異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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豪華商船サービニア、暁光を望んだ落魄者編

10.互いに互いが知らぬ仲1

 
 
 働いて改めて分かった事だが……この豪華商船【サービニア号】には、さまざまな「区域分け」が存在するようだ。

 俺達のような従業員が使用する裏通路やバックヤード、それに機関部だけでなく、一般客も貴族も使用するフロアや、逆に貴族しか入れない区域。そして俺が客室係として働いている「お貴族様専用宿泊エリア」もそうだ。

 だが、もっと不思議に思えたのは……商人専用の大金庫エリアだな。
 どうも船の構造的に歩けるエリアが狭いなあと思っていたんだが、そもそもこの船は商船として作られた船なのだ。物資を運ぶのが主要な目的であり、人を運んだり楽しませるエリアは後付けに過ぎない。

 だからこそ、商人達が一番守るべき「荷物」は、船の中央部にある大金庫エリアに全て収納されて取引がある時まで守られているのだが……まあ「客室係」の俺には関係のない事だ。客室係は大金庫に近付く用事など無いし、今日も俺はお貴族様に料理やお酒を運ぶだけなのである。
 とはいえ……三日目ともなると、少々今の仕事が辛くなってくるわけで。

「なんね、どうした……んだ、ツカサ。ショゲた顔してんなあ」

 更衣室兼休憩室のテーブルに突っ伏す似合わないメイド姿の俺に、休憩時間になったナルラトさんが声を掛けて来る。鼠人族のネズ耳はバンダナで隠しているので、それを見る限りでは普通の気のいいお兄さんにしか見えない。
 だけど今の俺はナルラトさんのネズ耳を見たい気分だ……そして出来る事ならモフモフしたい……。ああ、ロクやペコリア達が恋しい。

「うう……ナルラトさん……」
「へ、変な目で見るんじゃねーよ! オラッ、俺特製のガラガラ鳥の超絶うまいスープでも飲めっ! 腹が減るからそんな情けねえ顔になるんだよっ」

 ドンッと目の前にどんぶりいっぱいの緑色スープを置かれて、思わず体が跳ねる。緑のスープってなんだ。怖いんだけど! ……でも、ナルラトさんの料理の腕は俺も知っているので、大人しく啜る。

「ふあ……う、うまい……」

 ガラガラ鳥ってのが何なのかは分からないが、しかしこれは美味しい……。純粋な鳥のダシというよりも、少し醤油に近いような不可思議な風味があって、具が無くてもスープだけですごく満足できる。これは俺のような日本人が好きな味だ。緑色というのがちょっと怖いが、お米とかを投入してさらさらっと書き込みたい感じだな~。
 ああ、なんというか醤油が恋しい……。

「おう、やっぱりメシ食ってないから元気が出ねえんじゃないか。食え食え」
「すみましぇん……」

 温かい緑色のスープをズルズル啜る男丸出しのメイドなんて、どっからどう見てもイロモノだよなあ……とは思うけど、今更化粧なども出来ないしどうしようもない。
 まあ、客室係と言っても貴族様エリア以外では別に困ることもないし、一般船室の商人さん達も商売人だからか無茶な事なんて言って来なくて優しいので、今のところ元気に働けてはいるんだけど……しかし、ならばぐったりしなくてもいいワケで。

「ったくなんだってんだよ。そんなに上手く行ってねーのか、客室係」

 ナルラトさんにそう言われて、俺は迷わず首を振る。
 そうではない。そうではないのだ。しかし素直に首を横には触れない。

「いや、その……実は、困るなあってお客さんがいまして……」
「別の客室係に変わってもらやぁいいじゃねーか。三人くらい居ただろ確か」
「俺をご指名なんです……。というか、他の人がやりたがらないっていうのもあるっていうか……なんというか……」

 お客さんのことを愚痴っても良いものだろうかと迷った俺に、ナルラトさんはハァと呆れたような溜息を吐いて、昼食が乗ったワンプレートから何かを抓んだ。

「なんだよ煮え切らねえな。もうちょい詳しく話せって。ちゃんと話しゃあこの蒸し鶏も乗せてやるぞ。ほーれほれ、今日の蒸し鶏は良い具合に柔らけーぞぉ~?」
「ふ、ふぐぐぐぐ……っ」

 ぬぉおっちくしょー、美味しそうな蒸し鶏の誘惑には勝てない!
 ナルラトさんに餌のように目の前に指でつられた鳥にかぶりつきつつ、俺は昨日と今日の仕事を切々と語った。

 ――――別に、俺だっていつまでもドジ踏んでるってワケじゃない。
 言うほどドジってもないし、出来る事はちゃんとやっているのだ。
 だから、三日目ともなると、客室に「ご入用な物」を届けるのにも慣れて来て、自分でも自信を持って仕事が出来ていた。
 そんな俺の態度に頼もしさを感じてくれているのか、お客さん達も俺に気軽に注文を言ってくれるようになったし、中には気安く話しかけてくれる人も出て来たのだ。

 なので、俺もわりと楽しく客室係を出来ていたのだが……二日目の昼には、そんな浮かれた気分はブチ壊された。例の部屋の不機嫌美青年と、ブラック達の部屋呼び波状攻撃によって。…………いつもの事じゃないかと思うかも知れないが、仕事中に呼びつけられるのは非常に焦るし、ブラックに口で……いや、その……とにかく毎回時間を取られるのも、厨房支配人にネチネチ言われるのでつらい。

 不機嫌青年の方だって、俺が来てもムスッとしたまんまなのに、それでも他の客室係でなくわざわざ俺を指名して呼びつけるので非常に困る。なぜ俺なんだ。
 あの部屋は最上級の客……王族とか位の高い貴族が使う部屋らしいから、恐らくは凄く偉い地位の人なんだろうけど、そんな人が何故初日にワインをぶっかけた奴を好んで指名するんだ。俺には意味が分からない。

