え切れずに顔が熱くなって振り返るが、ブラックは先程の邪気もどこへやらといった感じで、顔を逸らしてわかりやすく口笛を吹きやがった。
こ、こんちくしょう……マジでどんな説明を……。
「ツカサ君、今はその痴漢中年に構うより説明を聞いて下さい」
「アッハイ」
うむ、そ、そうだったな。
元々俺達の目的の一つは、アドニスに俺の体の異変を調べて貰うことだったし、今その原因を解き明かして貰ったんだから、ちゃんと説明を聞かないと。
気合を入れて座り直した俺に、アドニスはコホンと咳をして語り始めた。
「君は異世界人ですが、この世界の常識に当てはめると、母性体……つまり“メス”の性別を持っています。先天性であれ後天性であれ、ひとまずそこは確定要素として話をさせて貰いますよ」
「う、うん……」
ちょっと後半理解が怪しくなってしまったが……まあ俺はこの異世界では「メス」だと思われてるんだもんな……男だけどメス……。
しかしそれはブラックによって既に受け入れる事になってしまったので、大和男子としてのプライドはチクチクするが、まあ問題は無い。俺がダダをこねて解決する問題でもないワケだし。ここは素直に頷いて話を聞いておこう。
そんな俺の態度を理解してくれたのか、アドニスは続ける。
「――まず、この世界の普遍的な常識として、メスは【曜術師】に向かない……それか適合する者はかなり少ないと言われています。現在学術院に在籍する人数からしても、全体の一割……一つの講義室に三人居れば良い方ですね。それほどまでに、メスには曜術師の適性が無いんです」
「な、なんでだったっけ……」
「曜気を体内に蓄積するための“器”が小さいからですよ。我々は、この世界のありとあらゆる力……学術用語では【五曜一命】と言いますが、その自然の気を取り込んで生きています。気を体内に巡らせ、己の気に染まったそれらを継続的に放出する――そういう風に、人族は代謝を行っているのです」
「なるほど……」
ちょっと難しいが、それは何となくわかる。
カーデ師匠に【五曜一命】の事は習ったもんね。五つの属性が【五曜】で、大地の気が【一命】と纏められてるからそう呼ばれるんだよな。
まあとにかく、俺達は自然の力を取り込んで生きているってことか。
「その中で、属性を多く取り込み体内で気を練り上げる事が出来る者が【曜術師】と呼ばれ、自然の力を操る術を手に入れられるのです」
「メスだと、その力が有っても曜気を蓄積する“器”が小さいから、曜術師として言うのなら格下だって言われるんだよな?」
「そうです、よく勉強していますね」
へへ、褒められちまった。
まあでもそのアドバンテージは俺なら越えられるってカーデ師匠も言ってくれたし、俺としては気にしていない。今のところメスって事で見下されてもピンと来ないからかも知れないが……。
でもまあ不自由してないから劣等感は無いな。そもそも、そんな感情など抱く暇も無いくらいえげつない奴らが後ろに居るし……俺の周りアドニスみたいな超絶スキル持ちばっかだし…………別のとこでなら劣等感だがな……はは……。
……そういや今まで出会った人達に、そういう気持ちはあまり抱かなかったな。
俺に発情する変人は数人いたけど、俺がメスだと思い込んでてても見下してくる人というのは覚えが無かったような気がする。俺が忘れているだけかも知れんが。
でも、海賊達すら「メス」ということで侮ったりはしたけど、能力がどうこうって言って俺の事をクサしたりしようとはしなかったし……。
あれっ、もしかして俺が出会って来た人達って案外全員紳士だったのでは……。
「と、ともかく……俺はその中でも例外なんだよな?」
「断定は出来ませんが、君の【黒曜の使者】という称号と功績を考えれば、一般的なメスの曜術師とは全く違うと言えますね。詳しく検査しなければいけませんが、その“器”の総量も恐らくは【限定解除級】と同等の許容量はあるでしょう」
「ふっふっふ、まあな。俺はチート主人公みたいな感じだからな!」
「何を言っているのか解りませんが、まあ特別なのは確かです」
サラッと流された。悲しい。
でもちょっとぐらい主人公ヅラしても良いじゃない。だって異世界人なんだもの。
まあやってることは物語の主人公と程遠いので我ながら悲しいが、ともかく。
「で……そのメスの曜術師ってことが、どう関係するの?」
「簡単に言えば、メスは器が小さく曜術師には向かないですが、代わりに曜気の受容体としては凄く優秀なんですよ。なにせ、オスの気を受け入れ子供へ注ぐ役割がありますからね。器が小さいからこそ、己に蓄積するのではなく子供に受け流す事が可能になるのですよ。それゆえ、相手の気に染まった曜気も容易に受け入れられる」
「ふむ……」
「つまり、君のその“異常な体調良好”の原因はですね、あの不潔な中年の小汚い気が混ざった曜気や大地の気を多く受け取って、それを放出する事も出来ず体内で受容し巡らせ続けるようになってしまったからなんです」
「……ふむ……?」
小汚い気ってなんぞ。
っていうか、受け取って放出できずにってどういう……。
「あっ、なるほど。要するに、ツカサ君は僕とセックスして精液とか色々受け取っちゃってるから、そのせいで元気になり過ぎて気絶できなくなっちゃったと」
「はぁ!?」
「まあ平たく言えばそういう事ですね」
「いや平たくってオイ!!」
何を言ってるんだこのオッサン。つーかそれに何素直に頷いてんだアドニス!
いくら診察っつったって、こんな冗談はないぞ。
だってつまり、お、俺が……俺が、ブラックとえっちしたから……そのせいで……元気になっちゃってたってこと……だし……。
「うっ、うわぁっ、うわぁあっちっ、違うぞ違うからな俺はそんなえっちな!!」
「落ち着いて下さいツカサ君。恐らくその症状も【黒曜の使者】のせいですよ」
「はぇっ!? ど…………どういう、こと?」
もう色々言われ過ぎたせいで混乱して変な声を出してしまったが、アドニスは俺をからかうでもない普通の表情をして、改まったように俺を見た。
「以前、私は君から曜気を手渡して貰い、グリモアが【黒曜の使者】を討伐する事が出来る唯一の存在というのも知りましたが……その事を考えると、今回の現象は貴方がたが“そういう関係”だから起きたことではないかと思うのです」
「えっと……そういうって……」
「この中年の精液やら何やらを体内に注がれたのでしょう? メスは、魂魄で言えば魂……精神の影響を強く受ける存在です。相手を好いていればいるほど、オスからの気を受け取りやすくなる。恐らく、今回の異常はグリモアに支配される性質である【黒曜の使者】の能力と、メスであるツカサ君の心の作用が強く働き、加えてそこの小汚い中年が前にもまして入れ込んだことで起きた症状だったのではないかと」
「…………」
……えーと……つまり…………お互いに好き合ってたから、チート能力とか色々な原因で、俺がブラックの気を受け取り過ぎて過剰な元気状態になっちゃってた、と。
………………。
マジで? ホントに?
いやいやいや、まさかぁ。ハハハ、アドニスも冗談が上手いったらないわ。
「……ツカサ君、全然信用してないみたいだけど」
「というか現実逃避してるな」
こらっ、うるさいそこ! シャラップ!
俺は今色々な説明を受けていっぱいいっぱいなんだから放っておいて!
「ほーう。急に物分かりが悪い子供になってしまいましたねえ。……まあ、今の話は私の予測にすぎませんので、納得できないなら今から実地でやって貰いましょう」
「え゛っ、なっ」
「とりあえず十周この庭を走らせてから、ブラックの精液を補給させる形か」
「ロクな水分補給じゃないですけど、まあ急激な変化を測定するとなると唾液くらいでは弱いですし、それしかありませんからねえ。ツカサ君も運動になるでしょう」
「ちょっ、な、なにみんなして……」
いや、俺なにか納得した的な台詞を言いましたか。言ってないですよ。
何で三人とも俺が変な事をするみたいな前提で話を進めてるの。
「じゃあツカサ君……とりあえず、庭を十周しよっか! 帰って来たら、僕が濃~い精液を飲ませてあげるから頑張ってねっ」
「んなソフトドリンクみたいに気軽に飲めるかあ!!」
何を考えてんだと思いっきりツッコミを入れてしまったが、しかしアドニスとオッサンどもは真面目に俺を走らせようとしているらしく、俺は抵抗虚しく【鎮魂の庭】を十周も走ることになってしまったのだった。
…………何が悲しゅうて、そんな変態プレイをしなきゃならんのだろうか。
まあ公開えっちよりはマシだけど……マシってそういう話じゃない気がする。
はぁあ……。
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