 しかも、不機嫌美青年の場合は“そういうお貴族様”ってなワケで、俺がやっと仕事をこなして休憩していようが何だろうが、最優先にご注文の品を届けに行かなければ行けないし……本当にもう、とても気疲れしてしまう。
 ブラックの事に加えてコレなんだから、そらぐったりもするだろう。

 それに……ギーノスコーの「お願い」のこともあるし……とにかく「やらされること」が多過ぎて、三日目でもうダウンしてしまったのである。
 …………だが、ブラックとの事はナルラトさんにも言えないので、それとなくボカして他の事は素直に話した。すると、ナルラトさんは難しい顔で唸る。

「うーん……まあそりゃ、御贔屓ができるってぇのは美味しいが……相手がなんとも気難しいのと、あの旦那方じゃあなあ……なんか察したわ。頑張ってるなお前」
「ふごぉお……ありがとうござまじゅぅう……」

 二枚目の蒸し鶏美味しいです。
 そういえば、本当に俺昼食も食べて無かったな……。

 こんな事を言うと非常にアレだが、ブラックの部屋に行くたびに何かしらのやらしい事をされるので、元気だけはムリヤリ充填されてしまい……俺は無駄に動けるようになってしまっているのだ。それゆえ、食事をしたいと腹が鳴る事も無く、なんだかんだ夕飯以外のメシを食いそびれてたんだよな……。

 だけど、そんな俺の行動を支配人も何も指摘してこないので、ここのところ昼飯抜きで仕事していたわけで……うう、自分の体調も分からなくなったなんて情けない。

「まあ、とにかく……戻って来たら茶ぐらいは淹れてやるから、あんまり一人で悩むんじゃねーぞ。貴族なんて面倒臭いのが当然みてーなヤツだからな。一人で対処しているってんなら、そら疲れたって無理ねえさ」
「ナルラトさん……」
「……つーかあのクソ支配人、食堂しか見てねえのかよ……上客だから下手な料理を運ばせるなとか言っておいて、自分はカワイー給仕に付きっ切りとか反吐が出るぜ……あーあー俺の美味い料理が台無しだ」

 とか言いつつ、怒りながらもパクパク食べているナルラトさん。
 まあ実際ナルラトさんの料理は美味しいからな……しかし、ナルラトさんは本当に厨房支配人とはソリが合わないんだな。お蔭で俺もナルラトさんに多々庇って貰っているんだが、便乗しているみたいでちょっと申し訳ない。

 本当は俺がうまいこと二人の仲を取り持ったり出来れば良かったんだろうけど、俺は支配人に嫌われてるからな……はあ、何もかも上手く行かないなあ。

 そんな事を思いながら、スープを啜っていると。

「おいっ、クグルギ! なにを悠長に食っとる、仕事だ仕事!」
「ゲッ、まーた煩せぇのがきやがった」
「ナルラト、お前も注文入ってるだろうがっ! メシ食ってないで働け!!」

 休憩室に怒鳴り込んで来たのは、相も変わらず俺に厳しい厨房支配人だ。
 今まで食堂でメイドさん達と一緒にいただろうに、どういう風の吹き回しだろう。いや、支配人がこうやって俺を呼びに来る時は……大体、あの不機嫌美青年が注文をしてきた時だ。ということは、拒否も出来ないだろう。

 そう思い、俺は素直に席を立った。

「あの部屋のお客様に、ですよね」
「わかってるならさっさと身だしなみ整えて行って来い!」

 どやされて、デカい金属のカートを持ち出しモノを揃えて行く。
 三日目ともなるとあの青年の好みも分かって来て、お酒も間違えはしない。年の割に、なんかシブい趣味してんだよな。アコール卿国産の古いワインに、モンスターの性質を利用したらしい干しても弾力がある肉のおつまみなんて、あの青年しか頼む人を見た事が無い。ナルラトさんが言うには「ジジイが好むモンみてえだな」との事だがまあ世の中そう言う人がいてもおかしくは無いよな。

 ともかく、俺はつつがなく料理と酒を運ぶだけだ。
 ナルラトさんに挨拶をすると、俺は再びあの豪華な部屋に向かった。
 三日目とはいうが、結構な頻度であの部屋に呼ばれているので、今となってはドキドキすることもない。いやまあポカしないかって所ではドキドキするけども。

 しかし……なんで俺ばっか寄越すんだろうなあの人……。

「…………初日の酒ぶっかけの罪滅ぼし……とか? いやそれはないか……」

 一瞬「申し訳ないから俺が重用する」ってタイプのお詫びかと思ったが、あの不機嫌な顔しかせず必要以上の口も利かない人がそんなことを考えるものだろうか。
 しかしそうなると相手の意図が分からない。

 昇降機に乗って貴族様専用のフロアに降り、従業員用通路から廊下に出て進む。
 その間も相手の事を考えていたが、何もまとまらずドアの前まで来てしまった。
 うーむ……まあとりあえず、酒を運ぶか。

 ドアをノックして入室の許可を得ると、俺はいつものように部屋に入った。

「失礼いたします」

 そう言って、今日もソファにゆったりと座り目の下に隈を作った不機嫌顔の美青年に失礼な事をしないように接しながら、おつまみとお酒をテーブルに並べる。
 ……まあ、俺がヘマをしなけりゃ本当に大人しいんだよな。

 今日も無言で終わるのだろうか。そんな事を考えていると。

「…………客室係はお前しかいないのか?」
「えっ?」

 思わぬことを言われて、俺は反射的に変な声を出して振り返ってしまった。










※遅れました……:(;゙゚'ω゚'):すみませぬ…

 
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